いわき市・子年生まれの”オヤジ”

草莽崛起
日本人よ、歴史を取り戻せ!

英EU離脱の衝撃

2016年07月01日 16時26分51秒 | 国際・社会
国民の不満読み違え キャメロン首相の危険な決断 「国民投票実施」の公約が裏目

 「今後数カ月、この船を安定させるためにできることをすべてやる。しかし、私が船を統率することが正しいとは思わない」

 24日朝、英国ロンドンの首相官邸前。夫人とともに姿を見せたキャメロン首相はこう述べて、辞意を表明した。紺のスーツに青いネクタイ姿。表情には時折、無念さがにじんだ。

 英国という船が、嵐の海にこぎ出そうとしている。

 キャメロン首相は経済上のリスクを訴え、欧州連合(EU)への残留に懸けた。オバマ米大統領をはじめとする各国首脳や、国際通貨基金(IMF)などの国際機関の「援護射撃」も受けた。国民投票の1週間前には、残留派の女性下院議員が殺害される悲劇が起き、世論調査でも残留派が持ち直した。

 しかし、英国民が選択したのはEUからの離脱だった。急増して社会問題と化した移民の問題で、EUに怒りの矛先を向ける国民の勢いを止められなかった格好だ。

 離脱を主導した幹部は、「英国人は外部から指示されればされるほど、拒否する気性がある。論理的に正しくても、感情的に反発する」と説明した。

 サンデー・タイムズ紙は12日付で、国民投票について「(キャメロン首相は)実施を公約すべきではなかった」と指摘していた。

 首相が国民投票実施を公約したのは2013年。危険な決断の背景には、与党・保守党内でEU離脱を志向する欧州懐疑派をなだめる半面、保守党の支持層が英独立党(UKIP)に流れるのを防ぐ狙いがあったとの指摘がある。

 EUからの離脱決定は、連合王国を崩壊に導きかねない。

 「スコットランドの未来はEUの一部となることだ」。23日の国民投票で残留支持が6割を超えたスコットランドのニコラ・スタージョン行政府首相は24日、14年に続いて独立の是非を問う住民投票の実施を検討すると述べた。独立先に見据えているのは、単独でのEU加盟だ。

 スコットランドが独立すれば、連合王国の原子力潜水艦の母港、クライド海軍基地を失う可能性が出てくる。英国の安全保障政策に多大な影響を与えるのは必至だ。

 和平合意に至った北アイルランドでもカトリック系民族主義政党、シン・フェイン党が、アイルランドとの統一を問う住民投票に言及した。デクラン・キアニー幹事長は、国民投票で北アイルランドでは残留支持が過半数を占めたのを踏まえ、「イングランドの投票結果に引きずられている。長年の要求である南北統一をかけた住民投票実施を強く求める」としている。

 300年以上の歴史を誇る連合王国が、土台から揺らいでいる。


相次ぐ危機にも動けず市民の信用失墜 「EUは問題の解決策ではなく、問題そのもの…」

 「英国の国民投票の結果に欧州中で支持の声が聞かれる。欧州連合(EU)の終わりの始まりか?」

 24日、ブリュッセルで開かれた記者会見で、EUのユンケル欧州委員長に記者が問いかけた。英国の離脱決定を受け、欧州各地では反EU勢力が同様の国民投票を目指すと相次ぎ表明した。離脱の「ドミノ現象」を懸念しての質問だ。

 「ノー!」

 ユンケル氏は不機嫌そうにひと言発し、手元の書類を取って会場を去った。

 その頃、ベルリンではEUの盟主、ドイツのメルケル首相も周囲の不安を打ち消すように声明を読み上げた。「EUは強い。正しい答えを導き出せる」

 ギリシャなどを襲った債務危機に難民・移民問題、相次ぐテロ。修羅場続きのEUに初の加盟国脱退という新たな危機が追い打ちをかけた。今度は戦後60年以上をかけて築いた欧州統合が崩れかねない危険をはらむだけに深刻だ。

 「EUが問題の解決策でなく、問題そのものとみなされるようになった」

 欧州統合の独専門家、ニコライ・フォンオンダルツァ氏はこう指摘する。

 戦後の欧州統合は「エリート事業」とも揶揄されてきた。市民には遠い存在だが、生活に悪影響がなければ否定する必要はない。そんな「沈黙の合意」に支えられた面がある。これまで市民は国境検査や両替なしで隣国と往来できるなど統合の成果を享受してきた。

 だが、相次ぐ危機が状況を一変させた。生活が疲弊しても財政緊縮を迫られ、自由な財政政策がとれず、移民流入を抑えたくても自国の国境管理には制限がある。「主権を取り戻せ」。反EU勢力の主張に市民は吸い寄せられている。

 過去にもEU創設の条約が加盟国の国民投票で否決されることなどがあった。ただ、「当時、EU懐疑主義はまだ取るに足らなかい存在だったが、今や日常的な議論のテーマだ」(仏国際関係研究所のビビアン・ペルチゾ氏)。EUの信頼失墜はそれほど深刻だ。

 「重大な試練だ。フランスは改革を主導する」(オランド仏大統領)

 「われわれの家である欧州を修復しなければならない」(レンツィ伊首相)

 加盟国首脳からは24日、欧州統合への市民の信頼回復のため、EUの改革を求める声が相次いだ。「欧州を強くする回答が必要」。EUに批判的なハンガリーのオルバン首相も訴え、加盟国は危機感を共有する。

 ただ、改革の具体論でどこまで足並みをそろえられるのか懸念は拭えない。

 EUの信用失墜は、かつてのギリシャ危機でもそうだが、加盟国が対立し、協調した対応をとれなかったことも要因だ。「不戦」を統合の原点とする独仏伊など6カ国と英国など経済や安全保障などの動機で後に加わった国には温度差がある。加盟国が増え、利害が複雑になり、EUの意思決定が難しくなっている。

 「何かを得たい際はフルタイムの欧州人。何かを与える際はパートタイムの欧州人」。原加盟国ルクセンブルク出身で約30年間、統合に関わったユンケル氏の目にはこう映る。

 メルケル氏は24日、国際社会が不安定化する今、EUは欧州の価値や安定を保証する存在で、欧州統合の「平和の理念」は将来に渡り重要だと強調した上、こうも付け加えた。

 「(英国離脱という)欧州の転機が何を意味するのかは、(残る)27カ国が共同で正しい判断を下せるかにかかっている」

 欧州統合はどこへ向かうのか。「答え」はまだ浮かばぬまま漂い始めた。


「独立」目指すスコットランドの女王が動き出した! スタージョン女史「再び住民投票行いEUに残る」

 「スコットランドの有権者の過半数が残留を望んでいる。民主主義の観点から離脱は受け入れがたい」

 英北部スコットランド行政府のスタージョン首相は25日、中心都市エディンバラで行った緊急閣議の後、こう述べた。首相は今や、エリザベス女王に次いで「英国で2番目に影響力がある女性」とも評される。

 国民投票で英国の欧州連合(EU)離脱が決まって以来、スコットランドの動向に注目が集まっている。スタージョン首相は26日にも、英国のEU離脱にはスコットランド議会の同意が必要だと息巻いた。

 英国全土の開票結果が離脱支持51・9%、残留支持48・1%だったのに対し、スコットランドでは全32地区で残留が離脱を上回り、得票率も62%に上った。

 住民投票で独立が否決されてから約2年。25日の閣議では、閣僚全員が「離脱」決定に深い失望を共有した。スタージョン首相は再度の住民投票を検討すると明言した。

 英国からの独立は1937年の現在のアイルランド以来、例がない。

 「住民投票に大賛成だ。スコットランドの民意はEUに残留することだ。100年以上も独立の機会を待っていた」

 エディンバラのパブで食事をしていた会社員、デビッド・アンドレイさん(65)が語る。スコットランドがイングランド王国と「合併」したのは、300年以上前の1707年。軍事や経済力で勝るイングランドに事実上、支配されてきた歴史があり、根深い不満がのぞく。

 孫の顔を見るため2カ月に1度、スペイン・バルセロナに行くというアンドレイさんは、「EUから離脱して移動の自由がなくなるのは困る」と困惑気味に話した。

 特産品のウイスキーなどを加盟諸国向けに輸出している貿易会社経営、イアン・キーナンさん(47)は、「南部イングランドよりEUが大切だ。英国が離脱したら2度目の住民投票を行い、EUに残る」と語った。

 キーナンさんはさらに、1960年代に発見され、欧州最大の石油・ガス埋蔵量があるとされる北海油田の存在を指摘し、「スコットランドが独立すれば、1人当たりの年間所得が千ポンド(約14万円)ほど増えるので十分、やっていける」との見方を示した。

 スタージョン首相は、「スコットランドの地位を守るため、単独でのEU残留に向けた協議をEU側に直ちに求める方針を決めた」と宣言。財政、法律、外交の専門家で構成する委員会を設置し、必要な法案の準備に着手する考えも明らかにした。

 行政府は28日、議会に閣議の決定事項を報告、承認を得てEU残留交渉を本格化させる。スタージョン首相は、2週間以内に在エディンバラのEU各国の外交官と、残留に向けた方策を協議するとしている。

 過去には、デンマーク領グリーンランドが高度な自治権を得て住民投票を行い、85年に当時の欧州共同体(EC)から離脱した事例などがあるが、スコットランドは、英国のEU離脱に反して残留を求める逆のケースとなる。議論の行方はまだ五里霧中の状態だ。

 「ユニオンジャック」の名で親しまれる英国旗から、スコットランドを示す青地に白のXが消える日が来るのか。命運をかけた英国やEU側との駆け引きは、始まったばかりだ。


「何が起こるか分からない世界に入り込んだ」 リーマン・ショック級の影響回避へ全力

 東京・霞が関の経済産業省。会合を終えた三菱重工業の宮永俊一社長は懸念の色を隠さなかった。

 「できる限り事業環境が損なわれない形で(交渉を)していただくことを願っている」

 前週末の国民投票で英国の欧州連合(EU)離脱が決まり、経産省は27日、トヨタ自動車や日産自動車、日立製作所など英国に拠点を置く大手企業を招き、意見交換会を行った。ただ、現時点で世界の実体経済に及ぼす悪影響の深刻度はまだ読み切れない。経団連の根本勝則常務理事は「離脱の条件がまだわかっておらず、不確実性の高いことが懸念要素。対応もこれからだ」と打ち明けた。

 今後、英国がEUに離脱を正式に通告しても、その後2年間は現状を維持できる。EUは、英国と包括的な経済・貿易協定を結ぶ方向で検討に入った。ただ、離脱にはいくつものステップがあり、将来の事業環境を見通すのは困難だ。新たな協定で英国に対するEUの規制や関税が見直されれば、進出企業の事業にも影響が出る恐れがある。

 英国のEU離脱による世界経済への悪影響は、徐々に表面化してくる。進出企業の間には、不透明な先行きに対する漠然とした不安が漂う。

 英国のEU離脱を受けた25日、財務省と金融庁、日銀による臨時の幹部会合を終え、佐藤慎一財務次官はこうつぶやいた。

 「何が起こるか分からない。そんな世界に臨むことになった」

 政府、日銀とも、早い段階から英国の国民投票を世界経済のリスクと認識し、他の主要7カ国(G7)各国と情報交換を行うなど「万全の備えをしてきた」(幹部)。だが、最終的には残留派が勝利するとの楽観論もあり、結果的に金融市場は激動した。

 政府は信用不安の連鎖が世界を駆け巡り、2008年のリーマン・ショックのような経済危機が再燃することを懸念する。同様に日銀は、金融機関の資金繰りに強い警戒感を示す。

 リーマン・ショック時には有事のドル買いが集中してドル資金の出し手が枯渇。銀行間の取引金利は急騰し、邦銀はドルなど外貨調達に苦しんだ。現在、欧州大手銀の収益は欧州中央銀行(ECB)のマイナス金利政策で悪化しつつある。市場の混乱で大手銀の経営不振に拍車がかかれば、欧州不安が再燃しポンドやドルの調達コストが跳ね上がる恐れもある。

 政府と日銀は緊密に連携して対応する方針だ。日銀は当面、米連邦準備制度理事会(FRB)やECBなど主要中央銀行と締結した通貨交換(スワップ)協定を活用しつつ、市場に資金を手厚く供給する。景気失速の懸念が強まった場合は、追加の金融緩和に踏み切ることも視野に入れる。

 政府も急速な円高が進行した際は「必要に応じて対応を行う」(麻生太郎財務相)と円売り介入を辞さない構えだ。金融庁は株価の変動幅を抑える「空売り規制」の強化なども視野に、対応を進める。ただ、政府の為替介入には米国が否定的な姿勢を打ち出すなど、ハードルが高い。仮に実施した場合も市場の不安が収束しない状況で、効果が長続きするかは見通せない。

 大和総研が24日、まとめた英国のEU離脱に伴う経済影響試算によると、世界経済の実質GDPが1・3%低下し、リーマン・ショック並みの影響がでた場合、日本の実質GDPは1・11%減るという。世界の実質GDPが0・04%減程度の楽観的なシナリオでも、日本のGDPは0・34%下押しされる見通しだ。

 企業の対英投資の凍結や貿易縮小などにより、英国は今後、景気後退局面に陥る懸念が強い。その悪影響が世界経済に波及するのを防ぐのは、各国政府や金融当局の務めだ。だが、英国とEUの協定交渉の行方という不確定要素を抱えたかじ取りは容易ではない。


中国「欧州分断はチャンス」 影響力拡大の足場失うジレンマも

 「個別の国との交渉は結果を出しやすい。分断された欧州は中国にとって逆にチャンスだ」

 英国が欧州連合(EU)からの離脱を選択したことについて、中国当局者の間には、こんな声が漏れ聞こえ始めた。

 だが、中国政府は複雑な思いで受け止めているようだ。習近平国家主席が昨年10月に訪英し英国との経済関係を強化したばかりだった。欧州における中国の影響力拡大の重要な足掛かりを失うことを懸念する声もあるためだ。

 「自由貿易の故郷である英国は、フランス、イタリア、スペインなどの貿易保護傾向の強い国々と比べて話しやすい」。中国政府系シンクタンクの研究員、梅新育氏は、中国紙「21世紀経済報道」への寄稿でこのように主張した。英国がEUの縛りから解放されたことについて「中国製品の対英輸出のハードルが下がることを意味する」と指摘し、中国の対外貿易にプラスだとの考えを示した。

 習近平政権はここ数年、東、南シナ海問題などをめぐり、日米や東南アジアとの関係が悪化するなか、欧州との関係を重視する政策を打ち出していた。

 しかし、欧州議会は5月中旬、中国を「市場経済国」と認定するのを拒否する決議を採択し、中国の貿易関係者に大きな衝撃を与えた。その際、英国は「中国からの商品輸入に制限を加えることに最後まで反対した」という。今後、中国は英国との貿易をさらに促進させ実績を残すことで欧州諸国に中国への市場開放を促す戦略だ。

 英国を突破口にして、欧州から中国への武器輸入解禁を期待する声もある。中国で民主化を求める学生・市民らが武力弾圧された1989年6月の天安門事件以降、欧州理事会(EU首脳会議)は人権重視の立場から中国に対する武器禁輸措置を宣言した。英国がEUから離脱すれば、中国は英国から武器調達することが可能となる。

 昨年、中国が主導したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、英国が参加を表明したことで、欧州の主要国は雪崩を打って加わった。中国外交関係者は「英国が武器輸出解禁すれば、金をもうけたいほかの国もそれに続く可能性が高い。AIIBの時と同じ展開になる」と話す。

 中国国務院参事、王輝耀氏は「英ポンドとユーロの通貨としての国際的地位が下がれば、相対的に人民元の地位が上がる。中国にとっては悪い話ではない」と中国紙、中国青年報などで主張した。

 「西側的な民主主義のやり方はポピュリズムにもろい」。自信を深めた中国は、欧州の混乱からこぼれ落ちてくる果実を得ようと静かに狙っている。

「欧州連合(EU)を去るとの選択に首脳らは非常に悲しんでいた」

 28日深夜。EU首脳会議で約3時間に及んだ離脱問題をめぐる議論を終え、記者団の前にキャメロン英首相が現れた。表情は硬く、頬は赤らんでいた。

 会議は意外にも「落ち着いた」(トゥスクEU大統領)雰囲気で、英国が欧州統合に果たした貢献をたたえる声も上がったという。

 「今回が自分にとって最後の会議」。辞意を表明済みのキャメロン氏は感傷的にも映ったが、「英国はEUを去るが、欧州に背を向けない」と強調した。

 ただ、やはり“円満離婚”とはいきそうにない。

 加盟国関係者によると、キャメロン氏は会議で、国民投票で離脱が多数を占めた理由について、域内で認められる「移動の自由」が「要因の一つ」だと指摘した。念頭にあるのは、東欧などから英国へ押し寄せる移民に対する強い反発だ。

 英国が単一市場へのアクセスを維持するため、キャメロン氏はEUに移動の自由の改革も促した。だが、人、モノ、資本、サービスという4つの移動の自由はEUの単一市場の重要な原則だ。英国を除く27カ国は29日、「好みで選ぶことを認めない」(トゥスクEU大統領)と牽制した。

 キャメロン氏は同日、EUが拒む離脱の事前交渉も可能との認識も示唆。英国の次期首相下で離脱交渉が始まっても難航は必至で、EU、英国ともに「将来の緊密な関係」を望むが、その行方は極めて不透明だ。

 EUでは英国を見切り、EUの将来の問題に集中したいとの空気が支配的になってきた。台頭するEU懐疑派など「遠心力」を抑える対策が急務のためだ。

 「願望的になるのでなく、現実をみる必要がある」。英国に一定の理解を示すメルケル独首相も28日の会議後、英国離脱は不可避と明言した。

 残る27カ国は団結を確認し、今後は移民対策を含む治安、経済・雇用、若者対策で協力強化を図る考えだが、失墜したEU市民の信頼の回復は容易でない。

 EUは来年、前身の欧州経済共同体(EEC)を創設し、「絶えず緊密化する連合」をうたったローマ条約署名から60年の節目を迎える。オランド氏は「歴史は続く」と語るが、「未知の領域」に足を踏み入れた欧州に“出口”はみえない。