トムラウシ(2,141m) ((2)のつづき)
「前トム平」まで来ると、一気に風が強くなりました。前回、ちょうどこの先あたりで強風が吹き、先に進むのをあきらめた地点です。
しばらく岩陰で待機していましたが、その時よりはましと思いしばらく歩くと、強風地帯から抜け出せました。離れるとお互いに話し声が聞こえなかったのは1年前と同じでした。自分の話す声ならわかるのに、それがすぐ近くの空気に吸い取られてしまうかのようでした。
思い出すと、登山を始めて9年少しの中で猛烈な風に遭遇した場所は、強い順番に
(1) トムラウシ(2017年8月)
(2) トムラウシ(2018年8月)
(3) 羅臼岳 (2017年8月)
でした。偶然にも、3回すべて北海道の山です。そして、(1)は歩くのを断念するほどの風でしたが、(2)は通過できたので、この間で心の中に一つの限界線が引かれています。
今度は「トムラウシ公園」に出ます。大きな残雪と、巨岩と池塘とハイマツ、どれをとっても北海道らしい景色です。すり鉢のような地形だからか、風は弱かったです。素晴らしい風景で、天の配剤ですが、こんなに遠くて時間のかかる場所に「公園」と名前がついているギャップも面白いです。
岩と岩の間に、ベーグルのような色と形をしたキノコが生えています。
「美瑛富士避難小屋 17.8KM」というものすごい看板が立っています。地図を広げると、長いだけでなくアップダウンが相当あり、1日で歩き切るのも難しいと思います。
急な岩の道を登り切って、やっと山頂です。雲に隠れてまわりの様子は何も分かりませんが、はっきり分かる木製の標識があり、三角点もあります。
その雲が一瞬だけ途切れて、遠くの山々が見えた瞬間が忘れられません。
「~ きれいだぁ、これが大雪か。初めて見る、完璧なまでに”白”一色の優美な連なりに心奪われる。美しい。あぁなんて……、もうそれを言うのはよそう。
男性的な日高の山々をアルプスやヒマラヤに例えてアルペン的というなら、女性的な大雪の山々は北極や南極、何か極地的といったものを彷彿させる。 ~」
(『果てしなき山稜 襟裳岬から宗谷岬へ』志水哲也(山と渓谷社))
著者の志水氏が1993年12月から翌年5月にかけて、北海道は南の襟裳岬から冬の日高、大雪を経て、北の宗谷岬まで歩いた時の登山記です。
想像もつかないほどのスケールですが、それほどの大登山であっても、自分たちのように日帰りで登ろうとするのであっても、トムラウシがどこからも遠い場所にあることには変わらないと思いました。しかもただひたすら遠い、秘境にあるというのではなく、本当に「北極や南極、何か極地的といったものを彷彿させる」ほどの山でした。
(登頂:2018年8月中旬) (つづく)