第Ⅱ章 矩計を考える・木材について

2020-06-24 13:47:01 | 同:矩計・木材

       PDF「第Ⅱ章 矩計を考える・木材について」 A4版16頁2020.10.23  26頁木材単価表の入れ替え行いました。

第Ⅱ章 矩計を考える・木材について

 1.一般的な軸組工法の上棟までの施工手順と設計図

第1段階 

現 場 地業ぎょう(地形)⇒ 基礎工事

地縄張(ぢなわば)(平面位置の決定)→ (や)(GL・高さ位置の決定)→ 土工事基礎工事

 

加工場での加工:部材の加工(きざと呼ぶ)

木拾(きびろ)(必要な木材を揃える) ⇒ 木取(きど)分決めとも言う。(ひ)き割り寸法仕上り寸法に整える作業) ⇒ 仕上げの製材  ⇒ 墨付(すみつ)(材のの位置や端部の納めを材の表面に記す)   ⇒刻み(土台、柱、胴差・梁・桁、たる木の順で行うことが多い)。

  (ひ)き割り寸法:市販されている製材品の寸法は、通常は挽き割りの状態の寸法(挽き割り寸法であり、反りなどがあり、そのままでは使えず、表面を加工し整える。

  仕上り寸法:整形後の寸法を仕上り寸法と呼ぶ。挽き割り寸法で120㎜角の材は、仕上り寸法では115㎜程度に小さくなる。その差は一般的に3~6㎜程度(1分~2分)である。設計図では、必要であれば記入寸法が、仕上り寸法、挽き割り寸法のどちらであるか、明示する。

大工職によっては、墨付け・刻みを終えた後、さらに仕上げの加工を行う場合もある。加工場では、墨付け指金さしがね:寸目盛り(1寸≒30.3㎜)を用いる場合が多い。

設計図に基づいて墨付け → 刻みが行われるが、設計図に各部材、たとえば柱下部と土台、柱頭部と梁の端部等の納め方が指示されていない場合には、加工場での裁量となる。部材の納め方の検討は、同時に建方の順序を決めることでもある。

 納めには、現在、大別すると以下の2つの方法が採られている。

 A:材端部に接続のための加工を施し、材そのもので相互を結び付ける。

   継手=材をつなぎあわせて延長させる。 仕口=直角に2材を接続する。 いずれも加工手間を要する。原則として金物補強なし。

 B:材端部は簡易な加工ですませ、補強金物を多用する。加工は比較的短時間。

 

継手・仕口 日本家屋構造(明治37年発行)より 

  

 左より 継手腰掛け蟻(あり)継ぎ(目違い付めちがい腰掛け鎌(かま)継(目違い付)、追掛け大栓継ぎ(おっかけだいせんつぎ)

(ほぞ)の種類  左より 扇ほぞ重ほぞ小根ほぞ平ほぞ 

  

上図 仕口小根(こねほぞ)差し割楔締め(わりくさびしめ)目違い付)、下図 仕口大入れ蟻掛け(おおいれありかけ)

 

仕口向う大留め(むこうおおどめ)(目違い付き)

 

                                        

木造の場合、最も多くの検討が必要とされるのは主要軸組工事である。経年変化や補修・改修に耐えるためには、軸組本体の確実な設計・施工を行わなくてはならない。

一般に設計者は、仕上げ部分への関心が高く、上棟後初めて本格的な工事が始まると思いがちだが、軸組木造では、むしろ上棟時で工事の半分以上、最も重要な部分が終わっていると考えるべきである。 設計作業の場合も、一般に、構造図(軸組図)についての作図を簡単あるいは省力化し、展開図などの仕上げを指示する図面に多くの時間を費やす傾向があるように思われる。

主要軸組寸法]:加工場で、木材に墨付けを行い、刻みをするために必要となる寸法[加工して行く順(施工順)に必要とする寸法主要軸組寸法の表示は天端(てんば)または下端(したば)で指示する場合が多い。

 [設計GL~土台天端]・[土台天端~2階胴差または梁天端]・ [2階胴差または梁天端~軒桁天端]・[軒桁天端~棟木天端]

現在、多くの設計図では、1階床高・2階床高を指示しており、加工場では、この床高寸法から逆算して(床板・荒床・根太・大引の寸法を減じて)主要軸組寸法である土台天端や2階胴差(梁)天端寸法を算出することが多い。そのため、計算された寸法は半端な数値(たとえば378㎜など)となり、間違いの因となりやすい。また床板材・根太材等は上棟後に加工されたり、製品が発注されたりすることもあり、変動の可能性の大きい寸法であることも注意する必要がある。

それゆえ、各種の作業上の基準点として、土台天端・2階胴差(梁)天端などの位置をラウンドナンバー(たとえば450m、500m、1尺5寸といった寸法取りしやすい数字)で指示することが望ましい。かならずしも「確認申請」図書に記入の寸法が、ラウンドナンバーである必要はない。

 

第2段階現 場 部材搬入 上棟まで(2階建ての場合)

土台据付 ⇒ アンカーボルト仮締め ⇒ 通し柱・1階管柱立て(+1階差もの組込み)(在来工法では各工程ごとに補強金物取付) 胴差・2階床梁組込み   ⇒ 2階管柱立て(+2階差もの組込み)軒桁・小屋梁架け 小屋束立て(+二重梁) 母屋・棟木載せ⇒(仮筋かい・金物締め)⇒ 垂木架け

〇加工場で行われた刻み仕事の程度によって、建方に要する時間も異なる。継手・仕口を用いて確実な仕事を行った場合は、40坪程度の住宅で3~5日要するが、上棟すると骨組は安定し揺れることも少ない(仮筋かいをほとんど必要としない)。

〇補強金物多用の簡易な仕事では、同規模の建物で建方はほぼ1日で終わるが、上棟時には骨組は安定しておらず揺れる(仮筋かいを要する)。

 

設計の意図を伝えるのが設計図である。基本的には、分かりやすさを失わない範囲で、図面の枚数は少ない方がよい。他人の作成した図面を読み取るという作業は、相当の時間と集中力が要求され、必要以上に図面数の多い設計図は、最初から読み取りの意欲を減じかねない。)

したがって、1枚の図面に、施工上必要不可欠かつ的確な情報を、どのように分かりやすく盛り込むかの検討が必要となる。

設計図面を使用目的で見ると、「施主用」、「確認申請用」、「実施設計図」の3種類に分けられる。

通常、確認申請の図面と実施設計図は同一の図面が使用されるが、それぞれで必要とされている内容・寸法は大きく異なることに留意したい。

A「確認申請用図面」に必要とされる内容・寸法

平面図:各通り芯寸法、構造耐力壁・筋かい位置、換気扇、浄化槽等設備関係位置

断面図:設計GL~1階床高、1階床高~2階床高、各室天井高、2階窓台または手摺り高、外部柱芯~軒の出、設計GL~軒の高さ、設計GL~最高高さ、有効採光高等

B「実施設計図」

実施設計図:平面図・矩計図・伏図(基礎・土台・差物・2階床・天井・屋根)・軸組図・展開図・各部詳細・電気給排水設備図・外構図 等

平面図の記入事項] 

  1)通し柱・管柱の位置を柱の芯で示し、番付を付す。

  2)後に追加される材(たとえば開口部の枠材等)の位置は、柱芯から材の端(開口部ならば、開口側の枠の端)までの寸法を指示。 伜回り平面詳細図で指示することもあるが、平面図に記入されていれば、少ない図面で仕事が進められる。縦伜の位置を指示するためには、最低1 /50以上の縮尺が必要。

木取り(分決め:木材の表面を加工し形を整える)を行っても材寸に多少の差が生じるから、柱幅、枠幅、内法幅すべてを記入すると、混乱をまねく。

土台の下から軒桁にいたる間の部材の成の寸法など、すべての寸法を細かく記入した設計図面を見かけることがあるが、土台・梁等の木材は、鉄骨などとはちがい、入荷方法や製材、加工の仕方によって2~3㎜の変動があり、仮に設計図に梁成9寸あるいは270mと指示してあっても、実際には8寸8分あるいは268mmであったり、271mであったりする。梁材の上下の寸法まで記入すると「逃げ」がきかず、また、どれが設計者の意図する最も重要な寸法であるかが伝わらない。

 

 

2.矩計図を考える

  :主要寸法を決める:施工の手順に沿った決め方・寸法であることが望ましい

断面を考える場合、通常[土台から軒桁まで]と[小屋組]を一旦切り離して考える。

小屋の架け方小屋組)は、屋根を架けるためのものであり、和小屋洋小屋登り梁など様々あるが、それに先立って、小屋組の乗る上部が水平面となる立体を作ることを考える。

 

1)通し柱と管柱の位置を検討する    

 胴差に用いる材の長さには限界があるため、架構にあたり、①通し柱間に横架材を取付ける②横架材を継手で延長する、③前二者の併用、のいずれかを選択することになる。  

具体的には、一般的に下記の2様が用いられることが多い。(図は胴差と梁を天端同面の場合。)

架構法A 総2階または2階部分外隅柱通し柱とする。胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。

架構法B 総2階または2階部分外隅柱と、中央部付近の柱を通し柱とする。胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。     

◇法令の規定(令43条5:階数が2以上の建築物におけるすみ柱又はこれに準ずる柱は、通し柱としなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上の耐力を有するように補強した場合においてはこの限りでない。)は、架構法Aを想定している。

架構法A                    架構法B

 

 

2)通し柱・管柱の長さを検討する

軸組部分の最下部は土台最上部は軒桁まわりであり、その間をどのように構成するかを考える。

市販の材木を使用する場合、土台~2階胴差間土台~軒桁の高さはほぼ決まる(市場流通の柱材正角材の規格長さ:3m(10尺)、4m(13尺)、6m(20尺)・・)。

通常の建物:1階の管柱に3m材、2階までの通し柱に6m材を使用。(1階管柱に4m材を用いると通し柱は特注となる。)

  管柱の必要長さ =根ほぞ長さ+土台天端 ~ 胴差・梁下端の長さ+頭ほぞ長さ

  通し柱の必要長さ=根ほぞ長さ+土台天端 ~ 軒桁・小屋梁下端の長さ+頭ほぞ長さ

   根ほぞ:柱下部の土台あるいは胴差・梁などに取り付けるためのほぞ  頭ほぞ:柱上部の胴差・梁、軒桁・小屋梁などに取り付けるためのほぞ

   

いずれも長ほぞの場合は、ほぞの長さは最低3寸(9㎝)必要、短ほぞ(1寸程度)は、横および引き抜きの外力に対して不安。また、材の端部には傷みがある場合があり、両端の1寸程度ずつは使えないと考えておく。 

3m材の最大可能見えがかり寸法=3m-根ほぞ・頭ほぞ18㎝-材端傷み分6㎝= 約2.76m:管柱(4m材 = 約3.76m) 

6m材の最大可能見えがかり寸法=6m-根ほぞ・頭ほぞ18㎝-材端傷み分6㎝= 約5.76m:通し柱

 

3)設計GL、1階床高さの見当を付ける  

(1)設計GL:通常設計図では、現状地盤面より高い位置に設定する。実際は現地での打ち合わせによって、境界杭天端~㎝上がりといったすでにある指標を基準としたり、やり方杭の水平材天端より~㎝下りというように決められる。その場合、敷地四周の将来の状況を予想する必要がある(盛土される可能性が高いなど)。

 基礎の高さ:立上りの高さ 地上部分で300㎜以上    ← 告示第1347号(2000年)第3項3  (床の高さ:直下の地面からその床の上面まで45㎝以上 ← 施行令第22条)

 基礎の厚さ:立上り部分の厚さ 120㎜以上  ← 告示第1347号(2000年)第3項3   底部の深さ:根入の深さ  240㎜以上   (同 第3項4)     底部の厚さ150㎜以上 (同 第3項4)

  通常の基礎                べた基礎    改正建築基準法(2年目施行)の解説 新日本法規より

      

べた基礎  地盤に盛土部分が多く、地耐力が一定でない場合、低湿地で地耐力が小さい場合などに使用。

  底部の深さ:雨水等の影響を受ける恐れのない密実・良好な地盤に達したものとした場合を除き120㎜以上で、凍結深土よりも深いこと。       ← 告示第1347号第3項4

  底盤の厚さ:120㎜以上とする。(地耐力≧70kNで不同沈下の恐れがない場合は無筋可。同 第3項1)

  立上りの高さ:土台の下に連続して設け、地上部分で300㎜以上 厚さ:立上り部分の厚さ120㎜以上。← 告示1347号第3項3

 

(2)1階床高:防腐・防蟻(床下通風)のために、床部分(あるいは土台より上側の木造部分)が、竣工後の地盤面より、最低30㎝以上高い位置にあることが望ましい。(法令の床高45㎝以上:施行令22条との規定は、通常の床組の場合を想定している。)

   地盤面から1階床面までの高さ切り替えの方策を検討する。

      例1 スロープ、階段で高さを確保し、地盤面~床面の落差を少なくする。

      例2 外部では上げず、玄関土間~床面小縁などで調整。

 

上図:建物内部での落差を少なくする例 下図:建物内部で調整

      

 


第Ⅱ章 2.矩計を考える

2020-06-24 13:46:31 | 同:矩計・木材

                                        (「第Ⅱ章2-3)」より続きます。)

4)1階床組を検討する

  土台、大引、根太掛け、根太、荒床、床仕上げ材。 土台は3.5寸(105㎜)角から4寸(120㎜)角。大引は3.5寸角から3寸(90㎜)角。

(1)大引の架け方の検討  通常は@3尺(909㎜)

  A)大引の天端を土台と同じ高さに組む:土台も根太を受ける。大引を土台と同時に組む。

  B)大引を土台に乗せ掛ける:土台際(きわ)根太掛(ねだか)が必要。柱通りの大引は土台際に束が必要。

(2)大引と根太の組み方の検討

  a)根太を大引の上に載せる(「連続梁」状態となる)連続梁と単純梁については「軒桁・小屋梁」の次に解説

    -1)丈の小さい根太(45~60㎜程度):大引の上に転がす。@1尺(303㎜:1間の1/6)、1尺2寸(363.6㎜:1間の1/5) 

    -2)丈の大きい根太(75㎜~):転倒を避けるため、大引に渡りあご掛けとするのが確実(大引と根太を相欠きの方法もあるが、大引を傷めない点では、渡りあご掛けの方が適切)。大引きへのかかりの寸法で床高を調節できる。@1尺5寸(454.5㎜:1間の1/4)。 ◇「根太を落とし込む場合」については1階床組の章で解説

  

  

  

土台まわりの仕口の一例 左:腰掛け蟻掛け・柱 長ほぞ込み栓打ち  右:平ほぞ差し割・柱 重ほぞ

        

 

左:大入れ蟻掛け・柱 短ほぞ差し+補強金物    右:片蟻掛け・柱 扇ほぞ+補強金物

    

                            

5)胴差・2階床梁の位置、組み方を検討する。

     通常の建物:1階の管柱に3m材を用いる場合   :約2.76m

              2階までの通し柱に6m材を用いる場合:約5.76m

 1階、2階の天井高を概略検討する。

 通常、天井のふところ(1階の天井~2階梁下端、2階の天井~小屋梁下端)は30cm必要と言われているが、実際には、梁下に電線等を配線するスペース(15cm程度)が確保できればよい。給・排水管の配管には梁下30㎝程度必要。 【かつては、天井高は部屋の大きさにより変え、目安として[内法高(尺)+{部屋の畳数×0.3(尺)}]が用いられた。例 内法高が5尺8寸の場合、8畳間は8尺2寸(2484.6㎜)、10畳間は8尺8寸(2666.4㎜)。】

胴差:建物の長手方向に設け、継手で延長し、通し柱以外の箇所では、管柱で支える。梁間が長いときには、梁間中央に設けることもある(敷桁しきげたとも言う)。

床梁:建物の短手方向に設け、通し柱の中間または胴差に取付き、床の荷重を受ける。通常は1間(6尺:1,818㎜)間隔に設ける。

小梁:丈45~60㎜程度の根太は、小梁を通常@0.5間(3尺:909㎜)以下に設けて支持する。

 

◇胴差・梁材の寸面の決定

 胴差・梁など横架材の寸面は、「単純梁」状態(後述)とみなして、架け渡される距離:スパンにより加減するが、寸面をスパンの大小なりに機械的に単純に増減することは避けなければならない。極端な差がつくと、建物(架構体)全体に外力が作用したとき、寸面が急変する箇所に応力集中を起こすからである。立体的に全体を考える。

 また同じスパンに架かる場合でも、胴差あるいは梁が、そのスパンを越えて次のスパンに伸びている場合(支点が2ヵ所を越える場合)には、胴差あるい梁は「連続梁」状態となるため、寸面は相対的に小さくて済む。

胴差と梁をどの高さで納めるか

 A)胴差と梁・小梁を同じ高さで納める(天端てんば同面どうづら)に納める

 矩計の計画が容易であり、階上の管柱の取付けにも問題が起きない。2階の天井高を最も高くすることができる。(階下に管柱がない場合は、胴差の丈≧梁の丈であることが必要。梁成が胴差からこぼれる。)

根太の納め

a 胴差・梁・小梁に乗せる。  

 -1)丈60㎜程度以下の根太の場合:小梁が必要。

 -2)丈75㎜程度以上の根太の場合:胴差・梁へのかかりで床高を調整できる。    梁上にのせるだけの場合と、欠きこんでのせる   渡りあごの場合があり、後者の方が強度がある。

b 胴差・梁・小梁の間に落とし込む  

 通常は、根太の支持間隔は6尺(1,818㎜)程度 以下、丈は90㎜程度以上必要になる(荷重と根太間隔による)。「単純梁」状態となるので、材寸は に比べ大きくする必要がある。(商家・農家 の踏み天井:根太天井はこの方法をとることが多く、これを意匠化したのが竿縁天井と考えられる。

  

 

  

 

  

 

B)胴差に梁に乗せ掛ける胴差の丈<梁の丈の場合も可能。)階上の管柱と梁の取り合いに注意。

 )梁の端部を胴差の内側に揃える 

   根太の納め方 a 梁に乗せる    b 梁間に落し込む       (a,b共に際根太が必要になる。)

  

イ)梁の端部を胴差の外側まで延ばす

 胴差の上に梁をのせ掛けた場合、階上管柱は梁の端部に立てることになり、確実な根ほぞつくれず長ほぞではなく短ほぞの扇ほぞになる)、不安定になる。そこで梁の上に直交して横材をまわし、2階管柱を立てる方法がある。この横材を台輪(だいわ)と呼ぶ。台輪と胴差が梁を挟む形になる。言わば、土台をまわしたと考えればよい。しかし、これら三者の噛み合わせだけでは構造的に不安であるため、通常台輪と胴差をボルトで締めつけるボルト締めは木材の収縮で緩むことがあるので注意が必要。 ◇「梁を胴差の外側に延ばす」別の方法については、2階床組で解説

  

仕口の一例 左:小根(こね)ほぞ差し 割り楔楔め(わりくさびしめ) 右:三方差し 竿(さお)シャチ継ぎ・小根ほぞ差し割り楔楔め

  

 

胴突き付 蟻掛け・柱長ほぞ

左下:傾木(かたぎ)大入れ 全蟻ほぞ差し+補強金物     右下:傾木大入れ 小根ほぞ差し+補強金物 

     

 

 

6)軒桁、小屋梁の組み方を検討する。(ここでは束立て和小屋組・束立て組の場合で解説)

束立組は、切妻、寄棟、方形、入母屋のどの屋根形状にも対応できる。

構成部材軒桁小屋梁小屋束・(二重梁・つなぎ梁・貫)・母屋垂木

束立組の基本小屋梁上に据えた小屋束母屋棟木を支え、棟木・母屋・軒桁間に垂木を掛け三角断面を形成する(切妻、寄棟、方形、入母屋は、いずれも中央部では三角断面)。

小屋梁の特性:通常、軒桁・小屋梁材にはマツまたは米マツ等の曲げに強い材で、軒桁には平角材、小屋梁には平角材、丸太、太鼓落としが使われる。小屋束を通じて屋根の荷重を受けるため、曲げの力がかかる。梁材の長さには限界があり、梁間が大きいときには、敷桁(しきげた)敷梁(しきばり)、中引梁(なかびきばり)などと呼ばれる受け材を中途に設ける必要が生じる。

 二重梁を用いる                    

小屋貫を用いる  

 

軒桁と小屋梁の組み方 

 京呂(きょうろ)先ず柱上に軒桁を架け、次いで小屋梁を架ける。柱の位置は軒桁の断面次第で任意。軒桁は、を経て屋根荷重を集中的に受ける。下部に柱がない個所では、折置組に比べて軒桁には大きな力(桁を曲げようとする力)がかかる。

 折置(おりおき)先ず柱上に小屋梁を架け、次いで軒桁を架ける。小屋梁ごとに柱が必要。軒桁は垂木を経て屋根荷重を分散的に受ける。

(1)京呂(きょうろ)組の場合

 A)軒桁に小屋梁をのせ掛ける。一般的な方法。 小屋梁丸太太鼓落とし平角材のいずれを用いても可能。◇「小屋梁」を軒桁の外側に出す場合については、軒桁・小屋組の章で解説

 B)軒桁と小屋梁を天端同面で納め。 小屋梁平角材を用いる場合に可能

仕口 左下:兜(かぶと)蟻架け  右下:胴突き付 蟻掛け 

   

 

(2)折置(おりおき)組の場合

 A)小屋梁に軒桁をのせ掛ける。 小屋梁丸太太鼓落とし平角材いずれも可。    

       

 B)小屋梁に天端同面で落としこむ。  小屋梁平角材の場合に可能。

仕口 左下:胴突き付 蟻掛け   右:相欠き渡りあご・柱 重ほぞ

       

 

[ 単純梁連続梁 ]

 

単純梁 : 梁を2支点で支える。梁に荷重がかかると梁を曲げる力が働くが、その力は2支点間だけにかかる。曲げモーメントで言えば、支点間中央が最大で支点でOになる。

連続梁 : 梁を3支点以上で支える。ある支点間にかかる荷重による曲げの力は、支点を超えて隣の支点間に伝わる。その分、支点間での負担が少なくなる。 曲げモーメントで言えば、支点間中央で最大で、支点でマイナス(反対向き)になり隣へ伝わる(中途でOになる箇所がある)。そのため最大値は単純梁のときのそれより小さくなる。したがって、横架材を連続梁として使うと、小さな断面で、同じ荷重に耐えることがきるようになる(材の曲げに対する強度は断面形状により一定である:断面2次モーメント)。

 


第Ⅱ章 2. 矩計図の記入事項

2020-06-24 13:46:00 | 同:矩計・木材

                                        (「第Ⅱ章2-6)」より続きます。)

7)矩計図(断面図)の記入事項

 1 主要軸組の高さを、施工上分かりやすい指示寸法で示す。

 a.土台天端を基準とする指示1階床仕上り天端の指示がしやすい。基礎天端~土台天端の寸法が整数にならない。

 b.土台下端を基準とする指示:1階床仕上り天端の指示がしにくい。基礎天端=土台下端となるので基礎高さの指示が容易。

 2 造作工事、開口部内法高さは、土台天端~敷居天端~鴨居下端の位置を指示。

        造作工事は、土台天端から、鴨居下端(あるいは敷居上端や土台天+1尺など)に墨を打つ造作工事の基準高さを設けて、寸法取り・造作材の取り付けを行うのが通例である。部材の丈、内法高などのすべてを記入すると、混乱を生じる。

 実施設計図 矩計図に記入すべき寸法

 

矩計図は、建物全体を、分かりやすいスケールで書く。部分のみを描いた矩計図を見かけるが、他人の図面を初めて見る側にとっても、軸組全体を考える上でも、梁間全体を描くことが必要である。

◇ スケールは大きくなるほど分かり易く、また曖昧な所も少なくなる。 

 

補足)設計図作成のポイント

伝えたいことを、分かりやすく明確に伝えるための図面と図面編成を心掛ける。

 実施図面は、各職方に設計者の意図を伝えるための手段であるから、分かってくれるだろうという思い込みは禁物である。間違いやすいと思われる箇所、特に留意しなければならない箇所などについては、強調する記号などで指示することも一法である。

通常、図面の編成方法として、平面図→立面図→矩計断面図→天井伏図→屋根伏図→展開図→詳細図、構造図、設備図・・というように、図面種別でまとめる方式が多く見られるが、実際に一つの部屋の造作工事を行うには、その部屋について描かれた展開図、詳細図、天井伏図、場合によると設備図などが同時に必要となる。これらが部屋ごとに数枚にまとめれていれば、図面をあちこちひっくりかえすこともなく、より伝わりやすく、見落としのないものとなる。したがって、図面編成についても、施工手順などを勘案して臨機応変に対応することが望ましい。

さらに、図面相互の記入の食い違いなどを避けるために、必要以上の余計な書き込みは避ける方がよい。「特記以外は〇〇とする」の記入法も一法である(その方が図面が見やすく、設計変更時の図面修正も容易である)。 また、アキソメ図等の活用も有効である。設計図面の作成にあたっては、常に「立体を2次元で表現し」「必要不可欠な情報(だけ)」を「的確に伝える」ということを基本に作図を進めることが必要であるが、2次元で示しにくい時には、アキソメ図、組立・分解図等も活用したい(作図者側の理解にとっても有効である)。

例 玄関 小縁 アイソメ                      

例 管柱・桁・梁・垂木 仕口図

          

 

確認申請等の手続き用の図面では、断面図は1 /50で十分である。しかし、実施設計図では、1 /30 あるいは1 /20で全体断面図を描くと、建物の全容がとらえやすくなる。これは、単に 画面が拡大されるためではなく、大きいスケールで図面を描くために、細部まで描き込むことが必要となり、より多くの事項の検討・決定がなされるからである。

各伏図がどのくらい熟考されているかにより、最も重要な骨組の耐久性が決まる。伏図の種類は、基礎・1階床組・2階床組・小屋組伏図以外にも、敷居伏図・鴨居伏図・壁伏図など、必要と思われる図面を適宜作成すると分かりやすい(加工作業がしやすい)。

◇ 各伏図の記入必要事項:材の寸面と種類、継手や仕口の位置と種類  継手や仕口を検討することは、単に強度のみならず、建方の順番を考えることでもある。

軸組図は梁間・桁行各方向の番付通り位置の垂直断面で見た軸組材を表記するが、各伏図と併せて軸組図を作成すると、伏図の間違い・勘違いの有無の確認が行える。軸組図は、伏図では表現しにくい部分の理解の補助になるので作成を勧めたい。

骨組模型(軸組・小屋組模型)の作成  さらに最も確実なのは、1/30~1/50程度の縮尺の骨組模型を作成することである。伏図・軸組図で考えの及ばなかった部分の検討が行え、また、どこの部分が構造的に弱くなりそうか、明確に読み取ることができる(継手や仕口の検討も行える)。また、模型は立体表現であるため、施工者にとっても、2次元表現である図面を繰ってゆくよりも、最も分かりやすい情報伝達の手段となる。

                    日本家屋構造「柱杖はしらづえ及び各部の合印あいじるし PDF24頁に掲載

 


第Ⅱ章 3. 木材について

2020-06-24 13:45:27 | 同:矩計・木材

                                            (「第Ⅱ章-2」より続きます。)

3.木材について

1)製材品の種類と規格                                               

◇ 製材品は、形状により、角材正角まさかく平角ひらかく)・割材正割材、平割材)、板材に大別される。

 角 材芯持(しんもち):樹芯を含み製材 強度があるので、土台、柱、小梁、大引などに使う。

 芯去(しんさり)材:芯を外して製材 造作に適する。

    割 材:根太、垂木、胴縁、造作材などに用いる。

 板 材:製材位置で、柾目(まさめ)材と板目(いため)材に分かれる。

 丸太の段階で均衡のとれていた形状が、製材で不均衡になるため、製材品には必ず反りや亀裂が生じる。

 

各種製材用語

木表(きおもて)木裏(きうら)  木表:木材の外周側(樹皮側) 芯持材は各面が木表。木裏より軟質、収縮大。

                                                 木裏:木材の内側(芯側)    芯去材はどこかの面に木裏がでる。

(もと)(すえ)   :根元側 柱は元を下にする(立ち木のとおり)。:梢側 元よりも収縮率が大きい。

(ふし) : 枝の痕跡。折れた枝、枝打ちした枝の根元は、成育にともない被覆される。節の径は、裏(芯)側の方が表(樹皮)側よりも大きい。 表面に節が無くても、芯に近い側には節が現れる可能性が大きい。枯れ枝の節(死に節)以外、節の有無を特に問題にする必要はない。

背割(せわ)り : 芯持材は外周の収縮率が大きく芯から外周に向い干割れが生じるため、背割りを設けることが多い(柱に使用の場合に設け、横架材には設けない)。背割り面は見え隠れ部分に用いる。見え隠れ:仕上ると見えなくなる部分   見えがかり:仕上った後も、見える部分

乾燥・収縮  : 乾燥時、元側が遅く、末側が早い。そのため、製材品は、元を上にして立てかけ乾燥させる。通常、規格を示す刻印は、この状態で記されるので、建て方時には、字が逆さになる。       

挽き割(ひきわ)り寸法  : 挽き割りの状態の寸法(市販されている製材品の寸法)。挽き割りの状態では(そ)などがあり、表面を加工し形を整える(木取きどまたは分決ぶぎという)。

仕上り寸法 :  整形後の寸法。 挽き割り寸法で120㎜角の材は、仕上り寸法では115㎜程度になる。挽割り寸法と仕上り寸法の差は、一般的に3~6㎜(1分~2分)程度。120㎜角に仕上げるには挽割り寸法で125㎜程度必要(市販の120㎜角材では間に合わない)。

          

 

◇ 製材の規格 

 製材品には日本農林規格:JASがある。ただし、規格品は市場に流通している製材品の10%程度。

製材の等級

        製材品の外観の分類

標準規格寸法(いずれも、尺・寸・分表示をメートル法表示に概略読み替えた数字である)

                 平割り材や板材の規格長さは、地域により異なる(関東:3.65m 中部:3.8m 近畿:4mが主流)。

 

2)柱に適した木材の材種 (土台・横架材についてはそれぞれの章で解説)

]: 圧縮、引っ張り、曲げ、座屈に強い材(外部に面する場合は耐朽性がある材)。   国内産桧同 ヒバ、次いで 同杉国産杉特1等材であれば、多少の節はあっても生き節ならば、可。

  : 強度 大、対腐朽 大、狂いが少なく、加工性 良。木肌は均質、緻密で、特有の芳香がある。建築用材として最も優れた木材の一つ。

  : 強度 中、対腐朽 中、加工性 良。国産針葉樹の代表で、木肌はやや粗く特有の芳香。

ヒバ強度 中、対腐朽 大、加工性 良。芯材と辺材の区別がはっきりしていないが、材質は緻密で、湿気に強い。黄色味を帯び、日に焼けるとネズミ色になる。人工林は北海道渡島半島、青森県下北・津軽両半島。津軽半島の広大な純林は、木曽の桧林、秋田の杉林と並んで、日本三大美林と称される。

米ヒバ強度 大、対腐朽 大、加工性 良

米ツガ強度 小(ねばりがなくもろい)、対腐朽 小(水を吸いやすい)、加工性 良木目は適度に細かい。比較的狂いは少ないが、釘打ちの際して割れやすい。

 

3)柱材の単価と材種の選択

木材の価格は、外国産材の方が国産材よりも低いと考えられ、工費の低減を目的に、外国産材が選択される傾向がある。

参考 正角材(特1等)の水戸の実勢単価(「積算資料」2020年9月号による)

            2005年の単価表と入れ替えを行いました。15年前は、ヒノキ85,000円/㎥、杉48,000円/㎥、ベイツガ44,000円/㎥でした。

米ツガの単価は、3m材については大きく異なる訳ではない。総価格でも、杉材、米ヒバ材とも同程度で、また若干高くなったとしても、工事費全体での占める割合は大きくない。米ツガは、オイルステイン等の塗料のノリが良いので用いられるが、木造軸組としては、ねばりおよび耐久性の点で、日本の気候の中で成長した国産のが適している。

〇国産材についても、銘柄品にこだわらない方が得策である。一般に地場産材の方が、価格も安く、その土地の適材であると言う棟梁もいる。

〇実際の木材の購入は、床柱等の特別な柱を除き、ある等級の材を30~40本まとめて購入し、節の状態等に応じて使いわけされる。設計見積りを行う場合は、特別な柱を除き、㎥単位で表記し、金額を入れる。詳細については、別途材料調書(内訳書)を作成する。

真壁仕上げの柱:雨風のあたる外部については、予算が可能ならば、多少の節があってもを用いるのが適切。ヒバまたはでも可能。外部・内部ともに「特等」以上。客間などの場合は、必要があれば「特等1面無節~4面無節(表しとなる面数)」。通常では「特等上小節」であれば、節はあまり気にならない。「特等小節」と併せて、使う場所の検討が必要。

大壁仕上げの柱:柱は覆われてしまうので「特等小節」でも可能。米ツガは、大量に輸入されるため安価と思われ用いられることが多いが、ねばりがなく、耐朽性が小さいため、仕上げ材によって覆われ結露のおそれのある部分の使用(土台・柱等)には、不安がある(断熱・保温材の使用にあたっても注意)。国産材の杉または桧の使用を勧めたい。  

 

4)柱の太さの違いと強度

一般的に、10.5cm(3.5寸)角の柱、12.0cm(4.0寸)角の柱が用いられる。

柱の寸面を決定することは、軸組全体の強度をどのように考えるかに等しいと言ってよい。通常では、土台や梁桁といった柱に取り付く横架材の幅の寸法は、建物にかかる様々な荷重や外力をより効率よく伝えるために、柱幅と等しくする場合が多い。

◇ 通し柱は12cm角以上 : 建物の隅や中央部分に立てられ、柱の側面に2方向~4方向の胴差・梁が取り付く通し柱と横架材の組み方はさまざまであるが、横架材が取り付くためには、柱の側面の一部を欠き取るために、最低12㎝角が必要とされる。

管柱も通し柱と等しく12cm以上とすることを勧めたい 管柱は、1階では土台と胴差・梁の間、2階では胴差・梁と軒桁・小屋梁の間に立つが、力の伝達にとっては、通し柱と等しく12cm角以上とする方が適切である。

住宅金融公庫の仕様基準では、2001年度より、隅柱の規定が以下のように変更された。 ・「隅柱(出隅、入隅とも)は12㎝角以上とする。」 ・「隅の通し柱は、『耐久性の高い樹種の使用』『防腐、防蟻薬剤処理材の使用』『真壁で軒の出90㎝以上の場合』、『外壁板張り仕様』『外壁通気工法仕様』のいずれかの場合は12㎝角以上、その他の場合(ベイツガなど)は13.5㎝角以上とする。」

 

◇10.5㎝角と12㎝角の柱材の強度を比べると以下のようになる。

1.材の材軸方向の可能負担荷重は断面積に比例する 10.5㎝角(仕上り10.0㎝角):断面積:100㎝²  12.0㎝角(仕上り11.5㎝角):断面積:132.25㎝²   ∴32%増し

2.座屈を考慮した場合の許容圧縮力は断面積に比例する 12㎝角は10.5㎝角の32%増し

3.曲げに対する強さは断面2次モーメントに比例する : 10.5㎝角(仕上り10.0㎝角)の断面2次モーメント: 833.33 ㎝⁴       12.0㎝角(仕上り11.5㎝角)の断面2次モーメント:1,457.50㎝⁴   ∴74%増し

 なお、芯持材の場合、10.5㎝角は末口径5~6寸(40年もの以下)の原木、12㎝角は末口径6~7寸の原木(4, 50年もの以上)から挽かれるので、一般に12㎝角の方が良質である(節が少なく、赤身が多い)。

 

参考 木材費と総工事費   例 総工事費に占める木工事費(木材費、大工手間)の例

 最近の設計例(木造2階建住宅、延約170㎡:51坪 漆喰真壁造、屋根ガルバリウム鋼板葺き)の場合

総工事費に占める木工事費:約28%  内:木材費  約47%  ∴総工事費に占める木材費 :約13%  , 大工手間 約53%  ∴総工事費に占める大工手間:約15%      (木材費には補足材も含む。大工手間は手元も含み約5人/坪)

木工事費が木造建築の総工事費の中で占める割合は、一般的に25~30%程度。  木工事費の内、70~50%が人件費(大工手間)で、材料費は30~50%である。    ∴木材費は総工費の10~15%程度。   総工事費節減のために、木材費だけを節減しても、効果は小さい。

 

木造建築において、適切な材種・材寸の 採用必要不可欠な手間の確保は、物の 強度・耐久性と建物の質を左右するきわめて重要な要件である。  総工費低減のために、材料の質を落とし、工程の《合理化》:大工手間・人件費の削減:のために架構を簡略化する・・ことは、「合理的」な判断ではない。また、法令の規定さえ充たしていればよい、とする考えも安易に過ぎる。 

設計者は、何が適切で何が必要不可欠 かについての判断を委ねられている、との認識が必要。

  

  二階建 骨組姿図 日本家屋構造より

 

参考 木材の特徴

1)木材の特徴

 軽く、加工が容易である(気乾*比重は、通常の材で0.3~0.9程度)。*下注参照

 一本ごとに成長状況が異なるため、同種の材でも一本ずつ性質を異にする。

 螺旋状に成長するため、捩れる性質があり、また、気乾状態でも、10~15%の水分を含み、置かれた環境に応じて、水分の吸・放出を繰り返し収縮を起すこの性質を維持することが必要である(真壁造りにして柱を表しにしたのはそのためであろう)。

注1 樹木の成長、辺材(白太)と心材(赤身)、含まれる水分(結合水と自由水)

  『木材工業ハンドブック』(丸善)より

樹木は、樹皮形成層木部からなる。          

木部は、形成層に近い辺材と、内側の心材とからなる。

根から吸収された養分・水分は、辺材部を上昇して葉に至り、つくられた光合成物質が樹皮部を降下して形成層に供給され細胞が増殖し、螺旋状に成長する。細胞の成長速度は、年間を通してみたとき季節により異なり、年輪(年間の成長幅)を形成する(季節が明確でない地域では年輪ができない)。

細胞の細胞壁は糖類主体の高分子化合物で、分子レベルで水を引き寄せ(結合水と呼ぶ)、状況に応じて水分の吸放出が行なわれる。結合水は、木材の乾燥重量の最大30%の水を吸収できるという。この部分は、木材に加工したときに、白太と呼び、水分・樹液が多い。  

樹木の成長とともに、初期につくられた形成層・辺材部は活動をやめ、微細な細胞内孔が残るが、この内孔も水分の吸放出を行なう(この水は普通の水で、自由水と呼ぶ)。この部分が心材部(死んだ細胞の集まり)で、細胞を形成していたセルロース、リグニン(接着剤の役割)、タンニンなどが沈着し赤味を帯び、木材に加工したとき赤身と呼ぶ。

 

注2 木材の含水率、木材の乾燥

木材の含水率とは、すべての水分を蒸発させたとき(全乾状態:後掲)の重量に対する、ある水分状態の重量の比率を言う。

 

伐採した樹木を大気中に放置すると、最初に自由水が蒸発し、自由水が蒸発し終ると、結合水が蒸発を始める。この時点を繊維飽和点ESP含水率)と呼ぶ。

さらに結合水の蒸発は続くが、ある水分状態になると止まる。この状態を気乾状態と言い、このときの含水率を平衡含水率EMC)と呼ぶ。平衡含水率は温度、湿度により異なるが、標準的な数値として15%が使われることが多い。)

平衡含水率を越えて人工的に乾燥を続ければ含水率0%になり、その状態を全乾(絶乾)状態と呼ぶ。全乾状態の木材を通常の環境に置くと、平衡含水率の状態に戻る。

通常、大気中に6ヶ月程度の放置で表面に近い部分が平衡含水率状態に達し、さらに6ヶ月程度の放置で全体が平衡含水率状態(気乾状態)になる(乾燥材としての理想状態)。

 

注3 木材の収縮とその特徴

収縮率は、梢側:末>根元:元、周辺部(白太)>樹芯部(赤身)であるため、製材品は、切断位置によりくせが異なり、反りや亀裂が生じる。

木材の部位と収縮率               製材位置と材の収縮

  

                              構造用教材 日本建築学会より

 

 材料の軸方向の圧縮・引っ張り材を曲げる力材を切断する力(剪断)に対しても相応の強度があり、また弾力・復元力がある。ただし、その大きさは、同種、同寸の材でも異なる。

注 これは過酷な環境で地上に立ち続けるために樹木が備え持つ性質で、木材に加工されても引き継がれる。丸太材は樹木の性質をそのまま引き継ぐが、その際でも「捩れ」は避けられない。継手・仕口を使った工法の軸組が「半ばラーメン状」になるのは、木材の弾力・復元力のため、接合部がRC造のように剛にならないからである。

木材の強度例 (単位N/m㎡) 1N=0.102kgw(kgf) 実験値と法令の定める「基準強度」および「許容応力度」の関係

2000年の法規改訂にともなう告示第1452号で、「基準強度」「許容応力度算定式」が規定された。ここでいう「実験値」とは、破壊実験で得られている実際の強度である(日本木材加工技術協会編「日本の木材」のデータをNに換算)。同種の材でも強度に幅があるため、基準強度、許容応力度が実際の強度の1/5~1/10程度の低い数値に設定されている。なお、「甲種構造材」とは、主として高い曲げ性能を必要とする部分に使用されるものを言う。

正確に構造計算を行うには、建物ごとに、そこに使用されるすべての材について、その強度・性質をあらかじめ測定する必要が生じるが、現実性に欠ける。法令仕様の耐力壁で軸組の強度を得る考え方は、計算を簡便にするための策であり、木材の強度を上表のように安全側に押さえている 注 江戸・明治期までにほぼ完成した「軸組工法」は、同種、同寸の材でも強度・性質が異なることを承知の上で考案された工法である。

 

e 適度の水分と酸素(空気)が供給され続けると、容易に腐食し(木材を好む微生物が繁殖する)、またシロアリなどが成育しやすい環境となる。

大壁仕上げ(特に両面大壁)では、壁内部に湿気が滞り、木部下部に腐食やシロアリが発生する。防火構造、断熱工法で多く生じ、防腐・防蟻剤塗布、通気工法は、その対策として生まれた。

 

f 250~260℃程度で発火する(材種による)。

柱や梁材が着火後完全に燃え尽きるには相当に時間がかかり、通常の火災では、表面が炭化した後、芯部分が燃え残り、軸組の形状が残っている場合が多い。  鉄骨造の場合は、火災によって、軸組の形状が大きく変形する。

  

 

なお、近年、捩れ・収縮の解消、強度の一定化、木材の効率的使用などを目的に、欧米で開発された集成材の使用が増え、また推奨されている(エンジニアリングウッドなどと呼ぶ)。ただ、集成材の歴史は120年余(日本では70年余)である。特に、外部に使用する場合には、湿気、紫外線による接着剤の劣化に留意が必要(欧米と日本の環境の違い)。

 

引用・参考資料  木造伝統工法 基本と実践 彰国社  構造用教材 日本建築学会  木材の知識 日本住宅・木材技術センター  建築材料 理工学社  木材工業ハンドブック 丸善  木材なんでも小事典 講談社