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第Ⅴ章 2階床組の構成部材と材寸

2021-03-17 12:04:06 | 同:通し柱と2階床組

第Ⅴ章  2.  2)2階床組の構成部材と材種・材寸

2階床組の構成部材

軸組部材:胴差・梁床梁

     胴差とは、建物の長手桁行けたゆき)方向の外周(長手方向の中央部に設ける場合もある)に、通し柱~通し柱間に取付け、長い場合は管柱で支持して床梁を受ける材を言う。

     注「胴差:柱間ニ取付ケアル横木ニシテ二階梁ナドヲ支フルモノ・・」(日本建築辞彙じいより 中村達太郎著 明治39年)

     とは、建物の短手梁間はりま)方向の通し柱~通し柱間、あるいは胴差~胴差間に通常は1間間隔(@基準柱間:例6尺)に取付け、床にかかる荷重を受ける材を言う。 

     注「:荷ヲ承ケシムルタメニ設ケタル横木」(日本建築辞彙より)

床組部材:小梁根太(ねだ)

     梁~梁間に取付け根太を受ける材を小梁と呼ぶ。通常は0.5~1間間隔。梁の間隔と根太の材寸によっては小梁を必要としない。

     注 間仕切まじきり部屋境)が梁・胴差位置と一致しない場合は、間仕切の上下に壁等を納めるために間仕切桁頭つなぎが必要となる平面:間取りと架構は同時に考えることが重要)。

        根太の材寸は、床積載荷重と根太の架け方、スパン、間隔により決まる。

床  材荒床(あらゆか)(粗床)・仕上げ床材

     床下地板として、床面の補強のために構造用合板・パーティクルボード等を張る。(床面の剛性確保・火打ち材の使用についてはPDF56頁を参照。)

     厚1寸(30㎜)以上の床板材を使用のときは、梁・小梁上に直接張り、荒床・根太を省略することができる踏み天井または根太天井と呼ぶ)

     注 小梁・根太・床板は、剛性の強い面を構成する重要な部位であり、組み方に注意が必要。

 

3)使用材種・規格寸法と単価

胴差 材  種曲げに対して強い材。一般に地マツ米マツの特1等材が使われる。   

   材  寸地マツ 材長 3m(約10尺)、4m(約13尺)、4.85m(約16尺)  米マツ 材長 3m(約10尺)、4m(約13尺)、5m(約16.5尺)、6m(約20尺)

       断  面(共通) 幅12㎝(4寸)×丈12㎝(4寸)~36㎝(1尺2寸) は3cm(1寸)刻みに規格品がある。材長、断面とも特注可。    

   単価例  米マツ  幅12㎝×丈24㎝ 4m 7,373円  同 6m 13,478円    KD材(人工乾燥材)、 

            幅12㎝×丈30㎝ 4m  9,504円     同 6m 17,928円 積算単価資2020年9月号より 大口取引価格による。 

          : 材種・材寸・単価とも胴差に同じ        注 胴差・梁の必要材寸(断面)・材長は、材端の納め方により異なる。

小梁 材  種 曲げに対して強い材地マツ、米マツ、スギ、ヒノキ、米ツガの特等材。

   材  寸: 幅10.5㎝×丈10.5~18㎝あるいは幅12㎝×丈12~18㎝程度(丈は3㎝刻み)

   材  長 :3m、3.65m、4m

根太 材  種曲げに対して強い材スギ、ヒノキ、米マツ、アカマツ、米ツガの特等材。

   材  寸   幅4.5㎝×丈10.5㎝、幅4.5㎝×丈5.5㎝、幅3.6㎝×丈4.5㎝など      材  長   3.65m、4m

   単価例 幅4.5㎝×丈10.5㎝ 4mもの 特1等材 1本あたり

注 上記の単価は、積算資料2020年9月号水戸 大口取引価格による(小口は20~30%増)。 注 根太の必要材寸(断面)は、材端の納め方により異なる

 

参考 木材の特性とその活用例:背と腹       日本家屋構造より

斜面に育つ樹木は、谷側から山側に反るように育つ。谷側を、山側をと呼ぶ。側は年輪幅が狭く固く側は年輪幅が広いこのような傾向は、日本のような急峻な地形で育つ樹木に著しい。       

曲げの力を受ける胴差・梁などでは上側にして(上側に反り気味に)用いるが、出梁(だしばり)のような場合(片持ち梁)には、上側にして使う。

 

4)横架材(胴差、梁、桁など)の材寸と継手位置、支持方法と材の変形

継手の条件:接合箇所が、引いても、押しても、曲げても、捻っても、長期にわたりはずれず、一方にかかった力を、できるかぎり相手の材に伝えられること。力の伝達の程度は、継手により異なる。

継手の位置:通常、継手横材において、材の延長のために設けるが、継手の位置は、次の場合がある。

① 横材を支持する材(柱あるいは受材)の上で継ぐ

  古代~近世の継手    文化財建造物伝統技法集成より 文化財建造物保存技術協会刊

  

法隆寺東院伝法堂 奈良県 8世紀 奈良時代 入側通り 柱・頭貫・斗栱・桁の継手・仕口 

    

 円教寺食堂(じきどう) 兵庫県 14世紀 室町時代 左:二階平柱 頭貫継手・仕口  右:二階柱 頭貫継手・仕口

 

② 横材を支持する材(柱あるいは受材)から持ち出した位置で継ぐ(持ち出し継ぎ)

一般に、簡易な継手位置では力の伝達は途切れると見なしてよく、したがって、継手位置が支点になると考えられる。 それゆえ、簡易な持ち出し継ぎは、大きな力が伝わる材(ex 梁や桁)には不適である。持ち出し継ぎで大きな力を伝えられる継手は、きわめて限られる。

註 横材の継手位置について

荷重によって材に生じる曲げモーメントは、下図のように材の架け方(支持方法)によって異なる。

材断面同一、各支点間の距離同一とした場合、等分布荷重による最大曲げモーメントは、次の関係にあると見なすことができる。

    m1>m2>m3≧m4≒m5 ∴材の必要断面も A>B>C≒C′になる。

 

持ち出し継ぎの場合は、通常、継手位置が支点になるので、垂直の荷重に対してだけならば継がれる材の長さが短くなり、材寸は小さくて済む。実際、そのように記載されている木造のテキストもある。

しかし、横材:梁・桁は、単に荷重を受けるだけではなく、受けた荷重による力を柱へ伝える役割を持つ必要があり、簡易な持ち出し継ぎでは、継手位置で力の伝達が途切れ柱に伝わりにくい

(それゆえ、古代~近世では、梁・桁継手支持材(柱や受材)位置に設けるのが普通であった。)

中世以降、化粧材を持ち出し位置で継ぐことが増えるが、構造に係わる材の例は少ない。たとえば追掛大栓継ぎは、化粧材を持ち出し位置で継ぐ場合に、継手箇所での材の不陸や暴れを避け

るために用いられる例はあるが、構造に係わる材に用いる例は見かけない。追掛大栓継ぎを構造材に用いるようになるのは、近代~現代になってからのようである。 

 

5)胴差・梁・小梁・根太の材寸の決め方

胴差・梁・小梁・根太断面寸法は、スパンと荷重、および材の取付け方:仕口(両端を固定と見なすか、単純梁と見なすか、連続梁と見なすか)によって異なる。

[単純梁連続梁] 再掲 

   

単純梁を2支点で支える。 梁に荷重がかかると梁を曲げる力が働くが、その力は2支点間だけにかかる。 曲げモーメントで言えば、支点間中央が最大で支点でOになる。

連続梁を3支点以上で支える。 ある支点間にかかる荷重による曲げの力は、支点を超えて隣の支点間に伝わる。その分、支点間での負担が少なくなる。 曲げモーメントで言えば、支点間中央で最大で、支点でマイナス(反対向き)になり隣へ伝わる(中途でOになる箇所がある)。そのため最大値は単純梁のときのそれより小さくなる。

したがって、横架材を連続梁として使うと、小さな断面で、同じ荷重に耐えることができるようになる(材の曲げに対する強度は断面形状により一定である:断面2次モーメント)。 

 

横架材をすべて単純梁と考え、スパンに応じて材寸を決めることは(横架材の断面寸法を、スパンの大小なりに増減することは)、胴差・梁の場合には、外力が作用したとき、寸面の急変箇所に無理がかかる可能性が高い。特に、筋かいを使用したときは注意が必要。

最大スパンの箇所の横架材断面で全体を統一するか、削減する場合でもその80%程度に押さえ、継手も、十分に力を伝達できるよう検討が必要である。また、外周部の隅柱に二方から取付く胴差の寸面が極端に異なる場合も、柱に無理がかかるので注意が必要。

 

例 スパン3尺(約0.9m)の横架材は、荷重だけ考えれば12㎝(4寸)角で十分だが、軸組全体を一体化するために、隣接の横架材の丈が24㎝(8寸)ならば、同寸か、削減しても18~21㎝(6寸~7寸)程度にするのが適切。

固定端と見なす場合(確実な仕口により接合した場合)には、横架材に生じた曲げの影響は柱にも伝わるから、柱の寸面にも留意(横材の幅と同寸角以上、最低でも12㎝角必要)。

 

一体化・立体化工法(確実な仕口継手を使った場合)の胴差・梁の最小断面寸法例(通常の積載荷重の場合の経験値) 

     材種: 地マツ、米マツ、ヒノキ、ヒバ、米ヒバなど 梁は@1間の場合とする

 

参考 経済的なゆとりと架構部材の肥大化

上図は、長野県塩尻周辺に多い本棟造(ほんむねづくり)と呼ばれる住居の断面図である(縮尺は同一)。上図は島崎家、下図は堀内家

島崎家は1720~1735年頃の建設、堀内家は1810年前後に建てられ、1870年代以降の改造で現在の形になった。

間口は堀内家が10間、島崎家は8間、ともに@1間の格子状に組んだ梁上和小屋を組む架構方式だが、堀内家は、柱、梁材など部材の寸面が、島崎家に比べ格段に大きい。島崎家は、多材種の(古材も多い)、寸面の小さな材で造られ、最近まで270年近く、改造を加えて住み続けられてきた。

一般に、「民家」の架構は骨太であると思われているが、正しくない。本来、住居の建築では、手近に得られる材種を用い、必要最小限の寸面で造るのがあたりまえである。しかし、幕末から明治初期の建物には、材種にこだわり、材の寸面を競い、地位を誇示する例が多くなり、誤解の元になった。

上図: 塩尻・島崎家 梁行断面図  1720~35年頃建設  島崎家住宅修理工事報告書より    下図: 塩尻・堀内家 梁行断面図 1810年頃建設 日本の民家 2 農家Ⅱ(学研)より

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