PDF「第Ⅱ章 矩計を考える・木材について」 A4版16頁2020.10.23 26頁木材単価表の入れ替え行いました。
第Ⅱ章 矩計を考える・木材について
1.一般的な軸組工法の上棟までの施工手順と設計図
第1段階
現 場 地業ぢぎょう(地形)⇒ 基礎工事
地縄張(ぢなわば)り(平面位置の決定)→ 遣(や)り方(GL・高さ位置の決定)→ 土工事 → 基礎工事
加工場での加工:部材の加工(刻きざみと呼ぶ)
木拾(きびろ)い(必要な木材を揃える) ⇒ 木取(きど)り(分決めとも言う。挽(ひ)き割り寸法を仕上り寸法に整える作業) ⇒ 仕上げの製材 ⇒ 墨付(すみつ)け(材の芯の位置や端部の納めを材の表面に記す) ⇒刻み(土台、柱、胴差・梁・桁、たる木の順で行うことが多い)。
挽(ひ)き割り寸法:市販されている製材品の寸法は、通常は挽き割りの状態の寸法(挽き割り寸法)であり、反りなどがあり、そのままでは使えず、表面を加工し整える。
仕上り寸法:整形後の寸法を仕上り寸法と呼ぶ。挽き割り寸法で120㎜角の材は、仕上り寸法では115㎜程度に小さくなる。その差は一般的に3~6㎜程度(1分~2分)である。設計図では、必要であれば記入寸法が、仕上り寸法、挽き割り寸法のどちらであるか、明示する。
大工職によっては、墨付け・刻みを終えた後、さらに仕上げの加工を行う場合もある。加工場では、墨付けに指金さしがね:寸目盛り(1寸≒30.3㎜)を用いる場合が多い。
設計図に基づいて墨付け → 刻みが行われるが、設計図に各部材、たとえば柱下部と土台、柱頭部と梁の端部等の納め方が指示されていない場合には、加工場での裁量となる。部材の納め方の検討は、同時に建方の順序を決めることでもある。
納めには、現在、大別すると以下の2つの方法が採られている。
A:材端部に接続のための加工を施し、材そのもので相互を結び付ける。
継手=材をつなぎあわせて延長させる。 仕口=直角に2材を接続する。 いずれも加工手間を要する。原則として金物補強なし。
B:材端部は簡易な加工ですませ、補強金物を多用する。加工は比較的短時間。
継手・仕口 日本家屋構造(明治37年発行)より
左より 継手:腰掛け蟻(あり)継ぎ(目違い付めちがい)、腰掛け鎌(かま)継(目違い付)、追掛け大栓継ぎ(おっかけだいせんつぎ)
枘(ほぞ)の種類 左より 扇ほぞ、重ほぞ、小根ほぞ、平ほぞ
上図 仕口:小根(こねほぞ)差し割楔締め(わりくさびしめ)(目違い付)、下図 仕口:大入れ蟻掛け(おおいれありかけ)
仕口:向う大留め(むこうおおどめ)(目違い付き)
木造の場合、最も多くの検討が必要とされるのは主要軸組工事である。経年変化や補修・改修に耐えるためには、軸組本体の確実な設計・施工を行わなくてはならない。
一般に設計者は、仕上げ部分への関心が高く、上棟後初めて本格的な工事が始まると思いがちだが、軸組木造では、むしろ上棟時で工事の半分以上、最も重要な部分が終わっていると考えるべきである。 設計作業の場合も、一般に、構造図(軸組図)についての作図を簡単あるいは省力化し、展開図などの仕上げを指示する図面に多くの時間を費やす傾向があるように思われる。
[主要軸組寸法]:加工場で、木材に墨付けを行い、刻みをするために必要となる寸法=[加工して行く順(施工順)に必要とする寸法]:主要軸組寸法の表示は天端(てんば)または下端(したば)で指示する場合が多い。
[設計GL~土台天端]・[土台天端~2階胴差または梁天端]・ [2階胴差または梁天端~軒桁天端]・[軒桁天端~棟木天端]
現在、多くの設計図では、1階床高・2階床高を指示しており、加工場では、この床高寸法から逆算して(床板・荒床・根太・大引の寸法を減じて)主要軸組寸法である土台天端や2階胴差(梁)天端寸法を算出することが多い。そのため、計算された寸法は半端な数値(たとえば378㎜など)となり、間違いの因となりやすい。また床板材・根太材等は上棟後に加工されたり、製品が発注されたりすることもあり、変動の可能性の大きい寸法であることも注意する必要がある。
それゆえ、各種の作業上の基準点として、土台天端・2階胴差(梁)天端などの位置をラウンドナンバー(たとえば450m、500m、1尺5寸といった寸法取りしやすい数字)で指示することが望ましい。かならずしも「確認申請」図書に記入の寸法が、ラウンドナンバーである必要はない。
第2段階:現 場 部材搬入 上棟まで(2階建ての場合)
土台据付 ⇒ アンカーボルト仮締め ⇒ 通し柱・1階管柱立て(+1階差もの組込み)(在来工法では各工程ごとに補強金物取付) ⇒ 胴差・2階床梁組込み ⇒ 2階管柱立て(+2階差もの組込み)⇒ 軒桁・小屋梁架け ⇒小屋束立て(+二重梁)⇒ 母屋・棟木載せ⇒(仮筋かい・金物締め)⇒ 垂木架け
〇加工場で行われた刻み仕事の程度によって、建方に要する時間も異なる。継手・仕口を用いて確実な仕事を行った場合は、40坪程度の住宅で3~5日要するが、上棟すると骨組は安定し揺れることも少ない(仮筋かいをほとんど必要としない)。
〇補強金物多用の簡易な仕事では、同規模の建物で建方はほぼ1日で終わるが、上棟時には骨組は安定しておらず揺れる(仮筋かいを要する)。
設計の意図を伝えるのが設計図である。基本的には、分かりやすさを失わない範囲で、図面の枚数は少ない方がよい。(他人の作成した図面を読み取るという作業は、相当の時間と集中力が要求され、必要以上に図面数の多い設計図は、最初から読み取りの意欲を減じかねない。)
したがって、1枚の図面に、施工上必要不可欠かつ的確な情報を、どのように分かりやすく盛り込むかの検討が必要となる。
設計図面を使用目的で見ると、「施主用」、「確認申請用」、「実施設計図」の3種類に分けられる。
通常、確認申請の図面と実施設計図は同一の図面が使用されるが、それぞれで必要とされている内容・寸法は大きく異なることに留意したい。
A「確認申請用図面」に必要とされる内容・寸法
平面図:各通り芯寸法、構造耐力壁・筋かい位置、換気扇、浄化槽等設備関係位置
断面図:設計GL~1階床高、1階床高~2階床高、各室天井高、2階窓台または手摺り高、外部柱芯~軒の出、設計GL~軒の高さ、設計GL~最高高さ、有効採光高等
B「実施設計図」
実施設計図:平面図・矩計図・伏図(基礎・土台・差物・2階床・天井・屋根)・軸組図・展開図・各部詳細・電気給排水設備図・外構図 等
[平面図の記入事項]
1)通し柱・管柱の位置を柱の芯で示し、番付を付す。
2)後に追加される材(たとえば開口部の枠材等)の位置は、柱芯から材の端(開口部ならば、開口側の枠の端)までの寸法を指示。 伜回り平面詳細図で指示することもあるが、平面図に記入されていれば、少ない図面で仕事が進められる。縦伜の位置を指示するためには、最低1 /50以上の縮尺が必要。
木取り(分決め:木材の表面を加工し形を整える)を行っても材寸に多少の差が生じるから、柱幅、枠幅、内法幅すべてを記入すると、混乱をまねく。
土台の下から軒桁にいたる間の部材の成の寸法など、すべての寸法を細かく記入した設計図面を見かけることがあるが、土台・梁等の木材は、鉄骨などとはちがい、入荷方法や製材、加工の仕方によって2~3㎜の変動があり、仮に設計図に梁成9寸あるいは270mと指示してあっても、実際には8寸8分あるいは268mmであったり、271mであったりする。梁材の上下の寸法まで記入すると「逃げ」がきかず、また、どれが設計者の意図する最も重要な寸法であるかが伝わらない。
2.矩計図を考える
:主要寸法を決める:施工の手順に沿った決め方・寸法であることが望ましい
断面を考える場合、通常[土台から軒桁まで]と[小屋組]を一旦切り離して考える。
小屋の架け方(小屋組)は、屋根を架けるためのものであり、和小屋・洋小屋・登り梁など様々あるが、それに先立って、小屋組の乗る上部が水平面となる立体を作ることを考える。
1)通し柱と管柱の位置を検討する
胴差、梁に用いる材の長さには限界があるため、架構にあたり、①通し柱間に横架材を取付ける、②横架材を継手で延長する、③前二者の併用、のいずれかを選択することになる。
具体的には、一般的に下記の2様が用いられることが多い。(図は胴差と梁を天端同面の場合。)
架構法A 総2階または2階部分の外隅柱を通し柱とする。胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。
架構法B 総2階または2階部分の外隅柱と、中央部付近の柱を通し柱とする。胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。
◇法令の規定(令43条5:階数が2以上の建築物におけるすみ柱又はこれに準ずる柱は、通し柱としなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上の耐力を有するように補強した場合においてはこの限りでない。)は、架構法Aを想定している。
架構法A 架構法B
2)通し柱・管柱の長さを検討する
軸組部分の最下部は土台、最上部は軒桁まわりであり、その間をどのように構成するかを考える。
市販の材木を使用する場合、土台~2階胴差間、土台~軒桁の高さはほぼ決まる(市場流通の柱材正角材の規格長さ:3m(10尺)、4m(13尺)、6m(20尺)・・)。
通常の建物:1階の管柱に3m材、2階までの通し柱に6m材を使用。(1階管柱に4m材を用いると通し柱は特注となる。)
管柱の必要長さ =根ほぞ長さ+土台天端 ~ 胴差・梁下端の長さ+頭ほぞ長さ
通し柱の必要長さ=根ほぞ長さ+土台天端 ~ 軒桁・小屋梁下端の長さ+頭ほぞ長さ
根ほぞ:柱下部の土台あるいは胴差・梁などに取り付けるためのほぞ 頭ほぞ:柱上部の胴差・梁、軒桁・小屋梁などに取り付けるためのほぞ
いずれも長ほぞの場合は、ほぞの長さは最低3寸(9㎝)必要、短ほぞ(1寸程度)は、横および引き抜きの外力に対して不安。また、材の端部には傷みがある場合があり、両端の1寸程度ずつは使えないと考えておく。
3m材の最大可能見えがかり寸法=3m-根ほぞ・頭ほぞ18㎝-材端傷み分6㎝= 約2.76m:管柱(4m材 = 約3.76m)
6m材の最大可能見えがかり寸法=6m-根ほぞ・頭ほぞ18㎝-材端傷み分6㎝= 約5.76m:通し柱
3)設計GL、1階床高さの見当を付ける
(1)設計GL:通常設計図では、現状地盤面より高い位置に設定する。実際は現地での打ち合わせによって、境界杭天端~㎝上がりといったすでにある指標を基準としたり、やり方杭の水平材天端より~㎝下りというように決められる。その場合、敷地四周の将来の状況を予想する必要がある(盛土される可能性が高いなど)。
基礎の高さ:立上りの高さ 地上部分で300㎜以上 ← 告示第1347号(2000年)第3項3 (床の高さ:直下の地面からその床の上面まで45㎝以上 ← 施行令第22条)
基礎の厚さ:立上り部分の厚さ 120㎜以上 ← 告示第1347号(2000年)第3項3 底部の深さ:根入の深さ 240㎜以上 (同 第3項4) 底部の厚さ:150㎜以上 (同 第3項4)
通常の基礎 べた基礎 改正建築基準法(2年目施行)の解説 新日本法規より
べた基礎 地盤に盛土部分が多く、地耐力が一定でない場合、低湿地で地耐力が小さい場合などに使用。
底部の深さ:雨水等の影響を受ける恐れのない密実・良好な地盤に達したものとした場合を除き120㎜以上で、凍結深土よりも深いこと。 ← 告示第1347号第3項4
底盤の厚さ:120㎜以上とする。(地耐力≧70kNで不同沈下の恐れがない場合は無筋可。同 第3項1)
立上りの高さ:土台の下に連続して設け、地上部分で300㎜以上。 厚さ:立上り部分の厚さ120㎜以上。← 告示1347号第3項3
(2)1階床高:防腐・防蟻(床下通風)のために、床部分(あるいは土台より上側の木造部分)が、竣工後の地盤面より、最低30㎝以上高い位置にあることが望ましい。(法令の床高45㎝以上:施行令22条との規定は、通常の床組の場合を想定している。)
地盤面から1階床面までの高さ切り替えの方策を検討する。
例1 スロープ、階段で高さを確保し、地盤面~床面の落差を少なくする。
例2 外部では上げず、玄関土間~床面を小縁などで調整。
上図:建物内部での落差を少なくする例 下図:建物内部で調整