かつて拙ブログ『科学的方法論とその応用(6) 定性から定量へ - 一人人海戦術』で、私が科学における定量的な議論を何か別のことに生かせないかと考えていた訳であるが、プロパガンダと遠まわしに言ってはみたものの、要するに嘘を見抜くには実際のデータに当たるのが最も確実だ。
相手は、「情」に訴える文章を書き連ねて理性的な判断力を失わせておいてから、嘘を真実のように述べて信じさせる。理性があっても空気を読む人は反論の機会を失ってしまう。
そうならないように、いえそれは違いますと即座に反論するときの強い味方が、定量的な議論である。「情」に訴える議論はいわば定性的な議論であり、効果は強いが乱暴この上ない。
定量的な議論がプロパガンダへの良い対策になることを示す例として、coffeeさんの『正しい歴史認識、国益重視の外交、核武装の実現 「日本の繁栄は朝鮮を南北に分断した民族の悲劇の上に成り立った」高知新聞の嘘・反マスコミデモ』を取り上げる。
まずはプロパガンダ側から、
~引用開始~
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=305562&nwIW=1&nwVt=knd
小社会
2013年07月27日07時53分、高知新聞
~中略~(小説『泥の河』を用いた雰囲気作りの後、プロパガンダ本文が来る)
泥の河が描いた貧しさから、日本は高度経済成長を経て大きく変貌する。契機となったのが朝鮮戦争による特需だ。日本の繁栄は朝鮮を南北に分断した民族の悲劇の上に成り立ったものとも言えよう。さかのぼればそれは日本の植民地支配の歴史にもつながる。
~引用終了~
雰囲気作りの文章から、ホップ・ステップ・ジャンプであらぬ方向へ着地させるのは各社新聞でもおなじみの文章であるので解説は省略。
それに対するcoffeeさんの回答
~引用開始~
まず、「朝鮮特需」がどれくらい日本の需要となったかを数字を用いて分析してみよう。
朝鮮戦争が勃発した1950年の日本のGDPは、18兆円超だった。
▼ソース▼
http://www.geocities.jp/kingo_chuunagon/kikaku/kokuryoku.html
「世界経済の成長史1820~1992年」(Angus Maddison)
▼計算式▼
156,546 (単位:100万1990年国際ドル)(1990年国際ドル≒120円)
156,546百万1990年国際ドル=18兆7千8百億円=187,855億円
一方、朝鮮戦争による「朝鮮特需」は、3年間で10億ドルと言われており、当時は1ドル360円だったので円換算で約3600億円となり、1年平均1200億円となる。
▼ソース1▼
ウィキペディア
その額は1950年から1952年までの3年間に特需として10億ドル
▼ソース2▼
PDF「朝鮮戦争と日本」芦田茂(P116)
50年(昭和25年)7月~51年(昭和26年)6月の間の特需契約高は、約3億2,900万ドル
→約3億2,900万ドル≒913億8889万円
▼計算式▼
1200億円÷187,855億円=0.0063=0.6%
つまり、朝鮮特需は、日本のGDPが約18兆7800億円だった時代に、年間1200億円の需要を発生させ、GDPを0.6%押し上げたことになる。
日本の経済成長率は、1950年に11.0%、1951年に13.0%、1952年に11.7%だった。(ソース:総務省統計局)
~引用終了~
高度経済成長時の成長への「朝鮮特需」の貢献度は最大で5.4%(0.6÷11.0)であった。社会科の授業のとき、「朝鮮特需」なるものがあったとだけ定性的に我々は習ってきたため、この手の嘘には弱いものである。社会科教育において、1950-1952年の間の高度経済成長に関して、94.6%は日本の諸先輩方に感謝、5.4%はアメリカに感謝および朝鮮にお悔やみをと、はっきり言える人間を育ててほしいものだ。なお、戦後および朝鮮戦争のときに日本に大量に流入してきた朝鮮からの難民を難民として数に入れていないから、日本の難民受け入れ数は少ないと言われているのも何とかして欲しいものだ。暇なときに数字で日本と他の先進国の状況を比較してみようと思う。
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このブログ記事で使用したデータ(当時のGDPなど)の収集や計算(為替換算など)には、大変な時間と労力を費やしました。
日曜日の早朝から昼過ぎまでかかりました。
その割には、あまり評価されず、悲しい思いをしていました。
けど、こちらで大変高く評価して頂き、非常にうれしいです。
ネットの時代になって何かと情報収集が出来るようになったものの、見つけ出して使えるような形にまとめるにはそれを職業にでもしていない限り、時間と労力は大変なもので、その上、ミスをしたら大変ですので気が抜けないものですよね。
それにしても、この手の過大評価型または過小評価型の嘘には、数字を出すのが一番の薬です。