Del Amanecer

スペインとフラメンコ、ビセンテ・アミーゴと映画とフィギュアスケートについて

ラウルにとってのオペラ座の怪人

2006-09-26 18:48:44 | オペラ座の怪人
この映画の主役は誰か?
主役はもちろんファントムなのだろうけれど、クリスティーヌとラウルとファントムの3人すべてが主役なのだとも思える。
3人のうちの誰がいなくても物語は成り立たないし、3人のすべてが重要な人物なのだ。
3人の間にはそれぞれにお互いを思う感情が存在し、ファントムとラウルの間にさえも、最後は憎しみや驚異ではなく、友情や理解とも解釈できる一種の愛情が生まれる。
それはお互いがお互いを理解する時に生まれる「愛情」なのだ。

何の予備知識もなく初めてこの物語に触れる人には、最初のオークションの場面で猿のオルゴールが一体なんなのか分かるはずはない。不自由な体を押してオークションで必死にオルゴールを競り落とす老ラウルが一体何者なのか、その時はまだ分からない。
また、クリスティーヌが光あふれる舞台で輝くような美しい笑顔で歌う「Think of me」の歌詞の意味は、初めて観た人にはこの時はまだ分からないのだ。それがどれほど深い意味を持つ歌であるのか。
すべての意味が深くつながっていることに気付くラストに、観客は愕然とする。
または、一度観ただけでは気付かないかもしれない。
二度目を観たとき、ラストまで知っているがゆえにこれらのシーンや歌の意味に気付いて、この物語の深さに、監督の意図に胸を揺さぶられることになるのだろう。
(実は私もその一人…。)



私はファントムのファンではあるけれど、今回涙した場面は、「Think of me」と続くクリスティーヌとメグの歌うシーン、そして屋上のシーン、それにラストシーン。
ラストシーンというのはファントムの場面ではなく、老ラウルがお墓にオルゴールを置く本当のラストシーンの方だ。映画版は舞台にはないこのシーンを描くことで深みが増したのだと思う。このシーンは賛否両論のようだけど、私はこのシーンがある方が好きだ。
屋上のシーン。若く美しく怖れるものなど何もないと信じていたラウルとそんな彼に惹かれる輝くばかりのクリスティーヌが愛の歌を歌い、陰で涙にくれながら二人に復讐を誓うファントムが描かれる。しかし、そこからマスカレードの花火が上がる迄の間に、老ラウルが車の渋滞にまきこまれて、ショーウィンドウの前に仲良く立つ見知らぬ若い恋人達にあのオペラ座の屋上でクリスティーヌと愛を誓った場面を思い出すささやかなシーンが挟まれているのだ。ショウウィンドウのガラスを伝う雨が涙のように流れ落ちていく。
どんなに若く美しくても人はみんな年を取り、いつかは天に召される。
若い時にはそんなことは誰も考えもしないものだ。

年を取り、クリスティーヌが天に召されて永遠の別れを知るラウル。
自分の胸の痛みをファントムに重ね合わせたのかもしれない。
ファントムと別れたあとのクリスティーヌもまた、別れたことでどんなにファントムがかけがえのない存在であったのかを知らされる。ファントムのいない人生。愛の形はひとつではないのだ。ファントムが全身全霊でクリスティーヌに注いだ愛情が大輪の深紅の薔薇となって花ひらいた時、ファントムは彼女のそばにはいないのだ。
その後決して会うことは出来なかったけれど、二人の想いはそれぞれの場所で存在し、会えないからこそ永遠になったのだと思う。
そんな二人の愛を感じ取りながらラウルもまたファントムへ無言のエールを送ったのだろう。オルゴールはクリスティーヌとファントム二人の愛を認めた証なのだから。



若さは永遠には続かない。「Think Of Me」にも歌われているように花は枯れ、人は年を取り、すべては変わっていく。
それでも変わらないものもあるのだということを、この物語は伝えたかったのかもしれない。

ラストのファントムの薔薇が呼吸をしているように紅に色づく時、彼らの永遠の愛を感じることができるのだ。
とても哀しく美しく決して忘れることの出来ない印象的なラストシーンだ。




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6 Comments

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今夜は涙雨… (ミ・アモーレ)
2006-09-26 20:21:51
「オペラ座の怪人」への私の想いと重なる、美しい献辞に触れ、胸が熱く満たされました。

ありがとう、Angelitaさん。

>ファントムが全身全霊でクリスティーヌに注いだ愛情が大輪の深紅の薔薇となって花ひらいた時、ファントムは彼女のそばにはいないのだ。

身を切るような想いで別れを告げたあのとき、ファントムの愛の花が開いたと思うと、切ない涙がこぼれます。

ありがとう。 (Angelita)
2006-09-26 21:11:48
ミ・アモーレさん

早速読んで頂いて素敵なコメントを頂いて感激です。

久しぶりのオペラ座との再会。

何度観ても色褪せることなく、また観るたびに深く心を熱い思いで満たしてくれる類まれな作品ですよね。

私は老ラウルがいとしくてたまりません。

若きラウルと老いたラウル両方を描くことで、クリスティーヌとファントムの想いがより強く伝わってくるような気がします。

それぞれの大切な「瞬間」を精一杯生きた3人はとっても幸せですね。哀しいけれど。
オペラ座の怪人 (shun)
2006-09-26 21:45:52
Querida Angelito,



He visto este musical hace mucho anos y no me



lo recuerdo bien. Pero era muy impresionante



de leer su comentario y photos fantasticas.



Eres super comentarista, verda!



Porque no intentar publicarlo.



Shun
iMuchas gracias! (Angelita)
2006-09-26 22:27:42
iHola, Shun! Buenas noches.

Muchisimas gracias por tu comentario.

Me alegro mucho de que hayas leido mi receña.

A mi me gusta mucho esta película.

Digo la verdad que he visto más de 30 veces!

¿Increíble, verdad?

El més que viene quizás veré otra vez.

Te recomiendo que veas esta película.

初めまして (light-light)
2006-10-01 07:32:05
harukiさんのブログよりお邪魔しました。



関東ではオペラ座が各地で再上映されているようですね。北海道でも一度再上映されまして、しっかり観に行って参りました。何度観ても魂を揺さぶられる映画ですよね。30回以上とは凄い!私はまだ10回にも達しておりません。



>ファントムと別れたあとのクリスティーヌもまた、別れたことでどんなにファントムがかけがえのない存在であったのかを知らされる。ファントムのいない人生。愛の形はひとつではないのだ。ファントムが全身全霊でクリスティーヌに注いだ愛情が大輪の深紅の薔薇となって花ひらいた時、ファントムは彼女のそばにはいないのだ。



そうなのですよね。「Think of me」はそんなクリスの心情を表した曲なのですよね。頭ではわかっているのですけれど、クリスにはもっと早くその思いに気がついてほしかったと思います。この世で結ばれなかったからこそ、二人の愛は永遠のものに変わったのですけれど。

それでも、二人が一緒になれる道があったのではと愚かな夢を見てしまうのです。我ながら悲しいです。
ご訪問歓迎します! (Angelita)
2006-10-01 16:33:29
はじめまして。コメントありがとうございます。



light-lightさんは北海道にお住まいなのですね。

東京近郊でも、このところ埼玉、神奈川と上映が続き、来週からは東京に新しく出来るシネコンでもオープニング上映が決まっていてうれしい限りです。

観ても観てもまた観たくなる作品で、気がついたら30回超と自分でも信じられない回数になっていました。



私は初めてこの映画を観たとき、「オペラ座の怪人」のストーリーはまったく知らなかったので予備知識もなく新鮮な気持ちで観ていました。

ですからラストは指輪を持ってきたクリスティーヌがファントムの元に戻ってきたのかと思い、ファントムと同じように一瞬希望を抱いてしまったのです。

でも指輪を置いて去っていく彼女にファントムが身を切られるような切ない涙を流す場面では、本当に彼に感情移入をしてしまいました。



こういう結末だからこそ人の心に強く残り、二人の愛は永遠になるとは分かっていても、私もlight-lightさんと同じにかなえられない夢をみてしまいますね。



またいつでもいらして下さい。

私もお伺いしますね!

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