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あ/た/ま

聴く読む観る買うの備忘録

チア男子 / 朝井リョウ

2014-02-21 | 
チア男子! ! (集英社文庫)
朝井リョウ
集英社


 道場の長男として幼い頃から柔道を続けてきた晴希だが、無敵の姉に比べて自分の限界を感じて柔道を止める決意をする。同時期に柔道部を退部した幼馴染の一馬に誘われて男子チアリーディングチーム結成に奔走すると、あまりに個性的な凸凹なメンバーが集まった。
 馴染みの無いスポーツが題材なのでとっつきにくいかと思いきや、全然そんなこともなく一気読み。あまりに個性的な少年達が目標に向かって頑張る、典型的な青春小説だが、彼らの抱える葛藤の描き方が巧い。何冊が読んだ著者の作品の中では最も勢いを感じて面白かった。

ユーミンの罪 / 酒井順子

2014-02-10 | 
ユーミンの罪 (講談社現代新書)
酒井順子
講談社


 ユーミンのアルバムを時系列に添って採り上げ、時代背景やそれに対するユーミンのスタンスを追っていく構成。歌詞の1つ1つと時代を結びつけ、当時の自分や仲間たちを投影しながら分析する視点はいかにも著者という感じだが、自身がユーミンの熱心なファンだったことが作用しているのか、舌鋒の鋭さは普段程ではない。笑えるほど辛辣な口調を期待して手に取ったので、少々肩透かしを食らった感じだ。

望郷 / 湊かなえ

2014-02-03 | 
望郷
湊かなえ
文藝春秋


 瀬戸内海に浮かぶ小さな島、白綱島に育った人々は、島を離れてもそこで育った頃のことを今でも覚えている。彼らが家族への思慕と共に拭い去れず抱えていたわだかまりが、ふとしたきっかけで解きほぐされていく。
 同じ島に育った人々を主人公にした連作短編。それぞれの主人公が抱えている、家族に関わるわだかまりがあり、現在の出来事がきっかけでその背景が明らかになるという構成になっている。わだかまりを説明する序盤で著者特有の毒が発揮されているが、顛末が明らかになる後半で家族のへの思慕や幼い頃への郷愁に転ずる構成になっているエピソードが多く、概ね読後感は良い。それぞれの短編を繋ぐような物語や横軸になるような設定があるともっと面白かった気もするが、設定やテイストは統一されている。

クリムゾンの迷宮 / 貴志祐介

2014-01-29 | 
クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)
貴志祐介
角川書店(角川グループパブリッシング)


 ホームレス生活をしていた藤木が目覚めると、見渡す限りの深紅の山々に囲まれた、見に覚えのない光景の中にいた。傍らに置かれたゲーム機を起動すると、「火星の迷宮へようこそ」というメッセージと共に、訳の分からないゲームに参加させられていることを告げられる。
 理不尽にゲームに送り込まれた9人の男女が生き残りを賭けるサバイバルゲーム。序盤でルールが判り、ゲームが動き始めたあたりから続きが気になり、頁を捲る手が早くなるストーリー運びは良く出来ている。ラストがあっけないのが惜しい。もう少し種明かし的な記述があって得心するかと思いきや、やや消化不良。

スリジエセンター1991 / 海堂尊

2014-01-28 | 
スリジエセンター1991
海堂尊
講談社


 モンテカルロで心臓外科医を営み、全財産の半分を賭して勝った者だけに手術を施すというポリシーを貫いていた天城雪彦は、東城大学附属病院長の佐伯から、心臓治療専門施設「スリジエ・ハートセンター」立ち上げの為に招聘されて帰国した。資金捻出のため、天城はウエスギ・モータース会長の公開手術を目論むが、佐伯病院長の急進的な病院改革を懸念し、天城の哲学を受け入れない者達は、彼らの計画を阻もうとする。
 全体が1つの世界を共有しつつ、様々なサイドストーリーを持つ海堂尊のバチスタシリーズ。本作は「ブラックペアン1988」「ブレイズメス1990」に続く、世良シリーズ第3作である。他の作品で疑問に思っていたことや、伏線めいた思わせぶりな書き方だった事柄の種明かしが多く含まれすっきりする。天才外科医の天城のキャラ、分かっていても感傷的になってしまうラストなど、諸作品の中でも出色の出来。

黄色い目の魚 / 佐藤多佳子

2014-01-21 | 
黄色い目の魚
佐藤多佳子
新潮社


 家族や学校の友だちとは中々心を通わすことが出来ず、イラストレーターの叔父にだけ心を開く村田みのりと、絵を描くのが好きで、教科書やノートを落書きだらけにしてしまう木島悟は高校の同級生。悟は、美術のデッサンで悟がみのりを描いて以来、気づくと彼女を目で追うようになってしまう。
 「一瞬の風になれ」の佐藤多佳子が描く、絵を通じて知り合う高校生の物語。各々の子供時代のエピソードに始まり、高校で同級生になった2人の物語がそれぞれの視点から交互に語られる連作短編。とっくに忘れていたような高校生時代の不安定な心持ちを痛いほどに思い起こさせる独特の語り口で、家族や友人との関係、部活動などにまつわる葛藤を繊細に描いている。いつもながら爽やかな読後感。

不格好経営 / 南場智子

2014-01-01 | 
不格好経営―チームDeNAの挑戦
南場智子
日本経済新聞出版社


 普段あまりビジネス書は読まないのだが、同じくビジネス書嫌いの家人に進められて読了。これが思いがけないほど面白い。DeNA創業者の自伝的小説なのだが、自分の出会った仲間たち、彼らと作った会社への愛情が滲み出るような、ビジネスの香りを全く感じさせない語り口が素晴らしい。ビジネスに関わる本に感動を覚えたのは初めて。彼女のポリシーの1つ、"Surface of Sphere"-組織を球体のように捉え、球体の持つ無数の表面のどこかでは誰もが会社の正面として外部に対峙していく-は特に共感。

ガソリン生活 / 伊坂幸太郎

2013-12-31 | 
ガソリン生活
伊坂幸太郎
朝日新聞出版


 大学生の望月良夫は愛車デミオを運転中に、偶然通りかかった女優の翠を乗せることになるが、その後翠は運転中のトンネル事故で亡くなってしまう。他人事ながら不思議に思う良夫だったが、それぞれの事情が重なって、小学生ながら家族で最も落ち着いた弟、最近彼が出来たらしい高校生の妹、彼らを育ててくれた母の4人家族全員が事件に巻き込まれていく。
 車同士は彼らにしか分からない言葉で会話しているという設定で愛車デミオの一人称で語られる体裁は風変わりだが、物語が始まってしまえば伊坂幸太郎のテイスト満載という感じ。無関係に思える出来事が芋づる式に繋がって行く展開、テンポの良さ、会話の巧みさ等、著者の魅力がよく発揮されている。特に、常に小学生離れした弟のキャラが面白い。ほのぼのとしたエピローグも秀逸で読後感が良いのも好印象。

同期 / 今野敏

2013-12-17 | 
同期 (講談社文庫)
今野敏
講談社


 警視庁捜査一課の若手刑事、宇田川は逃走中の容疑者を負っている最中に発砲されるが、通りかかった同期で公安所属の蘇我に救われ、一命を取りとめる。一見の数日後、蘇我は懲戒免職になるとともに消息不明になっていることを知った宇田川は真相を探ろうとする。
 テンポの良い展開でスイスイ読める。警察幹部の官僚たちと現場の刑事、謎の多い公安警察など、警察小説のステレオタイプ的な設定ではあるが、仕事への矜持、美学を見せる現場のベテラン捜査員達のキャラクターが魅力的。

鉄の骨 / 池井戸潤

2013-12-13 | 
鉄の骨 (講談社文庫)
池井戸潤
講談社


 中堅ゼネコンの4年目社員の富島平太は、現場から本社で公共事業を担当する部署に異動になり、談合から抜け出せない業界の現実を目の当たりにする。違法な行為に対する躊躇いや、銀行に務める恋人からの非難もあって、自分の仕事に疑問を感じ始める平太だったが、業界で天皇と呼ばれる大物フィクサーとの窓口を務めることになる。
 半沢直樹シリーズや下町ロケット、空飛ぶタイヤ等、熱く闘うサラリーマンを描いてきた筆者が建設業界を描いた作品。非合法でありながら絶えることのない談合という仕組みを悪と切り捨てるのではなく、そこから抜け出せない仕組みや携わる者の葛藤を、様々な登場人物の多視点で巧みに描き出していく。企業の物語に終始することなく、恋人や母との関係も織り交ぜて、途中で本を置き難いようなエンターテイメントに仕上げているのは流石。