先の第二次大戦において、日本が行ったのは侵略ではなく、アジアの植民地を解放するための戦争だった、よって日本に戦争責任はない、という主張がある。たまに書店をのぞくと、このように日本の正当を唱え摩擦相手国を激しく誹謗する内容の本が、多数並んでいる。本書もその中の一冊なのだが、著者がニューヨーク・タイムズ東京支局長まで経験した英国人記者ということで、話題を呼んでいる。
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《よしんば侵略だったとして、侵略が悪いことだろうか。侵略が悪ならば、アジア・アフリカ・オーストラリア・北米・南米を侵略し続けていた西欧諸国は、なぜその侵略について謝罪しないのか。どうして、日本だけが(欧米の植民地を)侵略したことについて謝罪しなければならないのか。世界で侵略戦争をしたのはどちらだったのかをはっきりさせないで日本を裁いた東京裁判は、無効である。》
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およそこのような論調で、先の大戦をはじめ、慰安婦・南京大虐殺・三島事件などについての持論を展開している。しかし、この老記者の“提言”にそのまま賛同する気にはなれない。一つの視点、ものの見方考え方として参考にはなるが、先の大戦で日本がアジアの国々に多大な損害を与えたのはまぎれもない事実だし、たとえば著者のいう、アジア各国の西欧植民地支配からの解放というのは、 いわゆる“おまけ”であって、それは目的ではない。また、「三島事件」についても、「世界のミシマ」が愛国心の末やむにやまれず取った行動と美化しているが、あの日阿佐ヶ谷に立てこもった三島由紀夫は、世の中の空気を読めない、ただの犯罪者でしかなかった。
全体的に、挑発的で小気味はいいがまとまりのない、そんな印象を強く受けた。これらのテーマを250ページ程度の新書に収めるには無理があると思う。願わくは、せめて「戦勝国史観」についてじっくり掘り下げたものを、時間をかけて読みたかったのだが・・。