美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

京博「池大雅」展 ~文人画を洒脱に見せるところが素晴らしい

2018年04月12日 | 美術館・展覧会


池大雅の大回顧展は85年ぶり

京都国立博物館で「池大雅」展が始まりました。

池大雅(いけのたいが)は与謝蕪村(よさぶそん)と共に日本の「文人画」を大成した画家として知られています。明るい水墨画と軽妙な人物表現が魅力で、難解と思われがちな文人画の魅力をあらためて確認できる展覧会です。大雅の国宝・3点も勢揃いします。

「文人画(ぶんじんが)」とは、中国の明代末の書画家・董其昌(とうきしょう)が定義した画派を指す言葉です。プロの宮廷画家ではない知識人が描く絵のことを指します。中国の南宋で盛んになったことから「南画(なんが)」とも呼ばれます。

一方宮廷画家が描く絵を「院体画(いんたいが)」と呼び、北宋で盛んになったことから「北画(ほくが)」とも呼ばれます。院体画は花鳥風月を写実的に描くのが特徴で、とても“真面目な”印象を受けます。日本では室町時代に大いにもてはやされ、多くの作品が東山御物として珍重されました。

文人画は花鳥風月のモチーフは少なく、山水や故事にちなんで山居で人物が何かを行っている情景が好んで描かれます。山水がうねるような表現は極端なものも少なくなく、一見わかりにくい印象は否めません。

しかし作者が理想とする様々な思いを表現したものであり、知識人階級が絵の意味や風流を考えるにはうってつけの画風として、江戸時代になって注目を集め始めます。

中国の文人画の作品は長崎を通じて日本に入ってきました。また頻繁に来日していた黄檗宗の画僧も日本の文人画に大きな影響を与えました。大和郡山藩の家老の家に生まれた柳沢淇園(やなぎさわきえん)は日本の文人画の先駆者の一人で、若き日の大雅に積極的に文人画を伝えています。

大雅は日本ではまだ手探り状態だった文人画の表現を愚直なまでに吸収していきます。中国の文人が旅を通じて山水の魅力を学んだことから旅に積極的に出かけ、富士山や浅間山など多くの作品を残しています。

指に墨をつけて描く「指墨画」も多く制作しています。緻密な表現ができず、即興の絵のようなものですが、大雅の個性である軽妙洒脱な人物表現は、こうした手法からも学んだのでしょう。

【公式サイトの画像】 静岡県立美術館像「蘭亭曲水・龍山勝会図屏風」

「蘭亭曲水・龍山勝会図屏風」は大雅の代表作の一つです。中国の故事を、山間の巨岩と悠久の空間の中にとてもおおらかに描いています、要所でピンポイントに使う彩色が利いており、新しい水墨画表現であることを感じさせます。

【公式サイトの画像】 京都国立博物館寄託 萬福寺蔵「五百羅漢図」

「五百羅漢図」は、黄檗宗大本山・萬福寺の東方丈の襖絵でした。多様な人間の苦しみや希望を表現した五百羅漢は屋外に石造で表現されることが多く、室内の襖で囲まれた空間で見る機会は少ないでしょう。

数えきれないくらい多数で多様な表情の人物を見るのは圧巻です。話題を集めた2015年の森美術館「村上隆の五百羅漢図展」でも、作者による生きることへの思いが圧倒的に伝わってきました。江戸時代の人もきっと見とれていたことでしょう。

【公式サイトの画像】 森美術館「村上隆の五百羅漢図展」

襖絵では、遍照光院蔵の「山水人物図襖」も傑作です。山中の東屋に文人が集う様子が襖にゆったりと大きく描かれており、俗世間から離れた理想郷のような情景は見るものを灌漑深い気分にさせたことでしょう。

この襖絵があったのは高野山です。ととも立地にマッチしたモチーフです。大雅作品では3点ある国宝の一つです。

今回の展覧会は、大雅の大規模回顧展としては史上最大で出品作は150点にのぼります。所蔵元も全国の美術館や個人蔵などとても多岐にわたっており、この展覧会に対する熱い思いが伝わってきます。

川端康成が所蔵していたことで知られる与謝蕪村との共作の国宝「十便十宜図」は展示替えしながら通期で、3つ目の国宝「楼閣山水図屏風」は5/2からの後期で展示されます。

伊藤若冲や円山応挙とは異なる江戸の文人画の奥の深い魅力を充分に堪能することができます。東京からでもわざわざ出かける価値がある展覧会です。


京博の近くにこんな撮り鉄スポットもあります

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



新潮社の名著シリーズ


京都国立博物館「特別展 池大雅 天衣無縫の旅の画家」
http://www.kyohaku.go.jp/jp/special/tenrankai/taiga2018.html
主催:京都国立博物館、読売新聞社
会期:2018(平成30)年4月7日(土)~ 5月20日(日)
原則休館日:月曜日
※4/30までの前期展示、5/2以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※後期展示作品の中に、展示期間が限られているものがあります。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 彦根城 ~江戸の面影が残る... | トップ | 大阪・東洋陶磁美術館「セー... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術館・展覧会」カテゴリの最新記事