読書備忘録

日々の読書メモと万葉がらみのはなしあれこれ・・になるかどうか

吉田茂 「日本を決定した100年」

2013-11-11 20:54:52 | Weblog


 久しぶりの古書店徘徊で見つけた本。著者が吉田茂となってはいるが、解説によると、当時のエンサイクロペディア・ブリタニカ版の百科事典の追補年鑑の巻頭論文を依頼されたもので、執筆のほとんども、学者の高坂正堯氏によるものだとか。あの「バカヤロー解散」など公私にわたり逸話に尽きないワンマン宰相の執筆、と思い込んで購入したのだが、大きく期待が外れてしまった・・。ただ、戦後の経済復興に関する記述など興味深い箇所がいくつかあり、これはこれで面白い読書だった。

 なかでも印象に残ったのは、戦後日本経済の発展要因に、農地改革と工業部門の民主化を挙げている点だ。たとえば農地改革について、それまで貧困にあえいで購買力がゼロに近かった小作農を“相当な購買力を持つ顧客”へと変えたし、工業分野での賃金も労働組合の成長とあいまって飛躍的に改善され、こちらも購買力の増大につながったのだという。そしてそれを支えたのは、日本人の勤勉さと、アメリカの占領政策だともいっている。

 国民の購買力の増大と経済成長・・。数か月前に読んだ、「続 浦河百話」を思い出した。北海道の戦後復興の一断面を描いた同書のはしがきで、編者は、以下のようにいっている。

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 (この続編で)対象になった話者は年齢的に前編と違いはない。しかし二十年前のように年寄り然とした話者がいなかった。当然といえば当然だが、しかし戦争体験の有無がその違いの決め手になったようには思えない。たしかに記憶の一部、人生の一端だが、それだけでしかないようなのだ。いずれも表情も声音も若く、みだしなみも爽やかで行動的だった。どのような人間も、自分が生きた時代を負って生きていることからすれば、その人間はそうした時代を生きてきたということだ。
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 “相当な購買力を持つ顧客”として戦後を生きぬいてきた日本人が、それと差し替えに置き忘れてきたもの。年寄り然とした何かの喪失とは、そのことなのではないだろうか。そんなことをあれこれ考えさせられる読書だった。