展覧会の目玉作品、ポプリ壺「エベール」が会場へ誘う
大阪・中之島の陶磁器の殿堂、東洋陶磁美術館で「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」展が始まりました。
セーブルはパリとヴェルサイユのほぼ中間にある街です。18世紀ルイ15世時代に磁器の生産を始め、フランス宮廷でとても大切にされたセーブル磁器の産地として現代も人々の称賛を集めています。日本でいえば有田のような、磁器の“聖地”にあたります。
ロココ時代の華やかなデザインから、現代のコンテンポラリーなデザインまで、セーブルが歩んできた道がとてもよくわかる展覧会です。中には草間彌生の作品もあります。
セーブルと言えば毛皮をイメージする人も少なくないでしょう。クロテンの英語名Sableが毛皮の方で、フランスの街はSèvresです。ややこしいですが違います。
白地に絵画のように自由で繊細な表現ができる「白磁」は、西洋では長らく製造できませんでした。中国の白磁が16世紀になって本格的に欧州にもたらされると、王侯貴族の間で絶大な人気を集めます。
各地で競って磁器の生産に取り組み始め、最初に製造に成功したのは現在も強いブランド力を誇るドイツのマイセンです。ザクセン王国の首都・ドレスデン近郊にある街で、1709年のことです。
次いで18世紀半ばからフランスが白磁の製造を始めます。セーブル磁器は18世紀ロココ時代の社交界のスターでルイ15世の愛人だったポンパドゥール夫人を魅了します。欧州各国の宮廷でも、欧州文化をリードしていたフランス産の婚礼の調度品などとして人気を博しました。
18世紀に作られた作品は、ブーシェなど当代一流の画家たちに頻繁に絵柄を依頼しています。またポンパドゥール夫人が好んだこともあり、博物学研究から精巧な動植物の図柄も取り込んでいます。愛くるしいまでの優雅でとても洗練されたデザインが特徴的です。
「煮込み肉用の容器と受け皿」は皿の中心に送り先の人物のイニシャルが施されています。「あなたのために作った」感を強く印象付ける作品で、白地に施された金地の装飾がロココ文化の優雅さをしっかりと伝えています。
ポプリ壺「エベール」は寝室や浴室に置かれた、花や香辛料を入れて香りを拡散させる壺です。緑地の中にオウムが精巧に描かれ、博物学のレベルを示す作品でもあります。デザインはエキゾチックで、シノワズリな趣を感じさせます。壺を見るだけでかぐわしい香りが漂ってきそうな作品です。
「カップと窪んだソーサー」は、凹状に窪んだソーサーの中心にすっぽりカップが入るようになっています。こちらもシノワズリにロココが融合し、品格と優雅さをバランスよく醸し出しています。
19世紀末のアール・ヌーヴォーの華やかし頃、当時パリで人気を博したダンサーをかたどった「ダンサーNo.14」は、セーブル磁器が時代のニーズに見事に応えていることを示す逸品です。優雅な曲線のデザインが特徴なアール・ヌーヴォー調の部屋の置き物として合うように、ダンサーが躍る様子を風になびくが如くとても優雅に表現しています。
きわめて精巧な造形でもあり、あたかも3D撮影して3Dプリンターで出力したようです。
「乳房のボウル」は21世紀の索引ですが、ロココ時代の作品と思わせるような落ち着きと風格があります。タイトルのように乳房が下向きになってボウルを形どり、底には乳頭が表現されています。
タイトルから受けるイメージとは異なり、極めて上質な印象を感じる作品です。
【公式サイト】 ご紹介した作品画像の一部が掲載されています
「セーブルの創造の300年」を充分堪能できます
東洋陶磁美術館の企画展は、世界中の質の高い作品を揃えることで定評があります。2018年3月まで行われていた「唐代胡人俑」展は、高いレベルでシルクロードの東西文化交流を味わえる充実した展覧会でした。
今回の「セーブル」も、高いレベルでフランスの磁器による文化交流を充分に味わえます。新緑の美しい大阪・中之島に、ぜひお出かけください。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
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大阪市立東洋陶磁美術館 特別展
フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年
300 ans de création à Sèvres: Porcelaine de la Cour de France
http://www.moco.or.jp/exhibition/current/?e=472
主催:大阪市立東洋陶磁美術館、朝日新聞社
会期:2018年4月7日(土)~7月16日(月)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、2018年1月までサントリー美術館で開催されていました。大阪展終了後は、2018年7月から山口県立萩美術館・浦上記念館、2018年10月から静岡市美術館へ巡回します。
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