黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

もはや崩壊途上にある「弁護修習」

2013-02-23 14:04:19 | 司法修習関係
 昨日くらいに,法曹養成制度検討会議第7回会議の議事録が公開されたらしく,その内容に触れた記事も出回りつつあります。
 第7回会議の内容は,前半が予備試験について,後半が司法修習制度についての意見交換であり,特に結論らしきものが示された形跡はありません。

<参考URL>
法曹養成制度検討会議第7回会議議事録(法務省HP)
http://www.moj.go.jp/content/000107755.pdf
問題を突き付けるべき対象(元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記)
http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-entry-640.html
岡田委員「法曹資格をとる方が全部こういうふうに意欲があって,エネルギーがあって,なおかつ頭がよくてと,そういう人ばかりになってもらっても困る」(Schulze BLOG)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52006422.html

 予備試験に関する法科大学院擁護派のアレな発言もいろいろあるのですが,それ以上に衝撃を感じたのが,司法修習の現状に関する田島委員の発言です。ちょっと長いですが,以下に関連部分を引用します。

○ 田島委員
 私はこの司法修習の仕組みというのは前に比べると相当後退していると思います。と言うのは二つ大きな理由があって,一つは,修習期間に修習生が就職活動で時間をとられたり,気持ちの上で上の空になっているという状況もあるのだと思います。過去は2年間という期間があったのに,1年になっているわけですね。この期間が短くなって集中しなくてはいけないときに,就職難とかいうのもあって非常におろそかになってきている。もう一つは,修習が終わった後の実務研修を実質的にやる検察とか裁判所というところは,公務に就かれる人たちのところは相当充実したものが仕組みとしてできているし,2年間研修をやっていたときとあまり変わらないものが保証されているのだと思います。
 ところが,弁護士さんたちのところは哀れなものです。と言うのは,就職ができないだけではなくて,研修を受けとめておられる各都道府県の弁護士さんたちのお話を聞いたら,研修のときでさえもうアップアップなんですね。それから,採用しても,この間,九州弁護士会の皆さんのお話を聞いたのですけれども,給料は要らないから置いてくれというお話が,去年ぐらいから急速に進んだと。今年の場合も,給料は要りませんというような話がたくさん出てきている。それでもなお断られる。すなわち,就職できないどころか,就職した人たちも先輩弁護士から丁寧に教えていただくことができずにいます。
 その前の研修のところでも,今申しましたように,ある面では形だけきちんとコンパクトにつくられたようなのですけれども,中身がお粗末です。受けた人たちの意見もよく聞いてみてください。私も聞いてみてびっくりしました。仕組みから言うと,例えばプロセスでやったから法科大学院に非常に力を入れられた,それはそれでいいのだと思います。しかし,その後の研修,国家試験に上がって,法曹人としての,言うなれば,国家が責任持って養成しなければいけないところがすごくおろそかにいるのではないか。試験に上がったところから,国家は当然法曹三者としての教育は全責任を持たなければいけないはずですよね。少なくとも法科大学院や法学部の学生たちのところ以上に,しっかり力を入れなくてはいけないはずのところが,中身がきちんと定まっていない。
 そして,その先がまた非常に不安定な状態になっている。裁判官とか検察官になられる人たちと,弁護士になられた人たちとの研修の格差と言いますか,実務を学ぶところですごい差が出てきていると思います。ですから,裁判官が弁護士会の人たちにもうちょっと弁護士の研修をやってくださいよと,現場では裁判官が弁護士会に注意をするというようなことが,昨年ぐらいから起こってきているんです。これは,司法修習の在り方を本当に真剣に考えないと,プロセスとして全体でやるというのであれば,一番最後の段階が非常に手薄になっているのではないかと思います。以上です。

 重要なところは赤字にしましたが,これだけを読んでも,現在の司法修習,とりわけ弁護士になる人たちのための研修が大変ひどい状況になっていることが分かります。以下,問題点を項目別に列記してみます。

1 「超就職難」で修習に専念できない現状
 司法修習生でも,裁判官や検察官に任官できる人はまだ良いのですが,任官枠は合計で200人前後しかないようなので,年間2000人以上いる修習生の大半は弁護士を志望することになります。しかし,弁護士市場は明らかな供給過剰であるため,その大半は就職できないわけですが,その数少ない就職先を探すにあたっても修習中に過酷な就職活動を余儀なくされていて,具体的には修習が終わった後の夜間に必死でいろんな法律事務所を訪問する。そうなると睡眠不足や過労で修習に専念できなくなるばかりか,気分的にも就職活動のことで頭がいっぱいになり,上の空のような状態になってしまうという問題があります。
 最近は,給料はいらないから法律事務所に籍だけ置かせてくれという話が急速に進んでいるが,それでも断られるというのが現状らしく,就職した後も先輩弁護士から丁寧に教えてもらうということは期待できない状況になっています。先輩弁護士の側も,過当競争で自分の生活を維持するのに精一杯であり,後輩弁護士の面倒を見る余裕がなくなっているわけです。
 むろん,貸与制によって修習生の経済状況がさらに悪化し,中には病気にかかってもなかなか医者にかかれない修習生などもいる,といった事情もありますが。
<参照URL>
新65期の声(給費制廃止違憲訴訟HPより)
http://kyuhi-sosyou.com/voice/index.html#voice03

2 弁護修習の希薄化
 司法修習のうち,各地の弁護士会が担当する弁護修習は,指導担当弁護士(基本的にボランティア)が修習生の指導を行っていますが,指導担当弁護士もなり手がいなくなっています。
 理由はいろいろあり,年間約2000人という修習生の数は現状の弁護士会にとって受入可能人員の限界に近いこと,弁護士の中にも生活苦や弁護士会への反感等により公益活動を忌避する人が増加しているといった一般的な理由もありますが,とりわけ指導担当弁護士については,修習生から就職難の問題で泣きつかれても何も出来ず精神的負担が大きい,元修習生が即独でもしようものなら業務のやり方についてしつこく聞きまくられる,しかも一度引き受けたら毎年のように修習生を押しつけられる,といった事情から,指導担当を拒否する弁護士が年々増えているようです。
 特に,地方の弁護士会ほど所属弁護士の数に比べて配属される修習生の数が多すぎる傾向にあり,負担の重さが問題になっていたのですが,そのような中で弁護修習の中身も非常に薄いものになってしまい,とうとう修習の内容について裁判所が弁護士会に注意をするという異常事態に陥ってしまっています。

3 法曹養成の「官民格差」
 同じ法曹でも,公務員である裁判官や検察官については,司法修習の期間が1年に短縮されても,その分任官後の実務研修に力を入れるようになっているので,人材の質について今のところ特に大きな問題は発生していません。
 しかし,弁護士については修習期間短縮のダメージをもろに受けているばかりか,就職後のOJTという仕組みはもはや崩壊してしまっています。裁判官や検察官に任官できるのは,もともと司法修習生の中でも成績優秀な人たちですが,それに加えて裁判官や検察官になる人は以前と変わらず充実した研修を受けられるのに,弁護士になる人はろくな研修を受けられないというのが現実になりつつあるのです。
 刑事訴訟では,弁護人は被告人の側に立って検察官と対峙する立場であり,行政訴訟では弁護士が依頼者の訴訟代理人になって,国側の代理人である訟務検事(裁判官や検察官の出身者が多い)と対峙する立場にあります。もともと,これらの訴訟では法制上国側が圧倒的に有利な仕組みとなっていますが,現状を放置すれば人材面でも国側が圧倒的に有利となってしまい,建前上は国家権力による横暴から司法による救済が受けられることになっていても,その内実は空洞化してしまうことになります。
 また,国家権力との対峙ではなく民間人同士の紛争という場面においても,数だけは多くてもろくな実務研修を受けられない弁護士が,市民に対し十分な法的サービスを提供できるとは思えません。実際,若手弁護士の中には実務的な知識がまるでなく,法律相談で離婚時における養育費の相場を尋ねられても「私には分かりません。弁護士に聞いて下さい」などと回答した人がいるそうですが,そのような「弁護士」を大量生産したところで,社会的に何のメリットがあるのでしょうか。


 これだけの惨状が報告されても,最高裁事務総局の小林審議官は「田島委員ご指摘の点はなかなか耳の痛いところでございますけれども」の一言で済ませてしまい,佐々木座長に至っては「ある意味で課題は決してなくならない領域だろうということで」などと,まるで何事もなかったように議事を終わらせてしまっています。
 半ば分かっていたことではありますが,こういう残念な感性の持ち主が「有識者」として,事実上国の法曹養成制度のあり方を決めるような議論をしているのだと考えると,本当に暗澹たる気分になりますね。

16 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-02-23 17:17:19
完全に抜け出せない悪循環に陥っていますね。
質の悪いものに税金は使うべきでない→更なる質の低下
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Unknown (Unknown)
2013-02-23 18:01:41
就職できてもブラック事務所に入ってしまったら女の子のまえで恥かかされていつの間にか自宅登録。困ったもんです。
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Unknown (Unknown)
2013-02-23 18:19:20
貸与制以降の修習生で本当にあった実話
1 分割金債務の期限利益が喪失された場面における時効の起算点について、既に生じた不履行部分と、残額全部についての起算点の違いが説明できない。
2 平成20年に発生したとされる保証債務に関して、保証契約書(書面)がないのに、保証債務の存在を認定する起案。
3 通常共同訴訟の場面で、主張共通を認めた。
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Unknown (Unknown)
2013-02-23 19:08:10
裁判所からの指摘は、弁護修習ではなく弁護士に対する研修についてですよ。
裁判官、検察官に対する手厚い研修とは何を指しているのでしょう。そのような研修があるとは聞きませんが。
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Unknown (Unknown)
2013-02-23 19:20:59
弁護士会と弁護士の関係と裁判所と裁判官の関係って全然違うと思うんだけど。
裁判所が法律に書いてない運用するんだったら、裁判所が弁護士に研修というか講習会開いて教えるべきなんじゃないかなあ。

裁判官、検察官に対する手厚い研修って、浦安とか和光での研修のことじゃない?
あれって、当たり前だけど研修中給料もらってるんだよね。。。

もしかして、弁護士は弁護士会から給料もらってるって思ってるのかなあ。だから、いくら人数増やしても、変わらずにお金を儲けることができるんだろって発想ができるのかもね。子供が親に「お金ないんなら銀行からお金貰ってくればいいじゃん」っていうのと同じ発想だね。

う~ん。こんな事案の違いも分からない人が、会議に入ってるって、まあ、その程度のレベルの会議なんだろうけど、こんなんで物事が決定するって怖いね。
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Unknown (Unknown)
2013-02-23 19:40:10
大多数の合格者は弁護士になる中で、弁護修習が崩壊しているとなると、近々、司法修習廃止論が出てくるのかもしれませんね。やってもやらなくても同じ、そうであるなら無給で拘束する必要はないというロジックで。

むしろそれを望んでいるのではないでしょうかね、有識者様は(笑)。そうすれば司法修習給費復活を主張することで間接的に法科大学院制度が批判されることもなくなりますし。法科大学院側は修習が必要だとの認識なようですが、修習分の経済的負担が無くなれば、法科大学院進学のハードルが下がる事ぐらい簡単に考えつくでしょう。
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Unknown (Unknown)
2013-02-23 21:59:39
修習がなくなれば、法科大学院が法曹養成過程を独占できるから、案外、そうかもね。
責任を果たすのは大嫌いでも、権限と権威を独占することは大好きな人達ですからね。
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Unknown (貸与制の被害者)
2013-02-23 22:12:19
まさにその通りですね。
就職難で修習に集中できない。私もそうでしたよ。
4大内定者は遊び倒して修習なんてやってなかったですけどね。
修習で教わることなんて企業法務行く人にはほとんど意味ありませんから当然です。9割意味ないかな。
債務整理系も同じ。修習なんていらない。

いるのは弁護士では町弁だけど町弁でまともな就職先は本当にない。あっても給料ゼロか年200万程度の条件。
そういう内定をもらっても結局あきらめきれず二回試験終わるまで就活続けるから修習はおざなり。
修習やりながら何十も履歴書書いて面接受ける大変さを一度検討会議のメンバーがやってみればいい。
暇な大学生の就活とは次元が違うんですよ。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 00:09:40
>>4大内定者は遊び倒して修習なんてやってなかったですけどね。

やっぱり4大内定者は一生安泰なんですね。
口開けて鼻をほじっていても高給と留学が保証されるわけで…。
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Unknown (Unknown)
2013-02-24 01:11:20
四大君お久~
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