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あ/た/ま

聴く読む観る買うの備忘録

新緑色のスクールバス / 赤川次郎

2013-12-04 | 
新緑色のスクールバス: 杉原爽香 (光文社文庫)
赤川次郎
光文社


 登場人物が1歳ずつ歳を重ねて続いてきたこのシリーズも26作目。最近は物語の軸も登場人物の近況報告的なものに移ってきている。前作は思わせぶりな終わり方だったので、「終わりの始まりか?」という感想を持ったりしたが、再び安定軌道に戻った印象。まだしばらく物語は続きそうだ。中高生の頃に沢山読んだ著者の語り口を懐かしみつつ、年に一度の恒例行事として楽しむには、この位がちょうどいいかな。

死神の浮力 / 伊坂幸太郎

2013-11-27 | 
死神の浮力
伊坂幸太郎
文藝春秋


 死神の千葉は、対象の人間を1週間観察して、「可」または「見送り」の判断を報告することを仕事にしている。娘を凶悪な犯罪者に殺された作家の元に送られた千葉は、復讐を誓う作家とその妻に随行し、時に頼られながら、今回も生真面目に彼は仕事を続ける。
 著者の初期の作品の続編。人の世に派遣された死神が主人公というあり得ないシチュエーションながら、「死神」千葉のトボけた魅力が印象的で、この新作は楽しみにしていた。台詞回しの軽妙さ、千葉の可笑しな間合いは健在。長編ということもあり、千葉と対象の夫妻との関わりが深いので、復讐を遂げようと必死な2人とクールな千葉のコントラストがより鮮明に感じられる。本作も十分面白いと思うし、実際楽しんだが、敢えて比べてなら連絡短編の構成で巧みに伏線を回収していった前作のフォーマットの方が、この題材にはより適しているようにも思われる。

高校入試 / 湊かなえ

2013-11-19 | 
高校入試 (単行本)
湊かなえ
角川書店


 県内有数の名門校、橘第一高校の入試前日、各教室の黒板には「入試をぶっつぶす」という張り紙が掲げられていた。そして迎えた入試当日、試験終了間際には持ち込みが禁じられている携帯電話の音が鳴り響き、某掲示板には知られれる筈のない情報が次々に書き込まれれて行く。
 テレビドラマを観たのであらすじは知っていたが、ドラマでは少々分かりにくかった種明かしのおさらいと、小説の方が湊かなえの毒が味わえるかなという思惑もあって、改めて読んでみた。期待したほど新しい発見は無かったが、真相が明らかになって行く過程で各人の役割が分かって得心。テレビ用にチューニングしたのか、著者の他の作品に比べると毒々しさが薄めな気もする。

沈黙の町で / 奥田英朗

2013-10-11 | 
沈黙の町で
クリエーター情報なし
朝日新聞出版


 中学生の部室棟の屋上から中学2年の生徒が転落して亡くなっているのが発見される。状況から事故かと思われたが、亡骸につねられたような内出血の跡が無数にあったことで、いじめに遭っていたことが明らかになり、イジメの当事者として、少年2人が逮捕、2人が補導され、取り調べが始まる。
 テーマがイジメなので、作品全体のトーンは暗いが、転落事件の真相を探る現在と、イジメがエスカレートして行く様子を描いた過去の記述が交互にインサートされる構成が巧みで、物語に引き込まれてしまう。イジメの対象となった少年と周囲の関係が変わっていく様子、親子の関係や親のエゴ、学校やマスコミの動きなど、こうした問題の構造や難しさを描き出しつつ、必要以上にセンセーショナルに脚色されていないので却って読み応えが増している印象。

白ゆき姫殺人事件 / 湊かなえ

2013-09-25 | 
白ゆき姫殺人事件
湊かなえ
集英社


 日の出化粧品に勤める美人OL、三木典子が何者かに惨殺されいるのが発見され、間もなく典子の同僚の城野美姫が失踪していることが分かる。マスコミやSNSを通じて、地味で目立たない存在だった美姫について、周囲の人々が様々に語り始める。
 前半は著者得意のインタビュー形式で様々な登場人物が自身の視点で事件を語り、徐々に事件の全貌が露わになっていた後、後半にはSNSのログや雑誌のクリッピングのような形式で顛末が明らかにされるという実験的な手法で描かれている。実験としては面白いが手法として十分咀嚼されず内容が薄くなってしまい、小説としての濃度はページ数の半分程度になってしまっているのが残念。

噂の女 / 奥田英朗

2013-09-25 | 
噂の女
奥田英朗
新潮社


 美人ではないが、肉感的で男好きのするいい女、美幸。中古車屋の事務員を振り出しに、雀荘の店員、クラブのママと男を転がしながらのし上がっていく。行く先々で人々の噂話にのぼるが、実態はなかなかつかめない。
 高校時代は地味な女の子だった美幸が短大で派手になり、男を転々としながら欲望を叶えて行く顛末を、周囲の人々の噂話で描き出して行く。噂される美幸の怪しさやきな臭さと、噂する側の平凡な人々の心境を毒のあるユーモアでコミカルに描く手法は、著者お得意のジャンルといっていい。語り口のテンポも良くスラスラ読める1冊。

タイニー・タイニー・ハッピー / 飛鳥井千砂

2013-09-19 | 
タイニー・タイニー・ハッピー (角川文庫)
飛鳥井千砂
角川書店(角川グループパブリッシング)


 郊外のショッピングセンター「タイニー・タイニー・ハッピー」で働く8人の男女が、仕事や恋愛、結婚、家族に葛藤する群像劇。
 書店で平積みになっていたのに興味を惹かれて読んでみた。舞台や登場人物を共有しつつ、8人それぞれを主人公に語られる連作短編。どの物語も至って普通の日常を描いたものだが、いずれも葛藤の末に前向きなラスト辿り着くのが良い。忙しい生活の合間に軽く目を通してほっこりするには好適。何かを問いかける物語ではないが、読後感は良い。

明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち / 山田詠美

2013-09-01 | 
明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち
山田詠美
幻冬舎


 新しい家族となるべく郊外の一軒家に引っ越した2組の親子。長男の澄生と長女の真澄に、次男の創太が加わり、更に末っ子の千恵が生まれる。祖母の遺した「人生よ、私を楽しませてくれてありがとう。」の言葉をなぞるように、絵に描いたような幸せな家庭を作るかに思えた彼らの人生は、長男の死によって暗転してしまう。
 思いがけない形で家族の一員を失った家族の思いを、それぞれの子供達の視線で描く物語。一緒に辿ってきた日々に、それぞれに目に捉えられた姿があることを、著者特有の毒を含んだ表現で巧みに描き出している。ほんのり希望を垣間見せる終わり方も余韻があって良い。

ちょうちんそで / 江國香織

2013-08-30 | 
ちょうちんそで
江國香織
新潮社


 50代なかばにして独りケアハウスに入居している雛子。彼女の側には思い出の中の妹、飴子がいて、いつも2人で対話しながら毎日を送っている。
 50代の若さでケアハウスに入り、心身のバランスを喪っているように見える雛子。彼女に何らかの関わりがある人々の生活や想いがパラレルに語られることで、徐々に彼女が現在の状態に至った経緯が現れてくる。静かな黄昏を迎えた老婦の来し方を描く言葉は美しいが、劇的な幕切れを用意するでもなく、ふわっと淡く物語の幕が降りるのも相変わらず。

何者 / 朝井リョウ

2013-08-27 | 
何者
朝井リョウ
新潮社


 演劇サークルで脚本を書いていた拓人、バンドのヴォーカルだった光太郎、光太郎の元彼女で拓人の憧れのひと瑞月、瑞月の友達で留学経験者でやたら意識の高い理香、理香の同棲相手で就職に疑問を持っている隆良。社会に出る一歩手前の彼らは、就活の息苦しさの中でお互いを意識しながら否応なしに自分と向き合っていく。
 就職活動中の焦りや、息苦しさなど、著者とは世代の違う私にも身に覚えのある出来事と、SNSのようなツールのおかげで、自分が幾つものキャラに分化していくような、現代に特有の気分が同時に描かれている。TwitterやFacebookの投稿を挿入する手法で、ネット上の表層的なコミュニケーションの底に、ドロッとした感情が沈泥していく様が描き出されるのが面白いし、手法的な実験に留まらず、ドロッとした感情が図らずも顕れるところまで語っているのが読み応えがあって良い。