社員の素性

2007-06-15 17:39:24 | アパート建築営業マン

このアパート建築会社では、社員の氏素性を問わない。「前科のある社員は採用しない」というような規定もあるにはあるのだが、それは建前であり、チェックはしない。

社員の大半が支店採用なので、地元の人ばかりだ。お互いを若い頃から知っている人達もいる。そのため、「アイツは、今でこそマジメに飛び込み営業をやっているのだが、昔は少年院に2回入った経歴があるんだぜ・・・」というような、過去のエピソードが耳に入ってくる。

研修でいろいろと語ってくれたラツ腕課長からして、「若い頃は愚連隊の隊長だった」ということだ。昔を知る人々が当方に語ったところでは、「課長は、若い頃は眉ゾリ・パンチパーマで、目つきが悪かった。制服には金文字で『総理大臣』と刺繍してあった・・・」という。ピーク時には暴走族の一派を率いる特攻隊長となり、千人以上もの配下を従え、暴れまわっていたらしい。

もちろん、今では落ち着いているのだが、肝の据わった人物で不思議と人望がある。部下の人達に言わせると、なんとなく「この人についていこう」という気持ちになってくるのだそうだ。

このような人達から見れば、当方は「坊や」みたいなものだ。それは仕方ないのだが、一方で、こちらは「一流企業の社員」その他も経験してきているのだから、渡ってきた世間の「幅の広さ」だけなら、負けていないとも言える(笑)。

入社研修2

2007-06-15 17:38:18 | アパート建築営業マン
一週間の新人研修には、教育担当講師の講義だけでなく、「ラツ腕営業課長の体験談を聞く」というコーナーもあった。

課長が言うには、「我が社では、契約を取り続けて生き残ることができれば、高額の報酬が得られる。その代わり、生き残ることは難しい。こうして新人が入社してきても、残念ながら大半が姿を消す」という。ちなみに、年収は3千万円なのだそうだ。企業オーナーや個人事業主ならともかく、サラリーマンなので節税ができない。毎月の住民税の支払が大変。税金を払うためには、翌年も稼ぎ続けなければならないのである。そのためには、アパートを建て続けるしかない。

「ちなみに、何人に1人くらいの割合で生き残っていけるんですか?」と質問したところ、「まあ、4~50人に1人くらいかな・・・」というのが答だった。実際、同じ時期に入社した100人のうち、2人しか会社に残っていないのだという。他の人達は入社後、数年以内に去っていった・・・。

研修が終わったとき、先輩社員に言われた。「おっ、まだ辞めてなかったか」(笑)。実際、初日の朝礼で恐れをなして辞めてしまった新人もいたという。確かに、荒い雰囲気なのは事実だ。

入社研修

2007-06-15 17:38:02 | アパート建築営業マン

同期の新入社員が別室に集められ、一週間の研修を受けた。

講師を務めるのは、教育担当の幹部社員。この人は、凄腕営業マンとして社内の尊敬を集めていた。聞くところによると、TVコマーシャルで有名な、某・太陽発電システム訪問販売会社の出身だという。訪問販売業界なら知らぬ者がいない、有名なモーレツ営業会社だ。

講師は、「アパート建築営業飛び込みマンが『東大経済学部卒・大手銀行出身』だと聞いたら、地主もビックリだな。この経歴は活かせるぞ!」という。地主より先に、同期入社の新人たちがビックリしていた。

「この会社は実のところ、アパートを建てさえすれば、大変な高額収入が得られるのだ。実際、ウチの支店にも年収2千万以上、稼いでいる人がいる。いまどき、どんな一流企業に勤めていても、これほどの収入を得られないだろう。役員にでもならない限り・・・」と、講師は語る。

「しかも、これほどの収入を得るためには、普通は大変な能力が要る。そして、長年の出世競争に勝ち抜かなければならない。だが、我が社ではそんなもの要らないのである。ひたすら飛び込み訪問して、契約を取れれば良いのだ」とも言っていた。

同期入社組は、複雑な表情だ。新聞の折込チラシで求人広告を見て「職場が自宅に近いから」という理由で集まってきた彼ら・・・。知らぬこととはいえ、まったく、トンデモない世界に飛び込んでしまったものだ。

同期入社

2007-06-15 17:37:28 | アパート建築営業マン

同期入社は、当方を入れて5人。1人だけハウスメーカー出身者がいて、残りはまったくの未経験者であった。入社した動機を聞くと、一様に「職場が家に近いから」と言う。当社を知った媒体は「新聞にはさんであった求人チラシ」なのだそうだ。

当然、当方とハウスメーカー出身者を除く3名は、このアパート建築会社に関する予備知識が皆無であった。「ここは、有名なモーレツ営業会社だ。その代わり、年収2千万プレーヤーもごろごろしている」という話を聞いて、ショックを受けている者もいた。「求人チラシに、固定給30万円と書いてあったからココにしたのだが・・・」と言う。

だが、実際のところ「固定給30万円」はウソではない。歩合制保険外交員を経験してきた当方にとっては「そこそこ安定しているな」というのが、偽らざる印象だ。その点は、ウソではない。だが、その代わり・・・・・

新入社員

2007-06-15 17:36:51 | アパート建築営業マン

初日に上司から言われた。
「この仕事には、銀行での経験を活かせそうだな。アパート建築資金の融資をさんざんやってきた上に、富裕層の好む話題~金融資産運用~に強いんだから。これで、ほかの連中に遅れを取るハズはないぞ・・・」と。

確かに、この会社の新入社員は、大半が何も知らずに入ってくる。それを思えば、予備知識が豊富な部類に属するのは間違いない。

だが、それは決定的に強力な武器とはならないのである。むしろ、「まったく予備知識がない方が、先入観を持たず無心で飛び込み訪問に専心できるので、かえってビギナーズラックで契約が取れるものだ」と、この世界ではよく言われている。

最初は何も分からないので、ただひたすら片っ端から飛び込みをかけていく。だから、運良く引っかかった家から契約が取れるのである。しかし、だんだん慣れてくるにしたがって、先入観が生まれてくる。「ココは行ってもムダだな」といったような見切りが増えてくる。そうすると、あちこち避けて通る家ができるので、段々と飛び込みの効果が薄れていくということだ。だから、この会社では、新入社員に情報を与えない。

これは、確かに一面の真理を突いている。一種の「営業哲学」と言えるだろう。だが、これが地主の間では、どうも評判が良くない。「次から次へと、何も知らないド素人の新人が押しかけてくるので迷惑だ・・・」と、迷惑そうな人が多い。

ド素人の新人が片っ端から飛び込み訪問をかけて、どこかの家で運良く「話を聞きたい」と言われたら、後は上司の出番だ。これは新人に限らず、アパート建築営業の基本スタイルとされている。

初出勤

2007-06-15 17:35:39 | アパート建築営業マン

アパート建築会社に初出勤する日がやって来た。はるばる、電車に乗って郊外の店舗に出勤した。明日からは、会社から借りた営業車で自動車通勤する予定である。店舗は、この会社が建てたアパート物件の1階にある。

「おはようございます」と挨拶したところ、「え?新人さんですか?ここは工事課ですよ」と言われた。どうやら、課を間違えたようだ。そういえば、相手は確かに作業服を着ている。営業マンではない。自分が向かうべきところは、アパート建築営業課なのだ。

考えてみれば、自分が今まで生きてきた金融の世界は、生産現場を持たず、作業服を着た技術者や職人がいない世界だった。その点で、建築会社は大いに異質な世界である。しかし、入社前のフリーな時期に色々とやってみたおかげで、作業服の世界には違和感がなくなっていた。もっとも、残念ながら建築現場の経験はない。ケガをするのが恐いので、それだけは手を出さなかった・・・。

建築営業課に行って、挨拶した。先輩社員たちは歓迎してくれた。さすがに経歴不問で採用しているだけあって、大手銀行のサラリーマン達とは明らかに人相が違う。ヤクザとかチンピラのような人が、社内にゴロゴロしている。まさに、野武士軍団!?

朝礼が始まった。ラジオ体操とか、社訓を唱えることからスタートした。続いては、支店長の訓示。この時点で嫌になって退職した新人も、過去にいたという(笑)。この日は、大量の退職者を補充するため、5人もの新人が入社した。自分もそのひとりだ。

入社へと向かう心境

2007-06-15 17:34:58 | アパート建築営業マン

古巣の保険会社を出た当方は、さっそく「退職証明書」をアパート建築会社に宛てて郵送した。これで、入社手続は完了。あとは入社を待つだけだ。

求人雑誌でこの会社の求人広告を見てから、まだ4日目だった。明後日は、もう初出勤の予定だ。1週間とかかっていない。先週の今頃とは、状況がガラリと変わったものだ。

今度は「アパート建築・土地活用の仕事をやる」と、周囲に宣言した。周囲の反応は、「ようやく再就職する気になったか」と評価する声もあったが、「なぜ、そんな仕事をするのか?」というような疑問の声もあったのは事実だ。それに対して、明確な答はない。

思えば、銀行勤務時代、周囲は銀行員ばかりだった。今でこそ、銀行には証券会社や保険会社、さらには他銀行からの転職者が大勢いるのだが、かつては全員が新卒入社で終身雇用の、純血に近い組織であった。「銀行を辞めたあと、どうすれば良いか」を相談しようにも、周囲の誰も他の世界を知らなかった。あたかも「人間は死んだらどうなるのか」を、生きている人間同士でどれだけ議論しても永久に結論が出ないのと同様、とりあえず銀行を辞めてみなければ、広い世間を知りようがなかったのである。

いまや、自分にとっての世間は、格段に広がっている。保険会社を退職して以来、まったくの根無し草も同然となり、世間という大海を流浪している。こうなると、人は今までと違った目で世の中を見るようにもなってくるものだ。

人生は短い。既に30数年を浪費し、ライフステージは周回遅れの感がある。いまさら普通のサラリーマンに戻ってやり直すというのは、余りにまだるっこしい。どうせやるなら、当たれば大きく稼げる仕事をやった方が、可能性があるだけマシだ。

古巣の保険会社にて3

2007-06-15 17:34:33 | アパート建築営業マン

マネージャーが、「退職証明書」にサインしてくれた。マネージャーは、当方と同じ銀行の出身。空前の金融大不況の中でカリスマ的な求心力を発揮し、多くの銀行員をスカウトして集めた。その中には、退職した人も多いのだが、保険の仕事で順調に伸びている人もいる。人それぞれだ。

外資系保険会社では、管理職になって人の上に立とうと思うならば、単に日々の仕事を地道にこなしているだけでは足りない(もちろん、原則には例外がつきものなのが世の常ではあるが・・・)。自ら、外部からスカウトして人材を集めなければならないのである。自力で集めた人材により、新しい部署を構築する。独立して保険代理店を創業するようなものだ。

外資系保険会社では、年収数千万の社員と、年収100万~200万の社員とが机を並べて仕事をしている。通常のサラリーマンの世界とは、まったく異なる。アパート建築会社もドラスチックな世界だが、これほど貧富の差は開いていない。

「今度の仕事は、固定給いくらなのか」という質問を受けた。これから入社するアパート建築会社では、固定で月給30万円、その上に歩合給がつく。この点だけを見るならば、フルコミッションの保険営業マンと比べて、非常に安定していると言える(あくまでも、この点だけを見れば、の話だが・・・)。

保険会社にも、このくらいの固定給があったなら、人集めはずっと容易だっただろう(笑)。

古巣の保険会社にて2

2007-06-15 17:34:05 | アパート建築営業マン

「おひさしぶりです。今日は、『退職証明書』にサインしてもらうために来ました」という具合に、当方は挨拶した。

みんな、がんばっているようだ。先輩社員のひとりに、「『3年続けたら、それだけで偉い』と言われる保険の仕事を、まだ続けてるんですか。すごいですね」と声をかけたところ、「まだとは何だ、まだとは」と怒られた。もっとも、この先輩も、それから数ヶ月後に退職したのだが・・・・・。

歩合制保険営業は、積み上げの世界である。仕事が軌道に乗るまでは大変なのだが、契約を取り続けて、保有契約高が積み上がってくるにつれて安定収入が確保され、安泰となる。保有契約を子供に承継することも可能だ。普通のサラリーマンの世界とは、まったく異なる。独立志向の人にとっては、魅力ある世界であることに間違いはない。だが、その代わり・・・・・(以下略)。

「あれから、だいぶ経ったなあ。今まで、何してた?」と聞かれた。当方が、近所の電機屋でアルバイトしているとこを見かけた、という証言もあったそうだ。「アイツは、冷蔵庫や洗濯機の配送・据付をやっていたぞ」というのだ。

確かに、そういうこともやっていた。せっかくフリーな状態になったので、いろいろやってみようと思ったのである。

古巣の保険会社にて

2007-06-15 17:33:33 | アパート建築営業マン

当方が保険会社のオフィスに姿を現すと、元・同僚たちは驚いて立ち上がった。
「おー、懐かしい・・・!」、「生きてたか・・・」という、感嘆の声が洩れる。

多くは、同じ時期に大手銀行を退職してこのオフィスに移ってきた。苦楽を共にしてきた仲間だ。もっとも、当方は途中から食えなくなってきたので、お先に失礼して退職したのだが・・・。

あの頃、日本経済は、今となっては思い出すのも難しいほどの大不況だった。日本は、まさに土俵際まで追い込まれていた。特に、銀行業界は最悪だった。あたかも沈む船からネズミの大群が逃げ出すように、銀行から人材が続々と流出し、転職市場は銀行出身者で急にあふれ返ったのである。そんな中、保険ビジネスで一旗揚げようと、果敢にチャレンジした人々がここにいる。

だが、『歩合制保険外交員』は、「年間30万人が流入し、30万人が流出する」と言われるほど人の出入りが激しい世界だ。「3年続けたら、それだけで偉い」と言われるほど、保険で食っていくのは難しい。

ましてや「学力抜群の秀才! その上、保険営業マンとしてもヤリ手で、保有契約高を積み上げ、独立代理店になって大成功!!」とかいうのなら、本当にたいしたものだ。「素晴らしい」の一言に尽きる。だが、なかなかそうもいかないのが人間だ。やはり、天は二物を与えないのである。

しかし、一敗地にまみれたとはいえ、当方はまだ懲りていなかった。あたかも、神に再び戦いを挑んだ堕天使ルシフェルのように、またしても、今度は『アパート建築飛び込み営業マン』として無謀な再挑戦をしつつあったのである・・・。