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あ/た/ま

聴く読む観る買うの備忘録

64 / 横山秀夫

2013-08-24 | 
64(ロクヨン)
横山秀夫
文藝春秋


 昭和64年に起きたD県警史上最悪の未解決誘拐事件を巡り、刑事部と警務部が対立は先鋭化していた。長く刑事部に在籍した後、警務部配下の広報室に配属された三上は、娘の失踪という悩みを抱え、古巣との板挟みのに苦しみながら、事件の核心に迫っていく。
 当に警察小説という感じで、重厚な筆致でヴォリュームも相当なものだが、プロットが頭に入った後は頁を捲る手がもどかしいほど一気に読めてしまう。警察組織内の対立、広報官として対峙するマスコミや被害者との関係、妻や娘との関係など、幾重ものジレンマを描く物語は重苦しいが、苦しみながらも信念を貫こうとする主人公の矜持や、彼が出会う魅力的な登場人物に次第に引きつけられる。特に、昔の事件と現在の出来事が結末に収斂して行く終盤の展開は見事。

はだかんぼうたち / 江國香織

2013-08-17 | 
はだかんぼうたち
江國香織
角川書店(角川グループパブリッシング)


 桃は6年付き合った恋人と別れて9歳年下の鯖崎と付き合い始めた35歳の歯科医、桃。母の和枝を急に亡くした専業主婦の響子。60歳を前に永年連れ添った妻と娘を捨てて和枝と同棲していた山口。桃と同じく歯科医の夫をこよなく愛する桃の母、由紀。由紀とは折り合いの悪い長女の陽。心に何もまとわない「はだかんぼうたち」の群像劇。
 パラグラフ毎に語り手が入れ替わりながら、それぞれの登場人物の思いを描いていく構成が新鮮。それぞれの思いを抱え、互いに距離を起きつつ、交錯しあう人間模様が浮かび上がるのが面白い。今回もやはり、独特の美しい文章を読んでいる時間が心地良い。
 

禁断の魔術 / 東野圭吾

2013-08-15 | 
禁断の魔術 ガリレオ8
東野圭吾
文藝春秋


 ガリレオシリーズも本作で8作目。最期が長めの短編集というお得意のフォーマットだ。主要キャラの人物が十分練れているせいか、毎回安定した面白さのこのシリースだが、本作に納められた中編の「猛射つ」は秀逸。科学と向き合う学者の本質を扱っているせいか、湯川学のキャラが際立っている。

ソロモンの偽証 / 宮部みゆき

2013-08-04 | 
ソロモンの偽証 第I部 事件
宮部みゆき
新潮社


 雪の降り積もったクリスマスの朝、中学校の裏手で中学2年生の死体が発見される。遺体には争った形跡も無く自殺かと思われたが、同級生が彼を突き落としたと告発する手紙が届く。マスコミも動き出して騒ぎが大きくなるなか、第二、第三の事件が起こる。混乱の中、中学生達は校内の模擬裁判で真相を究明することだった。
 著者が5年ぶりに描く現代劇。中学生を主人公に、親子の関係やイジメ、学校という体制の抱える問題、マスコミの体質等、色々な要素を盛り込みながら、期待通りの筆力で一気に読ませる。多くの登場人物それぞれを丁寧に描き出すことで、事件の構造を立体的に浮かび上がらせる構成も見事。結末にあまり驚きが無いこともあり、少々長すぎる気もするが、この長さを退屈せずに読ませるのはさすが。


ソロモンの偽証 第II部 決意
宮部みゆき
新潮社


ソロモンの偽証 第III部 法廷
宮部みゆき
新潮社



7つの会議 / 池井戸潤

2013-07-08 | 
七つの会議
池井戸潤
日本経済新聞出版社


 トップセールスマンだったエリート課長の坂戸を万年係長の八角がパワハラで訴えた。パワハラ員会、役員会を経て発表された人事で坂戸の後任に指名された原島は、誰もが驚いた不可解な裁定の背後にある謎を探ろうとする。
 「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」が気に入ったのでもう1冊。会社という器の中の人間関係や組織同士の軋轢など、リアルな舞台を扱いながら、読んでいてすっきりするような非凡なドラマを描く作風は今回も共通。各章ごとに様々な立場の人間が登場しながら、事件の背景が徐々に露わになって行く構成も見事。

謎解きはディナーのあとで3 / 東川篤哉

2013-07-05 | 
謎解きはディナーのあとで 3
東川篤哉
小学館


 シリーズ第三弾。国立署に務める大富豪の麗嬢、宝生麗子は、今回も小金持ちの風祭警部に閉口しつつ、執事の影山に助けられて事件を解決して行く。
 設定もキャラクターにも慣れ、もはや新鮮味は無いがやはり面白い。最終章「さよならはディナーのあとで」には、いよいよ最終回か?と思ったがあの展開とは。「いいわね。あなたはずっとわたしの執事でいなさい。―約束よ、影山」の台詞が良かった。

空飛ぶ広報室 / 有川浩

2013-06-30 | 
空飛ぶ広報室
有川浩
幻冬舎


 ブルーインパルスのメンバーになる夢が叶う直前、不慮の事故でパイロット生命を絶たれ、広報室に配属になった空井大祐は、ニュース番組のディレクターの稲葉リカのアテンドを任される。不本意な異動で報道記者を外された上、自衛隊にあまりいい感情を持っていないリカの挑発的な言動に、2人は早速衝突してしまう。
 「県庁おもてなし課」の独特の雰囲気が気に入って、有川浩作品をもう1冊。やはり本作も主要登場人物がみんな温かくていい人揃いだが、それでいて低刺激のぬるい話にならないのが面白い。著者の丁寧な取材に依るものなのか、普段馴染みの薄い主人公たちの境遇や矜持がリアリティを持って伝わって来るし、話の運びもテンポが良くてついつい作に進みたくなる。震災後に加筆されたという最終章が出色。

贖罪 / 湊かなえ

2013-06-23 | 
贖罪 (双葉文庫)
湊かなえ
双葉社


 平和な田舎町で小学四年生のエミリが殺される。現場に居合わせた4人の女友達はいずれも犯人の顔を思い出せず、事件は迷宮入りしてしまう。エミリの母親は「絶対に犯人を見つけなさい。さもなくば、同等の償いをするまで私は許さない」を言い残して町を去るが、彼女の遺した「償い」という言葉はそれぞれの少女に巣食って、彼女達の人生に影を落とす。
 小泉今日子主演のドラマを先に観ていたせいか、映像に引っ張られた感も強いが、小説として読んでも面白い。その後の彼女達の起きた一件の原因を小学生時代の事件に求めるのは強引な気はしつつも、拭いがたい不気味な感覚が漂うのは著者お得意の作風という感じ。同じ事件を語りながらも繰り返しがクドくならない構成も巧い。

母性 / 湊かなえ

2013-06-03 | 
母性
湊かなえ
新潮社


 ふんだんに愛情を注がれて育った母親とその娘。交互に繰り返される2人の独白がすれ違う気持ちを描き出す。母親のズレた感じの気持ち悪さ、母のズレが娘に影を落としていく不安感、どちらもネガティブな感覚なのに読むの止められない独特の感じはいかにも筆者の作品という感じ。

ブルーマーダー / 誉田哲也

2013-06-03 | 
ブルーマーダー
誉田哲也
光文社


 前作「インビジブル・レイン」の一件で警視庁捜査一課を追われた姫川玲子が赴任した池袋署管内で連続殺人事件が発生する。謎の凶器で次々に犠牲者を増やす犯人を追う内に、池袋の闇社会で「ブルーマーダー」と呼ばれて恐れられる存在を知る。
 相変わらずテレビ的なテンポの良さで進むストーリー展開だが、今回は犯人の動機が比較的丁寧に描かれている分だけ納得感が高い。姫川班がバラバラになって雰囲気が変わるかと思いきや、主要キャラクターは全て登場するのでキープコンセプト。再結成も近いか?という感じ。