その日帰宅すると、台所で中学の娘がカレーを暖めていた。あらかじめ言っておいたように、鍋底がこげつかないように、お玉でかきまわしながらあたためている。その姿に、なにかこちらもあたたまる思いであった。しかし、彼女はどうも、私の帰宅する玄関の音を聞いてから台所にたったらしく、まだまだそのときはあたためはじめであったようだ。
外出着を脱いだ私はいつものようにトイレに入り用を足した。においが少し気になり、スプレーをかけたあと、トイレを出ると、私はめんくらった。あれ、このにおいは? なにゆえ?
私より先に、テーブルでパソコンを打っていた息子が「なんか、臭くね? このにおいは…」と言いかけて、妹が暖めているものを見て口ごもった。わたしもそれを察して「どうした? カレーこがしてないか?」と娘の背中に問いかけた。娘はまさにかきまわしながら
「こがしてないよ、かきまわしてるから」とこたえるのだが、どう考えてもこのにおいのもとはその鍋の中のものらしいのだ。
いままでに二日目のカレーをあたためて堪能したことはずいぶんあるが、こんな異臭がしたことはない。どうもアノにおいとしか言いようがないのだが、まさか自分のトイレのせいかともう一度トイレをのぞいたが、さわやかな芳香のにおいしかない。においはどんどん強まっている。
そうこうする間に娘は暖め終わったカレーをごはんにかけて息子と私と3人分用意し、自分がせっせと食べ始めた。急いでいるのは書きかけの小説を続けたいからに違いない。
息子は黙って目の前の大好きなカレーをみおろしている。私はおそるおそる口に運んでみた。すると多少濃いめというか粉っぽいが味はまさしくカレーだったものだから安心して食べ始めた。「おう、大丈夫大丈夫、<味>はカレーだから」
言うと、息子もようやくカレーにスプーンをつっこみ、ひどく緩慢な動きで口に運び始めた。
そこへ妻が帰ってきたのだった。玄関あけるなり、叫んだ。
「うう、なにこのにおい、どうしたの? う○このにおいじゃない?」
息子が凍り付いた。みんなが口に出さなかったのに」
「カレーを食べているのにカレーがう○こくさいというのは最悪だな」
と、やぶれかぶれに言う私。
妻は部屋に入るとますますさわいだ。
「うわー、くさい。なに、これ、ほんとにカレーのにおい、これ?」
「いや、焦がしてはいないんだけどさ」
「焦がしたって、こんなにおいしないよ、ふつう。もしかして、腐ってたんじゃないの」
スプーンが止まった。
私が「そういえば、今日は3日めだった!」と言うと、
「やめなやめな、もう、なにやってんのみんな」
と妻が皿を回収して行った。
「えー、わたしもう食べちゃったよ」と、書きかけの小説の続きを書きたくて既に食卓を離れてパソコンを打っていた娘が言う。
私も半分くらい食べた所だったので残りは捨てた。
息子はなんと用心深く、ほんの少し口を付けた程度だった。カレーは息子の大好物なのだ。
娘が「なんか、お腹いたくなってきた」と言う。
「気のせいよ、そんな大丈夫だから」妻は自分の言動でかえって騒動をひきおこしてしまったから、今度は鎮静させようとしていた。
便秘気味の私はその後、2度もトイレに行き、息子は別のものを食べ、娘は寝てしまった。
その夜中に、娘は2度トイレで吐いた。
やはり、腐っていたのだろう。
というわけで、我が家は期せずして、あの有名なカレーにまつわる究極の選択劇をやらされたわけだが、以前は想像で、カレー味のう○こよりう○こ味のカレーをとると思っていたが、経験してみると、う○こ臭のカレーはなんとか食べられるということがわかった。だからどうだということもないが。まあ、味がカレーであってくれたことはとても大きなアドバンテージであった。
外出着を脱いだ私はいつものようにトイレに入り用を足した。においが少し気になり、スプレーをかけたあと、トイレを出ると、私はめんくらった。あれ、このにおいは? なにゆえ?
私より先に、テーブルでパソコンを打っていた息子が「なんか、臭くね? このにおいは…」と言いかけて、妹が暖めているものを見て口ごもった。わたしもそれを察して「どうした? カレーこがしてないか?」と娘の背中に問いかけた。娘はまさにかきまわしながら
「こがしてないよ、かきまわしてるから」とこたえるのだが、どう考えてもこのにおいのもとはその鍋の中のものらしいのだ。
いままでに二日目のカレーをあたためて堪能したことはずいぶんあるが、こんな異臭がしたことはない。どうもアノにおいとしか言いようがないのだが、まさか自分のトイレのせいかともう一度トイレをのぞいたが、さわやかな芳香のにおいしかない。においはどんどん強まっている。
そうこうする間に娘は暖め終わったカレーをごはんにかけて息子と私と3人分用意し、自分がせっせと食べ始めた。急いでいるのは書きかけの小説を続けたいからに違いない。
息子は黙って目の前の大好きなカレーをみおろしている。私はおそるおそる口に運んでみた。すると多少濃いめというか粉っぽいが味はまさしくカレーだったものだから安心して食べ始めた。「おう、大丈夫大丈夫、<味>はカレーだから」
言うと、息子もようやくカレーにスプーンをつっこみ、ひどく緩慢な動きで口に運び始めた。
そこへ妻が帰ってきたのだった。玄関あけるなり、叫んだ。
「うう、なにこのにおい、どうしたの? う○このにおいじゃない?」
息子が凍り付いた。みんなが口に出さなかったのに」
「カレーを食べているのにカレーがう○こくさいというのは最悪だな」
と、やぶれかぶれに言う私。
妻は部屋に入るとますますさわいだ。
「うわー、くさい。なに、これ、ほんとにカレーのにおい、これ?」
「いや、焦がしてはいないんだけどさ」
「焦がしたって、こんなにおいしないよ、ふつう。もしかして、腐ってたんじゃないの」
スプーンが止まった。
私が「そういえば、今日は3日めだった!」と言うと、
「やめなやめな、もう、なにやってんのみんな」
と妻が皿を回収して行った。
「えー、わたしもう食べちゃったよ」と、書きかけの小説の続きを書きたくて既に食卓を離れてパソコンを打っていた娘が言う。
私も半分くらい食べた所だったので残りは捨てた。
息子はなんと用心深く、ほんの少し口を付けた程度だった。カレーは息子の大好物なのだ。
娘が「なんか、お腹いたくなってきた」と言う。
「気のせいよ、そんな大丈夫だから」妻は自分の言動でかえって騒動をひきおこしてしまったから、今度は鎮静させようとしていた。
便秘気味の私はその後、2度もトイレに行き、息子は別のものを食べ、娘は寝てしまった。
その夜中に、娘は2度トイレで吐いた。
やはり、腐っていたのだろう。
というわけで、我が家は期せずして、あの有名なカレーにまつわる究極の選択劇をやらされたわけだが、以前は想像で、カレー味のう○こよりう○こ味のカレーをとると思っていたが、経験してみると、う○こ臭のカレーはなんとか食べられるということがわかった。だからどうだということもないが。まあ、味がカレーであってくれたことはとても大きなアドバンテージであった。