Del Amanecer

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ある舞踊家の数奇な運命~「小さな村の小さなダンサー」を鑑賞

2010-10-10 00:40:04 | CINEMA~映画
「リトルダンサー」という映画があったけれど、この映画の邦題はそれに似ているね。
原題は「MAO'S LAST DANCER」というのでまたずいぶんと趣がちがう。
邦題からすると主人公は小さな少年かと思ってしまう。確かに最初は小さな少年だけど、映画の中では主人公の少年時代は思いのほか短く、大人になってからの方がはるかに長い。

この作品は実在のバレエダンサー、リー・ツンシンの半生を描いたもの。
中国の貧しい寒村出身の主人公は才能を見出され、両親の元を離れて北京の舞踊学校で
バレエダンサーの英才教育を受けることに。
もともと望んでいたわけではないので、彼にはそれがつらくてたまらない。
でもそんな彼の磨かれざる原石のような才能をすでに理解していたツェン先生に見守られて、
ツンシンはバレエの魅力に目覚めていく。

3ヶ月という期間限定で米国ヒューストンのバレエ団を訪れた彼は、怪我をしたスペイン人
ダンサーの代役でドン・キホーテを見事に踊り注目を浴びることに。
そしてバレリーナを目指すエリザベスと出会い、2人は魅かれあう。
でも約束の3ヶ月の期限は迫っていた。
国に帰れば自由な表現は出来ないと、アメリカに留まる決意をするのだけど・・・。

ツンシンの姿にこの間観た「ベスト・キッド」を思い出した。
ベスト・キッドは北京にやってきたアメリカ人少年。
そしてこの小さなダンサーはアメリカにやってきた中国人青年だ。
もっとも彼の場合はもうワンステップあって、農村から北京に出てきた時点でも多少のカルチャーショックがある。
厳しい修行や練習を通して体得していくものがカンフーであったりバレエであったりするけれど、
何となくシャオ・ドレとツンシンの姿が重なって見えた。

そしてツンシンの姿にバリシニコフも重ねあわせる。
ミハイル・バリシニコフ(ミーシャ)はソ連邦時代にアメリカに亡命する。
祖国に2度と帰れない、家族とも2度と会えないというつらい代償を払ってでも、芸術家として自由に表現できる世界で深呼吸して生きていきたかったのだ。
映画の中で、ツンシンを温かく見守って指導してくれたチェン先生が命がけで渡してくれたのが
ミーシャのビデオだった。
宙を舞うように高く飛翔する若き日のミーシャ。
ツンシンはその羽のような軽やかさに驚き憧れる。
政治に影響されない純粋な芸術としてバレエを主張するチェン先生は反体制派として当局に
拉致されてしまう。
恩師の後姿をなす術もなく見送るしかなかったツンシンの気持ちが痛いほど伝わってくる。

アメリカで彼が得たものは自由だ。
芸術家は自由でなければならない。
芸術に政治が介入することは許されないことなのだ。
家族の身を案じつつも踊り続けるツンシンの芸術家としての苦悩が切ない。

でもついに時が満ちる。
幸いにもすべてが取り戻せる時がきたのだ。
アメリカに招待されたツンシンの両親は、かつてのミーシャのように軽やかに跳躍する息子の姿を客席から驚愕の眼差しで見つめる。
舞台の上での親子の熱い再会。
そして帰郷を果たし、故郷の人たちの前でパートナーと軽やかに舞うツンシンを、あの恩師ツェン先生が見ていてくれた。なによりもうれしい再会だった。

時代は変わる。
ミーシャもソ連邦が崩壊して再び祖国の地を踏むことができた。
そしてツンシンも自由に両親や恩師と会うことが出来るようになった。
でも・・・昨今のニュースはどうだろう?
例えば昨日のノーベル平和賞に関するニュースは・・・。
未だに悲劇は続いているのだ。
彼の国で人々が本当の自由を手に入れる日はまだ遠いのだろうか。
そうではないことを心から願いたい。

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「小さな村の小さなダンサー」
原題「MAO'S LAST DANCER」2009年・オーストラリア
鑑賞日: 2010年10月8日(金)10:50~(117分)
映画館: シネスイッチ銀座







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