《ネット小説ランキングより来られた方へ》
はじめまして、kouといいます。
僕の小説に興味を抱いてくださってありがとうございます。
ここはブログがメインなのですが、少し小説も置いてあります。
カテゴリーのオリジナル小説のところにおいてありますので、もしよろしければそちらもご覧下さい。
もちろん、ブログの方も読んでいただけると幸いです。
拙いものばかりで構成されているブログですが、暇なときにはまた遊びに来て下さい。
これからも、どうかよろしくお願いします。
では、前置きが長くなりましたが、小説の方をどうぞ。
~映画談義~
「よう、相棒」
水曜日の放課後。雑誌を読みながら帰宅途中のオレを、嫌な現実に引き戻したのは、そんな聞き慣れない一言だった。
……相棒?
日常生活でそんな単語を耳にしたのは生まれて初めてだ。どこの誰だ、そんな座り心地の悪い呼び方でひとを呼ぶのは。
雑誌から目を離し、足を止めて辺りを見回す。するとオレと同じ学生服を着た男が、にこやかな笑顔で近づいてくるのが目についた。
紡城由岐斗。小学校からの腐れ縁が結ぶ、我が悪友だ。
「俺を置いて先に帰るなんて、つれないじゃないか」
由岐斗が馬鹿なことを言う。冗談じゃない。オレは孤独を愛する男だ。誰であろうと、容赦なく置いて帰る。
「ひとを相棒なんて呼ぶ奴は置き去りにされて当然さ」
肩をすくめ、冷やかに切って捨てる。
それから、雑誌をひらひらと振ってみせた。
それを別れの合図に、楽しい読書の時間に戻るつもりだったのだ。
出来なかった。手の中の雑誌は、突如として消えてしまっていた。
「おいっ、なにを!」
しやがるこの野郎、とばかりに歯を剥き威嚇する。
だが、由岐斗はオレのことなどお構いなしに、雑誌を車道に投げ捨てた。
「おいおい、親友が話し掛けてんだ。雑誌なんか後にしろよ」
俺に向ってにこやかな笑顔をみせる由岐斗の後では、いままさに放られた雑誌がトラックの荷台に乗り、視界から消え去っていくとこだった。
「てめぇ!」
オレは怒りに駆られるまま、ファイティングポーズを取った。
現在『週刊少年マガジン』で絶賛連載中の『あひるの空』は、オレがいま一番気に入っている漫画だ。これを読むのを楽しみに、一週間過ごしているといっても過言じゃない。それを読む前に捨てられたとあっては、腐りきった縁を切るに充分な理由だ。
「熱くなるなよ。たかが雑誌の一冊ぐらい」
由岐斗は涼やかな顔でそう云う。オレの拳を軽やかに躱しながら。
「うるせぇ。『あひるの空』を馬鹿にするなよ!」
こいつの喧嘩上手は知っていたが、それでも、かすりもしないというのは頭に来る。オレはギアの速度を上げた。さすがに由岐斗も防御するようになった。もう馴れ合いというレベルではなく、お互い本気に近い。
「しねぇけど、落ち着けって。なっ、相棒」
まだ云ってる。が、確かにこれでは埒が明かない。長い付き合いの中で、腕力でなにかが解決したことはまだ一度もない。とりあえず、相手の話を聞くか。
「ちっ。落ち着くのはいいが、相棒はやめろ。気色悪い」
拳を収め、オレは荒い息も整える。
「なんだ、相棒が気に入らないのか? いい響きじゃないか。それに、なにをするにしたって相棒は大事だろ」
含みのある、嫌な言い方をする。こいつの悪い癖は影響を受けやすいということだ。感受性が強い、なんて綺麗なものではなく、見聞きした良いな、と思うものをすぐ取り入れたがるのだ。
きっと、相棒もなにかの影響に違いない。
「それ、なんの話?」
「映画の話。この間テレビでやっていただろ。『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』って。お前観てないの?」
ほら、みろ。思った通りだ。
この間までは内藤大助選手の影響でボクシングにはまっていた(ちなみにボクシングにはまるのはそれが最初ではなく、もう何度目かも解らないくらいだ)。その前は確か『バンビ~ノ』の影響でイタリアンシェフだった。
見境なんかありゃしない。気になったものはなんにでも食いつく、がっついた奴なのだ。
ちなみにオレはその映画、
「観たよ。映画館でな。今更そんな古い映画を持ち出すな」
『サハラ』の公開は2005年だ。そりゃあテレビではこの間放送されたばかりかもしれないが、オレにとっては今更過ぎる映画だ。
「古くても良いものは良い。面白い映画だったろ?」
確かにそれは認める。主人公ダーク・ピットが一枚の金貨に導かれ、サハラ砂漠で繰り広げる大冒険活劇。全体的にしょぼいな、と感じる作品ではあるが、充分に楽しむことが出来た。それはやはり、
「魅力的だったろ、あの相棒」
由岐斗の言う、相棒のアルのキャラクターが際立っていたお陰だ。
たぶん、主役のダークとヒロインのエバだけでは、あの映画はそう盛り上がりはしなかっただろう。相棒のアルが陰となり日向となり場面を支えてくれたからこそ、あの映画は面白かったのだ。
「わかった。お前の言いたいことは、半分だけな。で、俺を良き相棒にしてどうしたいんだよ。宝探しにでもいくつもりか?」
俺としてはうんざりした口調で言ったつもりだったが、由岐斗の満面に張り付いた笑みは剥がれない。
「さすが相棒。以心伝心」
おまけに肩に手まで回してきやがった。
「マジかよ。映画観て宝探しって、お前はどこののび太だよ」
そして俺はドラえもんじゃねぇ。肩の手を邪険に払いながら、ついでにローキックもお見舞いしてやる。
突込み代わりと、鬱陶しさを表現する攻撃は、綺麗に決まったが相手は怯まなかった。
手加減していたものの、少しぐらいは痛がる素振りを見せても良いだろうに、まったく可愛げがない。
「なんだよ。楽しいぞ、宝探し。二人で駱駝に乗って砂漠を旅してさ、胸躍る大冒険の果てに、金銀財宝を掴もうじゃないか」
俺は記憶を探ってみた。あの映画にそんなシーンがあっただろうか。いや、なかったような。定かじゃないが、相棒のアルは無理やり駱駝に乗せられて嫌がっていた気がする。
「ふざけんな。馬も乗ったことないのに、駱駝なんか乗りこなせるもんか。ていうか、オレ暑いの苦手」
ましてや砂漠。喉も渇くし耐えらんないね。
「じゃあ、海は? 広いビーチ。澄んだ海。金髪美女に山のような財宝」
砂漠にこだわらない、というのが節操のない由岐斗らしい。だが、その案は悪くない。金髪美女という言葉に、初めてオレの心が揺らいだ。
「いいねぇ。もちろん、グラマーな? いわゆるセクシーダイナマイツという?」
色々と浮名を流して来たオレでも、金髪のお相手はしたことない。大和男子としては、ぜひとも果たさねばならない本懐だ。
「そうそう。あと巨大ダコな」
今日の放課後、初めて浮かんだオレの笑顔が瞬時に凍りついた。
「もしくはイカ。もちろん、海賊はデフォーで」
由岐斗は当然のことのように淡々と続ける。
「オイ、ちょっと待て。それなんの話?」
オレは由岐斗の肩を掴んで遮った。
「敵の話。冒険には敵が付物だろ」
『サハラ』の敵役は軍隊だっけ。海賊がデフォーでイカやタコが出てくるとなると、『パイレーツ・オブ・カリビアン』に話が変わっている。
というか、冒険が付き物だというならば、当然アレも付物なのだろうな。
「その流れだと、相棒が無駄に苦労したり、ピンチになったりするのもアリみたいだが……」
オレが言うと、由岐斗は自信満々に、拇印を押すように親指をつきたてて、
「心配するな。ちゃんと助けてやるから」
ありがたくもなんともない台詞を吐きやがった。
オレはおもいっきり拳固をお見舞いしてやった後で、頭を押さえていたがる由岐斗に、肝心な質問をした。
「つーか、お前さ。宝はどうすんだよ。あてはあんの? お前に宝探しの才能はあんのかよ?」
驚いたことに由岐斗は自信満々に。拳さえ握ってみせやがった。
「もちろん、あるとも。和製インディと呼んでくれてもいいくらいだぜ」
だから、映画が変わってるつーの。
「だったら、オレがいまから言うもの探して来いよ」
別に意地悪をしようというわけではなく、オレとしては真面目に由岐斗の力量を試すつもりだった。
「お安い御用さ。で、なにを探すんだ」
それを解ってくれたのか、由岐斗が力強い返事で応える。
「さっきお前が投げた俺の『マガジン』」
由岐斗の顔が笑顔のまま凍りついた。
「オッケー。ちょっと待っててくれ」
数秒後、由岐斗はそう言って走り出した。
その姿が近くのコンビニに消える。
夢とロマンをコンビニで買う奴とは付き合いきれないな、とオレは思ったので、相棒を置いてその場を立ち去った。
ホント、相棒を選ばないとろくな目に合わない。
数年前に映画で学んだことを、再確認した放課後だった。
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~映画談義~
「よう、相棒」
水曜日の放課後。雑誌を読みながら帰宅途中のオレを、嫌な現実に引き戻したのは、そんな聞き慣れない一言だった。
……相棒?
日常生活でそんな単語を耳にしたのは生まれて初めてだ。どこの誰だ、そんな座り心地の悪い呼び方でひとを呼ぶのは。
雑誌から目を離し、足を止めて辺りを見回す。するとオレと同じ学生服を着た男が、にこやかな笑顔で近づいてくるのが目についた。
紡城由岐斗。小学校からの腐れ縁が結ぶ、我が悪友だ。
「俺を置いて先に帰るなんて、つれないじゃないか」
由岐斗が馬鹿なことを言う。冗談じゃない。オレは孤独を愛する男だ。誰であろうと、容赦なく置いて帰る。
「ひとを相棒なんて呼ぶ奴は置き去りにされて当然さ」
肩をすくめ、冷やかに切って捨てる。
それから、雑誌をひらひらと振ってみせた。
それを別れの合図に、楽しい読書の時間に戻るつもりだったのだ。
出来なかった。手の中の雑誌は、突如として消えてしまっていた。
「おいっ、なにを!」
しやがるこの野郎、とばかりに歯を剥き威嚇する。
だが、由岐斗はオレのことなどお構いなしに、雑誌を車道に投げ捨てた。
「おいおい、親友が話し掛けてんだ。雑誌なんか後にしろよ」
俺に向ってにこやかな笑顔をみせる由岐斗の後では、いままさに放られた雑誌がトラックの荷台に乗り、視界から消え去っていくとこだった。
「てめぇ!」
オレは怒りに駆られるまま、ファイティングポーズを取った。
現在『週刊少年マガジン』で絶賛連載中の『あひるの空』は、オレがいま一番気に入っている漫画だ。これを読むのを楽しみに、一週間過ごしているといっても過言じゃない。それを読む前に捨てられたとあっては、腐りきった縁を切るに充分な理由だ。
「熱くなるなよ。たかが雑誌の一冊ぐらい」
由岐斗は涼やかな顔でそう云う。オレの拳を軽やかに躱しながら。
「うるせぇ。『あひるの空』を馬鹿にするなよ!」
こいつの喧嘩上手は知っていたが、それでも、かすりもしないというのは頭に来る。オレはギアの速度を上げた。さすがに由岐斗も防御するようになった。もう馴れ合いというレベルではなく、お互い本気に近い。
「しねぇけど、落ち着けって。なっ、相棒」
まだ云ってる。が、確かにこれでは埒が明かない。長い付き合いの中で、腕力でなにかが解決したことはまだ一度もない。とりあえず、相手の話を聞くか。
「ちっ。落ち着くのはいいが、相棒はやめろ。気色悪い」
拳を収め、オレは荒い息も整える。
「なんだ、相棒が気に入らないのか? いい響きじゃないか。それに、なにをするにしたって相棒は大事だろ」
含みのある、嫌な言い方をする。こいつの悪い癖は影響を受けやすいということだ。感受性が強い、なんて綺麗なものではなく、見聞きした良いな、と思うものをすぐ取り入れたがるのだ。
きっと、相棒もなにかの影響に違いない。
「それ、なんの話?」
「映画の話。この間テレビでやっていただろ。『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』って。お前観てないの?」
ほら、みろ。思った通りだ。
この間までは内藤大助選手の影響でボクシングにはまっていた(ちなみにボクシングにはまるのはそれが最初ではなく、もう何度目かも解らないくらいだ)。その前は確か『バンビ~ノ』の影響でイタリアンシェフだった。
見境なんかありゃしない。気になったものはなんにでも食いつく、がっついた奴なのだ。
ちなみにオレはその映画、
「観たよ。映画館でな。今更そんな古い映画を持ち出すな」
『サハラ』の公開は2005年だ。そりゃあテレビではこの間放送されたばかりかもしれないが、オレにとっては今更過ぎる映画だ。
「古くても良いものは良い。面白い映画だったろ?」
確かにそれは認める。主人公ダーク・ピットが一枚の金貨に導かれ、サハラ砂漠で繰り広げる大冒険活劇。全体的にしょぼいな、と感じる作品ではあるが、充分に楽しむことが出来た。それはやはり、
「魅力的だったろ、あの相棒」
由岐斗の言う、相棒のアルのキャラクターが際立っていたお陰だ。
たぶん、主役のダークとヒロインのエバだけでは、あの映画はそう盛り上がりはしなかっただろう。相棒のアルが陰となり日向となり場面を支えてくれたからこそ、あの映画は面白かったのだ。
「わかった。お前の言いたいことは、半分だけな。で、俺を良き相棒にしてどうしたいんだよ。宝探しにでもいくつもりか?」
俺としてはうんざりした口調で言ったつもりだったが、由岐斗の満面に張り付いた笑みは剥がれない。
「さすが相棒。以心伝心」
おまけに肩に手まで回してきやがった。
「マジかよ。映画観て宝探しって、お前はどこののび太だよ」
そして俺はドラえもんじゃねぇ。肩の手を邪険に払いながら、ついでにローキックもお見舞いしてやる。
突込み代わりと、鬱陶しさを表現する攻撃は、綺麗に決まったが相手は怯まなかった。
手加減していたものの、少しぐらいは痛がる素振りを見せても良いだろうに、まったく可愛げがない。
「なんだよ。楽しいぞ、宝探し。二人で駱駝に乗って砂漠を旅してさ、胸躍る大冒険の果てに、金銀財宝を掴もうじゃないか」
俺は記憶を探ってみた。あの映画にそんなシーンがあっただろうか。いや、なかったような。定かじゃないが、相棒のアルは無理やり駱駝に乗せられて嫌がっていた気がする。
「ふざけんな。馬も乗ったことないのに、駱駝なんか乗りこなせるもんか。ていうか、オレ暑いの苦手」
ましてや砂漠。喉も渇くし耐えらんないね。
「じゃあ、海は? 広いビーチ。澄んだ海。金髪美女に山のような財宝」
砂漠にこだわらない、というのが節操のない由岐斗らしい。だが、その案は悪くない。金髪美女という言葉に、初めてオレの心が揺らいだ。
「いいねぇ。もちろん、グラマーな? いわゆるセクシーダイナマイツという?」
色々と浮名を流して来たオレでも、金髪のお相手はしたことない。大和男子としては、ぜひとも果たさねばならない本懐だ。
「そうそう。あと巨大ダコな」
今日の放課後、初めて浮かんだオレの笑顔が瞬時に凍りついた。
「もしくはイカ。もちろん、海賊はデフォーで」
由岐斗は当然のことのように淡々と続ける。
「オイ、ちょっと待て。それなんの話?」
オレは由岐斗の肩を掴んで遮った。
「敵の話。冒険には敵が付物だろ」
『サハラ』の敵役は軍隊だっけ。海賊がデフォーでイカやタコが出てくるとなると、『パイレーツ・オブ・カリビアン』に話が変わっている。
というか、冒険が付き物だというならば、当然アレも付物なのだろうな。
「その流れだと、相棒が無駄に苦労したり、ピンチになったりするのもアリみたいだが……」
オレが言うと、由岐斗は自信満々に、拇印を押すように親指をつきたてて、
「心配するな。ちゃんと助けてやるから」
ありがたくもなんともない台詞を吐きやがった。
オレはおもいっきり拳固をお見舞いしてやった後で、頭を押さえていたがる由岐斗に、肝心な質問をした。
「つーか、お前さ。宝はどうすんだよ。あてはあんの? お前に宝探しの才能はあんのかよ?」
驚いたことに由岐斗は自信満々に。拳さえ握ってみせやがった。
「もちろん、あるとも。和製インディと呼んでくれてもいいくらいだぜ」
だから、映画が変わってるつーの。
「だったら、オレがいまから言うもの探して来いよ」
別に意地悪をしようというわけではなく、オレとしては真面目に由岐斗の力量を試すつもりだった。
「お安い御用さ。で、なにを探すんだ」
それを解ってくれたのか、由岐斗が力強い返事で応える。
「さっきお前が投げた俺の『マガジン』」
由岐斗の顔が笑顔のまま凍りついた。
「オッケー。ちょっと待っててくれ」
数秒後、由岐斗はそう言って走り出した。
その姿が近くのコンビニに消える。
夢とロマンをコンビニで買う奴とは付き合いきれないな、とオレは思ったので、相棒を置いてその場を立ち去った。
ホント、相棒を選ばないとろくな目に合わない。
数年前に映画で学んだことを、再確認した放課後だった。
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キザっぽいというか変なというか、こういう友人…相棒をいいかんじに描いてますね。
最後(マガジン)の回収は、笑っちゃった。
数年ぶりにコッソリ感想などを…。
がんばってくだしあ。
元気してますか?
まだ書いてますか?
なにかとお忙しいかもしれませんが、また遊びに来て下さいね。