大阪・難波の山王美術館で「没後50年-藤田嗣治展」が行われています。山王美術館のコレクション全28点が登場しており、フジタらしさが味わえる質の高い作品が揃っています。
美術館のあるホテルモントレグラスミア大阪
山王美術館は、ホテルモントレグループのオーナー一族のコレクションを展示する施設で、ホテルモントレグラスミア大阪22Fの一角に展示室が設けられています。近代洋画・日本画・陶磁器を中心にルノワールのコレクションも充実しており、春夏と秋冬の年2回、コレクションを順次テーマに応じて公開しています。
両大戦間に花開いたエコール・ド・パリの画家、藤田嗣治(ふじたつぐはる、Foujita)は、1886(明治19)年誕生し、1968(昭和43)年に逝去しています。一昨年2016年は生誕130年、今年2018年は没後50年となり、各地で展覧会が相次いでいます。
フジタは多作の画家で、その作品は全国の美術館に所蔵されています。山王美術館のフジタ作品は初期から晩年まで幅広く、中でも晩年に多く描いた市井の子どもの絵は充実しています。
※ご紹介する作品の一部の画像は、展覧会の公式サイトに掲載されています。
「椅子に座る婦人像」は、フジタがパリで人気絶頂だった頃の、フジタらしさを代表する乳白色の肌が美しい作品です。
フジタの人物画のほとんどがそうであるように、無表情の顔がその時代を一生懸命生きている人間の意志の強さを表しています。首や胴・腕を長く描くことで、モデルの女性の神秘性を増しています。モデルは裸婦ではなく、中産階級の女性と思われます。普通の女性の存在感を巧みに表現した見応えのある作品です。
「家馬車の前のジプシー娘」は、戦後にフランスに帰化してから多く描いた市井の子どもの絵です。「家馬車」とは貧困層が住居代わりに使っていた老朽化した馬車です。フジタはカメラ好きで、絵画の構図の元となるデッサン代わりによく使用していました。この作品も写真を元に描いたと考えられています。
少女は無表情ですが、その眼には社会に対する強い反骨心がうかがえます。しかし胸の前で手を合わせ、どこかポーズをとっているようにも見えます。フジタがこの少女に敬意を表したように思えてなりません。
「ネコとチューリップ」は、「家馬車の前のジプシー娘」とほぼ同時期の作品で、晩年に好んだ花がモチーフです。しかしこの絵は花より猫が主役に見えます。
猫もフジタが好んだモチーフですが、多くがエコール・ド・パリ時代に自画像や裸婦と一緒に描いています。その頃は猫は脇役であるため、正面を向いていません。しかしこの作品は、まるで偉人の肖像画のようにセンターに堂々と鎮座し、正面を向いています。フジタが昔世話になった猫に敬意を表しているようです。
フジタの魅力をあらためて実感できる作品が、大阪・難波にたくさんあります。美術館は土日が休館ですが、ぜひお立ち寄りください。
7/31からは東京都美術館で、10/19からは京都国立近代美術館でも大規模な回顧展が行われます。あわせてお楽しみに。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
会田誠がフジタの少女の絵を追いかける
山王美術館 春・夏季コレクション展2018「没後50年-藤田嗣治展」
https://www.hotelmonterey.co.jp/sannomuseum/exhibition.html
会期:2018年3月1日(木)~7月31日(火)
原則休館日:土曜・日曜日
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:大阪メトロ四つ橋線「なんば駅」下車、30番出口より徒歩3分、もしくはJR大和路線「JR難波駅」下車徒歩1分、ホテルモントレグラスミア大阪22Fへ
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→なんば駅
公式サイトのアクセス案内
※ホテルモントレグラスミア大阪の駐車場を利用可能
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京都の細見美術館で「江戸のなぞなぞ-判じ絵-」展が始まりました。判じ絵(はんじえ)とは、文字や絵画に隠された意味を当てるなぞなぞである「判じ物」を描いた絵のことです。江戸時代に庶民の娯楽として広く親しまれており、浮世絵師たちが趣向を凝らして難問・奇問を表現していました。
そんな江戸のなぞなぞをたっぷりと味わえます。ぜひ答えを考えながら、江戸の風流を楽しんでください。
判じ絵の回答には、人名・地名・動植物・道具などありとあらゆる言葉があります。問題となる絵は、言葉の読み方である「音」だけを伝えるものが中心ですが、中には絵そのものに意味がある場合もあります。まさに出題者と回答者の知恵比べとなります。
昭和50年代に、司会が出したヒントをもとに答えのキーワードをあてるテレビのクイズ番組がお茶の間に定着していましたが、まさにその原点のような存在です。
判じ絵が実際にどんなものか体験できるサイトがあります。展覧会主催者の京都新聞、判じ絵を多数所有する国会図書館が開設しています。また細見美術館の公式Twitterでも出題しています。まずは試してみてください。
【細見美術館公式Twitter】
【京都新聞公式サイト】 あなたは解けるかな?江戸のなぞなぞ―判じ絵―に挑戦!
【国会図書館公式サイト】 江戸名所判じ物クイズ
判じ絵はなぞなぞを表現するために描かれた絵ですが、それだけでない不思議な魅力があります。なぞなぞが解けたらそれで用済みではなく、江戸時代の流行を感じさせるイラストとしてオーラを発している作品がたくさんあります。
人間や動物の豊かな表情は、北斎漫画のように見ているだけでほのぼのとしてきます。現代の漫画家を志す若者のように、無名の新人が新しさと面白さを表現しようと腕を磨いたことでしょう。しかし決して熱すぎません。心地よい熱量を絵から感じます。
【公式サイトの画像】 浮世絵版画と判じ絵
浮世の判じ絵は、売れっ子タレントのポスターとしてもよくできていると感じさせます。役者の表情には愛嬌があり、着物も庶民のあこがれを誘うようにあでやかに表現されています。判じ絵が四色フルカラーの錦絵になると、見事なグラビアにもなるのです。
現代人はちょっとしたスキマ時間ができると、スマホでSNSやYouTubeを見たりします。判じ絵は江戸時代のスキマ娯楽として人々の心をとらえたのでしょう。今から200年ほど前の世界有数の大都会の人々が生活を楽しんでいた証が、判じ絵なのです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
細見美術館 「蛇足庵コレクション 江戸のなぞなぞ-判じ絵-」
http://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex060/index.html
主催:細見美術館、京都新聞
会期:2018年6月9日(土)~ 8月19日(日)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:地下鉄東西線「東山」駅下車、2番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅
公式サイトのアクセス案内
※この施設に駐車場はありません。
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京都国立近代美術館で「大観展」が始まりました。横山大観は明治以降の日本人画家として最もその名を知られる人物でしょう。代表作の超ロング絵巻「生々流転」や、大胆な色使いが魅力的な「群青富士」(後期展示のみ)など、見ごたえのある作品が勢ぞろいします。
大観作品は個人所蔵が多く、生誕150年&没後60年の今回のような大規模回顧展でないと、これだけの作品を揃えるのは至難の業です。明治→大正→昭和と、日本で最も有名な画家の作品のトーンの変化をじっくりと楽しむことができます。
京近美ならではの撮影スポット
横山大観は、享年90歳ととても長寿の画家でした。1868(明治元)年に生まれ、1958(昭和33)年に生涯を終えるまで、明治~大正~昭和と長きにわたって日本画壇の潮流を見続けてきました。
明治の青年期には師の岡倉天心や親友の菱田春草とともに、新たな表現手法である朦朧体(もうろうたい)を確立します。従来の日本画のように線ではなく、色彩の濃淡で面的にモチーフを表現するものです。日本画で空気や光を斬新に表現する手法として考え出されました。
しかし朦朧体に対する世間の評価は芳しくなく、師の天心に従って日本美術院を結成して下野したこともあり、明治末期は不遇の時代となります。活動の場を海外に求め、菱田春草と共にインド、アメリカ、ヨーロッパで展覧会を開き、高い評価を得ます。同時に海外で見た作品からも新たな表現を充分に学んだことでしょう。
帰国後、海外での高評価を受けて日本での評価も見直され始めます。また画風にも変化が現れます。彩色画も水墨画も、伝統的なやまと絵や琳派、水墨画の表現をうまく活かすようになり、観る者にとってわかりやすくなります。また大観の特徴の大胆な構図も完成されていきます。
京都を拠点に活動したほぼ同世代の竹内栖鳳(たけうちせいほう)とともに、東西の両雄として並び称されるようになります。1937(昭和12)年には、第一回文化勲章受章者となり、巨匠としての評価が確立します。
【公式サイトの画像】 東京国立近代美術館「生々流転」
重要文化財の「生々流転」は、期間中に巻替えながら3場面が順に展示されます。それでも全長40mもあるため圧巻です。雲→山→海と循環する水の一生を描いたものです。木々や水の流れの表現はとても繊細です。朦朧体による表現は、雲海を雄大に、森の湿度の高い空間を神秘的に見せています。長谷川等伯の松林図屏風のような幻想的な質感を見事に表現しています。
【公式サイトの画像】 静岡県立美術館「群青富士」
展覧会のチラシにも採用されている「群青富士」は、後期展示の目玉作品となります。雲海から頂上だけを出した富士山が、琳派のような大胆な構図と鮮やかな色使いで表現されています。六曲一双屏風のほとんどが雲海ですが、雲のモフモフ感が上品に表現され、単調さを全く感じさせません。ハレの日に飾る屏風として、まさに一級品です。
知名度が高い画家だけに早くから賑わっています。公式サイトのトップページには曜日別・時間帯別の混雑状況の目安も掲載されています。夕方や週末限定の夜間開館が、混雑が避けられるようです。
4Fのコレクション展もお見逃しなく。京近美が持つ大観はおか日本美術院の画家の作品が秀逸です。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
121点の作品から大観ワールドを堪能
京都国立近代美術館 「生誕150年 横山大観展」
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2018/425.html
http://taikan2018.exhn.jp/
主催:京都国立近代美術館、東京国立近代美術館、日本経済新聞社、毎日新聞社
会期:2018年6月8日(金)~ 7月22日(日)
原則休館日:月曜日
※7/1までの前期展示、7/3以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、2018年05月まで東京国立近代美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅
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※この施設に駐車場はありません。
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大阪・中之島の国立国際美術館で、所蔵品を時代や作家別ではなくテーマ別に展示するコレクション展「視覚芸術百態」が始まっています。
日本の展覧会は時代や作家別に構成するものだという固定観念がまだまだ強いです。しかし欧米ではロンドンのTATE MODERNのように、現代アートは常設展でもテーマ別に展示することが主流になりつつあります。
現代美術は鑑賞にあたって、古典絵画のような時代背景や地域の影響の理解はほぼ必要ありません。そのためテーマ別展示は鑑賞者の好奇心を刺激するには合理的な方法の一つです。しかし“無”から展示構成を作り上げねばならないがゆえに、企画するキュレーターとそれを受容する鑑賞者、双方のいわば“度胸”が試されます。
国際美術館は、地下3Fが新聞社主催の大規模企画展の会場になることが多いため、通常は地下2Fだけでコレクション展を行っています。しかし今回のコレクションは、8,000点を超える所蔵品の中から200点ほどを厳選し、地下3Fと2Fの両フロアを使って催す“大規模な”コレクション展です。
国際美術館のコレクションは戦後の国内外のアート作品を幅広く網羅しています。今回の展覧会では作品の要素/描写の対象の2つの切り口から19のテーマを設定し、1区画で1テーマを展示しています。19のテーマには便宜上番号が振られていますが、テーマ相互に関連性はないため、鑑賞順は思うがまま自由に進める方が楽しいと思います。
区画に入った瞬間に感じる空気感で、その中の作品への印象が決まります。区画に入る前にはその区画のテーマを表現した文字以外に情報はないためです。何が出てくるかわからないワクワク感が、現代アートの「テーマ別」展示の醍醐味です。
鑑賞者によっては、同じ区画内の作品同士が釣り合わず、“ケンカしている”と感じる場合もあると思います。しかし万人を満足させる展示構成はあり得ないためやむをえません。自分の感性に反応しなければ流すのみでう。
この展覧会を鑑賞していると、自分がどのような現代アート表現に反応するかがよくわかります。現代アートは「作品の要素」「描写の対象」に定義や条件はありません。同じ作家でも、作風ががらりと変わってしまうことも珍しくありません。「何でもあり」であるがゆえに、どんな作品に自分が反応するのかがわかりにくくなりがちなのです。
高松次郎、横尾忠則といった日本勢のほか、マルセル・デュシャンやロイ・リキテンスタインといった海外の著名作家の作品もあります。作家のネームバリューよりも作品そのものの魅力の方が強いオーラを出しているように感じました。これも「テーマ別」展示の魅力ではないでしょう。
展示にビビッと反応するか否かで、全く印象の異なる展覧会です。自分の鑑識眼を試したい、視野を広げたいという好奇心旺盛な方に特におすすめです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
20世紀末の日本のアートシーンのバイブル
国立国際美術館 「視覚芸術百態:19のテーマによる196の作品」
http://www.nmao.go.jp/exhibition/2018/19200.html
主催:国立国際美術館
会期:2018年5月26日(土)~7月1日(日)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅
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この春にオープンした大阪の中之島香雪美術館で、開館記念展II「美しき金に心をよせて」の後期展示が始まりました。第II弾の目玉作品である長谷川等伯「柳橋水車図屏風」と並んで、狩野元信・永徳による「四季山水図屏風」が展示されているのが後期展示の魅力です。
メインテーマとなっている金を基調とした出展作品は、仏画から屏風、茶道具、蒔絵まで多岐にわたります。村山コレクションのすそ野の広さをあらためて伝えてくれる展覧会です。
美術館でもデジタル・サイネージがすっかり定着
展示の最初は仏画です。開館記念展第1弾「I 美術を愛して」を観た時にも感じましたが、村山龍平は仏画をとても愛したのでしょう。ヨーロッパの聖書の場面をモチーフにした作品も、日本の仏画も同じですが、宗教画には観る者にその絵の意味を考えさせるように作られています。信仰の促進が宗教画の主な目的だからです。
経営者として成功した村山龍平は、仏画が問いかけてくる意味と向き合うことに、至福を感じた人のように思えてなりません。今回展示の「普賢菩薩十羅刹女像」「阿弥陀三尊像」はいずれも、仏の持つ精神性を金で巧みに表現しています。この金の光線は何を示しているのか? なぜこれほど荘厳なのか? 時間が経つのを忘れて絵と向き合っていると、心がとても軽くなります。
【公式サイトの画像】 長谷川等伯・柳橋水車図屏風
長谷川等伯の「柳橋水車図屏風」は、六曲一双のワイドな幅に連続して宇治橋を描いています。当時人気を博したモチーフで、MIHO MUSEUM・東博・京博などでも所蔵されています。
江戸初期に宇治は景勝地でしたが、風光明媚というよりも浄土世界を表現したような奥の深さが絵にあります。平安貴族が憧れた浄土世界という、復古的な感性を絵に含めたのかもしれません。荘厳さと華やかさが絶妙なバランスで表現されています。金の使い方がとても上手な作品です。
朝日新聞社グループとしてもこの絵を大切にしているようです。美術館向かいのフェスティバルタワー内に2013年にリニューアルオープンした「フェスティバルホール」の緞帳の図柄に採用しています。幅30m、重さ1.8tと圧巻の大きさです。
【朝日新聞の記事】フェスティバルホールの緞帳
「四季山水図屏風」は水墨画で描かれることが多いため、後期展示の狩野元信・永徳による金地屏風は不思議なオーラを感じさせます。等伯の静かな「柳橋水車図屏風」とは対照的に、とてもシンプルな描写ながらも狩野元信らしい躍動化が備わっています。じっくり見比べてみてください。
野々村仁清の茶碗にはわずかに金の細工が施されており、上品さを引き立たせています。「蓮池蒔絵硯箱」は、蓮の花の醸し出す仏の世界が硯箱を開けようとする者の心を落ち着かせるように見えます。絶妙な繊細さを金箔で見事に表現しています。
堀江物語絵巻は、岩佐又兵衛が追及した絵巻のリアリズムの究極の作品であり、又兵衛らしい人間を理想化しない描写が観る者を惹きつけます。
【公式サイトの画像】 岩佐又兵衛・堀江物語絵巻
美術館ロビーからは水と緑にあふれた大阪のビジネスセンター・中之島の美しい都市美が楽しめます。東京の出光・三菱一号館・三井記念美術館のようなビジネスセンター立地の美術館は関西では初めてです。いつもと違うお出かけを楽しめること間違いなしです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
長谷川等伯の生涯を描いた直木賞受賞作
中之島香雪美術館
開館記念展「珠玉の村山コレクション ~愛し、守り、伝えた~」
II 美しき金に心をよせて
http://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/exhibition/2018_2/
主催:香雪美術館、朝日新聞社、朝日放送
会期:2018年4月28日(土)~2018年6月24日(日)
原則休館日:月曜日
※5/27までの前期展示、5/29以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:メトロ四つ橋線肥後橋駅、京阪中之島線渡辺橋駅下車、各徒歩3分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅→メトロ四つ橋線→肥後橋駅
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マレーシア・イスラム美術館は、クアラルンプールの博物館の中でも一番人気です。イスラミック・ブルーのような妖艶な美しさが、その人気の秘密であることは、訪れるとすぐにわかります。イスラム美術館の前には国立モスクがあり、マレーシアのイスラム芸術の聖地のようなエリアです。
背後には緑が充満した巨大な公園、レイク・ガーデンが広がっています。クアラルンプールの街の喧騒を離れて、とてもすがすがしくなれるエリアです。
心が安らぐイスラムミック・ブルー
マレーシア・イスラム美術館は開館が1998年とまだ新しいこともあり、壁や床の白さがとてもクリーンで、すがすがしく感じます。また天井が高く、イスラム芸術を象徴するドーム天井を、実際にモスクにいるような空間で鑑賞できることも大きな魅力です。
マレーシアはもちろん、トルコ・アラブ・イラン(ペルシャ)といった他のイスラム教国や、インドなどイスラムと関連する他国の文化財も展示されています。世界中のイスラム芸術を楽しめるようになっています。
1階(入口の2つ上の階)ではまず、世界の著名なモスク建築のミニチュア模型が並んでいるのが目に入ります。
聖地メッカのモスクの巨大さには驚かされます。メッカにはイスラム教徒でかつ巡礼目的でないと行けないため、とても興味深く見ることができます。野球場が何個も入るような巨大な建物ですが、大部分は平屋建て、つまり1階だけです。祈りをささげる人を収容するためにこれほど巨大になったのでしょう。
室内から見た天井ドームの美しさは、この美術館の最大の目玉です。白を基調に、様々な繊細な色使いで装飾が施されています。光のあて方もとても上手です。ナチュラル感が強いことから自然光も取り入れているのかもしれません。いずれもとても上品です。女性はもちろん、男性が見てもうっとりします。
イスラムと聞くと、現代の中東が直面する様々な悲しむべき紛争の影響でしょうが、荒々しいイメージを持たれがちです。しかし彼らの文化は決してそんなことはありません。ここの天井ドームを見れば、全員が納得できます。建築の装飾の美しさとしては世界トップクラスであることは間違いありません。
イスラム教国の国旗によく使われていることから、イスラム文化では聖なる色である緑色を連想してしまいます。しかし王族の衣装や絨毯は、様々な色の組み合わせが見事です。ペルシャ絨毯がもっとも日本人にはわかりやすいでしょう。赤・青・茶色・黄色と様々な組み合わせは秀逸です。
王冠や首飾りの宝飾品、武具の金細工も見事です。日本の職人技を思わせるように、繊細で幻想的です。木製の家具、陶磁器、置物などを見ても、文化の成熟度はとても高いと感じさせます。
イスラム世界はヨーロッパで大航海時代が始まるまでは、まさに世界の文化の中心だったことがわかります。アラビアンナイトの物語の世界に飛び込んだようなバーチャル体験ができます。
最後にミュージアムショップにも必ず立ち寄ることをおすすめします。イスラムらしい幾何学的なアラベスク模様のデザインが施された土産品が所狭しと並んでいます。マグカップや絵葉書は特に買いやすいです。
紫色のローブを借りる観光客の列
イスラム美術館の前は。巨大な国立モスクです。礼拝時間以外はイスラム教徒でない観光客も内部を見学できます。ただし男女とも肌を見せることはNGなのでローブのような衣装を借りる必要があるようです。
イスラム芸術の美しさには目を見張るばかりです。マレーシアは、インドネシアと並んで日本から最も近いイスラム教国です。訪れる価値の高さは間違いなしです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
世界史に燦然と輝くイスラム美術を知ろう!
マレーシア・イスラム美術館(Islamic Arts Museum Malaysia)
https://www.iamm.org.my/(公式サイト:英語)
https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g298570-d455067-Reviews-Islamic_Arts_Museum_Malaysia-Kuala_Lumpur_Wilayah_Persekutuan.html(トリップアドバイザー:日本語)
原則休館日:なし
おすすめ交通機関:KTM Komuter「Kuala Lumpur駅」下車徒歩5分、もしくはLRT(Kelana Jaya Line)「Pasar Seni駅」下車徒歩10分
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今回は海外レポートです。マレーシアの首都クアラルンプールに行ってきました。私は外国へ行くと必ず、その国の歴史や美術を学べる博物館を訪れます。マレーシア国立博物館は、パネル解説(英語)が丁寧で、今に至る国の歴史が非常によくわかります。
英語がわからなくても大丈夫です。たくさんの種類が展示されている文化財は、東南アジアとインドやイスラムの文化が融合していることを感じさせ、とてもエキゾチックです。レプリカや写真など、観る者を飽きさせない展示の工夫も盛りだくさんです。
クアラルンプールの必見スポットであること、間違いなしです。
マレーシア国立博物館とKL Sentral駅の高層ビル群
2017年にMRT(いわゆる地下鉄)が開通し、博物館の名前を関したMuzium Negara駅ができたのでとても便利です。クアラルンプールの中央駅であるKL Sentral駅からは、Muzium Negara駅に向かう連絡通路を通って10分ほどで行けます。
博物館の外観はマレーシアの伝統的な建築様式を表現しています。背後にそびえるKL Sentral駅の高層ホテルを後ろに露払いとして従えているように見えるほど、堂々とした建物です。
緑豊かな博物館周辺、右側がLale Garden
博物館の前、KL Sentral駅の反対側には、広大な公園Lale Gardenが広がっています。世界有数の蝶や蘭を集めた園、王宮、イスラム美術館、国立モスクなど、こちらも見どころいっぱいです。
館内は Gallery A-Dの4つに分かれています。Aから順に先史時代、マラッカ王国などマレー人による王朝の時代、ポルトガル・オランダ・英国・日本による統治時代、第二次大戦後の独立と経済発展、と展示が進みます。
マレーシアは古代より、マラッカ海峡の交易によって国を形作ってきました。7c頃からムスリム(=イスラム教徒)商人が、マラッカ海峡を経由して東南アジアや中国と交易を始めていたと考えられています。
ユーラシア大陸の東西を海の道で結んだ中間点に位置するという地政学上の利点は、昔から変わっていません。
対岸のインドネシアのスマトラ島とほぼ一体となってマレー人による海洋国家が続き、15cには海峡最大の貿易港だったマラッカが空前の繁栄を謳歌します。このヨーロッパ人がまだやってきていない時代の展示がGallery Bで、マレー文化の魅力を濃厚に体験できます。
【公式サイトの画像】 Avalokitesvara(仏像)
仏像 Avalokitesvaraは、日本の如意輪観音のように手が複数あります。とても姿勢のよい立像で、八頭身美人のように抜群のプロポーションです。一切けがれのない美少年のようなお顔です。ヒンドゥー教の影響を受けていると考えられています。
日本の仏像にはないポーズと、神秘的な表情に見とれてしまいます。マレーシアの国宝のような格付けを受けています。
【公式サイトの画像】 Flor De La Mar(ポルトガルの軍艦)
マラッカの繁栄は長く続かず、1511年にポルトガル人に占領されます。ザビエルはここを拠点に日本に渡り、ここで生涯を終えています。展示されているポルトガル帆船の模型は、当時のマレー人に衝撃を与えた大きさだったことが容易に想像できます。
その後オランダ人の支配を経て、現在のマレーシア全域がイギリスの植民地となります。イギリス統治時代には、ペナン島やシンガポールが交易の拠点として繁栄するようになります。
【公式サイトの画像】 Jinrickshaw(人力車)
とても面白い展示があります。アルファベットをローマ字読みしてください、そう、人力車です。19cに華僑がマレーシアにもたらし、日本の人力車のようなタクシーとして普及しました。
日本からやってきた乗り物と当地では考えられており、そのままのネーミングで呼ばれています。日本の人力車とは異なり、南の国らしい涼しげな白を基調としたデザインです。
館内は広く、2時間以上かけて回る方がよいでしょう。うれしいことに、日本語の無料ガイドツアーもあります。週4回、火木金土曜のA.M.10:00から行われています。
【公式サイトの案内】 ガイドツアー
中心部にあるモールPavillionの中にあります
近年日本に旅行に来てくるアジア人観光客の中でマレーシア人は少なくありません。彼ら・彼女らがなぜ日本に興味を持つのかがとてもよくわかります。日本食のレストランや、日本の小売店、日系スーパーなど、日本で著名なブランドのほとんどがこの街にはあります。
とても活気のある街です。東南アジアでは、シンガポールに次いで一人当たりGDPの高い国です。近年は日本人の老後の移住先としても人気を集めています。そんな魅力的なマレーシア体験を国立博物館から始めてみてください。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
普通のガイドには載っていない個性的なマレーシアの博物館を紹介
マレーシア国立博物館Muzium Negara (National Museum)
http://www.muziumnegara.gov.my/ (公式サイト:英語)
https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g298570-d454881-Reviews-National_Museum-Kuala_Lumpur_Wilayah_Persekutuan.html (トリップアドバイザー:日本語)
原則休館日:ラマダン明け大祭、犠牲祭の各初日
おすすめ交通機関:MRT「Muzium Negara 駅」下車すぐ、もしくはKL Sentral 駅から徒歩10分
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カンディンスキーやパウル・クレーの名前は知っていても、オットー・ネーベルという画家の名前をご存知の方は日本では少ないでしょう。
三人には一堂に会していた場がありました。20世紀のアート・デザイン・建築に大きな影響を与えたドイツの芸術学校「バウハウス」です。両大戦間のわずかな期間しか存続しませんでしたが、デザインの世界では現代も神格化された存在です。
バウハウス(デッサウ)
そのバウハウスが来年2019年に創設100年目を迎えます。京都文化博物館で始まった「オットー・ネーベル展」では、100年前に輝いていたバウハウスに集った芸術家としてネーベルを主役に抜擢します。
ネーベルの作品は、現代にも通ずる洗練されたデザインが印象に残ります。日本ではあまり知られていない20世紀の画家を“発見”できる絶好の展覧会です。
ベルリンに生まれたネーベルは、第一次大戦従軍後にワイマールに開設されたばかりのバウハウスで、彼の創作活動に大きな影響を与える画家たちと出会います。
【Googleの画像検索結果】 パウル・クレー
ネーベルより13歳年上のパウル・クレーはスイスのベルン出身で、ネーベルとは生涯にわたって親交が続きます。人物や動物、風景をモチーフにした洞窟壁画や埴輪の造形を彷彿とさせる彼の表現はとても個性的です。
「具象とも抽象とも言えない」とよく評されるように、見れば見るほど様々な見え方が浮かんでは消え、何の絵かよくわからなくなるのが彼の最大の魅力でもあります。それだけ観る者を惹きつけるオーラを発する画家です。
【Googleの画像検索結果】 ワシリー・カンディンスキー
ネーベルより26歳年上のワシリー・カンディンスキーはモスクワ出身のロシア人ですが、創作活動の大半をドイツとフランスで行っています。オランダ人のモンドリアンと並んで「抽象絵画の創始者」とよく評されるように、幾何学的な形状や線と色面だけで表現する作品が著名です。
何を表現しようとしているかは全く分かりません。しかし制作から100年経過した今見ても、デザイン的にとてもキレ味が良いのです。彼の代表作「コンポジション」シリーズがまさにその切れ味を見せてくれます。
【公式サイトの画像】 ご紹介した作品の画像が掲載されています
ネーベルの作品を見ていると、二人の個性を上手に学習していることがよくわかります。クレーのように実在のモノを極度に抽象化し、カンディンスキーのように色面の組み合わせを上手に使います。幾何学的な線だけに頼らず、フリーハンドな線表現も多用します。
一方、音楽記号や古代ゲルマン人が使用していたルーン文字を使って、表現にリズム感を醸成するのはネーベルの個性です。「ドッピオ・モヴィメント(二倍の速さで)」はリズム感を表現した秀作です。仮にダンススクールのレッスン場に掲げられているとすると、上達が早くなりそうです。
「輝く黄色の出来事」は、ネーベルの抽象絵画の傑作の一つでしょう。和風住宅の砂壁を思わせる黄色い背景面に、実に優雅に抽象モチーフが浮かんでいます。抽象モチーフは今にも動き出しそうに見えるところが見る者を惹きつけます。
「満月のもとのルーン文字」はとても幻想的な作品です。月明りだけが照らす古代の森の中にいるような気分にさせてくれます。ルーン文字のモチーフは、中近東の文字や街並みをモチーフにした「近東シリーズ」に発展していったようです。「近東シリーズ」もとても幻想的です。
1931年のイタリア旅行の際に製作した「カラーアトラス」は、底抜けに明るいイタリアの都市を幾何学的な色彩模様だけで表現しようとしたスケッチブックです。ナポリとポンペイの2作品が展示されています。
ネーベルの画風が“一皮むけた“と感じさせる記念碑的な作品です。展覧順序のほぼ中間に展示されていますので、その前後で作風を見比べてください、とても興味深いですよ。
西洋の美術館が持つ西洋絵画作品の展覧会では、徐々に「写真撮影OK」が広がっています。京都文化博物館の「オットー・ネーベル展」でも、写真のように一部の区画の展示作品が撮影できます。
ただし撮影した写真は私的に楽しむためのものです。鑑賞の妨げにならないために、マナーを守って撮影しましょう。
- 撮影OKマーク表示を確認してから撮影する
- 自動でフラッシュが作動しないよう事前に設定する
- カメラのシャッター音を出さないようにする
- 撮影後に写真を見て歓声を上げない
- 撮影した写真は個人のSNSにUpするのはOK、仕事の製作物に使うのはNG
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
京都文化博物館
色彩の画家 オットー・ネーベル展 シャガール、カンディンスキー、クレーとともに
http://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/otto_nebel_2018/
主催:京都府、京都文化博物館、産経新聞社、関西テレビ放送
会期:2018年4月28日(土)〜6月24日(日)
原則休館日:月曜日
※5/27までの前期展示、5/29以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、東京・Bunkamura ザ・ミュージアムで2017年12月まで開催、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
このブログ「美の五色」について
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日本一高いビルにあるあべのハルカス美術館で「鈴木春信(すずきはるのぶ)」展が始まりました。
現在浮世絵として一般的に認識される四色フルカラーの作品は「錦絵(にしきえ)」と呼ばれます。鈴木晴信は錦絵を最も早く世に送り出した絵師と考えられています。細い線だけで微妙な心の変化を表現する春信の美人画はとても洗練されており、錦絵が爆発的に流行するきっかけとなりました。
春信は他の浮世絵師と比べて現存する作品数が少なく、しかも8割以上が海外にあります。日本国内の所蔵品だけで展覧会を開くのは難しい絵師なのです。春信作品の所蔵点数世界一を誇るボストン美術館が全面協力したこの展覧会は、国内で春信をたっぷり味わう稀有な機会です。
ボストン美術館の春信作品は、ビゲローとスポルディング兄弟の両者のコレクションが主流になっています。
ビゲローは明治初期に、考古学者で日本美術コレクターでも知られるモースと共に来日し、特に浮世絵を熱心に収集しました。ボストン美術館が所蔵する浮世絵版画52,000点のうち6割がビゲローからの寄贈品です。
今回の展覧会はビゲロー・コレクションを中心に構成されています。保存状態がよい作品が多く、錦絵の繊細な色合いを充分に楽しむことができます。ボストン美術館は保存状態を重視して展示しない期間を長く設けていること、春信の顧客層は富裕層が多く上質な紙を使っていること、がその秘密です。
スポルディング・コレクションは寄贈時の契約でボストン美術館でも一切展示されないため、今回の展覧会では錦絵を見ることができません。光による退色を防ぐためで、こちらも保存状態のよさと作品の質は一級品です。
鈴木晴信が彫師や摺師と共に錦絵の技術を開発したのは、1760年代に旗本や町人などの富裕層の間で流行していた絵暦(えごよみ)の交換会がきっかけです。当時の太陰暦では月の日数の大小(30日か29日のどちらか)が不規則に変わるため、月の大小を表す絵のビジュアルに新しい表現がどんどん求められていました。
鈴木晴信も錦絵の前には、紅・緑・黄色などの2-3色の原色でしか表現できない版画である「紅摺絵(べにずりえ)」の作品を残していますが、錦絵との表現力の豊かさの違いは一目瞭然です。
展覧会では、春信の少し前の絵師の紅摺絵から始まり、春信が活躍した約10年間の作品をはさんで春信の影響を受けた絵師の作品まで、一貫して楽しむことができます。見どころ紹介動画がアップされていますので、こちらもどうぞ。
【公式サイトの動画】 展覧会の見どころ紹介
春信の創作活動の前半は「見立絵(みたてえ)」と呼ばれる歴史上の出来事や古典を当時の風俗で表現したモチーフを多く描いています。「見立三夕「定家 寂蓮 西行」」は著名な歌人を描いた作品ですが、春信らしい表情の豊かさが伝わってきます。
浮世絵は版画ですので同じ作品が複数存在することが通常ですが、この作品は他に存在が確認されておらずまさに一点ものです。初期の作品で色彩表現に限界のある紅摺絵ですが、一点だけと聞くと余計に見入ってしまいます。
【公式サイトの画像】 「見立三夕「定家 寂蓮 西行」」
錦絵はやがて独立した絵画作品として売られるようになります。楽しむには教養が必要な見立絵だけでなく、庶民の日常生活や男女の恋、江戸の名所、有名な看板娘といったわかりやすいモチーフも手掛けていくようになります。
版画なので安価なメディアであり、大衆が当時の流行や娯楽を楽しめる雑誌としてのニーズに応えた春信が、その後の浮世絵の流行に火をつけたことがよくわかります。
「桃の小枝を折り取る男女」は、若衆と振袖の娘の目が合った瞬間の心のときめきを、絶妙の細い線で描いた目や頬のラインだけで表現しています。「恋の絵師」と呼ばれる理由がとてもよくわかる作品です。
【公式サイトの画像】 「桃の小枝を折り取る男女」
「浮世美人寄花 笠森の婦人 卯花」は、当時の江戸で評判だった谷中の笠森稲荷の水茶屋「鍵屋」に実在した看板娘・お仙を描いたものです。清楚な表情と細長く強調された足が、どんな美人か実際に見たくなる願望を見事に刺激しています。
【公式サイトの画像】 「浮世美人寄花 笠森の婦人 卯花」
エピローグでは春信の影響を受けた絵師たちが浮世絵をさらに盛り上げていった過程の作品が並びます。礒田湖龍斎の「やつし源氏 行幸」は、春信の著名作「雪中相合傘」のほとんどパクリの作品です。
喜多川歌麿の「お藤とおきた」は、看板娘となるための美の秘訣を伝授しているように思わせる絵です。看板娘の美人画を大成したとも言える歌麿は春信の表現をよく学んだのでしょう、より写実的で繊細になった歌麿の美人表現は雑誌のグラビア写真のような輝きを見せています。
【公式サイトの画像】 「やつし源氏 行幸」、「お藤とおきた」
入口を飾る「お仙」の拡大パネルで作品のきめ細かさがわかる
これだけの規模の展覧会は、ボストンに出かけても今後いつ見られるかわかりません。浮世絵がどのように流行していったのかもとてもよくわかります。一瞬の心の動きを表現する魔術師・春信の魅力をぜひお楽しみください。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
千葉市美術館の名キュレーターが届ける春信ワールド
あべのハルカス美術館
ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信
https://www.aham.jp/exhibition/future/suzukiharunobu/
http://harunobu.exhn.jp/
主催:あべのハルカス美術館、ボストン美術館、日本経済新聞社
会期:2018年4月24日(火)~6月24日(日)
原則休館日:5月中の月曜日
※この展覧会は、2017年10月まで千葉市美術館、2018年1月まで名古屋ボストン美術館から巡回してきたものです。
※この展覧会は、2018年7月から福岡市博物館に巡回します。
戦前を代表する美術館建築
大阪市立美術館で特別展「江戸の戯画」が始まりました。
「戯画」は風刺画・漫画と正確に区別することは難しいですが、笑いを誘うような親しみのある絵を指します。平安時代の鳥獣戯画をまず思い浮かべますが、江戸時代にもとてもたくさん描かれています。かの北斎漫画も江戸時代を代表する戯画の一つと言えます。
この展覧会は、江戸時代の戯画の原点ともいえる「鳥羽絵(とばえ)」にスポットをあてます。江戸の戯画の花を咲かせた葛飾北斎、歌川国芳、河鍋暁斎の一連の戯画作品からはユーモアの表現を追い求めた絵師たちの熱量を充分に感じることができます。中でも国芳の戯画の傑作「金魚づくし」は必見です。
鳥羽絵は18世紀末の大坂で流行しました。中心となったのは耳鳥斎(にちょうさい)という絵師で、少ない筆で細長い手足の人物を滑稽に描くのが特徴です。「地獄図巻」では、鰻屋が地獄で鬼に串刺しされて焼かれている表現など、とてもユーモアにあふれています。
鳥羽絵の語源は、江戸時代に鳥獣戯画の作者と考えられていた(現代では否定的)鳥羽僧正にちなんだものと考えられています。耳鳥斎も熱烈な鳥羽僧正の信奉者でした。
【公式サイトの画像】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています。
耳鳥斎は江戸における浮世絵の最隆盛期からは少し早い人物です。江戸では美人画の喜多川歌麿(きたがわうたまろ)や鳥居清長(とりいきよなが)とほぼ活躍時期が重なります。
この頃の江戸では五七五七七で社会風刺や滑稽をよむ狂歌が大流行しており、狂歌本の挿絵として動物などを擬人化した戯画が描かれていました。東西で戯画が隆盛を始めていたことになりますが、江戸はあくまで狂歌の添物に過ぎませんでした。
「北斎漫画」は、鳥羽絵のように絵そのものが楽しめる作品です。笑いを取るのではなく絵の手本・図柄集として製作されたものですが、北斎も鳥羽絵を見て刺激を受けた可能性は低くないと思われます。北斎漫画の人物や動物の流れるようなポーズは、一目で何をしているかわかるようとてもわかりやすく描かれています。
江戸の戯画は歌川国芳が大成したといっても過言ではありません。奇抜なモチーフで知られる国芳は、動物では猫をよく描いています。
しかし今回の展覧会の目玉は「金魚」です。擬人化された金魚が船頭になって船を進めている「いかだのり」は、大川(隅田川)の風景を描いた普通の浮世絵のようです。まったく違和感がありません。金魚のひれや尾を人間の手足に見立てた描写はそれだけ洗練されています。
大坂で芽生えた鳥羽絵は、江戸でとても洗練されていったことがよくわかります。大坂は武士がほとんどおらず、お上を風刺する絵は人気になりにくい環境にあります。そのため鳥羽絵は純粋にユーモアを追求した戯画だったと思われます。
一方、江戸は幕府のおひざ元で何かにつけてお上から“規制”されたこともあり、狂歌絵のような風刺画の人気が出やすい環境にあります。また江戸は参勤交代や商売で江戸から地方に戻る際の手土産ニーズもありました。
こうして戯画の市場規模が大きかった江戸で、多くの絵師によって新しい戯画の表現が次々と生み出されていきます。
江戸戯画のラストを飾るのは河鍋暁斎(かわなべきょうさい)です。反骨精神の強かった彼は、動物を擬人化して日常の事件を大画面でよく描いています。彼の緻密な描写は、戯画を戯画と思わせないほど洗練されています。
戯画は明治になると「ポンチ絵」と呼ばれた新聞や雑誌の挿絵として、戯画はさらに人気が出ます。来日した外国人画家も風刺画を多く描き、戯画の表現はますます多様になっていきます。
現代の漫画は、このような鳥羽絵や戯画へのあくなき挑戦を経て形成された文化だということがよくわかります。時代の空気をシンプルかつユーモラスに表現しようとした絵師たちの情熱をとても感じる展覧会です。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
江戸時代の動物画の多様性にはまさに驚愕
大阪市立美術館
特別展「江戸の戯画-鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで」
http://www.osaka-art-museum.jp/sp_evt/edonogiga
主催:大阪市立美術館、毎日新聞社、MBS
会期:2018年4月17日(火)~6月10日(日)
原則休館日:月曜日
※5/13までの前期展示、5/15以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
なまこ壁が印象的な館のデザイン
奈良の閑静な住宅地にある大和文華館(やまとぶんかかん)で、館が持つ素晴らしい人物画を選りすぐって展示する「中村内蔵助像と人物表現の魅力」が始まりました。
尾形光琳の唯一の肖像画である「中村内蔵助像」、江戸初期風俗画屏風の最高傑作「松浦屏風」、といった館の至宝の絵画が一堂に会します。他所蔵者からの貸し出し品は一切ありません。
所蔵品だけで構成するコレクション展で、これだけの展示ができる大和文華館の質の高さを実感できる展覧会です。
入口から見える館の前庭のアカマツの森は美しい
大和文華館は、日本最大の路線を持つ私鉄である近鉄が、戦後まもなく収集を始めたコレクションを母体に1960(昭和35)年に開館しました。
1946(昭和21)年、近鉄社長・種田虎雄(おいたとらお)は、日本文化の中心地を結ぶ路線にふさわしい美術館を沿線に設けるべく、世界的な美術史学者・矢代幸雄(やしろゆきお)に作品の収集を依頼します。
矢代幸雄は欧米での滞在歴が長く、かの松方コレクションの形成にもかかわっています。日本の美術品を保護・展示する施設や制度が欧米と比べ不十分という認識を抱いていたため、近鉄からのオファーに自らの理想を重ねたのでしょう。
ゼロからの美術品収集には時代環境が大きく影響しました。戦後のGHQによる財閥解体政策で美術品に財産税が課されることになり、納税のために大量の作品が売りに出されていたのです。
種田虎雄や矢代幸雄がこの時代環境をどうとらえていたかはわかりません。しかし通常は売りに出されることがまずない作品が大量に流通するという、収集の絶好のチャンスに恵まれたことだけは事実です。
明治から戦前まで、日本美術の代表的なコレクターとして知られた三溪園の原富太郎と三井財閥の益田孝(鈍翁)のコレクションが、戦後に大量に売りに出されます。大和文華館が持つ多くの国宝・重文には原三溪と益田鈍翁の旧蔵品が少なくありません。
今回展示されている「源氏物語浮舟帖」は原三溪の旧蔵品です。絵巻を墨だけで写した作品ですが、線の弾き方がきわめて精巧です。モノクロだけで源氏物語のリアルな心理を描写した絶品です。
【公式サイトの画像】 源氏物語浮舟帖
【文化遺産オンラインの画像】 中村内蔵助像
展覧会のタイトルにもなっている「中村内蔵助」とは、尾形光琳の親友でパトロンでもあった京都の貨幣鋳造所である「銀座」の役人です。内蔵助が江戸転勤になると、光琳は彼を頼って江戸に下り、新たに多くの江戸の大名家のパトロンを得ています。
男色が珍しくなかった江戸時代で、内蔵助が光琳の愛人だったとする説があるほどです。肖像にみる内蔵助はとても育ちがよさそうな端正な顔立ちをしています。紺地の裃姿もとてもドレッシーです。
現代のファッションモデルのように描いています。確認されている光琳の肖像画はこれが唯一です。唯一が事実なら、他の肖像画の依頼を断っていたのでは?と想像が膨らみます。となると内蔵助はやはり光琳にとって特別な人物?と想像が膨らみます。
「中村内蔵助像」は、それだけ観る者に様々な想像を働かせる魅惑的な肖像画なのです。
【公式サイトの画像】 松浦屏風
「松浦屏風」は、平戸藩松浦家に伝来したためこのように呼ばれます。江戸時代初期の遊里の様子を描いた傑作です。ほぼ等身大に近い大きさがこの絵の特徴です。描かれた遊女や禿をより目立たせるように計算しているのでしょうか。
当時の最新流行の娯楽の場だった遊里を、現代の雑誌のグラビア写真のように、リアルにグロテスクなまでに表現しているように思えてなりません。この作品はきわめて保存状態がよく、発色の美しさも見事に残っています。
彦根屏風と並んでまさに、江戸初期の風俗画の頂点にたつ銘品です。
この後、菱川師宣の「見返り美人」のように集団でなくピン(一人)の女性を縦長に描く「寛文美人」が流行します。この流行はやがて、浮世絵に発展することになります。「松浦屏風」は、日本絵画に芽生えた風俗画というジャンルを象徴する至高の作品として今に伝わる稀有な例なのです。
この館の前庭は四季の花も楽しめます(ヤマブキ)
館の最寄り駅の近鉄奈良線・学園前駅は関西有数の高級住宅街です。大阪は東京と異なり、平野が小さいことから近い距離に山があり、自然に恵まれた山の裾野や高台に別荘地や高級住宅街ができる傾向があります。奈良盆地の北端の高台に位置する学園前もその代表例です。
東京でいうと上野毛の五島美術館に例えられるでしょう。鉄道会社に起源があり、伝説的な経営者が鳴り物入りで開発した郊外の住宅地に立地し、日本美術を代表するかけがえのない作品を所蔵しています。
いずれも郊外にあり、とても静かな美術館です。ぜひたずねてみてください。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
著者は、江戸絵画と言えばこの方である静嘉堂館長
大和文華館
尾形光琳筆「中村内蔵助像」と人物表現の魅力
http://www.kintetsu-g-hd.co.jp/culture/yamato/exhibition/ogatakourinkuranosukezou.html
会期:2018年4月13日(金)~5月20日(日)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
八重桜の借景が明るい日差しに映える
奈良国立博物館で特別展「春日大社のすべて」が始まりました。
春日大社は藤原氏の氏神として奈良時代に創建され、藤原氏が隆盛を極めた平安時代の宝物が多く伝わることから「平安の正倉院」とも言われています。展示作品も国宝が目白押しで、最高権力者でないと持ちえないと思わせる圧巻の工芸品が並びます。
会場はさながら秋の正倉院展のような趣があり、「平安の正倉院」と呼ばれることに納得できます。神社に伝わる宝物では質量ともに春日大社は日本トップクラスです。とても重みのある展覧会です。
春日大社は、社殿をほぼ20年毎に修理造営する「式年造替(しきねんぞうたい)」を2年前の2016年に60回目を終えています。2018年は創建1250年目ですので、単純計算して創建以来一貫して式年造替を行ってきたことになります。
それだけ継続できたのは何といっても藤原氏の氏神であることが大きく、宝物の質の高さも藤原氏さまさまです。
春日大社は東大寺・興福寺が壊滅的被害を受けた南都焼討では大きな被害を免れています。また神社の宝物は蔵に収められることが一般的で火災の被害を受けにくいこともあり、現代にかけがえのない宝物が伝わっています。
2016年には「国宝殿」が新装されて宝物もかなり見やすくなりましたが、今回の奈良博の展覧会では一堂に会することに大きな価値があります。
会場で最初に観る者を出迎えるのは、やはり神の使いである「鹿」でした。京都・細見美術館が持つ金銅像「春日神鹿御正体(かすがしんろくみしょうたい)」は、鹿の胴体に付けた鞍の上に神の“正体”を現すオブジェ(本地仏、ほんじぶつ)がのせられています。
まさに鹿が神を春日社に連れてきたことを示しています。とても荘厳で神秘的な印象を与えます。わかりやすく春日信仰を表現した逸品です。
毎年12月の春日若宮おん祭の舞楽の演奏に昭和50年代まで長年用いられてきた巨大な太鼓「鼉太鼓(だだいこ)」は圧巻です。源頼朝の寄進とされ、800年前の繊細な彫刻と鮮やかな色彩が近年の修理で蘇っています。大きさにたがわず、とても優雅な趣を醸し出しています。
【展覧会公式サイト】ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
鞘(さや)の金の螺鈿細工が観る者を惹きつける「金地螺鈿毛抜形太刀」は、平安時代を代表する刀です。天皇や神のような絶対的な存在以外は何人も触れてはならないと聞こえてくるようなオーラを発しています。武士が用いる刀にはありえない品格と優雅さを表現した絶品です。
【公式サイトの画像】 春日大社蔵 国宝・金地螺鈿毛抜形太刀
春日大社に多く奉納される武具では甲冑の銘品もお見逃しなく。国宝の4点が前後期入れ替わり展示されますが、5/8-15/3だけは4点が揃って展示されます。保存状態がよく600年以上前の輝きを保っています。とても大切にされてきたことが、とてもよくわかります。
館の外壁に英語の看板、奈良博も外国人観光客の取り込みに躍起
展覧会では外国人観光客の姿が目立っていました。近年は展示解説パネルや展示作品リストを日英中韓の4か国語で用意する展覧会が増えています。
訪れた国の文化を味わえる美術館・博物館は観光の最も基本的なコンテンツです。フランス語や中国語繁体字など博物館来館者に多いものの未対応の言語はまだあります。奈良の至宝を展示する奈良博が、より多くの観光客にフレンドリーな博物館になることを願ってやみません。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
井浦新がファインダーを通じて見た式年造替の美
奈良国立博物館
創建1250年記念特別展「国宝 春日大社のすべて」
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/2018toku/kasuga/kasuga_index.html
主催:奈良国立博物館、春日大社、朝日新聞社、NHK奈良放送局、NHKプラネット近畿
会期:2018年4月14日(土)~6月10日(日)
原則休館日:月曜日
※5/13までの前期展示、5/15以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
展覧会の目玉作品、ポプリ壺「エベール」が会場へ誘う
大阪・中之島の陶磁器の殿堂、東洋陶磁美術館で「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」展が始まりました。
セーブルはパリとヴェルサイユのほぼ中間にある街です。18世紀ルイ15世時代に磁器の生産を始め、フランス宮廷でとても大切にされたセーブル磁器の産地として現代も人々の称賛を集めています。日本でいえば有田のような、磁器の“聖地”にあたります。
ロココ時代の華やかなデザインから、現代のコンテンポラリーなデザインまで、セーブルが歩んできた道がとてもよくわかる展覧会です。中には草間彌生の作品もあります。
セーブルと言えば毛皮をイメージする人も少なくないでしょう。クロテンの英語名Sableが毛皮の方で、フランスの街はSèvresです。ややこしいですが違います。
白地に絵画のように自由で繊細な表現ができる「白磁」は、西洋では長らく製造できませんでした。中国の白磁が16世紀になって本格的に欧州にもたらされると、王侯貴族の間で絶大な人気を集めます。
各地で競って磁器の生産に取り組み始め、最初に製造に成功したのは現在も強いブランド力を誇るドイツのマイセンです。ザクセン王国の首都・ドレスデン近郊にある街で、1709年のことです。
次いで18世紀半ばからフランスが白磁の製造を始めます。セーブル磁器は18世紀ロココ時代の社交界のスターでルイ15世の愛人だったポンパドゥール夫人を魅了します。欧州各国の宮廷でも、欧州文化をリードしていたフランス産の婚礼の調度品などとして人気を博しました。
18世紀に作られた作品は、ブーシェなど当代一流の画家たちに頻繁に絵柄を依頼しています。またポンパドゥール夫人が好んだこともあり、博物学研究から精巧な動植物の図柄も取り込んでいます。愛くるしいまでの優雅でとても洗練されたデザインが特徴的です。
「煮込み肉用の容器と受け皿」は皿の中心に送り先の人物のイニシャルが施されています。「あなたのために作った」感を強く印象付ける作品で、白地に施された金地の装飾がロココ文化の優雅さをしっかりと伝えています。
ポプリ壺「エベール」は寝室や浴室に置かれた、花や香辛料を入れて香りを拡散させる壺です。緑地の中にオウムが精巧に描かれ、博物学のレベルを示す作品でもあります。デザインはエキゾチックで、シノワズリな趣を感じさせます。壺を見るだけでかぐわしい香りが漂ってきそうな作品です。
「カップと窪んだソーサー」は、凹状に窪んだソーサーの中心にすっぽりカップが入るようになっています。こちらもシノワズリにロココが融合し、品格と優雅さをバランスよく醸し出しています。
19世紀末のアール・ヌーヴォーの華やかし頃、当時パリで人気を博したダンサーをかたどった「ダンサーNo.14」は、セーブル磁器が時代のニーズに見事に応えていることを示す逸品です。優雅な曲線のデザインが特徴なアール・ヌーヴォー調の部屋の置き物として合うように、ダンサーが躍る様子を風になびくが如くとても優雅に表現しています。
きわめて精巧な造形でもあり、あたかも3D撮影して3Dプリンターで出力したようです。
「乳房のボウル」は21世紀の索引ですが、ロココ時代の作品と思わせるような落ち着きと風格があります。タイトルのように乳房が下向きになってボウルを形どり、底には乳頭が表現されています。
タイトルから受けるイメージとは異なり、極めて上質な印象を感じる作品です。
【公式サイト】 ご紹介した作品画像の一部が掲載されています
「セーブルの創造の300年」を充分堪能できます
東洋陶磁美術館の企画展は、世界中の質の高い作品を揃えることで定評があります。2018年3月まで行われていた「唐代胡人俑」展は、高いレベルでシルクロードの東西文化交流を味わえる充実した展覧会でした。
今回の「セーブル」も、高いレベルでフランスの磁器による文化交流を充分に味わえます。新緑の美しい大阪・中之島に、ぜひお出かけください。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
美術出版社の教科書的定番入門書
大阪市立東洋陶磁美術館 特別展
フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年
300 ans de création à Sèvres: Porcelaine de la Cour de France
http://www.moco.or.jp/exhibition/current/?e=472
主催:大阪市立東洋陶磁美術館、朝日新聞社
会期:2018年4月7日(土)~7月16日(月)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、2018年1月までサントリー美術館で開催されていました。大阪展終了後は、2018年7月から山口県立萩美術館・浦上記念館、2018年10月から静岡市美術館へ巡回します。
池大雅の大回顧展は85年ぶり
京都国立博物館で「池大雅」展が始まりました。
池大雅(いけのたいが)は与謝蕪村(よさぶそん)と共に日本の「文人画」を大成した画家として知られています。明るい水墨画と軽妙な人物表現が魅力で、難解と思われがちな文人画の魅力をあらためて確認できる展覧会です。大雅の国宝・3点も勢揃いします。
「文人画(ぶんじんが)」とは、中国の明代末の書画家・董其昌(とうきしょう)が定義した画派を指す言葉です。プロの宮廷画家ではない知識人が描く絵のことを指します。中国の南宋で盛んになったことから「南画(なんが)」とも呼ばれます。
一方宮廷画家が描く絵を「院体画(いんたいが)」と呼び、北宋で盛んになったことから「北画(ほくが)」とも呼ばれます。院体画は花鳥風月を写実的に描くのが特徴で、とても“真面目な”印象を受けます。日本では室町時代に大いにもてはやされ、多くの作品が東山御物として珍重されました。
文人画は花鳥風月のモチーフは少なく、山水や故事にちなんで山居で人物が何かを行っている情景が好んで描かれます。山水がうねるような表現は極端なものも少なくなく、一見わかりにくい印象は否めません。
しかし作者が理想とする様々な思いを表現したものであり、知識人階級が絵の意味や風流を考えるにはうってつけの画風として、江戸時代になって注目を集め始めます。
中国の文人画の作品は長崎を通じて日本に入ってきました。また頻繁に来日していた黄檗宗の画僧も日本の文人画に大きな影響を与えました。大和郡山藩の家老の家に生まれた柳沢淇園(やなぎさわきえん)は日本の文人画の先駆者の一人で、若き日の大雅に積極的に文人画を伝えています。
大雅は日本ではまだ手探り状態だった文人画の表現を愚直なまでに吸収していきます。中国の文人が旅を通じて山水の魅力を学んだことから旅に積極的に出かけ、富士山や浅間山など多くの作品を残しています。
指に墨をつけて描く「指墨画」も多く制作しています。緻密な表現ができず、即興の絵のようなものですが、大雅の個性である軽妙洒脱な人物表現は、こうした手法からも学んだのでしょう。
【公式サイトの画像】 静岡県立美術館像「蘭亭曲水・龍山勝会図屏風」
「蘭亭曲水・龍山勝会図屏風」は大雅の代表作の一つです。中国の故事を、山間の巨岩と悠久の空間の中にとてもおおらかに描いています、要所でピンポイントに使う彩色が利いており、新しい水墨画表現であることを感じさせます。
【公式サイトの画像】 京都国立博物館寄託 萬福寺蔵「五百羅漢図」
「五百羅漢図」は、黄檗宗大本山・萬福寺の東方丈の襖絵でした。多様な人間の苦しみや希望を表現した五百羅漢は屋外に石造で表現されることが多く、室内の襖で囲まれた空間で見る機会は少ないでしょう。
数えきれないくらい多数で多様な表情の人物を見るのは圧巻です。話題を集めた2015年の森美術館「村上隆の五百羅漢図展」でも、作者による生きることへの思いが圧倒的に伝わってきました。江戸時代の人もきっと見とれていたことでしょう。
【公式サイトの画像】 森美術館「村上隆の五百羅漢図展」
襖絵では、遍照光院蔵の「山水人物図襖」も傑作です。山中の東屋に文人が集う様子が襖にゆったりと大きく描かれており、俗世間から離れた理想郷のような情景は見るものを灌漑深い気分にさせたことでしょう。
この襖絵があったのは高野山です。ととも立地にマッチしたモチーフです。大雅作品では3点ある国宝の一つです。
今回の展覧会は、大雅の大規模回顧展としては史上最大で出品作は150点にのぼります。所蔵元も全国の美術館や個人蔵などとても多岐にわたっており、この展覧会に対する熱い思いが伝わってきます。
川端康成が所蔵していたことで知られる与謝蕪村との共作の国宝「十便十宜図」は展示替えしながら通期で、3つ目の国宝「楼閣山水図屏風」は5/2からの後期で展示されます。
伊藤若冲や円山応挙とは異なる江戸の文人画の奥の深い魅力を充分に堪能することができます。東京からでもわざわざ出かける価値がある展覧会です。
京博の近くにこんな撮り鉄スポットもあります
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
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京都国立博物館「特別展 池大雅 天衣無縫の旅の画家」
http://www.kyohaku.go.jp/jp/special/tenrankai/taiga2018.html
主催:京都国立博物館、読売新聞社
会期:2018(平成30)年4月7日(土)~ 5月20日(日)
原則休館日:月曜日
※4/30までの前期展示、5/2以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※後期展示作品の中に、展示期間が限られているものがあります。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
井伊の殿様が見ていた庭の光景
彦根藩主・井伊家の伝来品を所蔵・公開する彦根城博物館で、「国宝・彦根屏風」の春の定例の特別公開が間もなく始まります。
この館の珠玉である彦根屏風は江戸初期の風俗画の最高傑作で、京都の町のスターだった遊女(歌舞伎演者も兼ねる)を描いたものです。やがて浮世絵として大輪を咲かせる役者・美人画の原点のような作品です。
この1点を見るためにわざわざ大阪や名古屋・東京から出かける価値が充分にあります。
【公式サイトの画像】 風俗図(彦根屏風)
彦根屏風は、幕末の大老・直弼(なおすけ)の兄で一代前の藩主・直亮(なおあき)が入手しました。長期間別々の絵として箱に入れて大切に保存されてきましたが、近年になって本来の屏風に表装されています。直亮は多彩な趣味を持つコレクター大名で、彦根城博物館に伝わる井伊家伝来品は多くは直亮の収集です。
彦根屏風というのは彦根藩に伝来したため呼ばれた通称で、国宝としての指定名称は単に「風俗図」です。六曲一隻の屏風で、描かれた人物が屏風の谷となる折り目で向かい合うように描かれています。
保存状態がとてもよく、着物の文様や人物の心理をも浮かび上がらせる表情、画中画の山水画など、きわめて精密な描写がのこっています。余計なものは一切ない空間と人物配置の構図は絶妙のバランスが取れています。
落款がなく作者はわかっていませんが、当時の上流階級のサロンに出入りできるようなトップクラスの絵師だったことは間違いないでしょう。
屏風右側の黒い着物の美少年は、刀で体を支えて実に艶めかしく腰をくびらせ、正面にいる遊女らしき女性を誘惑しているように見えます。そのそばでは、とてもあでやかで高級そうな柄の着物を身にまとった美少年がペットの犬を連れて、その誘惑の様子を見ています。
屏風左側では三味線を弾く、双六で遊ぶ、連歌を楽しむといった当時の上流階級の遊びが描かれています。まるで写真のように描写がリアルです。今にも動き出しそうに見えます。
当時の人も、まるで写真のように都の最新流行の娯楽の様子に目が釘付けになっていたように思えてなりません。
彦根城博物館は常設展示も充実しています。あわせて必ずご覧になることをおすすめします。彦根屏風の特別公開中も常設展示は行われています。
井伊家は幕末まで続いた大藩で、維新後も収集品を散逸させずに大切に守り続けてきました。そのため質の高い名品が多くあり、常設展示では入れ替わり展示されます。
“赤備え”で知られる井伊家の武具や軍旗は、とてもシンプルなデザインでとても目立ちます。戦場では強烈なオーラを出していたことがうかがえます。茶道具や書画にも家の格式相応の質の高さを感じさせます。
【公式サイト】 常設展‟ほんもの”との出会い、現在展示中の主な作品
ひこにゃん登場に黒山だかり
彦根城博物館は井伊家から寄贈された文化財の収蔵・展示施設として、1987年に彦根城の表御殿を忠実に再現して建設・開館しました。美術品の展示エリアの奥には、表御殿にあった茶室や藩主たちが過ごした部屋が再現されており、美しい庭園を望むことができます。まさに殿さまの目線で美術品や庭を楽しむことができます。
ゆるキャラではもうベテランになってしまった“ひこにゃん”も、時間を決めて登場します。相変わらずの大人気です。
新緑の美しい季節です。国宝の彦根城天守のほか、江戸時代の城下町の様子を再現した近隣の「夢京橋キャッスルロード」はぶらり歩きに最適で、グルメやカフェが存分に楽しめます。遠方からわざわざ訪れる魅力にあふれた観光地です。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
1976年発行の人気切手シート
彦根城博物館「国宝・彦根屏風」特別公開
http://hikone-castle-museum.jp/topics/5727.html
会期: 2018年4月13日(金)~5月8日(火)
会期中原則休館日:なし
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。