ヘタレ課長

2007-10-11 22:49:04 | アパート建築営業マン
 
この会社では、毎日、飛び込み営業する。営業課の全員が車で現地に移動し、現地解散・現地集合だ。
 
ある日、車で飛び込み現場に移動中、先輩社員の1人が「実はかつて、警察につかまったことがある」という話になった。いわく、「ある奴からカネを取り上げようとして待ち合わせ場所に向かったところ、待ち伏せていた警官に、恐喝で現行犯逮捕された。あの時はすっかり、ハメられた・・・」という。それ以来、反省して改心したそうだ。今では真っ当な社会人となり、こうしてアパート建築飛び込み営業をやっている。
 
それを聞いた当方は、「へえ、奇遇ですね。実はボクにも、同じような経験があるんですよ。立場は逆だったけど・・・」という話をした。「中学生のとき、橋を渡っていたら、工業高校の学生2人組に『カネをよこせ』と言われた。その場では黙って財布を渡し、2人組が去ったところで公衆電話から110番したところ、すぐに警察が来て捕まえてくれましたよ。あの速さには正直、驚いた・・・」。
 
すると、別の先輩社員がプッと吹き出した。「警察につかまった人、つかまえさせた人。まったく対照的な人生を送ってきた人たちが、今はこうして一緒にアパート建築飛び込み営業をやっている。これが、世の中の面白さだわな」と言って、皆で盛り上がったものだ。
 
そのとき、課長がボソリと言った。「お前は、よくそういうことが平気でできたな。俺だったら、工業高校の学生に仕返しされるんじゃないかと思って、とても出来んぞ。『あの野郎、警察にチクりやがったな』といって恨まれたら、どうする・・・」。
  
それを聞いて、その場はシーンと静まり返った。それ以来、この課長には「ヘタレ課長」という、不名誉なアダ名がついてしまった。「昔は不良だった」はずなのだが・・・。
 

自社物件への引越し

2007-10-10 17:21:58 | アパート建築営業マン
  
入社以来、当方は片道1時間以上かけて自動車通勤していた。会社にいるのは大半が地元出身の人達で、遠くから通勤している人は数えるほどしかいない。朝早くから夜遅くまで飛び込み訪問している(少なくとも、建前上は)という仕事だけに、遠距離通勤はきつい。
  
あるとき、課長に勧められた。「そろそろ、会社の近くに引っ越したらどうか」という。
 
この会社はアパート建築会社だけに、多数の自社物件を抱えている。このご時勢、空室を埋めるのは大変だ。建築営業部隊のほかに賃貸営業部隊がいて、モーレツ営業により入居者斡旋を受けているから、なんとか空室率は低く抑えている。だが、立地条件の悪い物件も多く、とてもすべては埋まらない。
  
そういうときは、「社員を住まわせてでも空室を埋める」という手がある。空室を埋めるのに使われているのは確かだが、初期費用や家賃を補助してくれる点は、ありがたい。アパート建築会社に住んだメリットを感じるところだ。引越し物件を選定することにした。 
   
課長は、ナゼか燃えている。「引越しを手伝う」と意気込んでいた。
 
同期入社の「歩兵」は、なんとか会社に出てきていたが、この課長とは仲が悪かった。もっとも、それは歩兵に限った話ではなかった。実のところ、課長と仲のいい人は一人もいなかったのである。
   
課長は、何かといえば当方に話しかけてきた。いわく、「昔は不良だった」そうなのだ。「中坊の頃、高校生とケンカしていた」と語った。「あるとき、河川敷でケンカした。ナックルをつけた拳でブン殴ったら、相手は顔から血を流していたよ」という。なんとも、恐ろしい話だ・・・。
  
しかし、この話を先輩社員2名にしたところ、彼らはプッと吹き出してしまった。「ナックルをつけてブン殴っただって?」、「そんなことしたら、血が出たくらいで済むものか」と失笑している。「それは、ケンカをしたことのない奴のセリフだ」という結論に落ち着いた。
 
たしかに「昔は不良だった」ようには、正直なところ、とても見えない。「見るからに運動神経が鈍そう」というのが、見た目の印象だ。もっとも、「運動神経」と「不良」とは、別問題なのだが。
 

さんぽんかん氏

2007-10-09 20:55:14 | アパート建築営業マン
   
49歳の新人は、何を言ってるのか聞き取りにくい人物であった。何を言っても「あばばばば・・・」という風に聞こえる。
  
この会社では、毎朝、朝礼がある。代わる代わる朝礼当番があるのだが、当番は「三分間スピーチ」をやることになっていた。ある日、この人物が朝礼当番になった。
 
相変わらず、言語不明瞭、意味不明だ。何を言っても「あばば・・・」という風に聞こえてしまう。「それでは、三分間スピーチを始めます」と言おうとして、「さんぽんかんスピーチ」と発音したため、失笑がわいた。それ以来、「さんぽんかんスピーチ」というアダ名がついてしまった。
 
しかし、「さんぽんかん」氏は大変な努力家であった。一日に何十件も飛び込み訪問し、夜もサボらずに訪問する。面談記録は、膨大な枚数だ(どう面談しているのかは、知らないが・・・)。会社から言われた通り、忠実に実行している。
  
「彼は凄いですね」と当方は言った。他の新人も、「とても真似できないな」と言った。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」という格言があるのだが、これは真理である。これだけやっていれば、どこかで遊休地を抱えた農家が、アパート建築に関心を示してくれるのではないか。
 
訪問した家を地図に丹念に記録し、それがまた、見るだけで疲れるほど大量の記録になっていた。見ているだけで、自然に頭が下がってしまう。さんぽんかん氏には、尊敬の念が湧いてきた。こんな人には、「営業の神様」が微笑むに違いない・・・。
 
だが、天はさんぽんかん氏に微笑まなかった。いつまで経っても、結果が出る兆しもない。気のせいか、だんだん、顔が引きつってきているのを感じる。マジメ過ぎるだけに、精神的に逃げ場がないのかもしれない。
 
もっとも、こちらも他人の観察ばかりしてる場合じゃないのだが。