黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院の「出控え」なんてあるの?

2013-07-06 20:21:56 | 司法試験関係
 このブログでは,話題がどうしても法科大学院関係の話に偏りがちなので,土日はなるべく他の話題を書こうという方針にしています。今日の記事は法科大学院にも関連する話ですが,明日は歴史関係の話にするつもりです。龍谷ローが学生募集を停止するらしいですが,その話は週明けにでも書こうと思っています。まだ指に包帯を巻いたままなので,あまり長い話は書けませんが。
 なお,執筆が止まっているパロディ小説「僕は依頼者が少ない」の続きは,一時期止めようかとも思いましたが,一応来週くらいに書こうと思っています。第4話は法科大学院ネタのどうしようもない話なので,平日に投稿するかもしれません。

 本題。西口先生のブログで,以下のストリーミングが紹介されていました。
http://www.youtube.com/embed/q79hTeTjXGU?html5=1&autoplay=1&vq=medium
 辰巳法律研究所の後藤守男所長による,検討会議の取りまとめに関するお話ですが,全体としては受験生向けに,検討会議でどのようなことが決まったかというお話をされています。司法試験受験生にとって関心の高い話は,択一試験の科目が憲・民・刑の3科目に減らされる可能性が高い,受験回数制限が5年3回から5年5回に緩和される可能性が高い,といったところでしょう。それ以外は,現在では未確定情報であり当てになりません。
 そして,受験回数制限の緩和については,既に三振して司法試験の受験資格を失った人にも遡及適用される(例えば,新制度が来年度から施行される場合,今年3年目で3回目の受験をし落ちた人でもあと2回受験できることになる)という方針が示されていますので,これまで広く行われていた司法試験の「受け控え」は,受験戦略としては全く無意味となります。
 検討会議がこのような方針を決めた理由については,①パブコメではむしろ受験回数制限を撤廃せよという意見が多数を占めており,現行制度を支持する意見は少数であった,②法科大学院の入学者数が激減しており,このままでは合格者数を減らさないと司法試験が全員合格になってしまうという批判を受けるので,法科大学院制度にとって致命的な合格者数削減を避けるために見かけ上の合格率を下げて批判をかわす必要があると考えた,などというところではないかと思いますが,まあ細かい詮索はしないでおきましょう。
 しかし,ストリーミングの中で黒猫が最も衝撃を受けたのは,受け控えは意味がないといった話ではなく,終盤(20分あたり)で後藤氏が話していた,以下の部分です。

「考えられるとすると,受け控えではなく出控えですね。つまり,修了しないと。こうなってきますと,5年間の縛りは出ませんので,これは論理的にはあり得るということになります。しかし,いつ入ってくるか分からない不確定要素が多いなかで,そういう意味で5年間がフルになる,その5年間というのがあるわけですから,そこで出控えるというのはいかがなものかと思います。」

 出控えというのは,ドイツの法学部などではよく見られる現象です。ドイツの第一次司法試験は法学部の卒業試験を兼ねており,合格率は70%くらいですが,法曹になるにはA評価(上位10%くらい?)を取ることが不可欠であると言われています。第一次司法試験は2回しか受験できないので,受験勉強のために自主留年(出控え)する学生が後を絶たないそうです。
 これを日本の法科大学院に当てはめると,司法試験は終了後5年間しか受験できないため,例えば現在法科大学院の3年生だけど学力が十分でなく,このまま修了しても司法試験に合格できる自信は全く無い,修了後4年勉強しても司法試験に合格できる自信がない,そこで自主留年してもう1年法科大学院でじっくり勉強する,ということでしょうか。
 予備校関係者が「出控え」なんて言葉を使うということは,受験界では本当に出控えをする,あるいは出控えを検討する法科大学院生が相当数いることを示唆しているわけですが,黒猫としてはにわかに信じられません。
 黒猫も司法試験受験のため法学部を1年自主留年しているとはいえ,国立でも年間80万円くらいする法科大学院の学費を1年分余計に払う(しかも,それに見合うメリットが得られないことは分かっている)って,どれだけ金持ちなんですか。それとも,留年の場合にも出る貸与制奨学金があって,弁護士資格を取ったら一旦自己破産するからいいやって発想なんですか。
 それと,法科大学院卒業して,4年間勉強しても今の司法試験に合格する自信がないって,どこまでヘタレなんですか。「根性無し博士」とかでスレイヤーズの短編に出られそうですが,そういう人は4年間勉強しても出控えして5年間勉強しても,たぶん結果は変わらないと思います。
 それでも百歩譲って,仮に出控えをやるとしても,それは上位ローの人たちですよね? まさか下位ローではありませんよね?
 『職業としての司法試験受験生』というブログで,下位ローがAKBの握手券付きCDに例えられていましたが,これは要するにAKB48やその関連グループが出すCDは,ファンの間ではむしろ握手券がメイン商品でありCDはおまけと考えられている(CDの多くは購入後すぐに捨てられる),同様に下位ローは司法試験の受験資格がメイン商品であり授業はおまけである,それだけならまだ耐えられるが,実際にはCDの中身が般若心経でしかもウイルスが添付されていたり,あるいは音楽CDですらなくて,井戸から人が出てくる映像が再生されるビデオCDだったりする,おまけに握手券(司法試験の受験資格)を手に入れるためにはCDの再生(授業の受講)を事実上強制されるのに,再生したら多大な被害が生じる,ということらしいです。
 驚くべきことに,このような考え方は一受験生の独創ではなく,法曹養成制度検討会議の委員も事実上肯定しています。山口義行委員(立教大学経済学部教授)は,第13回会議で以下のように発言しています。

「ただ,一番,僕ここで大事だと思ったのは,最後のところの免除のところが出ていますが,今,経済,それから法もそうかもしれないですけれども,大学院がなぜ成り立っているかというと,研究者を養成するという機能と高度社会人を養成するという,専門家を養成するというんですけれども,その社会人のほうはほとんど税理士,税理士試験の免除してもらえることが大きい。大学院へ行くと。それがものすごく多くて,恐らくこの免除規定がゼロになったら相当数の大学院は消えていくと思うんですね。だから,結局この免除の部分を今回拡大していけば,恐らく法科大学院は生き残ると思うんですよ。だって行く理由ができますから。免除ゼロということであれば,それはやっぱりどんどん減っていきます。」

 若干説明を補足しておくと,学位取得に伴う税理士試験の科目免除制度は,平成14年度を境に大きく改正されています。税理士試験は税法3科目(「所得税法」「法人税法」が選択必須科目で,他に「相続税法」「消費税法又は酒税法」「固定資産税」「国税徴収法」「住民税又は事業税」の選択科目があります),会計2科目(「簿記」「財務諸表論」のいずれも必須科目)の計5科目に合格する必要がありますが,平成14年3月までに大学院の修士課程または博士課程に進学した人は,「法律学」または「財政学」に関する科目の研究により学位を取得すれば税法3科目が,「商学」に関する科目の研究により学位を取得すれば会計2科目が免除されました。科目の選択によっては,大学院の学位だけで税理士資格を取得することも可能だったのです。
 あまりに濫用されたのが原因と思われますが,平成14年4月以降の大学院進学者については科目免除の範囲がかなり狭くなり,税法科目の免除を受けられるのは「税法」に属する科目の研究で学位を受けたとき,会計科目の免除を受けられるのは「会計学」に属する科目の研究で学位を受けたときに限られるものとされました。
 しかも,修士課程(専門職課程を含む)の場合は,税理士試験の1科目に科目合格したら残りの科目が免除される(例:租税法の研究で修士号を取得した人は,税法科目のいずれか1科目に合格すれば他の2科目は免除される)という形に変わり,大学院の学位だけで税理士資格を取得するのはほぼ不可能になりました。なお,博士課程の場合には,現在でも税理士試験の科目合格は必要ありません(念のため言っておきますが,法務博士の学位を取得しても科目免除の対象にはなりません)。
 おそらく,この改正によって法学系及び経済学系の大学院は相当ダメージを受けたのでしょう。経済学部の教授である山口委員は,法学や経済学の大学院は資格試験の免除制度によって成り立っており,法科大学院の修了による資格試験の免除(司法試験等の科目免除を想定しているものと思われます)を拡大していけば法科大学院は生き残れると主張しています。
 もはや下位ローや法科大学院に限らず,法学や経済学の大学院は全て握手券付きのCD(メインは握手券)であり,大学院が生き残るためにはCD(授業)の内容ではなく握手券(受験資格や科目免除)の内容を充実させることが必要であると,当の大学教授が堂々と主張しているのです。さすがにCDの内容が般若心経だとまでは明言していませんが,似たようなものだということは誰しも想像が付くでしょう。

 若干話が逸れましたが,もう一つネタを挙げておきます。ちょっと古い記事になりますが,四国新聞の『生き残れ! 四国ロースクール』という記事では,香川大学法科大学院の実情について,以下のように書かれています。

「理念を逸脱し、司法試験の受験予備校化することは問題視されるべきだが、四国ロースクールはこうした動きに鈍感といえるほど無縁だ。中山研究科長は「司法試験の準備は学生に任せるものと思っていた」とする。ただ、その教育方針には「あまりにも理念に純粋すぎ」と揶揄[やゆ]する声があるのも事実だ。
 その「純粋さ」に戸惑う学生も多く、ある女子学生は「正直、司法試験になんの役に立つのだろうと思う授業がある」と胸中を明かす。3年間という限られた時間で難関の司法試験を目指す彼らの立場を考えれば、「法律家になってから役に立つと言われても、司法試験に受からなければ意味がない」という気持ちになるのも理解できる。
 さらに、この学生は「学生にも必死さが足りず、少人数ゆえのなれあいもある」と自戒した上で、「受験につながる授業にも不安がある。先生方の教えるノウハウが不足しているのでは」と研究者教員の指導力に疑問を投げかける。司法試験を受けたことのない教授陣の授業に不安感を抱く学生は少なくない。」

 これは2009年の10月,つまり約4年前に公表された記事ですが,その後カリキュラムの改革などを行っても結果は良くなるどころか,むしろ悪化しています。こんなお話に代表されるような下位ローで「出控え」をやっても,自主留年した1年間で学力は向上するどころか,むしろ悪化するでしょう。
 辰巳の所長さんも出控えはいかがなものかと言っていますが,そもそも出控えを考えるような人は,法曹など諦めて他の進路を検討された方がよいと思います。仮にそういう人が長い年月をかけて司法試験に合格しても,就職は絶望的なので結局は即独するしかなく,即独しても仕事がなく結局は他の方法で収入を得るしかないからです。

3 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-07-06 21:24:43
握手券の例えは上手いですよね
そして、ローはAKBの握手券よりひどい
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Unknown (Unknown)
2013-07-07 04:35:33
64、65期あたりのロー卒弁は有害無益です。

相談者との打ち合わせで、「何が争点になるの」、「今後予想される訴訟の展開は」と聞いてもずれた答えばかり。
しかも、間違いを指摘すると、相談者を置き去りにして議論を挑みたがる。
というわけで、打ち合わせは進まず、雰囲気は最悪に…。

よその事務所は知りませんが、これじゃあ追い出されるのも無理はないし、法科大学院でいったい何を教わってきたんだと言いたくもなります。

少なくとも、法科大学院では、「司法試験合格に役立つもの」はもとより、「法律家になってから役に立つもの」も教えていないと断言できますね。
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Unknown (Unknown)
2013-07-13 02:07:07
司法試験に合格していない一学者が司法試験受験生相手に講義すること自体がおかしくないでしょうか?

 地方下位ローの修了生が「人数少ないから、批判もできないし、学校側も存続させろと主張するわりには、いつまでもよぼい教授を追い出さず、やる気があるとは思えない。」と嘆いていました。
 ローの教授資格としては、60才未満、司法試験受験経験あり、旧帝大、早慶クラスの学部出身者であることを要求すべきでしょう。
 もちろん、試験委員、合格者は、また要件が変わってくると思いますけど。まあ、試験委員が都落ちはしないでしょうね。。
 結局、地方の学者は、首都圏等の都会から脱落した学者のふきだまり?それでは、学生が気の毒というもの。
 数人のロースクールって想像がつかないのですが、
運営していてみじめになりませんかねえ。
 需要がないということを早く認めてほしいですね。
 あ、そうか。教授にとっては、需要があるんですな。
 
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