豊かな水が舞い、太陽の光を浴びた無数の滴りが放つ宝石のような輝きは、まさに天の恵み。
その恵みのさまを穏やかにとりなすのがThe angel of the waters。
百合を手にした天使が示すのは健康、純潔、節度、そして平和。
Emma.Stebbinsによってデザインされたこの像がセントラルパークに降り立ったのは1873年のことでした。
そしてこの作品はニューヨークにおいて、公的委託を受けて世に出た最初の女性芸術家による作品でもありました。
Emma.Stebbins(1815.9.1-1882.10.25)、彼女はニューヨークで生まれ、ニューヨークで育ったいわば生粋のNew Yorker。
裕福な家庭環境に生まれ、早くから芸術を志していた彼女は、のちのニューヨーク証券取引所会頭を務めるなどしたHenry.G.Stebbinsら家族からの暖かい支援を受け、やがて渡欧し本格的な芸術活動を始動させることになります。
イタリアの地でEmmaは女優Charlotte.Saunders.Cushmanとの出会いを得て、フェミニズム、そして伝統や慣習にとらわれない’ボヘミアン’的ライフスタイルから大きな影響を受けていきました。時は未だ19世紀後半、Emmaが目指したライフスタイルは時代の何歩も先を行くものであったといえるでしょう。
やがてニューヨークに戻ったEmmaが思いをこめて世に送り出したのがBethesda Fountainの天使でした。
進歩的発想を携えて故郷に戻ったEmmaが、本来彼女が属していた階級から受け容れられることは決して容易ではなかったでしょう。
旧き慣習の支配が未だ続いていた時代、Emmaがこの銅像の製作に関わった背景には、兄Henryの存在があったといいます。
すでにニューヨークの名士となっていたHenryはセントラルパーク建設に深く関わるなかでEmmaの作品が世に残るよう導きます。
彼は生涯にわたって、愛する妹の才能を評価し、そして心からの賞賛を送り続けました。
1876年、EmmaはパートナーCharlotteの死をうけ、その喪失感から創作活動から遠ざかります。
1881年には、常に寄り添うように無償の愛情を注いでくれた兄Henryがこの世を去ります。
それからほどなくの1882年10月、彼女はニューヨークに美しい天使を遺し、自由溢れる天に昇っていきました。
天使がたたえる美しく控えめな笑みの向こうに、自ら愛し、そして愛されたEmmaが与え、そして享けた無償の愛が含められているような…見事に晴れ渡ったマンハッタンの空の下で、天使を見つめながらそんなことを感じます。
Bethesda Fountain…Central Park@E72nd st