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『技術者という生き方 ―発見!しごと偉人伝』ぺりかん社,2012年

2012年03月10日 | 上山明博の本
「この本を読まれるみなさんに」

 この本の原稿は、東日本大震災の前に、技術者をめざそうとするみなさんに向けて書かれました。私が10代の頃は、科学や技術は、夢を叶え、明るい未来を拓くという印象で、科学者や技術者は、その先端にいる頼もしい存在でした。なかでも原子力技術は、資源の少ない日本にとっては夢のエネルギー源と捉えられており、多くの優秀な学生・生徒がその研究者や技術者をめざしていました。
 2011年3月11日に震災とともに発生した、福島第一原子力発電所の爆発事故は、このような未来を描きにくくしてしまいました。少なくともこの技術は、自然災害によって大事故が発生すると、人間がこれを十全に制御することができないものであることが、明らかになってしまったのです。加えて、この事故に責任ある立場の科学者たちの言動は、今回の事故に対して、多くの人たちの不安に応えるものとはいえず、これまでの科学や技術に対する信頼を失わせています。
 このようなできごとをみて、みなさんが科学や技術に対して否定的な意見をもったとしても当然だと思います。
 今回の事故を終息させるためにも、また、これから間違いなく必要とされていくさまざまな環境技術の分野や、再生可能エネルギーなどのエネルギー源の開発や実用化をするにしても、科学技術なしでは解決できません。むしろ、その科学技術に直接たずさわらない人たちこそ、その知識が必要とされていくことになります。科学技術との関係を絶っては、どのような未来もやってこないはずです。
 特に、再生可能エネルギーをより電気や熱に効率よく変換する技術や、化石燃料をより少なく使うための技術は、ひとつのエネルギー源に頼らないためにも、今後地球規模で増える人類のためにも、今後が大きく期待される、夢のある分野といえるでしょう。
 この本でとりあげた人たちは、すこしの好奇心から始まり、困難に対しては簡単にあきらめず、さまざまな問題解決のために常に考え、時には必要な知識を学び直して、その技術を社会で役立てるために追求してきました。
 今後のみなさんの生活のなかでも、予想できないような困難に出合うことがあるかもしれません。そのときのために、これらの人たちの姿勢が参考になり、できれば、将来、新しい未来を拓くような技術者をめざす人があらわれてくれると幸いです。

                                       上山 明博

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