(続き)
大手出版社写真部 白川鉄平の目
幾つもある部屋のどこにグリコ社長がいるのかがわからなかったが出入りの多い場所はあえて
避けてひとつの部屋に的を絞りノックをしてみた。
ーはい どちら
野太いぶっきらぼうな声が返ってきた。鉄平は県警の鑑識を名乗った。
ーはいどうぞ それにしても何でまた・・・さっきかえったじゃないか?
いぶかしそうにそう言い放った。鉄平は その男とテーブルを挟んで奥に座っている少し
痩せ気味の男がグリコ社長だと気ずいた。しかし、応対した男に咄嗟に鑑識だと答えたことを
悔いていた。背広を着た鑑識は皆無に等しいからだ。
ドアを開けて 応対したのは大柄な男で幸い背を向けている。鉄平は、ミノックスを取り出し
数メートルの距離を歩く間に3カット撮影した。首に下げておいた一眼レフが使えればと思ったが
背を向けている捜査員が鉄平のいでたちをみれば違和感を覚えるに違いなく
グリコ社長が目を上げたラストの1カットが再接近のものでフラッシュを付けて写した。そして
ーすいません、部屋を間違えました となるべく落ち着いた声で言って鉄平は早足でドアに
むかった。
ーおぃおぃなんだね 君は ちょっと待ちなさい 背中から野太い声が迫ってきたが、鉄平は
ドアを締める時にわざとではないが その男にドアがぶつかった。
幾つものスクープを送り出してきた鉄平は胸の高鳴りををさえて、エレベーターを降りた。
そして一斉送信で ゴールゲット(これは隠語というか狙っていたものを撮れた。)とした。
ホテル前に車をまわしてもらい乗り込んだ。
ーいたよ、撮れてる、スクープだ
運転手に興奮気味に話しかけた。そしてプロラボに車を向かわせた。
このフィルムは手現像で、(つまり人間が現像の工程を行う) で対応してもらっている所。
もちろん秘密性の高いフィルムの現像も守秘義務をしっかり守るのである。
現像の前に白川はラボマン(現像所の人)に 「プシュ2いやちょっと待って3いや2で」と
注文をつけた。注)プシュとは増感という意味です。他に切り現という試し現像を見てという方法も
あるが、ミノックスで4コマだとしたらまずしないんの技。増感は粒子が荒れるのだが、鉄平が撮影した
4コマ最後のコマだけでも良いが・・・で迷った)現像が出来上がる間白川鉄平のもとには
ちょうど鉄平が入り込んだ際のカットが写っている
つまり ドアを開けたことで反対方向からでもその瞬間をゲットしたから向かうとの連絡があった。
その間 撮影経緯 間取り グリコ社長の様子などを本社編集長に送信した。
週刊誌なので 発売日が迫っていた。それを逃すと一周間という日にちが流れてしまい
スクープではなくなる可能性があった。
編集部は写真なしで組版にはいった。「独占スクープ 救出後のグリコ社長戟撮!}本誌だけが
撮影に成功!」
そんな文字がおどっていた。
白川の写真は 再接近した最後のカットがベストで さっそくプリントアウトしたものを
編集部に電送した