いつもの古本屋さんにて購入。
編者あとがきには、「《奇妙な味》をコンセプトとしたアンソロジー(選集)」とある。全16篇。昭和45年に発行、同63年に文庫化されている。玉石混交・・の感は否めないが、それはそれで《奇妙な味》の選集ということか・・。
星新一、柴田錬三郎、近藤啓太郎、開高健など、なつかしい名前がならぶなかで、近藤啓太郎「勝負師」が純粋に面白かった。昭和の一時代を風靡した囲碁棋士を実名で登場させている。特にラストには、“カミソリ”と称された棋士の勝負への鬼気迫る執念が描かれている。
小松左京「召集令状」は、いろんなことを考えさせられる作品だった。
ある日突然、一人の青年のもとに戦時中の赤紙(召集令状)が届く。きっと何かのいたずらだろうと赤紙を屑籠に捨てた青年は後日失踪。その後、他の同年代の青年にも同じ現象が起き、日本全国に広まっていく。結局それは、時空のねじれによるパラレルワールド、並行するもう一つの世界との接触が原因だった。そしてさらに・・。ネタバラシが目的ではないのでここまでとするが、小松左京という作家の洞察力を窺い知ることができる箇所があるので、挙げておきたい。
全国的に、赤紙をもらった青年が失踪する現象が広まり、反戦行動が起る。
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…小松左京「召集令状」より
かわってあらわれたのは、陰惨でひたむきな、そしてどう考えてもまとはずれな反戦ムードだった。
「私たちの愛する子供や夫や恋人を、恐ろしい軍隊の手から守りましょう」
母親や主婦の団体が、連日大会をひらいてこう叫んだ。・・・・・たしかにこの招集に対しては、男たちよりも、女たちの方がはげしくたたかう姿勢をしめした。・・・・・だが、たたかうといっても、いったいどうやって?何に対して?
「君たちも、今度はいっしょにたたかってくれ」左翼関係の男が、私たちをアジリに来た。「前の戦争の時は、みんな戦争はいやだという気はありながら、何もせずにズルズルと戦争にまきこまれていった。・・・・・今度こそあの悲惨の二の舞をしないように、われわれは結束してたたかわねばならん」
「何に対して?」と私たちは聞いた。
「むろん、戦争勢力に対してだ!」男は手をふりまわした。
「これはどこか、世界の裏側にかくれている戦争勢力の陰謀にちがいない」
「で、どうやって?」
「国民みんなが団結して否といおう!」男は絶叫した。たとえ君たちがついてこなくとも、おれはただ一人でたたかうぞ。召集をあくまで拒否し、地下にもぐって抵抗をつづける!」
「戦争反対」「召集拒否」のプラカードをもった婦人団体のデモが、毎日街に見られるようになった。・・・・・しかし、その叫びは、まとはずれなままに、いたずらにヒステリックな調子をおびてゆくばかりだった。
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戦争というとめどない狂気に突然出くわした庶民の行動への、小松左京の洞察は面白い。今から20年ほど前の作品なのだが、現在の社会状況と重ね合わせたくもなる。少し考えすぎだろうか・・。