こちらも数か月間つんどく状態だった本の一冊。
バルザックの小説は今まで縁がなく、どうせ読むなら「ゴリオ爺さん」「谷間の百合」あたりを手始めとするのがよかったのだろうが、バルザックみずからが「未来における私の最高の栄誉となるだろう」と自負したというふれこみにひかれ、読んでみることにした。
貴族の奥様と司祭の恋、老将軍の老いらくの恋、金持ちの亭主と王侯を手玉に取る町娘等々と、フランスはルイ11世時代の恋のさや当てが、10篇おさめられている。これら作品が書かれた1800年代前半は、フランス革命がとん挫し、社会が混沌と先の見えない閉塞感にあえいでいた時期で、いわば名作童話の成人指定版とでもいうか過激な描写も出てくるが、作者の指摘せんとするところは、人間の本性の傲慢さ・あさましさ、それと信仰の理不尽・偽善といったところなのだろう。ただ、そのことを陰々滅々と書き連ねるのではなく、作者独特のシニカルなユーモアで笑い飛ばしているのがいい。まさに艶笑に値する作品集である。