第Ⅴ章 2.8)胴差・梁・桁の継手
胴差・梁・桁は曲げの力を受けるため、継手位置は、曲げモーメント、たわみが最大になるスパン中央部を避け、管柱から5寸~1尺(150~300㎜)程度持ち出した位置が適当。
力を伝達できる継手は追掛け大栓継ぎ、金輪継ぎなどに限られる(その場合でも、建て方時は不安定なため、管柱から5寸~1尺5寸程度の位置で継ぐ)。
①追掛け大栓継ぎ(おっかけだいせんつぎ)
曲げのかかる材(胴差・梁・桁・母屋)を継ぐときに使われる確実な継手。継いだ材は1本ものと同等になる(継手を経て応力が隣へ伝わる)。
上木と下木からなり、下木を据えたあと、上木を落としてゆくと、引き勝手がついているため両材が密着する。次いで、肉厚の厚い方から栓を打つ(2本の栓は打つ向きがちがう)。
建て方の際、上から落とすだけでよく、また材軸方向の大きな移動も必要としない(多用される理由)。側面に継ぎ目線と大栓の頭が見える。管柱の根ほぞ・頭ほぞは長ほぞが適切。
継手長さは8寸(24㎝)以上、長い方が良い。手加工では、上木と下木のすり合わせを行うため、1日1~4箇所/人という。現在は加工機械が開発されている。
②金輪継ぎ(かなわつぎ)
曲げのかかる材(胴差・梁・桁・母屋)を継ぐときに使われる確実な継手。柱の根継ぎ(腐食した柱の根元の修理)などにも用いられる。
継いだ材は1本ものと同等になる。継がれる2材A、Bの端部の加工は、まったく同型で、上木、下木の別がない。二方向の目違いの加工に手間がかかる。
A、B2材を図1のように置くと、目違いの深さ分の隙間があく。両材を寄せて目違い部分をはめると中央部に隙間ができる。
そこに上または下から栓を打ちこんでゆくと、目違い部がくいこみ、図2のようにA、B2材が密着する。側面には、目違い付きの継目線が見える。
追掛け大栓継ぎとは異なり、側面から組み込むため、建て方前に、地上で継いでおく方が容易。建て方時に継ぐには、追掛け大栓継ぎが適している。
③腰掛け 竿シャチ継ぎ(目違い付)
下木を据え、長い竿を造り出した上木を落とし、上面からシャチ栓を打つ。目違いは捩れ防止のために設ける。
シャチ栓の道を斜めに刻んであるため(引き勝手)、栓を打つと材が引き寄せられ圧着する確実な継手。
材相互が密着して蟻継ぎ、鎌継ぎよりも強度は出るが、応力を十分に伝えることはできず、
曲げモーメントは継手部分で0:継手箇所を支点とする単純梁になると見なした方が安全である。
④腰掛け鎌継ぎ(目違い付き)+補強金物 土台の継手参照
丁寧な仕事の場合は、鎌に引き勝手をつくり、上木を落とし込むと材が引き寄せられる。目違いは捩れ防止のために設ける。
⑤の蟻継ぎに比べると、曲げがかかっても継手がはずれにくい。
ただし、応力を十分に伝えることはできず、継手箇所を支点とする単純梁になると考えた方がよい。補強金物は、平金物が普通で、簡易な場合はかすがいが用いられる。
⑤腰掛け蟻継ぎ+補強金物
材長の節減、手間の省力化のために、使われるようになる。応力を伝えることはできず、継手箇所を支点とする単純梁になると見なせる。
曲げがかかると鎌継ぎに比べ、継手がはずれやすい。
注 ④鎌継ぎ、⑤蟻継ぎが胴差・梁に用いられるようになるのは、耐荷重だけを重視する工法になってからである。
元来は、主に、土台や母屋などに使われてきた継手である(丁寧な場合には、母屋にも追掛け大栓継ぎを用いている)。
9)通し柱と胴差・梁の仕口
(1)隅の「通し柱」の場合
①小根(こね)ほぞ差し 割り楔締め(わりくさびしめ)・小根ほぞ差し 込み栓打ち(こみせんうち) 共に胴突付(どうづきつき)又は小胴付
隅の通し柱へ胴差・梁を取付ける確実な仕口。
割り楔締め(わりくさび) :ほぞを柱に貫通させ先端に楔を打ちこむ。ほぞの先端が広がり抜けなくなる。
込み栓打ち(こみせんうち):ほぞを柱に貫通させ柱の側面から込み栓を打つ。栓によってほぞが抜けなくなる。
割り楔、込み栓には堅木(カシなど)が用いられる。
割り楔、込み栓は、木材の弾力性・復元性を利用する方法で、確実に(きつめに)打ってあるか否かで強度に大きな差がでる。
柱内でほぞが交叉するため、ほぞを小根(こね)にする(上小根(うわっこね)、下小根(したっこね))
どちらを上小根、下小根にするかは任意。
胴差側を下小根、梁側を上小根にすれば、梁天端高さ≧胴差天端高さの場合に対応できる。
図は梁を割り楔締め、胴差を込み栓打ちにしているが、その選択は任意(両方割り楔、または込み栓でも可)。 柱は最低でも4寸角以上必要。
②小根ほぞ差し 鼻栓(はなせん)(端栓)打ち (目違い付、胴突付どうづきつき又は小胴付)
図のようにほぞの先端を柱の外に出し、柱面に沿い栓を打ち(鼻栓打ち)、ほぞを固定する確実な方法。
真壁仕様に用いられるが、ほぞが飛び出す分、材長がいる。米マツなどの割れやすい材には不向き。注 鼻=端
①、②とも、柱と胴差・梁はほぼ一体化し(胴差・梁端部はほぼ固定端となる)、半ばラーメン状になり、胴差・梁にかかった曲げに対して、柱も共に抵抗することになる。
③傾木大入れ(かたぎおおいれ) 全短ほぞ差し+補強金物
④傾木大入れ 小根(こね)短ほぞ差し+補強金物 ⑤胴突付(小胴付)+補強金物
「在来工法(法令仕様の工法)」で見かける方法。 端部加工が短いため、材は長く使える。
傾木大入れと短ほぞだけでは柱から容易にはずれてしまうため、羽子板ボルト・アンカーボルト・箱金物等で補強する。
ボルト穴径とボルト径には、必ず差があり、がたつきを生じる。またボルトの取付けナットは、材の木痩せと曲げの力の繰り返しにより緩むことが多い。
補強金物を用いても、胴差・梁は柱に緊結されないから、胴差・梁は単純梁となる。
③の全短ほぞ差しの方が小根ほぞ差しより、ねじれに強い。
(2)中間の通し柱の場合
二方~四方から胴差・梁が取付き、それぞれ二方差し(にほうざし)、三方差し(さんぽうざし)、四方差し(しほうざし)と呼ぶ。
①竿(さお)シャチ継ぎ・雇い竿(やといさお)シャチ継ぎ(目違い付、胴突付どうづきつき又は小胴付)
三方差し 竿シャチ継ぎ 胴差と梁 同面 (梁は小根ほぞ差し割り楔締め 胴突き・目違い付)
柱への胴差・梁の仕口であるが、柱を介して左右二方の材が継がれるので「・・・継ぎ」と呼ぶ。
中途の通し柱へ、胴差・梁を確実・堅固に取付けることができる。柱の刻みの関係で、柱は4寸角以上必要。四方差しの場合は、できれば4.5寸~5寸角。
胴差と梁に段差がある場合も使用可能。
一材に竿を造り出し、柱を介して反対側の材に差し込み、シャチ栓を打ち相互を固める。
シャチ栓を打つ道に、柱側に向け僅かな傾斜を付けてあるため(引き勝手)、栓を打つと両側の材が引き寄せられ、柱と胴差・梁が密着する。栓はカシなどの堅木。
胴差・梁の端部がほぼ固定端となり、半ばラーメン状の架構となる。
四方差し 竿シャチ継ぎ 梁が胴差より高い場合
竿の部分を造るには長い材が必要になるため、竿の部分を別材で造る雇い竿シャチ継ぎがある。
四方差し 雇い竿シャチ継ぎ 胴差と梁 同面
なお、図の三方差しの場合、胴差を取付ける前に梁を差し、割り楔の代わりに込み栓を打ち(胴差の胴突内に隠れるので隠し込み栓という)、
胴差も竿に対して側面から込み栓を打つ方法もある(この栓は外から見える)。効果はシャチ継ぎと同じ。
通常用いられる傾木大入れよりは手間がかかるが、この仕口を必要とする箇所は、通常、全軸組の中で限られており、軸組強度の点を考えれば、決して余計な手間ではない。
シャチ栓、込み栓、割り楔は、木材の弾力性・復元性を利用しているため、年月を経ても緩みが生じにくく、接合部自体も緩む可能性は小さい。
②傾木大入れ 全短ほぞ差し+補強金物 ③傾木大入れ 小根短ほぞ差し+補強金物 ④傾木大入れまたは短ほぞ差し+補強金物
⑤胴突き(小胴付)+補強金物 注 補強金物:羽子板ボルト、短冊金物、かね折金物、箱金物 など
②③④⑤は前項の図解参照。取付けた胴差・梁は単純梁と見なされる。
補強金物の場合、金物の取付けボルトや釘は、材の木痩せや繰り返しかかる外力によって緩みやすく、荷重の伝達の不具合、建物の揺れを起しやすい。
金物の緩みは隠れて見えないことが多いが、内装材のひび割れ、床・敷居の不陸などで現れることがある。
コーススレッドを使用すると、緩みは避けられるが、木部が割れる恐れがある。