第Ⅳ章 土台・1階床組 仕口と継手の原理

2020-10-21 11:52:40 | 同:土台・1階床組

                 PDF「第Ⅲ章40頁 架構例1平面図・基礎伏図」差し替え願  投稿者より

                                                        PDF「第Ⅳ章 軸組を組む:土台・1階床組」23頁

第Ⅳ章 軸組を組む:土台・1階床組

1.木造軸組工法と継手・仕口

木造軸組工法では、部材相互の接合方法のことを継手仕口と呼んでいる。

継手:材を材長方向に継ぐ方法   

仕口:材をL型、T型に接合する方法

文化財建造物伝統技法集成 文化財建造物保存技術協会刊】より

継手とは、一材の長さを増す(材軸方向に継ぐ)ための工法、又はその部分をいう。木材の長さには限界があり、また必要とする材長の用材があったとしても、運材の難易度や経済性から適宜な長さの材を求めて、これを継ぎ合わせた方が有利な場合がある。規格化された市場品が容易に手に入りやすくなればなおさらである。

仕口とは、二材以上の材を片方または相互に工作を施して組み合わせる工法、又はその部分をいう。仕口は日本建築の特徴の一つで*、これによって複雑な部材の構成が可能になる。釘や金物によって強制的に結合する方法と異なり木材を巧みに組み合わせるので、外力に対して見かけよりも遥かに建物全体の耐力が大きい。

二材以上の材が組み合わさった状態、叉はその部分を組手(くみて)、一材に他材が差さる状態、又は部分を差口(さしくち)と言う。

                            *継手・仕口は、ヨーロッパにも同様の接合法がある。後述

1)継手・仕口の変遷

古代の継手・仕口:「一材に(あな)をあけ、他材を差しこむ」、「一材にだぼ太枘)を植え、他材にあけた孔にはめる」、「相互の材を相欠き(あいがき)(半分ずつ欠きとること)にして合わせる」、相欠きにして(せん)を打つ」「双方の材を鈎型(かぎがた)に加工して引掛ける」などの簡単な接合法だが、原理は後々まで受け継がれる。

樹木は螺旋(らせん)型に成長するため、製材された材には捩れ(ねじれ)が生じる。また環境に応じて収縮反りそり)を起す。これらの架構への影響は、古代では、接合部分の粗く逃げのある加工、接合箇所を増やす方法で避けられていた。

その後加工が精密になり、木材の弾力性・復元性、相互の摩擦を有効利用する方法へと発展し、接合部は、より合理的な形状(材が割れない、欠けない、よく密着する、などに適した形状)に進化する。

さらに、(せん)(くさび)を打つなどによる緊結の度合いの強い接合法が考案され、構成材を一体に組んで外力に耐える工法が可能になる。その結果、架構は半ばラーメン状となり、材の収縮・捩れ、外力による変動は架構によって押さえ込まれる。いずれも現場で生まれた知恵である。

注 竣工後時間が経過した建物を解体すると、押えられていた捩れが部材に現れる。⇒古材利用時の留意点。現在でも、逃げ・遊びをとる方法と緊結の度合いの強い方法を適宜使い分けることが可能。大架構では、反り捩れの影響が大きく現れやすいが、両者を併用することで防ぐことができる。

【各時代の継手・仕口の例】  文化財建造物伝統技法集成 より  

  奈良・法隆寺伝法堂(奈良時代)  

 奈良・ 当麻寺本堂(平安時代

京都・大報恩寺本堂(鎌倉時代)  

       

 京都・大仙院本堂(室町時代)  

  

大阪・八坂神社(桃山時代末)          桁継手        

  

                            

2)継手の条件

継手の理想:接合箇所が、引いても、押しても、曲げても、捻っても、長期にわたり外れず、また、一方の材にかかった力をできるかぎり他材へ伝えることができること。

継手には、下図のように、①材の一部を凹凸に加工して継ぐ方法(あり)継ぎ(かま)継ぎシャチ継ぎなど)と、②互いの材全体を鈎(かぎ)型に加工して引掛けて継ぐ方法略鎌(りゃくかま)継ぎ(ぬの)継ぎなど)がある。

通常、これらに、上下左右の動き、捻れ、接合部の外れ等の防止のために端部加工を付け加える。

付け加えられる代表的な端部加工

通常、接合箇所に求められる役割に応じ、a)b)を適宜組合わせて加工する(組合わせの種類が増えるほど加工に手間がかかる)。ただし、の系統の継手は、かかった力を他材へ十分に伝えられない。

の系統のうち、鈎形(かぎがた)を縦方向に設けてを打つ追掛け(おっかけ)大栓継ぎ金輪(かなわ)継ぎは、上下左右の動き、捻れに耐え、材相互の力の伝達も十分で、継がれた二材の強度は一本ものと変らないと言われる。

追掛け大栓継ぎ上木(うわっき)下木(したっき)*があり、接続面が斜めのため、上木を落とし込むと相互が密着、金輪継ぎは二材が同型であるが(向きは逆)、を打つと材相互が密着する⇒梁・桁に使う。次回以降解説。*上木、下木 後掲。  

 

3)仕口の条件

仕口の理想:接合箇所が、引いても、押しても、曲げても、捻っても、長期にわたり外れず、また、できるかぎり一方の材にかかった力を他材へ伝えることができること。

仕口の基本形は、ほぞ差し(あり)掛けである。通常、この基本形に、引抜き上下左右の動き捻れ、接合部の外れ、などの防止のための端部加工を付け加える。

◇蟻掛けに付け加える加工          ・胴付:ほぞの根元周りの平面をいう(英Shoulder)。日本建築辞彙より 明治39年発行

◇ほぞ差しに付け加える加工 

ほぞ差しは、強い力で引き、あるいは左右にゆすり続けると引き抜ける。特に、1寸:30㎜程度の短(たん)ほぞは、容易に抜ける)。ほぞ差しだけでは上下左右の動き、捻れに十分に耐えられないため、引抜き防止上下左右の動き捻れ防止の加工を付け加える。

ア)引き抜き防止のために付け加える加工 

イ)上下左右の動き・捻れの防止のために付け加える加工

4)継手・仕口の加工(刻(きざみ)

継手・仕口の加工のことを、刻み(きざみ)と呼んでいる。

継手・仕口は、木材の弾力性・復元性、材相互の摩擦を利用するため、相応の加工精度が必要。現在は、加工機械で大体の継手・仕口が加工できる(追掛け大栓継ぎ金輪継ぎも可能になった)。

般に、継手・仕口を刻める職人がいなくなったから、あるいは、継手・仕口の加工に手間がかかるから、継手・仕口を使った建物はつくれない、と言われているが、事実ではない。刻める職人は各地に居り、また各種加工機械の出現で従前のようには手間もかからなくなっている。

継手・仕口による建物が少なくなった理由として、①設計者が、継手・仕口の存在と継手・仕口の原理を忘れてしまったこと(日本の木造技術への無理解)、②手間の省略を、工程、工期、工費の《合理化》と見なす傾向があること、が挙げられる。建物を確実につくるために必要な作業と手間は無駄ではない。

5)継手・仕口の下木(したっき)、上木(うわっき)

継手・仕口は、先に据える材(受ける材)と後から据える材(載せ架ける材)とで構成される。

現場で先に据える材(受ける材)を下木(したっき)後から据える材(載せ架ける材)を上木(うわっき)と呼ぶ。木、下木は、現場でどこから組立てを始めるかによって決める

 

6)継手・仕口の呼称

追掛け大栓継ぎ金輪継ぎなどを除き、継手・仕口の呼称は、以下のように付けられている。

a)形状による名称      :蟻  鎌  腰掛け  ほぞ差し  栓  楔(くさび)  目違い など

b)形状に作業の内容を付ける :大入れ(おおいれ)にする  胴付(どうづき)(小胴付)を設ける  割り楔(わりくさび)で締める 込み栓(こみせん)を打つ シャチ栓を打つ(差す) 蟻落とし  寄せ蟻  蟻掛け など

c)部位の名称に形容詞を付ける:長ほぞ (たん)ほぞ  小根(こね)ほぞ (ひら)ほぞ(または横ほぞ) など

d)a)b)c)を組み合わせる:腰掛け 鎌継ぎ鎌継ぎ+腰掛け 腰掛け鎌継ぎ 目違い付き腰掛け鎌継ぎ+目違い 小根ほぞ差し 割り楔(わりくさび)締め小根ほぞ差し+割り楔締め 根ほぞ差し割楔締め 目違い付き小根ほぞ差し割楔締め+目違い                

を用いて継ぐときは蟻継ぎを用いて他材に載せ架けるときは蟻掛けのように呼ぶ。

継手・仕口の呼称は、地域、大工職により異なる(茨城では蟻落とし下げ蟻と呼ぶことがある、など)設計図には、呼称だけではなく、簡単な図を示すと混乱が起きない。

 

参考 ヨーロッパの木造建築(軸組工法)の継手・仕口例

  

スイスの継手仕口例Fachwerk in der Schweiz Birkhauser Verlag

このような発案は、「机上」では絶対に生まれない。そして、人が「現場」で考えることは同じ。だからこそ、「異なる地域」で「同じ方法」が生まれる。技術の習得は、現場で行われるもの。「机上の論」>「現場」のとき、技術は衰退する。

 

 

ドイツの継手仕口例Handwerkliche Holzverbindungen der Zimmerer    Deutsche Verlags Anstalt,Stuttgart

 

 


第Ⅳ章 土台についての法令・床組の材種

2020-10-21 11:52:18 | 同:土台・1階床組

2.軸組を組む:土台・1階床まわり

1)土台についての現行法令の規定

建築基準法施行令第42条

①構造耐力上主要な部分である柱で最下階に使用するものの下部には、土台を設けなければならない。ただし、ア)当該柱を基礎に緊結した場合、イ)平屋建ての建築物で足固めを使用した場合(軟弱な地盤の区域では基礎に緊結した場合に限る)においては、この限りではない。

②土台は、基礎に緊結しなければならない。平屋建ての建築物(軟弱な地盤でない区域に建つ場合に限る)で延べ面積が50㎡以内のものについては、この限りでない。

 注 「軟弱な地盤の区域」の基準 (告示第1897号) 1)地耐力が小さく不同沈下の恐れがある区域  2)地震時に液状化する恐れがある砂質土地盤区域  3)腐植土、泥土などで大部分が構成されている沖積層(盛土を含む)で、深さが30m以上の区域   4)沼沢、泥海などを埋立てた深さが3m以上で、埋立て後30年を経過していない区域

現在、布基礎上位置近くに土台を据え柱を立てることが〈木造の常識〉になっているが、古来、地上近くに据えられた礎石または布石上に土台を敷き柱を立てる場合でも、床は1.5~2尺以上高い位置に、足固め、大引、根太によって構成されていた。(第Ⅲ章 参照)

高温・高湿への対策として、床を高くし床下の通風を得るための方策であったと見てよい(寒冷地等では床下を閉じるか、あるいは開閉装置をつけている)。

 

2)土台の役割

a)軸組最下部の横材で、柱を受け、水平面の基準となる。

b)柱上部の横架材(桁・梁)とともに軸組の強度上、重要な役割を持つ。土台は、単に柱を受けるだけでなく、立体骨組の底部を形づくる重要な部分である。

c)大引など、1階床まわりの部材を受ける。

 

3)1階床組の構成部材の材種

軸組部材:土台  床組部材:大引・床束・根太  床材:荒床(捨床)・仕上げ床材

土台 材種:強度が強く、耐久性のある(湿気・虫害に強い)材。一般的にはヒノキが適する。多少節があっても、特1等材であれば可。クリ、ヒバ、米ツガ(防腐)、米マツ(防腐)なども用いられる。クリは腐朽しにくく狂いも少なく強度もあり、全国で産するが、現在では大断面材の入手は難しい。防腐土台には、表面塗布ものとドブ漬けものがある。塗布ものは効果が数年で減少する。ドブ漬けものは重量大で、加工性が悪い。

材寸:多用する柱と同寸以上が適切。柱4寸(12㎝)角⇒土台4寸(12㎝)角以上。幅5寸×4寸:通称五平(ごひら)を使う場合もある。                        

大引 材種:曲げに強く、耐久性のある材。ヒノキ、スギ、米ヒバ、米マツ、米ツガなど。ヒノキならば良。1等材(一部面あり)でも可。 

材寸:通常@3尺(909㎜)で3寸(9㎝)角、3.5寸(10.5㎝)角、4寸(12㎝)角。一般に3.5寸(10.5㎝)で十分。

床束 材種:耐久性のある材。ヒノキ、スギ、米ヒバなど。ヒノキならば良。1等材で可。 材寸:大引に同寸。          

根太 材種:曲げに強く、耐久性のある材。スギ、米マツなどが用いられる。 材寸:床荷重、大引間隔、根太間隔に応じて決める。

荒床 通常は、荒床捨床)を下張りした上に、仕上げ材を張り、あるいは貼る。材種スギ板厚12㎜~18㎜ 相じゃくり又は耐水合板・構造用合板12㎜~18㎜。

耐朽性の点ではスギなどの無垢材が適当。合板は、長年のうちに「蒸(ふ)ける」ことがある。縁甲板あるいはフローリング張り仕上げで荒床が無垢板張りのときは、荒床を斜め張りにすると上下の継ぎ目が揃うのを避けられる。

 


第Ⅳ章 土台と大引・根太の組み方、土台の仕口

2020-10-21 11:51:45 | 同:土台・1階床組

4)土台と大引、根太の組み方の検討  

大引、根太、床板は、単に荷重を支える部材ではなく、一旦組み上がると剛性の強い面となるため、立体を構成する有効な部位として働く。特に、大引は土台とともに床面の水平骨組を構成する重要な部材であり、組み方に注意が必要。

床仕上げ・床高に応じて、大引と根太の高さを検討し、大引どの高さどの仕口で土台に架けるか検討する。 大引の高さは一定にし、床高は、根太の大引へのかかり、あるいは根太の丈で調整する方が施工上間違いが少ない。

大引の間隔は、根太の材寸により決まるが、通常は3尺(909㎜)。

◇土台と大引 

A)大引の天端を土台と同じ高さに組む:土台も根太を受ける。大引を土台と同時に組む。 1階天井高さを最も高くできる。

B)大引を土台に乗せ掛ける:土台際(きわ)根太掛(ねだか)けが必要。柱通りの大引は土台際にが必要。

◇大引と根太 

a)根太を大引の上に乗せる(「連続梁」状態となる)(「連続梁・単純梁」については前章で解説)

-1)丈の小さい根太:45㎜~60㎜程度を大引の上に転がす。@1尺(303㎜:1間の1/6)、1尺2寸(363.6㎜:1間の1/5) 

-2)丈の大きい根太:(90㎜~):転倒を避けるため、大引に渡りあご掛けとするのが確実* 大引きへのかかりの寸法で床高を調節できる。@1尺2寸~1尺5寸(363.6㎜~454.5㎜:1間の1/4)

*相欠きの方法もあるが、大引を傷めない点では、渡りあご掛けの方が適切。

     

 

 

b)根太を大引と天端同面で納める場合(単純梁状態となる)

-1)大引間隔3尺( 909㎜):根太75×45㎜以上@1尺~1尺5寸。

-2)大引間隔6尺(1,818㎜):根太 90~105×45㎜以上@1尺~1尺5寸。

床板厚30㎜(1寸)以上の板を使う場合は、大引間隔6尺、根太3寸角(90㎜角)以上、@3尺で納めることができる。薄い板材を製材できなかった時代には根太を用いず、厚板を張っている。 床高を変える場合は、土台の高さを一定にし、大引の土台へのかかり高さ、または、根太の大引へのかかり高さで調節することもできる。

 

5)土台の仕口                      

(1)柱と土台の仕口(一般箇所)  (作図は仕上り4寸角を想定して描いています。)             

柱は土台にほぞ差しで固定する。                           

   

①長(なが)ほぞ差し   

柱の根元に長ほぞ(長さ3寸:9㎝程度)を刻み、土台に設けたほぞ穴にはめ込む。柱に横から力がかかると、土台に接する柱の木口ほぞが転倒に対して抵抗する。

ほぞが深いほど摩擦が大きくなり抜けにくい。そのため、ほぞほぞ穴は、きつめに加工する(ただし、きつすぎるとほぞ穴が割れる)。

②長ほぞ差し・込み栓(こみせん)打ち

長ほぞ差しとした上、込み栓打ちとすると、さらに抜ける心配はなくなる。込み栓打ちは木材の弾力性を利用しているため、金物に比べ、なじみがよく、緩むことがない。込み栓は、堅木で造り、先細に加工する。丸棒型と四角棒型とがある。込み栓の穴は、刻みの段階で設けるのが丁寧な仕事であるが、組んだ後で設けることもできる。告示第1460号では、引張り筋かい(片側)を入れた軸組の柱下部は、長ほぞ差し込み栓打ちでよい。

③短(たん)ほぞ差し

短ほぞ差し(長さ1寸:30㎜程度の短いほぞ)の柱は、ほぞの抵抗が小さく、横からの力で抜けやすい。短ほぞ差し+補強金物(かど金物、山形プレートなど)とすることが多い。告示第1460号では、部位に応じて金物の種類を指定している。

短ほぞ差し+補強金物は、横揺れが反復するとほぞの抵抗が小さいため、金物取付け部に負担がかかり、釘が緩む可能性が大きい。

注 ほぞ:枘 突起物をいう。臍と同源。古くは「ほそ」と発音したと言われる。果実の「へた」も「ほぞ、ほそ」と言う。

 

(2)土台をT字型に組む仕口と柱の取り付け

土台がT字型に組まれる箇所は、通常、土台と土台の仕口、土台と柱の仕口が重なる。

     

①平ほぞ(横ほぞ)差し・柱 重(じゅう)ほぞ

②平ほぞ(横ほぞ)差し・割り楔締め・柱 短ほぞ

片方の土台に造り出した横向きの長いほぞ平ほぞまたは横ほぞという。

:柱に刻んだ重ほぞ(重ねほぞともいう)で、土台の平ほぞを縫う。 重ほぞが栓の働きをして、土台と土台および柱の三者が堅固に接合される。補強は不要。

平ほぞを相手の土台にあけたほぞ穴に差し、ほぞの端部を割楔で締め固める方法を平ほぞ横ほぞ差し割り楔締めと呼ぶ。土台相互は強固に接合される。しかし、この箇所に立つ柱のほぞは、土台の平ほぞにあたるため短ほぞになる。法規上は柱と土台の接合に補強を求められる。

ほぞの先端にあらかじめ鋸目(のこめ)を入れておき、ほぞを差したあと、鋸目に楔を打ち込み、接合部を密着させる方法を割り楔締めと呼ぶ。ほぞ穴を外側(を打つ側)に向かってわずかに末広がりに加工しておくと、を打つとほぞの先端が蟻型に広がり、さらに堅固に接合される。

 

  

③腰掛け蟻掛け・柱 長ほぞ差し 一般に多く用いられる方法。

片方の土台に、腰掛けを設けた蟻型を造りだし、他方に刻んだ蟻型の凹型に掛ける方法を 腰掛け蟻掛け(または、腰掛け蟻)と呼ぶ。柱の根ほぞは長ほぞ差しが可能。

④大入(おおい)れ蟻掛け柱 短ほぞ差し+補強金物 簡易な方法として多用される。 大入れは材の全形を相手側に刻む方法。 腰掛けのような受けがないため、基礎が平坦であることが前提となる。

短ほぞ差し+補強金物は、横揺れが反復すると、ほぞの抵抗が小さいため、金物取付け部に負担がかかり、釘が緩む可能性が大きい。                  

(3)隅部の土台の仕口、隅部の柱の取付け

土台の隅部は、軸組の安定を保つために、きわめて重要。

-1)土台を優先する(土台を直角に回す)場合

①平ほぞ差し・柱 重ほぞ

一方の土台端部を柱幅ほど外側に出し、T字型の土台の場合と同じ方法で納める。土台を表しとする場合(真壁)に適する。土台相互、柱の三者が堅固に接合される。大壁仕上げとする場合は、土台を表しとして、土台より上部を大壁にすれば可能である。平ほぞ差し割り楔締め・柱短ほぞも可能だが、強度の点で、平ほぞ差し・柱重ほぞが適切。

      

②小根(こね)ほぞ差し割り楔締め(目違(めちが)い付)・柱 扇ほぞ

通常のほぞより幅の狭いほぞを小根(こね)ほぞと呼ぶ。小根ほぞ差しは、ほぞを刻んだ側(差す側)の土台が捩れやすい。目違いを設けて捩れを防ぐ。

隅部は土台の端部であるため、通常のほぞ穴を刻むと割れて飛ぶ恐れがある。土台のほぞを小根ほぞ、柱の根ほぞを短ほぞとすれば納まるが、ほぞ穴が割れ飛びやすい。これを避けるために、小根ほぞの形状を、力が木目に沿って流れないように扇形(端部に向かって逆蟻型)に刻む。これを扇ほぞと呼ぶ。

割れやすい材(ベイマツなど)には不向き。法規上、筋かいが足元に取付く場合は、金物補強を求められる。

③向う大留(おおど)目違(めちが)い付

土台の隅を留めに納め、土台の木口(端部)を見せない方法。基本はに同じ。目違いを設けた方が確実。良材でないと、留めがきれいに仕上がらない。見えがかりを重視した仕口で、真壁向き。

   

④大入れ・小根ほぞ差し割り楔締め・柱 扇ほぞ

柱が捩れに耐えられない(アンカーボルトに頼る)。柱には法規上補強金物が求められる。

⑤片蟻掛け・柱 扇ほぞ

通常の蟻型では受ける側(下木)の端部が割れ飛ぶため、位置を内側に寄せ、蟻型も半分にする。最近使用例が多い簡易な仕事。柱が捩れに耐えられない(アンカーボルトに頼る)。柱には法規上補強金物が求められる。

【参考 柱仕上がり4.3寸の場合の土台と柱】  柱:長ほぞ差し込み栓打ち

    

 

-2)隅部で、柱を優先させる場合                     

土台を回さず、隅柱の側面に土台を納める。通常真壁仕様で用いるが、大壁使用でも可。

  (作図は仕上り4寸角を想定して描いています。)

①蟻落とし                          

土台の端部に蟻型を造り出し、柱に同型の凹型を刻み、土台を据えた後、柱を落して納める。土台が捩れないように、通常は胴付(どうつき 小胴付ともいう)を設ける。二方に蟻型を刻むため、胴突の深さを調節して蟻型同士のぶつかりを避ける。そのために、柱は4寸(120㎜)角以上必要。二方の土台に胴突付で取付くため、柱の引き抜き、転倒に対して強い。

玄関の柱、土台幅より太い柱などを土台に納めるときにも用いる(農家の大黒柱)。

 

-3)段違いの土台と柱の取付き

  

①寄せ蟻および蟻落とし

段違いの二方向の土台に柱を蟻落としで納める。

高い方の土台は、柱の土台を納める位置に逆蟻型を、その下部に土台の蟻型が全部入る大きさの穴を刻み、土台の蟻型をその穴に一旦入れた後、柱を下方へ寄せて落とし込むので寄せ蟻という。低い方の土台は、通常の蟻落としで納める。

②小根ほぞ差し・割り楔締めおよび蟻落とし

玄関まわりなどの土台に段違いがある場合に用いる。低い方の土台に蟻落としで柱を立て、小根ほぞを刻んだ土台を横から差し、割り楔で締める。胴突を必ず設ける。横から差すため建て方で苦労するが、強度は確実。

 

-4)礎石(石場)立て独立柱と土台の取付き

①小根ほぞ差し 割り楔締め ②小根ほぞ差し 込み栓打ち

③小根ほぞ差し 割り楔締め、小根ほぞ差し 込み栓打ち 併用

柱に二方向から横材を取付けるときの基本的な方法で、土台以外でも常用する。

材の上側に造る小根ほぞ上小根(うわっこね)、下側に造るのを下小根(したっこね)と呼んでいる。柱の内部でほぞ穴が上下で交叉する。捩れ防止のため、必ず胴突(小胴付)を設ける。

 

【参考 玄関小縁付 仕口アイソメ】

 


第Ⅳ章 土台の継手、土台と大引の納め

2020-10-21 11:51:14 | 同:土台・1階床組

6)土台の継手

(1)土台を布基礎の上に据える場合。

通常は下記の継手が使われるが、次頁(2)の(ぬの)継ぎ金輪(かなわ)継ぎを用いることもある。

    

①腰掛け鎌継ぎ(腰掛け+鎌継ぎ)       

腰掛け鎌継ぎを組み合わせる。竿部分+部分の全長は、 最小でも4寸(120㎜)必要(4寸鎌)。引き勝手を付けるとよく締まる(点線)。全長が長い方が、直線を保つ効果が大きい。

②腰掛け鎌継ぎ(目違(めちが)い付) 材下部の捩れを防ぐため、目違いを付け加える。よりも確実。

 

  

③腰掛け蟻継ぎ  一般に多く見られる継ぎ方。 竿がないので、継いだ二材を直線に保ちにくい。

④腰掛け 蟻継ぎ(目違(めちが)い付) 材下部の捩れを防ぐため、目違いを付け加える。

  

⑤蟻継ぎ 丈1寸程度の蟻型だけで継ぐ簡易な方法。強度は弱い。

⑥全蟻継ぎ  材寸いっぱいの蟻型を設けて継ぐ簡易な方法。材相互の不陸を起こしやすい。                      

⑦腰掛け+補強金物(かすがいなど)  横ずれを起こしやすく、金物が緩めば材が離れる。きわめて簡易な方法。

 

(2)土台下に布基礎がない場合(土台を独立基礎上の束柱で支持する場合など) 梁・桁と同様と考える。

  

①布継ぎ   二材同型の(かぎ)に刻み、合わせ目の空隙に栓を打つと二材が密着する。きわめて堅固。 桁・梁などにも用いる。       

②金輪(かなわ)継ぎ(2階床組で解説)   を縦使いにした継手だが、*部分にも目違い設ける。きわめて堅固。Bを水平に移動しを打つと、AB二材が密着する。桁・梁などにも用いる。 

        

③追掛け大栓(おっかけだいせん)継ぎ(2階床組で解説)  上木を落とし込み二材を密着させ、横からを打つ。きわめて堅固。                 

以上の①②③は二材を堅固に接合する方法。普通は、腰掛鎌継ぎが一般的。架構を立体化するためには、少なくとも③追掛け大栓継ぎの利用が望ましい。

二材を密着させる方法として、現在はボルト・ナットによる締め付けが多用されるが、多くの場合、木材の収縮に対応できず、時間を経ると緩むことが多い。

これに対して、木製の割り楔)を打つ方法は、弾力性復元性(栓と打ち込まれる材がともに木材であるため、双方に弾力性・復元性がある)と相互の摩擦を応用したもので、打ち込み後の緩みが生じることはきわめて少ない(ただし、柱の仕口に使われるは、振動により、しばしば緩むことがある。⇒清水寺の床下は、常に点検がなされている)

④腰掛け鎌継ぎ(前頁参照)                                 

使われることが多い継手だが、継手だけでは架構を一体化できない。継手に無理がかからないように注意する。たとえば、束柱相互がなどで一体に組まれている場合には、継手に無理がかからないため、使用が可能である。

 土台T字仕口:腰掛け蟻、継手:腰掛け鎌継ぎ(目違い付き)  

⑤腰掛け蟻継ぎ(前頁参照)  簡便である。

【参考 柱仕上がり4.3寸の場合の土台と柱】 土台表し、隅の土台を芯から7寸外に出して重ほぞとしている。

 

【上木、下木について 文化財建造物伝統技法集成より        

一般に柱の貫は、梁行が下木で桁行を上木とするのが圧倒的に多い。貫高に段差のつく場合はもちろん、見廻し(同高)に組む場合でも梁行を下木としている。逆の場合もままあるが、地域的な慣用によるものかもしれない。上木、下木の関係は各貫、頭貫、桁に至るまで大体守られているようである。

 素朴な考えであるが、小屋を建てようとするとき、柱を建て横木を渡して先ず鳥居型を組むことから始まると思う。建物の使用上、梁間(通常奥行方向)は必要最小限度の長さを確保すると思われることと、梁の長さの関係もあって、先ずこの鳥居型が決まり、あとは桁行方向に並列していけば、任意の面積の建物が得られることとなる。憶側に過ぎないが、案外そんなところに起因しているように思われる。

 

7)土台と大引の納め方

a)大引を土台天端と同面に納める(天端同面(てんばどうづら)     

 

①腰掛け 蟻掛け腰掛けで上下の動きを止め、ではずれを防ぐ。通常行われる方法。

②大入れ蟻掛け全蟻を造り出し、大入れで土台に掛ける。確実な方法。図のが小さいときには不可(土台4寸角、大引3.5寸角とすると、aは0.5寸:15㎜程度しかない)。

③大入れ大入れだけで納めると、収縮によりはずれることがある。図のが小さいときには不可。

④蟻掛け:簡易な方法。蟻首がとぶ(折れる)恐れがある。

b)大引を土台に載せ掛ける 大引の土台にかかる部分について、上記(a)②、③、④が用いられる。 確実なのは大入れ蟻掛けである。

8)大引と床束の取付け

    

①目違いほぞ:床束頂部に目違いほぞを造り、大引からのはずれを防ぐため大引に彫ったほぞ穴に横からはらいこむ。

②吸付き蟻:床束の頂部に蟻型を造りだし、大引下端にその逆型を刻み、床束を横からはらいこむ。よりも確実な方法。

③びんた(鬢太)出し 釘打ち:材の一部を欠き取り、残った部分をびんた鬢太)と呼ぶ。びんづら鬢面)とも言う。床束の頂部をびんたにして大引の側面にあて、釘打ちで留める。床の振動で釘が緩む可能性もあるが、一般に行われる丁寧な方法。土台隅に使う向う大留めもびんたの利用。

④かすがい留め:現場あたりで長さを決め、床束の頂部を加工せず、大引下にはらいこみ、かすがいで留める。よく見かける簡易な方法。床の振動で緩む可能性が高い。

床束は、束石礎石)を適宜配置し、場所ごとに高さを現場あたりで据えつける方法が一般的。基礎工事時点、基礎同様の精度で礎石を設置すれば、床束も加工場であらかじめ刻んでおくことができる。なお、大引面に不陸が生じた場合には、束の下部にを二方向から打ち込み調整する。

 


第Ⅳ章 1階床組伏図、架構例

2020-10-21 11:50:32 | 同:土台・1階床組

10)床伏の検討:土台と大引の構成(規格寸法材で組むことを考える場合)

 原則として、先ず建物外周に土台をまわす礎石建て独立柱段違いになる部分も検討する。

 平面(間取り)を勘案しながら、平面を横断する主要な土台の位置を検討する。通常は、柱が立つ間仕切通りに設ける。⇒基礎位置との調整。

 外周部と主要土台を、どこから、どのように組むか検討する。

a)どこから組むか   敷地への資材搬入口、材料の仮置き場、建て方時のクレーン車の位置などを考慮して作業基点を決める。通常は、敷地の最奥のどちらかの隅を起点とする。

b)どのように組むか  使う継手・仕口を決め、規格材で割付けを行い、柱位置・土台の交叉箇所・大引位置を避け継手の位置を決める。その際、起点側が下木になることに注意。

 外周部の土台に、横断する土台を架ける。その際も、継手の位置を検討する。

 床仕上げ・床高に応じて、大引と根太の高さを検討し、大引をどの高さどの仕口で土台に架けるか検討する。大引高さは一定にし、床高は、根太の大引へのかかり、あるいは根太の丈で調整する方が施工上間違いが少ない。大引の間隔は、根太の材寸により決まるが、通常は3尺(909㎜)。床に厚い板(厚1寸:30㎜程度以上)を使うときは、直接大引に張ることができる。

 アンカーボルトの位置を検討する。⇒基礎伏図との調整が必要。

 

11)材の割り付け(規格材を使う場合)

材端部の傷みの部分(両端それぞれ約15~30㎜ 計30~60㎜程度)は使えない。

②継手または仕口の長さの分、両端で相手の材と重なる部分がある。したがって、

材の長さ≧{材端の傷み(約15~30㎜)+継手・仕口長さ  ~  継手・仕口長さ+材端の傷み(約15~30㎜)}

③柱の根ほぞと継手は最低100㎜離す。

一例 柱の仕上がり3寸8分(115㎜)・土台同寸

◇土台の継手を5寸鎌とした場合

◇土台の継手を4寸鎌とした場合

 

12)土台伏図、床組伏図の記入事項、留意点

縮尺は1/50以上。1/40程度が諸事項を記入しやすく、図面として読み取りやすい。

記入事項  土台、大引、根太などの材種、材寸、高さ関係の明示。  継手・仕口の仕様継手位置の明示(必要に応じ通り芯からの寸法を指示).柱の種類(通し柱管柱の指示)、材種材寸柱と土台の仕口アンカーボルトの位置(必要に応じ通り芯からの寸法を指示).材料の材種、材寸、長さ別の拾いを別記できれば、さらによい。

留意事項  1.基礎伏図との照合(アンカーボルト位置、継手・仕口位置)。2.アンカーボルト位置は、基礎伏図土台伏図双方に記す。3.材寸は、挽き割り寸法仕上がり寸法の別を明示。.必要に応じて、縮尺1/20程度の詳細図を併記。

設計図は、一枚の図面に、関連する情報を可能な限り記入することが必要。

必要事項が多数の図面に分散して描かれていると、一つの仕事のために、数多くの図面を照合しなければならない。また、分散して描かれた図面には、往々にして食い違いが多発する。

各伏図仕口・継手軸組構造仕様書」として一か所にまとめると全体の意図が伝わり易い。

 

3.架構を考える例1:内外大壁 土台伏図例1 

通し柱は2階部分の4隅。土台、大引は天端同面で組む。土台は、4m、3m、4/2m材を用いる。換気口を使用する。浴室腰部は基礎を立ち上げ、土台位置を高くする。

  

土台例2:同じ間取りで組み方を変えた例  外周の次に[五通り]を据える。

〇番付は3尺格子とする(柱の有無を問わない)。  

〇資材搬入、クレーンの位置を勘案して、一通りから据え付けを始めるものと仮定して計画。この案では、[い一]を据え付基点とする。①~⑩は土台を組む順番の一例。

〇隅土台は小根ほぞ差し割り楔締め、柱扇ほぞ+補強金物。 土台の継手は4寸の腰掛け鎌継ぎ。

〇[外周部]の次に[ろ・へ・ぬ通り]を組み、次に[五通り]を腰掛け蟻で掛けてゆく。横材と縦材を交互に組んでいるため「土台例2」よりも強い。

〇この建物では、4m材の使用は最長で「腰掛け蟻掛け~2間~4寸(又は5寸)鎌継ぎ」([一]~[五]間)とする。

〇柱の根ほぞと継手の間は、最低100㎜あける。

〇アンカーボルトは、継手・仕口の上木側に設けることを原則とする。この建物では、建物四隅と4m材の途中にもアンカーボルトを入る。

〇床下地板:構造用合板張り(筋交いを使用しない。)

 

架構を考える例2-A:内外大壁 

◇架構例2A:内外大壁

仕様  外壁:構造用合板下地 サイディング張り  木ずり又はラスカット下地 塗り壁  内壁:構造用石膏ボード下地 クロス張り 石膏ラスボード下地 塗り壁  床: 構造用合板下地  建具:外部 アルミ規格サッシ

架構 通し柱:建物四隅  土台と大引:天端を同じ高さ  胴差と床梁・小梁:天端を同じ高さ 軒桁と小屋梁:天端を同じ高さ

 

架構を考える例2-A:内外大壁 基礎伏図 

換気口を使用する。浴室は腰壁をコンクリート下地とし、土台の高さを上げる。

   

〇 布基礎は、主たる軸組(柱通り)位置と間仕切り位置に設ける。(階段・床の間などの箇所では、土台伏図を勘案し、小さな閉鎖部分ができないように計画する。)ベースを連続させ、立上り部の一部に、床下点検のための通路を設けている。

〇 換気口:150×300~450㎜@3000㎜程度

〇 アンカーボルト : M12またはM16  位置 : 土台が直行する部分で、柱芯から200m前後。 土台全体の構成と、土台の各材を基礎と結ぶために、柱の下部付近だけではなく、土台の仕口・継手の上木側にも入れる。この建物では、建物四隅(浴室除く)と4m材の途中にもアンカーボルトを入れる。

〇大引の計画に応じて、束石を記入する。束石の天端高さも記入(床下地面+100mm程度がよい)。

〇土間コンクリート部分を表示する。天端高さ、配筋要領も記入する⇒詳細図が必要。

〇その他、特別な部分(浴室まわりの立上がりなど)を特記する⇒詳細図が必要。

 

架構を考える例2-A:内外大壁 土台伏図 

通し柱は4隅。土台と大引は天端同面で組む。土台は、4m、3m、4/2m材を用いる。換気口を使用する。浴室腰部は基礎を立ち上げ、土台位置を高くする。

    

〇番付は3尺格子とする(柱の有無を問わない)。

〇資材搬入、クレーンの位置を勘案して、八通りから据付けをはじめるものと仮定して計画。 この案では、[い八]を据付基点としている。 ①~⑫は土台を組む順番の一例。

〇隅土台は小根ほぞ差し割り楔締め、柱扇ほぞ+補強金物。 土台の継手は4寸の腰掛け鎌継ぎ。

〇[外周部][ほ通り][四通り]を最初に組み、残りの土台は腰掛け蟻掛けで掛けてゆく。 [ほ通り][四通り]は、どちらを先に組んでもよい。この場合は[ほ通り]を先に組む。

〇この建物では、4m材の使用は最長で「腰掛け蟻掛け~2間~4寸(又は5寸)鎌継ぎ」(ほ通り)とする。

〇柱の根ほぞと継手の間は、最低100㎜あける。  

〇アンカーボルトは、継手・仕口の上木側に設けることを原則とする。この建物では、建物隅(浴室除く)と4m材の途中にもアンカーボルトを入れる。 

〇床下地板:構造用合板(筋交いを使用しない。)

 

架構を考える例2-B:内外真壁 土台伏図 

仕様  外壁:構造用合板下地 サイディング張り 木ずり又はラスカット下地 塗り壁  内壁:構造用石膏ボード下地 クロス張り 石膏ラスボード下地 塗り壁  床: 構造用合板下地  建具:外部 アルミ規格サッシ  

架構 通し柱:建物四隅 + 中央部  土台と大引:天端を同じ高さ  胴差と床梁・小梁:天端を同じ高さ  軒桁と小屋梁:天端を同じ高さ

通し柱は4隅と中央部。土台と大引は天端同面で組む。土台は表し、4m、3m、4/2m材を用いる。ネコ木を使用する。浴室まわりの土台も標準の高さにそろえる。

   

〇番付は3尺格子とする。 〇資材搬入、クレーンの位置を勘案して、八通りから据付けをはじめるものと仮定して計画。この案では、[い八]を据付基点としている。①~⑧は土台を組む順番の一例。

〇隅土台は小根ほぞ差し割り楔締め、柱扇ほぞ+補強金物。土台の継手は4寸の腰掛け鎌継ぎ。

〇[外周部]を最初に組み、残りの土台は腰掛け蟻掛けで掛けてゆく。 [ほ通り][四通り]は、どちらを先に組んでもよい。この場合は[ほ通り]を先に組む。

〇この建物では、4m材の使用は最長で「腰掛け蟻掛け~2間~4寸(又は5寸)鎌継ぎ」(ほ通り)とする。

〇柱の根ほぞと継手の間は、最低100㎜あける。

〇ネコ木(栗120×300 厚30㎜)は、柱の下部、継手位置、土台1間間隔に入れ、アンカーボルトで止める。

〇床下地板:構造用合板(筋交いを使用しない。)

 

【足元まわりの歴史】に続きます。


第Ⅳ章 建物の足元まわりの歴史

2020-10-21 11:50:03 | 同:土台・1階床組

【足元まわりの歴史 礎石立て:独立基礎の例=足固め工法

(1)古代の事例:法隆寺・東院・伝法堂 (奈良県斑鳩町)

 現状東南隅の外観  平面図

前身は、761年以前の建立の貴族の住居(橘夫人?)の建物とされる。

  現伝法堂断面

  現伝法堂床組詳細 写真・平面図・断面図は日本建築史基礎資料集成 四佛堂Ⅰ(中央公論美術出版)より 文字・色は編集

 

現伝法堂の断面図では、版築で築いた基壇上に礎石を据える。

礎石上に置かれた軸組切目長押で補強され、床組は内側の床桁を利用している。礎石~切目長押の間は、礎石間に地覆(ぢふく)を設け、漆喰塗壁で塞ぐ。大引に相当する材の柱との仕口は簡便な方法であるが床構造復原図参照)、材寸が大きいため(6.6×7.6寸)、柱の転倒に対して一定程度抵抗し得ただろう。

おそらく、このような経験が、その後の足固めの技法へと発展する。

床構造復原図 日本の美術№245(至文堂)より 

床組は大引、根太に相当する部材はなく、桁行方向の柱間に床桁の角材で、厚み約3寸の板を直接受けている。足固めのような強固な仕口ではないが、長押と共に、軸組の変形に対して一定程度の役割をもっていたと思われる。

 

 

(2)中世の事例:慈照寺(銀閣寺)東求堂(とうぐどう)(京都市 1490年ごろの建立)

                南西からの外観                   北西からの概観

 

 

基壇はGL+約1尺。床高は基盤面+約1.8尺。軸組は約4寸角(面取り)の柱を礎石上に立て(@約6.5尺)、桁行方向だけ柱通りに足固め貫を通し、梁行・桁行両方向に内法貫、床位置の外周に切目長押、内法位置の内外に内法長押、天井近くには内部に天井長押を回して各柱を固める(古代の長押と中世以降のの併用)。

大引(@約3.25尺)の端部は柱位置では柱にほぞ差し、他は束柱で支えている。なお、1965年の修理前は土台をまわしていたという。現状は、原型に推定復元。

図・写真は日本建築史基礎資料集成 十六 書院Ⅰより 文字等は編集

    

(3)近世の事例-1:園城寺(おんじょうじ)(三井寺(みいでら))光浄院(こうじょういん)(滋賀県大津市 1600年ごろの建立)

光浄院は、同じ園城寺内に同時期に建てられた勧学院(かんがくいん)とともに、書院造の形式(床の間、付書院、違い棚、竿縁天井、付長押・・)の原型・典型とされている建物。

いずれも居住する建物ではなく、用途はそれぞれ、客殿(きゃくでん)、学問所である。

東南隅外観(中門廊)  原色日本の美術12より 右側階段が玄関(正式な入口)

 

 

GL+約2尺の基盤に十分な地形(ぢぎょう)を行い礎石を据え、5寸角の柱を立て、床位置では、外周を足固め貫、内部の柱通り足固め・足固め貫で固め、内法位置では内法貫および内法長押で固め、内法上の小壁は(厚1.3~1.5寸)で縫う。柱は、外周で@6尺5寸、大引も@6尺5寸で、端部は南北面の柱に差す。

そのため、軸組は、床位置の足固め大引、内法位置の内法貫内法長押、および小壁ので強固な籠状の立体に組み上がり、開口部の位置も自由である。広縁外周の柱は拮木(はねぎ)による架構のため、極端に少ない。

写真・図は日本建築史基礎資料集成 十六 書院Ⅰ(中央公論美術出版)より 文字等は編集

 

(4)近世の事例-2:清水寺 (京都市 現在の建物は1633年:寛永10年の再建) 

古来、観音菩薩は周囲から際立った岩石や、地の割れ目から湧き出す清水に現れるとの信仰があり、清水寺の建つ地はこの条件を満たし、平安時代以降、観音霊場として参詣人が絶えなかったという。

急峻な崖地にあるため、礼堂前にゆとりがなく、その解消のために設けられたのがいわゆる清水の舞台である(懸崖(けんがい)造り(かけ)造りなどと呼ばれる)。清水寺は頻繁に火災にあい、当初の清水寺の姿は正確に知ることができないが、地形から考え、規模は小さなものであったと思われる。

礼堂から舞台にかけては、柱および束柱通りを等高線状にひな壇を造成(一部石垣)、礎石を据えている(断面図参照)。礼堂部分の柱は礎石からの通し、舞台部分は束柱で支持した:土台上に柱を立てる。柱はケヤキ材。柱、束柱相互は数段ので固定。直接雨のあたる貫の先端には雨除け庇をかける。

舞台の床板は定期的に交換、また、床下は常時点検を行い、(くさび)の緩みなどを点検しているという。

建立にあたって、1/10の架構模型をつくって検討された。

図・モノクロ写真は国宝清水寺本堂修理工事報告書より 文字等は編集  カラー写真は日本の美術№201より

 

(5)近世の事例-1:商家 高木家(奈良県橿原市今井町 1840年頃)

完成形に達した2階建て町家の架構。土台、通し柱、貫、差物差鴨居)が、整理された形で使われている。部材寸面は全体に小ぶり。現在使われる継手・仕口もほぼ出揃っている。

  

上の写真の窓台は柱にほぞ差しこみ栓打ち。柱は礎石立てで、土台様の材は地覆。地覆の下の石は、狭間石地覆石などと呼ばれる。

 

東西両端通りに土台土台の礎石は自然石の一面を均し二段積み。他の柱は平均で厚1尺の礎石(上端均し)に立つ。地形(ぢぎょう)は川石搗き固め。土台下端は礎石にひかりつけ。基準寸法は1間:6尺5寸。通し柱多用。平均4.2寸角。

1階床は、梁間方向に@1/2~2/3間で大引を通し、中間の大引の端部は束で支持(下図参照)根太は@1/5間、柱通りではΦ3.5寸の丸太(上面削り)で足固めを兼ねる。一般の大引、根太寸法は下図。その結果、床面は堅固に固まる。

この方式は、17世紀後半の豊田家(テキスト2,3頁)も使用。慈照寺 東求堂(62頁)も同様と考えられる。

図、写真は日本の民家 6 町屋2、詳細図は高木家住宅修理工事報告書による。文字・色は編集

 

(6)近代の事例:旧登米高等尋常小学校校舎(宮城県登米市 1888年:明治21年上棟)

小屋梁にトラスを使った擬洋風建物だが、基礎・床組は足固め工法によっている。

   

          教室 足固め:雇車知栓止め(雇竿シャチ栓止め)、 廊下 框:車知栓止め。  

北上川河口の軟弱地盤の土地に建つが、地形(ぢぎょう)が確実なため(3尺6寸四方、厚1尺の割栗石搗き固め+厚1尺のたたき:版築)、不同沈下はほとんどなく、床下通風が十分で、木部の腐朽もほとんどなかった。

図は旧登米高等尋常小学校校舎保存修理工事報告書より 文字は編集

 


投稿者より

2020-10-21 11:49:36 | 投稿者より

ご訪問いただき、御礼申し上げます。

今回の投稿では、先回の第Ⅲ章2ページ分(架構例1の平面図・同基礎伏図)の差し替えが出てしまいました。

印刷していただいた方は、お手数をおかけし大変恐縮ですが、差し替えをお願いいたします。

 

架構例1と2はそれぞれ、作成・使用した年度が異なります。 (そのため、図面の向きが異なってしまい、恐縮です。)

今回架構例1の基礎伏図の差し替えをお願いすることになったのは、土台伏の再検討と基礎立上り部分の追加等からです。

約15年前作成の架構例の作図担当は投稿者でした。

当初作成の土台伏図は、4m材の使用で、「一端:隅 小根ほぞ差し割り楔締め~2間(3.636m)~もう一端:土台の継手 腰掛け鎌継ぎ4寸」を取っていました。57頁をご覧いただくと分るように、(柱仕上がり3寸8分:115㎜とした場合)柱の根ほぞのほぞ穴と鎌継ぎの先端の間隔を4寸程度(12㎝)と考えると木材の必要長さは4mを越えます。

実際の現場では、そのように加工されている例があります(通常その箇所は1、2か所のため、材端のきれいな木材を選び、根ほぞと継手の間を幾分縮める)。

ただ、テキストの架構例としては適切だろうかと考えてしまいました。「設計屋さんは、材木が全長使えると思ってるんだから」といった現場の声も聞こえてくるような気もします。

架構例1の土台伏図で、4m材の使用は、「一端は腰掛け蟻掛け~2間~もう一端4寸又は5寸腰掛け鎌継ぎ」までとして、土台伏の割り付けを変え、伴って基礎伏図も変更いたしました。

 

当時の架構例1の作図は、思った以上に詰めが甘く、柱位置(開口部)が、架構例のための間取りになっているところがあり、部分的に柱位置の変更をしました。そのため、柱の記入漏れが出てしまい、平面図のページの差し替えもお願いすることになりました。併せて、同ページの単価の部分は削除し、「参考 礎石立て例・布基礎天端に通気口を設ける例」を掲載いたします。

掲載の入れ替え、「戻り」は極力出したくないと思って作業をしていますが、故人の作業全体をまだ掴めていないようです。

 

作業に手間取っているのは、さらにPC内での図面修正作業の不慣れと、画質の強さを出すための操作に時間がかかっているからでもありますが(それでも縮小画像はかなり弱くなります)、各章内の不足・ミスをできるだけ減らすためにはある程度の時間が必要だと感じています。

 

「第Ⅳ章 土台の継ぎ手・・・・」(PDF55頁)の「上木、下木について」文化財建造物伝統技法集成より は、元テキストにはありませんが、掲載をさせてもらいました。

元テキストの図版の確認のためそれぞれの出典を開くと、ところどころに付箋が貼ってあり、その1項目になります。

「上木、下木について」は、木材を加工し組んで建物をつくる原理に触れることのできる一文ではないかと思え、故人と共に敬意を表し、掲載させていただきます。

 

投稿者自身の乏しい経験から、「分からない・分かっていない」ということは、「何が分からないことなのかが、分からない」ことだと、常々思ってきました。今もまだ分からないことだらけです。

初心に戻り、何を、どのように伝えると、分かりやすいのか、分かってもらえるのかを、試行錯誤しているブログだと思って頂けるとうれしいです。

 

次回第Ⅴ章2階床組は、一番作業量の多い章になります。今回以上に時間がかかると思います。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

                                      編集者・投稿者 下山悦子   2020.10.21