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第Ⅴ章 軸組を組む:通し柱と2階床組 概要

2021-03-17 12:04:30 | 同:通し柱と2階床組

                    

第Ⅴ章 軸組を組む:通し柱と2階床組

1.通し柱、管柱の役割

1)通し柱・管柱の役割

2階建て以上の建物では、一般に、通し柱管柱を併用する。その配置は、平面:間取りを考えるときに、全体の架構を考えながら決定する(平面:間取りを決めた後架構を

考えると、無理が生じることが多い)。

通し柱:建物の隅部中央部に立て、側面に二~四方向から横架材胴差・梁が取付く。横架材の取付けのためには、仕口加工の点で、最低12㎝(4寸)角以上が必要である。

通し柱の役割は、1・2階を通しての垂直の基準となり、横架材の組立てを容易かつ確実にするためにあると考えてよい。

現行法令は、原則として、隅柱通し柱とすることを求めている(下注参照)。ただし、この規定から通し柱を設けると軸組の強度が上がる、と理解するのは誤り軸組の強度は、通し柱への横架材の取付け方(仕口)に左右される。

注 建築基準法施行令第43条5項:「階数が2以上の建築物におけるすみ柱又はこれに準ずる柱は、通し柱としなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上の耐力を有するように補強した場合においては、この限りではない。」この「ただし書き」部分(通し柱を用いない場合)の補強法は、告示第1460号で仕様を規定。

  

管柱(くだはしら) :1階においては土台胴差・梁の間、2階においては胴差・梁軒桁・小屋梁の間に立てるを言う。

外力(荷重など)を効率よく伝えるため、通常は1~2間(約1.8~3.6m)間隔。管柱隅柱と同寸(4寸:12㎝角以上)にすると、強度、壁の納まりの点で良好。

平面の凹凸とおりに柱を配置する必要はなく、押入れ、床の間、棚などでは、半柱で造れる場合がある。通し柱の

注 住宅金融支援機構「木造住宅工事共通仕様書 フラット35対応」(2019年度版):柱の断面寸法は105㎜×105㎜以上とし、120㎜×120㎜を標準とする。(出隅、入隅)柱:通し柱の通し柱の断面寸法は、120㎜×120㎜以上とする。

 

建築基準法施行令第43条 柱の小径の規定 住宅等通常の木造建築のみ抜粋

第1項 横架材相互間の垂直距離(注)に対する割合 ( )内は12㎝角柱の法規上可能な垂直距離

第2項 階数が2を越える建築物の1階の柱は、原則として、13.5㎝角以上

第3項 略(各自治体が条例により規定する件についての条項)

第4項 柱の断面積の3分の1以上を欠き取る場合は、その部分を補強する。

注 住宅金融支援機構「木造住宅工事共通仕様書 フラット35対応」(2019年度版):階数が2以上の住宅における通し柱である隅柱の断面寸法は、135㎜×135㎜以上とする。ただし、以下のいずれかに該当する場合は120㎜×120㎜以上とすることができる。 イ)当該柱を耐久性の高い樹種(ヒノキ、ヒバ、米ヒ、ケヤキ、台湾ヒノキ、カラマツ、スギ、米スギ、米マツ、など)とする。ロ)当該柱に防腐薬剤処理を行う。ハ)真壁構造とし、軒の出を90㎝以上とする。ニ)外壁内に通気層を設ける。ホ)外壁材を板張りとし、直接通気を可能とする。耐久性の点ではイ、ハ、ホの組み合わせが最良。

 

2)柱の材長と単価 10.5(3.5寸)角、12㎝(4寸)角の場合 

◇10.5㎝角と12㎝角の柱材の強度を比べると以下のようになる。(再掲)

1.材の材軸方向の可能負担荷重は断面積に比例する 10.5㎝角(仕上り10.0㎝角):断面積:100㎝²  12.0㎝角(仕上り11.5㎝角):断面積:132.25㎝²   ∴32%増し

2.座屈を考慮した場合の許容圧縮力は断面積に比例する 12㎝角は10.5㎝角の32%増し

3.曲げに対する強さは断面2次モーメントに比例する : 10.5㎝角(仕上り10.0㎝角)の断面2次モーメント: 833.33 ㎝⁴       12.0㎝角(仕上り11.5㎝角)の断面2次モーメント:1,457.50㎝⁴   ∴74%増し

 なお、芯持材の場合、10.5㎝角は末口径5~6寸(40年もの以下)の原木、12㎝角は末口径6~7寸の原木(4, 50年もの以上)から挽かれるので、一般に12㎝角の方が良質である(節が少なく、赤身が多い)。

                     

2.通し柱と2階床組

1)通し柱と管柱、横架材の組み方

胴差、梁に用いる材の長さには限界があるため、架構にあたり、①通し柱間に横架材を取付ける②横架材を継手で延長する③前二者の併用、のいずれかを選択することになる。  

具体的には、次の方法が考えられる(図は胴差と梁を天端同面どうづらの場合)

架構法A         架構法B

          

架構法A:総2階の外隅柱、または2階部分の外隅柱通し柱とする。 胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。

架構法B:総2階または2階部分の外隅柱と、中央部付近の柱通し柱とする。胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。     

     架構法A架構法Bは一般的に用いられる。法令の規定は架構法Aを想定している。

架構法C △架構法C 例19世紀中頃の商家住宅 高木家住宅      通し柱を多用し、横架材を組み込む。

架構法C:総2階の外隅柱、または2階建部分の外隅柱通し柱とし、さらに、2~3間ごと(通常、間仕切りの交点通し柱を立て、通し柱間継手なし横架材を組み込む。

江戸・明治期の商家・町家に多い。必要に応じて(横架材が長い場合など)、1階に管柱を立てる。横架材表し仕上げにする(継手を見せない)場合に有効。

確実な仕口が求められる。確実な仕口とした場合、架構は堅固になる。刻み、建て方に日数を要する。  架構例C例高木家住宅架構図は、日本の民家 町屋Ⅱ(学研)より 着彩は編集によります。

架構法D架構法D 例  

架構法D梁間中央通し柱を並べ立て、両側に向けを出し、両端部管柱で支える。切妻屋根の場合、棟通り通し柱棟木まで伸ばし棟持(むなも)ち柱とすることがある。

2階にはねだし部分やバルコニーを設ける際に応用できる。山梨県塩山・勝沼周辺の農家に多く見かける。

架構法Dの例は 山梨県東千代郡八代町 M氏宅 18世紀後期頃建設。日本の民家 調査報告集成9(復刻版 東洋書林)より                      

梁間中央棟持ち柱を並べ立て、両側にを出し、管柱で支える。復元平面図中の「」は棟持ち柱。断面は土間より居室方向をみる。図中の単位は㎝。

日本の民家 調査報告書集成 全16巻は、「1966年(昭和41年)から、文化庁が全国の都道府県に補助金を交付して民家の緊急調査を実施した。この調査は、民家を文化財として指定し、その保全をはかるための基礎資料をえることを直接の目的とした」。同書より 1998年に復刻版が出版された。 図中の着彩は編集によります。


第Ⅴ章 2階床組の構成部材と材寸

2021-03-17 12:04:06 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章  2.  2)2階床組の構成部材と材種・材寸

2階床組の構成部材

軸組部材:胴差・梁床梁

     胴差とは、建物の長手桁行けたゆき)方向の外周(長手方向の中央部に設ける場合もある)に、通し柱~通し柱間に取付け、長い場合は管柱で支持して床梁を受ける材を言う。

     注「胴差:柱間ニ取付ケアル横木ニシテ二階梁ナドヲ支フルモノ・・」(日本建築辞彙じいより 中村達太郎著 明治39年)

     とは、建物の短手梁間はりま)方向の通し柱~通し柱間、あるいは胴差~胴差間に通常は1間間隔(@基準柱間:例6尺)に取付け、床にかかる荷重を受ける材を言う。 

     注「:荷ヲ承ケシムルタメニ設ケタル横木」(日本建築辞彙より)

床組部材:小梁根太(ねだ)

     梁~梁間に取付け根太を受ける材を小梁と呼ぶ。通常は0.5~1間間隔。梁の間隔と根太の材寸によっては小梁を必要としない。

     注 間仕切まじきり部屋境)が梁・胴差位置と一致しない場合は、間仕切の上下に壁等を納めるために間仕切桁頭つなぎが必要となる平面:間取りと架構は同時に考えることが重要)。

        根太の材寸は、床積載荷重と根太の架け方、スパン、間隔により決まる。

床  材荒床(あらゆか)(粗床)・仕上げ床材

     床下地板として、床面の補強のために構造用合板・パーティクルボード等を張る。(床面の剛性確保・火打ち材の使用についてはPDF56頁を参照。)

     厚1寸(30㎜)以上の床板材を使用のときは、梁・小梁上に直接張り、荒床・根太を省略することができる踏み天井または根太天井と呼ぶ)

     注 小梁・根太・床板は、剛性の強い面を構成する重要な部位であり、組み方に注意が必要。

 

3)使用材種・規格寸法と単価

胴差 材  種曲げに対して強い材。一般に地マツ米マツの特1等材が使われる。   

   材  寸地マツ 材長 3m(約10尺)、4m(約13尺)、4.85m(約16尺)  米マツ 材長 3m(約10尺)、4m(約13尺)、5m(約16.5尺)、6m(約20尺)

       断  面(共通) 幅12㎝(4寸)×丈12㎝(4寸)~36㎝(1尺2寸) は3cm(1寸)刻みに規格品がある。材長、断面とも特注可。    

   単価例  米マツ  幅12㎝×丈24㎝ 4m 7,373円  同 6m 13,478円    KD材(人工乾燥材)、 

            幅12㎝×丈30㎝ 4m  9,504円     同 6m 17,928円 積算単価資2020年9月号より 大口取引価格による。 

          : 材種・材寸・単価とも胴差に同じ        注 胴差・梁の必要材寸(断面)・材長は、材端の納め方により異なる。

小梁 材  種 曲げに対して強い材地マツ、米マツ、スギ、ヒノキ、米ツガの特等材。

   材  寸: 幅10.5㎝×丈10.5~18㎝あるいは幅12㎝×丈12~18㎝程度(丈は3㎝刻み)

   材  長 :3m、3.65m、4m

根太 材  種曲げに対して強い材スギ、ヒノキ、米マツ、アカマツ、米ツガの特等材。

   材  寸   幅4.5㎝×丈10.5㎝、幅4.5㎝×丈5.5㎝、幅3.6㎝×丈4.5㎝など      材  長   3.65m、4m

   単価例 幅4.5㎝×丈10.5㎝ 4mもの 特1等材 1本あたり

注 上記の単価は、積算資料2020年9月号水戸 大口取引価格による(小口は20~30%増)。 注 根太の必要材寸(断面)は、材端の納め方により異なる

 

参考 木材の特性とその活用例:背と腹       日本家屋構造より

斜面に育つ樹木は、谷側から山側に反るように育つ。谷側を、山側をと呼ぶ。側は年輪幅が狭く固く側は年輪幅が広いこのような傾向は、日本のような急峻な地形で育つ樹木に著しい。       

曲げの力を受ける胴差・梁などでは上側にして(上側に反り気味に)用いるが、出梁(だしばり)のような場合(片持ち梁)には、上側にして使う。

 

4)横架材(胴差、梁、桁など)の材寸と継手位置、支持方法と材の変形

継手の条件:接合箇所が、引いても、押しても、曲げても、捻っても、長期にわたりはずれず、一方にかかった力を、できるかぎり相手の材に伝えられること。力の伝達の程度は、継手により異なる。

継手の位置:通常、継手横材において、材の延長のために設けるが、継手の位置は、次の場合がある。

① 横材を支持する材(柱あるいは受材)の上で継ぐ

  古代~近世の継手    文化財建造物伝統技法集成より 文化財建造物保存技術協会刊

  

法隆寺東院伝法堂 奈良県 8世紀 奈良時代 入側通り 柱・頭貫・斗栱・桁の継手・仕口 

    

 円教寺食堂(じきどう) 兵庫県 14世紀 室町時代 左:二階平柱 頭貫継手・仕口  右:二階柱 頭貫継手・仕口

 

② 横材を支持する材(柱あるいは受材)から持ち出した位置で継ぐ(持ち出し継ぎ)

一般に、簡易な継手位置では力の伝達は途切れると見なしてよく、したがって、継手位置が支点になると考えられる。 それゆえ、簡易な持ち出し継ぎは、大きな力が伝わる材(ex 梁や桁)には不適である。持ち出し継ぎで大きな力を伝えられる継手は、きわめて限られる。

註 横材の継手位置について

荷重によって材に生じる曲げモーメントは、下図のように材の架け方(支持方法)によって異なる。

材断面同一、各支点間の距離同一とした場合、等分布荷重による最大曲げモーメントは、次の関係にあると見なすことができる。

    m1>m2>m3≧m4≒m5 ∴材の必要断面も A>B>C≒C′になる。

 

持ち出し継ぎの場合は、通常、継手位置が支点になるので、垂直の荷重に対してだけならば継がれる材の長さが短くなり、材寸は小さくて済む。実際、そのように記載されている木造のテキストもある。

しかし、横材:梁・桁は、単に荷重を受けるだけではなく、受けた荷重による力を柱へ伝える役割を持つ必要があり、簡易な持ち出し継ぎでは、継手位置で力の伝達が途切れ柱に伝わりにくい

(それゆえ、古代~近世では、梁・桁継手支持材(柱や受材)位置に設けるのが普通であった。)

中世以降、化粧材を持ち出し位置で継ぐことが増えるが、構造に係わる材の例は少ない。たとえば追掛大栓継ぎは、化粧材を持ち出し位置で継ぐ場合に、継手箇所での材の不陸や暴れを避け

るために用いられる例はあるが、構造に係わる材に用いる例は見かけない。追掛大栓継ぎを構造材に用いるようになるのは、近代~現代になってからのようである。 

 

5)胴差・梁・小梁・根太の材寸の決め方

胴差・梁・小梁・根太断面寸法は、スパンと荷重、および材の取付け方:仕口(両端を固定と見なすか、単純梁と見なすか、連続梁と見なすか)によって異なる。

[単純梁連続梁] 再掲 

   

単純梁を2支点で支える。 梁に荷重がかかると梁を曲げる力が働くが、その力は2支点間だけにかかる。 曲げモーメントで言えば、支点間中央が最大で支点でOになる。

連続梁を3支点以上で支える。 ある支点間にかかる荷重による曲げの力は、支点を超えて隣の支点間に伝わる。その分、支点間での負担が少なくなる。 曲げモーメントで言えば、支点間中央で最大で、支点でマイナス(反対向き)になり隣へ伝わる(中途でOになる箇所がある)。そのため最大値は単純梁のときのそれより小さくなる。

したがって、横架材を連続梁として使うと、小さな断面で、同じ荷重に耐えることができるようになる(材の曲げに対する強度は断面形状により一定である:断面2次モーメント)。 

 

横架材をすべて単純梁と考え、スパンに応じて材寸を決めることは(横架材の断面寸法を、スパンの大小なりに増減することは)、胴差・梁の場合には、外力が作用したとき、寸面の急変箇所に無理がかかる可能性が高い。特に、筋かいを使用したときは注意が必要。

最大スパンの箇所の横架材断面で全体を統一するか、削減する場合でもその80%程度に押さえ、継手も、十分に力を伝達できるよう検討が必要である。また、外周部の隅柱に二方から取付く胴差の寸面が極端に異なる場合も、柱に無理がかかるので注意が必要。

 

例 スパン3尺(約0.9m)の横架材は、荷重だけ考えれば12㎝(4寸)角で十分だが、軸組全体を一体化するために、隣接の横架材の丈が24㎝(8寸)ならば、同寸か、削減しても18~21㎝(6寸~7寸)程度にするのが適切。

固定端と見なす場合(確実な仕口により接合した場合)には、横架材に生じた曲げの影響は柱にも伝わるから、柱の寸面にも留意(横材の幅と同寸角以上、最低でも12㎝角必要)。

 

一体化・立体化工法(確実な仕口継手を使った場合)の胴差・梁の最小断面寸法例(通常の積載荷重の場合の経験値) 

     材種: 地マツ、米マツ、ヒノキ、ヒバ、米ヒバなど 梁は@1間の場合とする

 

参考 経済的なゆとりと架構部材の肥大化

上図は、長野県塩尻周辺に多い本棟造(ほんむねづくり)と呼ばれる住居の断面図である(縮尺は同一)。上図は島崎家、下図は堀内家

島崎家は1720~1735年頃の建設、堀内家は1810年前後に建てられ、1870年代以降の改造で現在の形になった。

間口は堀内家が10間、島崎家は8間、ともに@1間の格子状に組んだ梁上和小屋を組む架構方式だが、堀内家は、柱、梁材など部材の寸面が、島崎家に比べ格段に大きい。島崎家は、多材種の(古材も多い)、寸面の小さな材で造られ、最近まで270年近く、改造を加えて住み続けられてきた。

一般に、「民家」の架構は骨太であると思われているが、正しくない。本来、住居の建築では、手近に得られる材種を用い、必要最小限の寸面で造るのがあたりまえである。しかし、幕末から明治初期の建物には、材種にこだわり、材の寸面を競い、地位を誇示する例が多くなり、誤解の元になった。

上図: 塩尻・島崎家 梁行断面図  1720~35年頃建設  島崎家住宅修理工事報告書より    下図: 塩尻・堀内家 梁行断面図 1810年頃建設 日本の民家 2 農家Ⅱ(学研)より


第Ⅴ章 2階床組の計画・組み方

2021-03-17 11:57:10 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章 2.  6)2階床組(床伏)の計画

床組床伏)の計画は、①各部材の荷重の負担面積を考えながら、②材の断面がどの程度必要か③荷重をどのように柱へ伝えるか④材をどのように組むか、を考えることが要点である。

梁の位置 できるかぎり梁の両端に通し柱、途中に管柱があるようにする。間取り梁の間隔を調整し、梁位置を1階、2階の間仕切位置と合致させる。

根太の方向仕上げ床材を張る方向により決める。

小梁の位置根太の方向スパンにより、必要に応じて、梁と梁の間に小梁を設ける。 根太が受ける荷重が、管柱のない梁・胴差の中間部に集中しないようにする。

 

2階床組(床伏)の計画手順例  下図の平面の2階床組を計画する。

前提:床をフローリング仕上げとし、全室桁行方向に張る。 胴差と梁天端同面(どうづら)納めとする。

    

2階床組(床伏)案1 平面なりに床を組む案

この案で最も負担が大きい梁である。

床荷重を経てbの中央部に集中する。単純梁と見なされるから、中央部曲げモーメントたわみが最大になり、bの梁丈はそれにより決まる。

胴差aは、にかかる根太が受ける荷重の他に、の受ける荷重を1階管柱からはずれた位置で集中的に受けるため、断面(丈)はこれにより決まる。その際、胴差への梁の仕口も考慮する。

 ∴ b:丈9寸~1尺 →  a:丈1尺   c:丈6~7寸  幅はいずれも4寸とする。

  

2階床組(床伏)案2  案2は、床面の剛性を均等にすることを考えた案。

   

この案では、床荷重を経てにかかるが、の取付け位置が端部に近いため、曲げモーメントたわみとも案1よりも小さい。また、の端部に近くが架かるため、床面の剛性は高くなる。

胴差aの役割は案1と同様であるが、bの架かる位置が、1階管柱間の中央部になるため、曲げモーメントたわみ案1よりも大きくなる。 は、間仕切のために必要となる。

 ∴ b:丈9寸 → a:丈1尺以上 c:丈7~8寸 d:丈5~6寸    材の量は、案1よりも明らかに多い。

 

7)胴差・床梁・小梁・根太の組み方(床組)

(1)床梁、小梁の位置  

床 梁通常1間(通常は6尺:1,818㎜)間隔以下に配置する。

小 梁:丈45~60㎜程度の根太は、小梁を@0.5間(通常3尺:909㎜)以下に設けて支持する。

床梁、小梁の位置は、階上・階下の間仕切位置とずれないことが望ましい。

仕上げにフローリングなどの方向性のある材料を使うときは、根太、小梁の方向の検討が必要。したがって、床梁、小梁の配置は、平面:間取りと並行して検討する。

 

(2)胴差と梁をどの高さで納めるか

組み方A)胴差と梁・小梁を同じ高さで納める天端てんば同面どうづら

            矩計の計画が容易であり、階上の管柱の取付けにも問題が起きない。 2階の天井高を最も高くすることができる。 

    (階下に管柱がない場合は、胴差の丈≧梁の丈であることが必要。梁成が胴差からこぼれる。)

  根太の納め方

  a 胴差・梁・小梁に乗せる。 -1)丈60㎜程度以下の根太の場合:小梁が必要。

                 -2)丈75㎜程度以上の根太の場合:胴差・梁へのかかりで床高を調整できる。

                   梁上に乗せるだけの場合と、欠きこんで乗せる渡りあごの場合があり、後者の方が強度がある。 

           

    

 

   b 胴差・梁・小梁の間に落とし込む  

    通常は、根太の支持間隔は6尺(1,818㎜)程度以下、丈は90、75㎜程度以上必要になる(荷重と根太間隔による)。

    単純梁状態となるので、材寸は a)に比べ大きくする必要がある。(商家・農家 の踏み天井根太天井はこの方法をとることが多く、これを意匠化したのが竿縁天井と考えられる。際根太は不要。)

                                    

                                  

組み方B)胴差に梁に乗せ掛ける胴差の丈<梁の丈の場合も可能)階上の管柱と梁の取合いに注意が必要。                                 

     ア)梁の端部を胴差の内側に揃える 

       根太の納め方   a 梁に乗せる

                  b 梁間に落し込む       (a,b共に(きわ)根太が必要になる)。

    

 

     イ)梁の端部を胴差の外面まで延ばす     

       胴差の上に梁を乗せ掛けた場合、階上管柱の端部に立てることになり、確実な根ほぞがつくれず長ほぞではなく短ほぞ扇ほぞになる)、不安定になる。

       そこでの上に直交して横材をまわし、2階管柱を立てる方法がある。この横材を台輪(だいわ)と呼ぶ。台輪胴差を挟む形になる。言わば、土台をまわしたと考えればよい。

       しかし、これら三者の噛み合わせだけでは構造的に不安であるため、通常台輪胴差をボルトで締めつける。(ボルト締めは木材の収縮で緩むことがあるので注意が必要)

   

 

     ウ)梁の端部を胴差の外側まで出す

       胴差の仕口も確実になり渡りあご)、柱も長い根ほぞがつくれ、梁上に長ほぞ立てることができる。

       の端部が表しになり、大壁仕様には向かない。なお、を外側に大きく出せば、2階を張り出すことができる架構法D参照)

       いずれの場合も、根太の納め方には、①梁に乗せ掛ける方法連続梁と見なせる)②梁間に落し込む方法単純梁となる)があるが、ともに際根太が必要になる。

     

 


第Ⅴ章 胴差・梁・桁の継手、通し柱との仕口

2021-03-17 11:56:39 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章 2.8)胴差・梁・桁の継手

胴差・梁・桁曲げの力を受けるため、継手位置は、曲げモーメント、たわみが最大になるスパン中央部を避け、管柱から5寸~1尺(150~300㎜)程度持ち出した位置が適当。

力を伝達できる継手は追掛け大栓継ぎ金輪継ぎなどに限られる(その場合でも、建て方時は不安定なため、管柱から5寸~1尺5寸程度の位置で継ぐ)。

 ①追掛け大栓継ぎ(おっかけだいせんつぎ)           

     

曲げのかかる材胴差・梁・桁・母屋)を継ぐときに使われる確実な継手。継いだ材は1本ものと同等になる(継手を経て応力が隣へ伝わる)。

上木下木からなり、下木を据えたあと、上木を落としてゆくと、引き勝手がついているため両材が密着する。次いで、肉厚の厚い方からを打つ(2本のは打つ向きがちがう)。

建て方の際、上から落とすだけでよく、また材軸方向の大きな移動も必要としない(多用される理由)。側面に継ぎ目線と大栓の頭が見える。管柱根ほぞ頭ほぞ長ほぞが適切。

継手長さは8寸(24㎝)以上、長い方が良い。手加工では、上木と下木のすり合わせを行うため、1日1~4箇所/人という。現在は加工機械が開発されている。                      

 

 ②金輪継ぎ(かなわつぎ)

     

曲げのかかる材胴差・梁・桁・母屋)を継ぐときに使われる確実な継手。柱の根継ぎ(腐食した柱の根元の修理)などにも用いられる。

継いだ材は1本ものと同等になる。継がれる2材A、の端部の加工は、まったく同型で、上木、下木の別がない。二方向の目違いの加工に手間がかかる。

A、2材を図1のように置くと、目違いの深さ分の隙間があく。両材を寄せて目違い部分をはめると中央部に隙間ができる。 

そこに上または下からを打ちこんでゆくと、目違い部がくいこみ、図2のようにA、2材が密着する。側面には、目違い付きの継目線が見える。                  

追掛け大栓継ぎとは異なり、側面から組み込むため、建て方前に、地上で継いでおく方が容易。建て方時に継ぐには、追掛け大栓継ぎが適している。

 

 ③腰掛け 竿シャチ継ぎ(目違い付

     

下木を据え、長い竿を造り出した上木を落とし、上面からシャチ栓を打つ。目違いは捩れ防止のために設ける。

シャチ栓の道を斜めに刻んであるため引き勝手を打つと材が引き寄せられ圧着する確実な継手。

材相互が密着して蟻継ぎ鎌継ぎよりも強度は出るが、応力を十分に伝えることはできず、

曲げモーメントは継手部分で0:継手箇所を支点とする単純梁になると見なした方が安全である。

 

④腰掛け鎌継ぎ(目違い付き)+補強金物 土台の継手参照

     

丁寧な仕事の場合は、引き勝手をつくり、上木を落とし込むと材が引き寄せられる。目違いは捩れ防止のために設ける。

蟻継ぎに比べると、曲げがかかっても継手がはずれにくい。

ただし、応力を十分に伝えることはできず、継手箇所を支点とする単純梁になると考えた方がよい。補強金物は、平金物が普通で、簡易な場合はかすがいが用いられる。

 

⑤腰掛け蟻継ぎ+補強金物  

     

材長の節減、手間の省力化のために、使われるようになる。応力を伝えることはできず、継手箇所を支点とする単純梁になると見なせる。

曲げがかかると鎌継ぎに比べ、継手がはずれやすい。

注 ④鎌継ぎ、⑤蟻継ぎ胴差・梁に用いられるようになるのは、耐荷重だけを重視する工法になってからである。

元来は、主に、土台母屋などに使われてきた継手である(丁寧な場合には、母屋にも追掛け大栓継ぎを用いている)。

 

9)通し柱と胴差・梁の仕口

(1)隅の「通し柱」の場合

①小根(こね)ほぞ差し 割り楔締め(わりくさびしめ)・小根ほぞ差し 込み栓打ち(こみせんうち)   共に胴突付(どうづきつき)又は小胴付

     

隅の通し柱胴差・梁を取付ける確実な仕口。 

割り楔締め(わりくさび) ほぞを柱に貫通させ先端にを打ちこむ。ほぞの先端が広がり抜けなくなる。

込み栓打ち(こみせんうち):ほぞを柱に貫通させ柱の側面から込み栓を打つ。によってほぞが抜けなくなる。

割り楔込み栓には堅木カシなど)が用いられる。

割り楔込み栓は、木材の弾力性・復元性を利用する方法で、確実に(きつめに)打ってあるか否かで強度に大きな差がでる。

柱内でほぞが交叉するため、ほぞを小根(こね)にする(上小根(うわっこね)下小根(したっこね)

どちらを上小根下小根にするかは任意。                                  

胴差側を下小根梁側上小根にすれば、梁天端高さ≧胴差天端高さの場合に対応できる。

図は割り楔締め胴差を込み栓打ちにしているが、その選択は任意(両方割り楔、または込み栓でも可)。 柱は最低でも4寸角以上必要。

 

小根ほぞ差し 鼻栓(はなせん)(端栓)打ち 目違い付突付どうづきつき又は小胴付

     

図のようにほぞの先端を柱の外に出し、柱面に沿いを打ち(鼻栓打ち)、ほぞを固定する確実な方法。

真壁仕様に用いられるが、ほぞが飛び出す分、材長がいる。米マツなどの割れやすい材には不向き。 鼻=端

 

①、②とも、胴差・梁はほぼ一体化し(胴差・梁端部はほぼ固定端となる)、半ばラーメン状になり、胴差・梁にかかった曲げに対して、も共に抵抗することになる

 

③傾木大入れ(かたぎおおいれ) 全短ほぞ差し+補強金物             

                         

 ④傾木大入れ 小根(こね)短ほぞ差し+補強金物               ⑤胴突付(小胴付)+補強金物  

   

在来工法(法令仕様の工法)」で見かける方法。 端部加工が短いため、材は長く使える。

傾木大入れ短ほぞだけでは柱から容易にはずれてしまうため、羽子板ボルト・アンカーボルト・箱金物等で補強する。

ボルト穴径とボルト径には、必ず差があり、がたつきを生じる。またボルトの取付けナットは、材の木痩せと曲げの力の繰り返しにより緩むことが多い。

補強金物を用いても、胴差・梁は柱に緊結されないから、胴差・梁は単純梁となる。

全短ほぞ差しの方が小根ほぞ差しより、ねじれに強い。

                                

    

(2)中間の通し柱の場合

二方~四方から胴差・梁が取付き、それぞれ二方差し(にほうざし)三方差し(さんぽうざし)四方差し(ほうざし)と呼ぶ。 

①竿(さお)シャチ継ぎ・雇い竿(やといさお)シャチ継ぎ(目違い付、胴突付どうづきつき又は小胴付

             三方差し 竿シャチ継ぎ 胴差と梁 同面 (梁は小根ほぞ差し割り楔締め 胴突き・目違い付

柱への胴差・梁の仕口であるが、柱を介して左右二方の材が継がれるので「・・・継ぎ」と呼ぶ。

中途の通し柱へ、胴差・梁を確実・堅固に取付けることができる。柱の刻みの関係で、柱は4寸角以上必要。四方差しの場合は、できれば4.5寸~5寸角。

胴差と梁に段差がある場合も使用可能。

一材に竿を造り出し、柱を介して反対側の材に差し込み、シャチ栓を打ち相互を固める。

シャチ栓を打つ道に、柱側に向け僅かな傾斜を付けてあるため引き勝手)、を打つと両側の材が引き寄せられ、柱と胴差・梁が密着する。カシなどの堅木。                    

胴差・梁の端部がほぼ固定端となり、半ばラーメン状の架構となる。

       四方差し 竿シャチ継ぎ 梁が胴差より高い場合

 

竿の部分を造るには長い材が必要になるため、竿の部分を別材で造る雇い竿シャチ継ぎがある。

     四方差し 雇い竿シャチ継ぎ 胴差と梁 同面

 

なお、図の三方差しの場合、胴差を取付ける前にを差し、割り楔の代わりに込み栓を打ち(胴差の胴突内に隠れるので隠し込み栓という)、

胴差も竿に対して側面から込み栓を打つ方法もある(この栓は外から見える)。効果はシャチ継ぎと同じ。

通常用いられる傾木大入れよりは手間がかかるが、この仕口を必要とする箇所は、通常、全軸組の中で限られており、軸組強度の点を考えれば、決して余計な手間ではない。

シャチ栓、込み栓、割り楔は、木材の弾力性・復元性を利用しているため、年月を経ても緩みが生じにくく、接合部自体も緩む可能性は小さい。                         

 

②傾木大入れ 全短ほぞ差し+補強金物 ③傾木大入れ 小根短ほぞ差し+補強金物 ④傾木大入れまたは短ほぞ差し+補強金物           

⑤胴突き(小胴付)+補強金物  注 補強金物:羽子板ボルト、短冊金物、かね折金物、箱金物 など       

②③④⑤は前項の図解参照。取付けた胴差・梁は単純梁と見なされる。

補強金物の場合、金物の取付けボルトや釘は、材の木痩せや繰り返しかかる外力によって緩みやすく、荷重の伝達の不具合、建物の揺れを起しやすい。

金物の緩みは隠れて見えないことが多いが、内装材のひび割れ、床・敷居の不陸などで現れることがある。

コーススレッドを使用すると、緩みは避けられるが、木部が割れる恐れがある。


第Ⅴ章 胴差と梁の仕口、管柱との仕口

2021-03-17 11:56:12 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章 2.  10)胴差と梁の仕口、胴差・梁と管柱の仕口

(1)胴差と梁が天端同面の場合

 ①胴突(小胴突) 腰掛け蟻掛け                                        

いずれも柱根ほぞ頭ほぞ長ほぞ差し。普通に行われる方法。

柱ほぞは短ほぞ差しよりも、長ほぞ差しの方が適切である。込み栓を打てばさらに確実。

短ほぞ差しの場合は山型プレート、平金物などによる補強が必要。筋かいの取付く箇所では、ホールダウン金物を必要とする場合がある(告示第1460号)。

 

①胴突付 (又は小胴付) 腰掛け蟻掛け

 図A    図Aは、胴差丈≧梁丈天端同面の場合。

胴差下に管柱があるときは、胴突梁丈いっぱいに設けることができる。下に管柱がないときは、胴突の丈を小さくして腰掛けの効果を確保する。

 

 図B        図Bは、梁丈≧胴差、天端同面の場合。                    

下に管柱がなければ梁下端こぼれ不可能梁の胴突管柱の木口にのせかける。大入れ蟻掛けで取付けるには、天端同面の場合は、胴差丈>梁丈でないと梁下端がこぼれる

また、下に管柱がないときは、胴差への梁のかかりが1寸(約30㎜)程度必要。 必要な梁丈により胴差の丈を決める梁は単純梁と見なされる。       

いずれの仕口も、住宅金融支援機構仕様は、胴差と梁を羽子板ボルトで結ぶことを指定。

 

②大入れ蟻掛け

 

 

(2)胴差に梁をのせ掛ける場合 (梁天>胴差天)

①大入れ蟻掛け(解説図省略)

胴差にかかる部分だけ大入れ蟻掛けとする。普通に行われているが、安定度が劣るため羽子板ボルト等により補強することが多い。

上階の管柱の取付けが難しい。梁は単純梁となる。

台輪を設けるか、胴差外側まで伸ばし扇ほぞで立てる。これを解決する確実な方法が次のである。

 

②胴突付蟻掛け+上階柱蟻落とし

   

     

胴差胴突付蟻型を造り出し、1階管柱に架ける。端部には全面に胴突付蟻を刻み胴差に掛け、上階の管柱を蟻落としで落とし込み一体化させる。

根ほぞ長ほぞが適切。下階の管柱は、胴差長ほぞ差し下階に管柱がなくてもできる。

図は胴差に左右からが架かっているが、外周部など片側だけの場合も可能。見えがかりもよく、真壁仕様で用いられる仕口。

上下の管柱胴差が一体に組まれるため、梁端部は固定端に近くなる。上下の関係を逆にした納め方も可能である。

 

【管柱・梁・胴差】 写真のような例を見かけるが、この場合は、下図の納めが確実である。

  

 

 

【胴差と柱】 短ほぞ差し+補強金物

  

   

柱の頭・根ほぞ短ほぞの場合に多用される。筋交い使用時には、水平力による柱の引抜きがかかるので、山形プレートやかど金物が用いられる。

上下をつなぐ点では、短冊金物の方が優れる。 

 

【胴差と梁 腰掛け蟻掛け】

   

梁天端が胴差天端より高く胴差上で左右からがかかる場合は、上の部分は、胴差に乗せかけるだけで、下部を腰掛け蟻掛けとする。

曲げの力に対して、の部分だけが抵抗する。乗せかける部分を胴差外側まで延し、扇ほぞで上階の管柱を立てる例もあるが、かみ合わせが弱く、薦められない。

 

【差鴨居】

    

この図では、建具付きの鴨居雇い竿シャチ継ぎで柱に取り付ける例。隅の柱では小根ほぞ差し割り楔締めで取り付ける。

枠まわりなどの造作(仕上げ材)も力を負担する材として扱う方法である。上棟時に取り付けることになるので、上棟までの刻みの仕事は増えるが、造作の手間は減る。

伝統的なつくりでは、主要横架材間(土台~梁・桁間など)にこのような仕口による横材差物)と(壁の部分)を組み込んで、

軸組を立体的に組み、架構全体の強度を上げている(今井町・高木家など)。ただし、この場合の貫は、現在の壁下地材としての「」ではない。

差鴨居の使用は、木材の曲げに対する力を有効に使う方法で、骨組みの強度を格段に上げ、現在でも十分通用する。

 

【参考 柱仕上がり4.3寸の場合:差し鴨居の納め、胴差・梁管柱の納め】

  

 

    スパンが2.5間を超える床梁(下階に管柱がない床梁)の場合の合成梁の一例    

 


第Ⅴ章 梁と小梁・根太 安定した架構を作るためには 材の継手長さ

2021-03-17 11:55:46 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章  2.  11)梁と小梁の仕口

小梁は、通常、天端同面(どうづら)納めとする。                    

①大入れ蟻掛け

     

小梁の断面の大小にかかわらず確実に納まる。単純梁と見なされるが、蟻掛けがあるだけ、大入れよりも曲げに強い。

 

②大入れ 

        

 

断面が小さい場合は大入れでも可。 

 

12)根太と梁・小梁の仕口

(1)梁・小梁に乗せ掛ける

 根太用材の市販品の材長は3.65m、4mであり、乗せ掛ける場合は、連続梁と見なせる。

①丈の小さい根太の場合(幅3.6㎝×丈4.5㎝、幅4.5㎝×丈5.5㎝など):乗せ掛けて釘打ち

②丈の大きい根太の場合(幅4.5㎝×丈10.5㎝など)

   a)渡りあごを設けて釘打ち :梁を傷めず確実な納め。

       

   b)梁・小梁を欠き込み釘打ち:梁を傷める恐れがある。床仕上げの高さは、欠き込みの深さで調整する。

乗せ掛ける場合は、①、②ともに、柱の際(きわ)には、際根太(きわねだ)を必要とする。 

 

根太は、梁・小梁の上で継ぎ、特に継手は設けない。

  

殺ぎ継ぎ(そぎつぎ)接続面を同じ角度に斜めに切り、重ねて継ぐ)にすると不陸が起きにくい。不陸を防ぐ方法で、通常、垂木の継手に用いられる。

継手箇所に近いスパンは、それ以外のスパンよりも、たわみが大きくなる(連続梁の特徴:頁項参照)ので、

根太の継手を同一の梁・小梁上に並べて設けず、千鳥ちどり(互い違い)配置とする。 継ぎ位置が、同一梁上に近接して並ぶと たわみきしみが発生しやすい。

               

(2)根太を梁・小梁と天端同面で納める

根太は単純梁と見なせる。断面の小さな材は使えない。 スパンが3尺(909㎜)程度でも、幅1.3~1.5寸×丈3~3.5寸(40~45㎜×90~105㎜)以上の材が必要。

一般に大入れで取付けるが、単純梁になるため、荷重によりたわみで仕口に緩みが生じる恐れがある。

刻みはきつめに造ることが求められる(釘打ちを併用しても、釘がきしむことがある)。

荷重が大きいときには、1.5寸以上の幅の材を蟻掛けで納めると固定端に近くなり、同じ荷重でも、大入れ比べてたわみにくくなる。

  左図:激しい振動が加わる体育館の床 丈120×幅60の根太を蟻掛けで掛ける(筑波第一小学校屋内体育館の床組の一部)

                                  

                                    

13)安定した架構を造る:通し柱・管柱と胴差・梁の組み方

普通に手に入る木材で、強度的に安定した架構を造るには、木材の性質を踏まえた確実な継手・仕口を用いて構成部材を極力一体化させることが最良である。

比較的簡単な継手・仕口と補強金物を用いる場合でも、一部分への応力集中が生じないように架構全体を見渡しながら構成部材を極力一体化させるように考える必要がある。

この講座で紹介している継手・仕口は、経年変化の確認:実地での改良が積み重ねられてきたものであり、現在でも加工が可能である(多くは機械加工ができる)。

通常用いられるのは、架構法A、Bである(頁の図再掲)。

架構法A    架構法B

 

架構法A、Bを、強度的に安定した架構とする方策 

①胴差と梁の高さ関係 : 天端同面で組む(*1)

②胴差と梁の寸面  : 一定の断面(幅×丈)の材で連続させる(*2) 

③通し柱への胴差・梁の仕口隅通し柱 : 小根ほぞ差し割り楔締め または 小根ほぞ差し込み栓打ち(*3)

            中央通し柱 : 竿シャチ継ぎまたは雇い竿シャチ継ぎ(*3)

④胴差・梁の継手       : 追掛け大栓継ぎ(*4)

⑤胴差への梁の仕口 : 大入れ蟻掛けまたは胴突き付き蟻掛け(*5)

⑥1階管柱の頭ほぞ、2階管柱の根ほぞ : 長ほぞ込み栓打ちとすればさらによい)

 

*1 胴差・梁に立つ2階管柱根ほぞ長ほぞで確実に納められる。

   (梁天端>胴差天端の場合、通常、2階の管柱は短ほぞだが、頁(2)②を使えば胴差ほぞで納められる。)

*2 材の丈を低減する場合は、標準の丈の8割程度までとする(標準の胴差・梁の丈が9寸ならば7寸まで)。

*3 現在一般に通し柱と胴差・梁の仕口に使われる傾木大入れ+羽子板ボルトは、取付けボルト類が木痩せや架構の振動で緩むことが多い。一般に、補強金物は、竣工後、取付け状態の確認が必要。   

*4 現在一般に胴差・梁の継手に使われる腰掛け鎌継ぎ+短冊金物は、継手を支点とした単純梁となるため、可能なかぎり、継手箇所を同じ位置に並べないようにすることが望ましい。

 

14)2階床組伏図の記入事項

  ア)各部材の材種・断面寸法(材寸は挽割り寸法仕上り寸法かを明示)、高さ関係。

  イ)通し柱の位置、管柱の位置(当該階、下階の管柱の位置を示す)、材種・材寸、胴差・梁との仕口。

  ウ)胴差・梁の材種・材寸、継手位置・継手種類。

  エ)小梁の材種・材寸と梁への仕口、根太の材種・材寸と掛け方。

  オ)できれば、各部材の長さごとの拾いを併記する。

 

   1/30~1/40程度の縮尺が細部まで記入しやすい。必要に応じて、継手図、アキソメトリックの組立図、部分断面などを併記する。

 

15)胴差・梁の継手と材の必要長さ(規格材を使う場合)

材端部の傷みの部分(両端それぞれ約15~30㎜ 計30~60㎜程度)は使えない。

継手または仕口の長さの分、両端で相手の材と重なる部分がある。したがって、

 材の長さ≧{材端の傷み(約15~30㎜)+継手・仕口長さ  ~  継手・仕口長さ+材端の傷み(約15~30㎜)}

柱の根ほぞと継手最低100㎜離す

 

例 柱の仕上がり3寸8分(115㎜)・胴差及び梁幅同寸

◇継手を4寸鎌とした場合

  [柱間9尺]   

  [柱間12尺]  

 

◇継手を追掛け大栓8寸とした場合   上: [柱間9尺]   下:[柱間12尺]

         

 

◇継手を追掛け大栓1尺とした場合 [柱間12尺]   下:[胴突き付き蟻掛け]

        

 


第Ⅴ章 架構例を考える

2021-03-17 11:55:08 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章 3.架構を考える例1:内外大壁使用 2階床組伏図例(左部分小屋伏図)(断面図はPDF38頁)

梁組の検討手順   [2階建て部分の四隅を通し柱とする               

  

①外周と1階主要間仕切りの位置に、胴差を配置する。

    食堂・台所の上部は、平屋部分の屋根であるが、1階全体を構造体として固めるため2階床と同時に考えるのがよい。

    胴差と梁の高さ関係は天端そろい、もしくは胴差の上に梁を乗せ掛けるのどちらかを考える。→ 

   2階床面全体を十文字に組むことを考える。→床面を安定させるため。 外周および [通り]に胴差・梁を架ける。

③梁通常1間(約1.8m)間隔で入れる。居間・10帖・玄関の梁位置を検討する。

   を掛ける位置は、なるべく梁下に1階管柱がある所とする。上部の荷重を無理なく基礎に伝える。→1階管柱位置の再検討もありうる。

   ここでは和室 [は通り]・[ほ通り]および居間中央 [ち通り]に梁間2間のを架ける。(を [ろ・に通り]に架ける方法もある。)  玄関 [り通り]には梁間1.5間のを架ける。

   ④床梁の丈を決め、梁を受ける胴差と梁の高さ関係を調整し、胴差丈の検討を行う(←矩計図のスケッチ)。

            一般的な梁・胴差の丈(成) (曳割寸法)  幅120mmとするスパン1 間 180~210mm 1. 5間 240~270mm  2間 270~300mm  上記寸法は、「単純梁」としての標準的な数字である。

   天端同面の場合胴差の丈は、胴差スパンに関係なく梁丈同寸以上必要。梁を胴差に乗せ架ける場合胴差の丈は胴差必要丈で決められる。(ただし、スパンに応じた極端な増減は避ける。)

⑤梁間2間の梁を安定させるため、梁間の中間[通り]に小梁を入れる。

1階の間仕切桁:[六通り]と[ろ通り] および 2階間仕切桁:[四通り]を入れる。

         半間(約0.9m)ごとに根太を受けるための小梁(大引に相当)を入れる。床仕上げ材の張り方向により、入れる向き・位置を決める。

 

                                                               

1階小屋部分  

        

 平屋部分と2階建部分とを十分に―体とするためには、平屋部分の軒桁2階建部分の胴差天端をそろえ、また[通り]の妻梁は、2階床梁天端そろえる方がよい。

  材の丈も、胴差・床梁とほぼ同じにする方が好ましい。

 ②小屋梁の架け方は図の3様が考えられる。

       

    A)[三・六・八通り]に桁行方向の梁([わ~ぬ]間)を架け、それらに直交して[を通り]小梁を架ける。

    B)[三・七通り]桁行方向の梁([わ~ぬ]間)を架け、それらに直交して[を通り]小梁を架ける。

    C)一般に見られる方法であるが、2階建部分と平屋建部分とのつなぎ軒桁と敷桁だけである。

  A)B)は総2階部分のとつながり、また小梁を入れることにより小屋面の剛性が高まり、架構全体の強度が高まる。                       

  (小屋組の詳細は次章)

 

 

架構を考える例12階床組伏図例(左側小屋伏図)(断面図はPDF38頁、基礎伏図は39頁、土台伏図58頁)

総二階部分の四隅を通し柱とし、胴差・梁継手で延長し、1階管柱で支える。

通し柱:6m 12㎝(4寸)角 又は 15㎝(5寸)角。 管柱:3m 12㎝(4寸)角。 梁・胴差・軒桁:5m、4m、3m、4/2m材。

胴差・梁は、天端同面で組む。外周部と[ぬ・ほ通り][五通り]を十文字に組み、架構の主要部とする。

主要部の胴差・梁は、1階の管柱間隔から丈7寸(210㎜)程度で可能だが、より堅固にするため、8寸(240㎜)以上の材を用いている。

なお、材寸は挽き割り寸法(仕上げ前の寸法)で表示。

    

この伏図案では、建物奥 [ぬ一]の三方差しより組み始める。

胴差・梁天端同面で組み、2階管柱の根ほぞを長ほぞで確実に納める。

胴差・梁は、1階管柱の間隔にかかわらず、ほぼ一定の断面(幅×丈)で連続させる。

通し柱への胴差・梁の仕口小根ほぞ差し割り楔締め、または小根ほぞ差し込み栓打ち。

〇 [ぬ通り]通し柱への胴差・梁の仕口竿シャチ継ぎ(または雇い竿シャチ継ぎ)。

〇  [ぬ八]を通し柱としないで、管柱とする方法もある。右図→  → 

胴差・梁の継手追掛け大栓継ぎ

胴差と梁の仕ロ大入れ蟻掛け、または胴突き付き蟻掛け(通常は羽子板ボルトなどで補強)。

〇 1階管柱の頭ほぞ、2階管柱の根ほぞ長ほぞ込み栓打ちとすればさらに良)。

〇 床下地板:構造用合板(筋交いを用いない)。

 

 架構を考える例2 2階床組

 -A:総二階の四隅通し柱とし、胴差・梁継手で延長し、1階管柱で支える。内外大壁。

 -B:総二階の四隅中央部通し柱とする。(内外真壁仕様、内外大壁仕様、内真壁・外大壁仕様)

   

①外周1階主要間仕切りの位置に、胴差と梁を配置する。

   胴差と梁の高さ関係は天端そろい、もしくは胴差の上に梁を乗せ掛けるのどちらかを考える。

   2階床面全体を十文字に組むことを考える。外周および [ほ・四通り]に胴差・梁を架ける。→床面を安定させるため。

梁は通常1間(約1.8m)間隔で入れる。居間・食堂、台所の位置を検討する。

   を掛ける位置は、なるべく梁下に1階管柱がある所とする。上部の荷重を無理なく基礎に伝える。→1階管柱位置の再検討もありうる。

   ここでは、居間・食堂および台所の [は通り]に梁間2間・1間半の梁を、[へ通り(2階間仕切り桁)]を架ける。

  床梁の丈を決め、梁を受ける胴差の高さ関係を調整し、胴差丈の検討を行う(←矩計図のスケッチ)。

   一般的な梁・胴差の丈(成) (曳割寸法)  幅120mmとするスパン1 間 180~210mm 1. 5間 240~270mm  2間 270~300mm  上記寸法は、「単純梁」としての標準的な数字である。

   天端同面の場合胴差の丈は、胴差スパンに関係なく梁丈同寸以上必要

   梁を胴差に乗せ架ける場合→胴差の丈は胴差必要丈で決められる。ただし、スパンに応じた極端な増減は避ける

⑤2間の梁を安定させるため、梁間の中間[三通り]・[七通り]に小梁を入れる。

1階の間仕切桁:[三通り]と[六通り]・およびおよび2階間仕切桁[へ・五通り]を入れる。

  半間(約0.9m)ごとに根太を受けるための小梁(大引に相当)を入れる。

   床仕上げ材の張り方向により、入れる向き・位置を決める。

                                 

架構を考える例2-A:2階床組 内外大壁使用

総二階の四隅通し柱とし、胴差・梁継手で延長し、1階管柱で支える。

通し柱:6m 12㎝角(4寸)  管柱:3m 12㎝角(4寸)  梁・胴差:5m、4m、3m、4/2m材。

胴差・梁は、天端同面で組む。

    

〇外周部と[ほ通り][四通り]を十文字に組み、架構の主要部とする。

〇この伏図案では、 [ぬ一]通し柱より組み始める。

胴差・梁は、1階管柱の間隔にかかわらず、ほぼ一定の断面(幅×丈)で連続させる。

 主要部の胴差・梁は、1階の管柱間隔から丈7寸(210㎜)程度で可能だが、より堅固にするため、8寸(240㎜)以上の材を用いている。 

 なお、材寸は挽き割り寸法仕上げ前の寸法)で表示。

胴差・梁天端同面で組み、2階管柱の根ほぞを長ほぞで確実に納める。

通し柱への胴差・梁の仕口小根ほぞ差し割り楔締め、または小根ほぞ差し込み栓打ち

胴差・梁の継手腰掛け鎌継ぎ+短冊金物

胴差と梁の仕ロ大入れ蟻掛け、または胴突き付き蟻掛け(通常は羽子板ボルトなどで補強)。

○1階管柱の頭ほぞ、2階管柱の根ほぞ長ほぞ込み栓打ちとすればさらに良)。

○床下地板:構造用合板(筋交いを用いない)。  

 

架構を考える例2-B:2階床組  内外真壁仕様、内外大壁仕様、内真壁・外大壁仕様

総二階の四隅中央部通し柱とする。

通し柱:6m 12㎝角(4寸) 中央部は15㎝角(5寸)  管柱:3m(12㎝角)  梁・胴差:5m、4m、3m、4/2m材。

胴差・梁は、天端同面で組む。

   

〇外周部と[ほ通り][四通り]を十文字に組み、架構の主要部とする。

〇この伏図案では、 [ぬ一]通し柱より組み始める。

胴差・梁は、1階管柱の間隔にかかわらず、ほぼ一定の断面(幅×丈)で連続させる。

 主要部の胴差・梁は、1階の管柱間隔から丈7寸(210㎜)程度で可能だが、より堅固にするため、8寸(240㎜)以上の材を用いている。

 なお、材寸は挽き割り寸法仕上げ前の寸法)で表示。

胴差・梁天端同面で組み、2階管柱の根ほぞを長ほぞで確実に納める。

四隅通し柱への胴差・梁の仕口小根ほぞ差し割り楔締め、または小根ほぞ差し込み栓打ち

中央部通し柱への胴差・梁の仕口竿シャチ継ぎまたは雇い竿シャチ継ぎ)。

胴差・梁の継手追掛け大栓継ぎ

胴差と梁の仕ロ大入れ蟻掛け、または胴突き付き蟻掛け(通常は羽子板ボルトなどで補強)。

〇1階管柱の頭ほぞ、2階管柱の根ほぞ長ほぞ込み栓打ちとすればさらに良)。

〇床下地板:構造用合板(筋交いを用いない)。  


第Ⅴ章 2階建ての歴史

2021-03-17 11:54:26 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章 【2階建ての歴史】

1.日本の木造多層建築の工法

日本には、古代寺院の塔や門鎌倉時代末期の禅宗寺院、その影響を受けた室町時代の楼閣建築戦国時代~近世初頭の城郭建築近世以降の町屋に至る各種の木造多層建築の技術があった。

現在の2階建て(以上の)建物の工法は、これらを踏まえた技術である。

1)古代寺院の塔や門

古代寺院の塔や門などの多層建築は、多くはその外観に目的があり、下層の垂木の上に新たに土台(台輪だいわ)を据え、その上に上層の柱・軸組を建てる方式であった(五重塔は、これを五層繰り返す)。

外観では各層に欄干らんかんを設けているが、内部は床を張らず、実用には供されていない。

 法隆寺中門 日本の美術№196(至文堂)より 

  

左  法隆寺五重塔:日本建築史基礎資料集成 十一塔婆 一(中央公論美術出版)より  右下 同 断面詳細

右 上 法隆寺中門:奈良六大寺大観 第一巻 法隆寺 一岩波書店より   文字・着彩は編集によります。

 

2)中世の楼閣(ろうかく)建築

実用的な多層建築は、鎌倉時代の末(14世紀初頭)ごろから禅宗の寺院に現れ、その経験を経て建てられたのが1398年に竣工した三層の金閣寺(鹿苑寺の舎利殿)とされている。

金閣寺では、初層(住宅風)と第二層(和様佛堂風)は同形平面で間仕切柱の位置を一致させ、側柱を二層までの通し柱として大梁を組み第二層の床を張る。

第三層(禅宗様佛堂)は、第二層上部の梁に直交する横材を土台にして別個の軸組を据える古代同様の工法を採る。

京都・金閣寺(1950年焼失、1955年再建)

   

   ◁初層   第三層 

梁行断面    桁行断面  文字・着彩は編集によります。  カラー写真は日本の美術№199(至文堂) 図・モノクロ写真は日本建築史基礎資料集成 十六 書院 一(中央公論美術出版)より

 

3)中世末期~近世初頭の城郭(じょうかく)建築

戦国時代(室町時代末期以降)に始まる城郭建築では、二層以上通した通し柱相互を、その中途に組み込んだ大寸の差物(さしもの)で強固に連結し、差物上に根太:小梁を渡して厚い床板を張り、全体を立体的に組む方法へと発展する。

愛知県犬山・犬山城天守(一・二層1601年、三・四層1620年)

 写真は日本の美術№54(至文堂)より

 

梁行断面  桁行断面  日本建築史基礎資料集成 十四 城郭 一(中央公論美術出版)より   文字・着彩は編集によります。 

 

4)「二階建て住居」の前段階-1 上屋と下屋、差鴨居の発生

一般住居は、当初、柱に「折置組(2本の柱で梁を受ける)」でを架けた門形を並列させて小屋を組んだ「上屋(じょうや)」に「下屋(げや)」をさしかける工法が一般的であった。

この上屋下屋の関係を、寺院の場合は、「母屋(もや)身舎(もや)」と「(ひさし)(ひさし)」と呼ぶ。

下屋は、上屋を支えることにより、風や地震に対して丈夫な構造にする効果があった。

 

仏堂では、母屋の梁間柱間2間が基本で、1間幅と決まっていたため、建物規模を正面の柱間数(桁行)と庇の面数とで「〇間〇面」の建物と表記した。

例:京都・三十三間堂(蓮華王院本堂1266年再建)は、三十三間四面の堂。柱間総数は母屋部33、庇部4。 

  

 三間無庇建物(切妻造)      三間二面庇建物(切妻造)            三間四面庇建物(入母屋造)   「古代建築の構造と技法」鈴木嘉吉著より 建物の名称・文字は編集によります。参考 日本の美術№245 日本建築の構造 

 

法隆寺 東院 伝法堂  8世紀前半の創建 七間二面建物(切妻) 所在 奈良県斑鳩町法隆寺東院内 創建当初の形に復元。床は板張り。

   日本の美術№245(至文堂)より

 

 図は建築史基礎資料集成仏堂Ⅰより      右断面・左側面、数字・文字・着彩は編集によります。 

 

新薬師寺 本堂 8世紀中頃の創建 五間四面建物(入母屋)所在 奈良市高畑町  二重屋根。新薬師寺本体ではなく、別院の仏堂と考えられている。

    

外観は古建築入門(岩波書店)、内部は日本の美術№196(至文堂)より 

  

建築史基礎資料集成仏堂Ⅰ(中央公論美術出版)より   着彩・文字は編集によります。

                                  

【参考】 西洋の教会堂も、側廊+身廊+側廊の構成をとっている部分がある(仏堂の図の二面庇に相当)。

 ランス大聖堂 Reims Cathedral   フランス13世紀~

  

   

  外観・内部・平面図・断面図   History of World Architecture Gothic Architecture(Electa/RIZZOLI )より    文字・着彩は編集によります。

                                                 

住居の上屋と下屋

一般の住居、室町時代後期(16世紀後半)に建設されたと推定される古井家(在兵庫県宍粟市、千年屋と呼ばれる)では、上屋柱上にが架けられ、又首(さす)が組まれる。 

  古井家外観  外周は厚い大壁造り、内部間仕切りは真壁内法壁がない。  カラー写真は日本の民家 農家Ⅲ(学研)より   

  

にわからちゃのま・なんどを見る。              おもてを見る 室内に独立した柱が立つ    日本の美術№60(至文堂)より

 復元平面図

 

断面図・断面図・架構図 日本の民家 農家Ⅲ(学研)より   数字・文字・着彩は編集によります。 方位古井家住宅修理工事報告書より

 

上屋下屋の架構は、一定間隔で並ぶ柱が開口部の幅を制約し、また空間の利用上妨げになるため、中間の柱を抜き残った両側の柱の間に差物(さしもの)後入れにし(通常は鴨居の位置に入れるので差鴨居さしがもいと呼ぶ)、抜いた柱が受けていた(仕口はほぞ差し)を、差物差鴨居)上の束柱で受ける方法が発案される(既存柱の下部を切り取り束柱とすることが多い)。

  

古井家の改造例 日本の民家3 農家Ⅲ (学研)より   着彩・凡例は編集によります。 

 

図は、古井家改造の様子を示したものである。修理時に差鴨居と梁を併用して柱を抜き、仕口の大半が差口である。

 

差鴨居」工法は地域を越えて広く普及していることから、地域間の技術の交流が盛んであったことがうかがえる。

なお、柱間を飛ばす工法には「京呂(きょうろ)桁を先行して梁を架ける)」があるが、一般住居に用いられるようになるのはかなり遅いようである。

また、京呂組では、桁と梁の仕口が「渡りあご」「蟻掛け」となるため、既存の梁の端部を加工しなおす必要があり、既存建物の改造には使いにくい。

注 束柱、床束・・の束(つか)は、「握ったときの四本の指の幅ほどの長さ」転じて「短い」という意味。→「束の間」

 

5)「二階建て住居」の前段階-2 差鴨居の応用

近世には、一般住居で、最初から差鴨居を組み込み、柱間を飛ばす工法が広く普及する。

この方法は、柱の下端から軒桁までの中間位置に横材を組み込んだ鳥居型の軸組となるため、変形に対する軸組の強さ(剛性)が強まる効果があった。

また、差鴨居の導入は、小屋組の組み方を大きく変え、上屋柱から下屋柱に差された差鴨居の上の束柱で受けた陸梁(ろくばり)上に小屋の叉首(さす)を架ける方法が生まれる。

下図はその一例で、軸組・小屋組全体が立体的に組まれ、上屋下屋の区別は明確ではなくなる。

椎名家(1674年 茨城県かすみがうら市、東日本最古とされる住居遺構)

 椎名家外観 

  

どまからひろまを見る                              ひろまからどま・よこざを見る  日本の民家農家1 農家Ⅰ(学研)より

 

 平面図 

                     梁行断面図                                                桁行断面図   図は日本の民家 農家Ⅰより   数字・文字・着彩は編集によります。

     

 左図:上屋・下屋の構成を 右図:差鴨居を入れ、上屋柱を撤去する。 開口の制限が減り、軸組の強度も上がる。

                               

椎名家では、上屋柱相互は中途を丸太の差物飛貫に相当)で繋ぎ、その上のは柱位置より両側(南北)に伸び、側柱上屋柱とを結ぶ繋ぎ梁上に設けた束柱で受け、全体は鳥居状の形をなしている(上図参照)。

上屋柱列上にはない。また、この差物は、桁行方向のいわば背骨にあたる丸太梁を受けているが、丸太梁が大きく湾曲しているため、柱への取付き位置は柱ごとに異なる(桁行断面図および写真参照)。

 註 このように主要柱上に桁を通さないつくり(繋ぎ梁や差鴨居上の束で桁を受ける)を四方下屋造と呼ぶという。

 

なお、差物上屋柱への仕口は、枘差し鼻栓。 繋ぎ梁は、側柱へ折置、主柱へは枘差し鼻栓

この架構法の採用により、椎名家では、小屋組はもとより、空間構成も、上屋・下屋の束縛から解放されている。

 

一般の人びとの間では、すでに17世紀半ばまでに、柱-梁-柱で構成される門型を並べ、容量不足の場合には各面に下屋を増築するという二次元的な発想から、当初に立体として三次元的に構想することが普通になっていたと考えられる。 


第Ⅴ章 二階建ての歴史 江戸時代・明治

2021-03-17 11:52:21 | 同:通し柱と2階床組

6)「二階建て住居」の出現:「差鴨居+束柱+根太掛け」方式

江戸時代、大型の町屋や農家で、差鴨居上に床を張る「厨子(つし)二階」が現れる。

(1)厨子(つし)二階の事例 豊田家(1662年)奈良県橿原市今井町      

はすべて礎石立て、通し柱は21本、柱中程に差鴨居差口(材が差さる状態又は部分):仕口で納める。

差鴨居上の根太掛け(床梁)を支え、根太を掛ける。柱際では、柱に添えて半割りの根太掛けを渡し、根太を納める。

建物東側では、(11.2×3.3㎝前後 現在の壁下地とは異なる)を4段~5段に組み込む。 二階室内には小屋梁が飛ぶ。 重要文化財 豊田家住宅修理工事報告書より)

 外観 日本の美術№288より  架構図

  

土間東側                    日本の美術№288より      みせ(通り側を見る)

 土間からみせ・なかのまを見る  左とカラー写真は日本の民家6 町屋Ⅱ(学研)より 写真中の文字は編集によります。

 

 平面図     梁行(みせ~だいどころ)断面  

 桁行断面図                                                                                             

写真・図は日本の民家 町屋Ⅱ(学研)より  平面図の断面位置、各図中の数字・文字・着彩は編集によります。 

   豊田家住宅修理工事報告書より 文字・着彩は編集によります。

 

 

(2)「本二階」の事例 高木家(1800年代中頃) 奈良県橿原市今井町。

前項の豊田家から約180年後。二階の居住性を確保するため、棟高を高くして、小屋梁の位置を上げ、あるいは登り梁を用いて、積極的に二階を使う「本二階」へと変わる。

厨子(つし)二階」「本二階」とも、現在のような胴差+床梁(+造作鴨居・敷居)ではなく、通し柱差鴨居差口(材が差さる状態又は部分):仕口で納める。

通し柱は32本、柱径は4.2寸角に統一されている。礎石立てではあるが、建物東西側では土台を用い、貫(12×2.5㎝ 現在の壁下地とは異なるで壁面を固める。

2階は、差鴨居上に束柱を立て根太掛けを用い、部屋中央部では、現在の床梁に相当する材を掛けて、根太を掛け、床板を張る。 

1階の天井は、「厨子二階」「本二階」とも、床板をそのまま表した根太天井踏み天井)が主である(仏間・座敷は竿縁天井)。

本二階の2階天井は、小屋組全体を隠す竿縁天井になる。重要文化財 高木家住宅修理工事報告書より) 竿縁天井根太天井の形状を受け継いだ方法と言える。

   

外観                                    みせのま外部                    みせのま内部  

    

 にわ 見返し                    2階上がり口                                 2階 全室を南から見る  写真は日本の民家6 町屋Ⅱより

              

 平面図        架構図

 

梁行断面図  桁行断面図 

                                                                                                                                                                            

 

 

図は日本の民家6 町屋Ⅱ(学研)より  架構図・継手図・取付図 重要文化財 高木家住宅修理工事報告書より   図中の数字・文字・着彩は編集によります。

 

 

7)近世末期以降の「二階建て住居」:「胴差+床梁床組」方式へ

本二階」で一般化した「差鴨居+根太受け」方式では、まず、差鴨居で柱と緊結し、さらに2階床の柱通りの根太掛けも柱に差口一材に他材が差さる状態又は部分仕口」で納めるため(前頁:高木家参照)、横架材は柱と2段で組まれることとなる。

江戸後期以降、二階建て家屋が増え、厨子二階本二階差鴨居利用の工法に代って、下図のように、胴差・床梁による床組に変わって行く。

また、一般の家屋に、武士階級の住居:いわゆる「書院造」の形状・形式を模した例が増加し、鴨居を書院造同様に軒桁または小屋梁(二階建ての一階では二階床組)から吊る造作材(薄鴨居うすがもい)とし、天井小屋組(二階建ての一階では二階床組)から吊る竿縁天井形式が一般化する(書院造については、造作の章で解説)

その結果、床組・小屋組の構成部材は天井によって隠されるようになる。

 

胴差・床梁」方式では、差物は2階床位置(通し柱のほぼ中央部)に差される胴差1段だけになる(差口の箇所が1段になるため建て方の手間は削減される)。

しかし、「胴差+床梁床組」方式に転換した結果、軸組の変形に対する強さ(剛性)は、鳥居型を構成する「差鴨居+根太受け」方式よりも弱くなったことは否めない。

 

日本家屋構造 明治37年(1904年)刊行(再掲)

    

左:平屋建普通住家(すまいや)矩計(建地割たてちわり

右:住家(すまいや)二階建矩計

 「は・・・・出し桁蔀戸造(しとみどづくり)の矩計を示したるものにして、東京市内商家に多く用ゆ、

  乙は中等以上の住家の矩計を示すものにして、建物の高さは及び用材の大きさは図に付きて知るべし、・・・・」  図中の茶色の文字と数字・着彩は編集によります。

 

なお、書院造りの形式・形状は、農家や商家の家屋にも影響し、前掲の椎名家、高木家にも付鴨居床の間違い棚を設けた座敷がつくられている。⇒現在の農家の形式につながる。

農家商家:町家では、20世紀半ば(昭和初期)まで、従前どおり差鴨居を用いる工法が継承されている(農家では、現在でも差鴨居は多用されている:ステータスシンボルの意味合いが強い)。

 

日本家屋構造所載の「2階梁と通し柱の仕口

鴻の巣(こうのす)  :三方差し 竿シャチ継ぎ(目違い付)  ・小根ほぞ差し(目違い付)   隠し込み栓打ち

    香の図

「・・・右図の如く、横差物(二階梁 差鴨居の如(ごと)きを云ふ)を追入(をうい)に仕付け、その深さは柱直径の八分の一ぐらいにして、()()の如く柱の枘穴(ほぞあな)左右の一部分を図の如くのこし他を掘り取り差し合す。この如くなしたるものを鴻の巣(こうのす)といふ。

また鴻の巣をその差物の成(せい))の全部を通して入るゝこともあり。これ全く柱の力を弱めざるのみならず、その差物の(くるひ)を止め、かつ()の穴底に柱を接せしめ(ほぞ)を堅固ならしむるなり。

本図は二階梁三方差(さんぽうさし)にして斯(か)くの如(ごと)仕口にありては、一方桁行は鯱継(しゃちつ)ぎとなし、梁間の方を小根枘差(こねほぞさし)とす。()の込み栓を)の穴中より差しかつ()の切欠きに()の下端を通して梁の脱出(ぬけいで)するを防ぐものとす。」  

註 鴻の巣は、香の図の訛り。  

香の図:香合せの点取り表の形(右上図は一例) 刻みの形がこの形に似ていることからの名前  世界大百科事典 10(平凡社)より 

日本家屋構造は、明治37年(1904年)に初版が刊行された木造建築の教科書で、著者は当時東京高等工業学校の助教授であった斎藤兵次郎である。この書は、「実務者」(*)養成の学校の教科書であり、明治期の木造建築についての教育内容を知ることができ、同時に、当時の木造建築の技術状況も知ることができる。  *「頭と手を使い、実際にものをこしらえる人びと」のことで、「実業者」とも呼んでいる。


投稿者より

2021-03-17 11:51:51 | 同:通し柱と2階床組

ご訪問いただき、ありがとうございます。

ようやく、第Ⅴ章の投稿ができました。

 

PDF29頁分のテキストを何度見返しても、?だったり、まだ確認が足りないと思ったり、誤字脱字だったり、一向に終われないのですが、

今回は、ここまでとして、投稿することに致しました。

頭の中が固まってしまって、第Ⅴ章の構成がこれで良かったのか といった最初に戻れるような質問には、到底対応ができなくなっています。

 

第Ⅴ章の中で、一番時間がかかったのは、「2階建ての歴史」7頁でした。

このテキストの元となったテキストには、最初に「軸組工法:一体化工法の歴史」という項がありました。

ただ、その部分は最初からいきなり難しく、今回の再編では、2階床組の項で触れるしかないと考え、一部については建物の全体が捉えられるように図版も含めて作り直しをしました。

図版を作り直すといっても、一度や二度の試みでは不足ばかりで、未だに出来上がりとは思えていません。

 

全継手・仕口図及び解説は、故人下山眞司によりますが、その中の「追掛け大栓継ぎ」については、ご存じのように、上木と下木のかみ合わせの形が異なるものもあります。

継手・仕口の名称や細部については、それぞれの方の流儀・技法があるかと存じます。

 

2階床組架構例は今回図を改めました。

架構例1については「継手」の変更、架構例2については、図の状態が悪く、描き直しです。

架構例1の間取りは、2級建築士の製図の講座をさせていただいた時期があって、その間取りを使用しました。

例1の間取りは、平屋建ての部分と2階部分があり、通し柱が三方差し、四方差しとなります。

元テキストでは、三方・四方差しの仕口を「(雇い)竿シャチ継ぎ」、胴差・梁の継手を「腰掛け鎌継ぎ」で描いていました。

この架構例は2年あまりで使わなくなって、総二階の架構例2を作り直しました。

おそらくは、架構例1の三方・四方差しの「(雇い)竿シャチ継ぎ」と胴差・梁の継手「腰掛け鎌継ぎ」の使い方が、不釣り合いであったからだろうと思います。

今回は、胴差・梁の継手「腰掛け鎌継ぎ」を「追掛け大栓継ぎ」に変更しました。

 

架構例をwebに掲載することは、投稿者としては、正直なところいささか度胸がいりました。

ただ、継手・仕口図だけあっても、実際にどのように使うのかの例がなくては、次の一歩が踏み出しにくいのではないかと考えました。

 

誤字脱字、説明不足、確認不足の点が多々あると思いますが、

次回の再編作業まで、ともあれ「各部の納め」の最終章までは、振り返らずに作業を進めたいと思っています。

ご容赦のほど、お願い申し上げます。

                               投稿者:下山 悦子