読書備忘録

日々の読書メモと万葉がらみのはなしあれこれ・・になるかどうか

村上春樹「アンダーグラウンド」(1997年発行) 再読

2012-12-28 09:04:10 | Weblog

 今年の春から夏にかけて読んだ「1Q84」のまとめを書こうと思い、本書を久しぶりに読み返した。「一九九五年三月二十日の朝に、東京の地下でほんとうに何が起こったのか?」。本書は、このことの検証のための著者インタビューで構成されている。ある日突然、思いもしない激しい暴力を受けなければならなかった被害者およびその家族の生々しい告白が、延々と続く。
 このインタビューのあとがきで、著者は「あちら側」と「こちら側」についての論理を展開している。要約すると、オウム真理教という「あちら側」の「ものごと」を対岸から双眼鏡で眺めるだけでは何も見えてこない、その「ものごと」は、自分というシステム内でおこったことなのではないか、というものである。もう少しいうと、「こちら側」のエリアの地面の下に隠されているもの=アンダーグラウンドの検証こそが必要なのではないかと。

 付箋箇所だけですまそうと思ったのが、結局読み込んでしまった。何度読んでも重い・・。一つひとつのインタビューが、人が生きる根源への問いかけに聞こえてきそうな、そんな本である。


冲方丁「マルドゥック・スクランブル The 3rd exhaust 排気」

2012-12-19 08:57:29 | Weblog

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 僕はただ、反吐にまみれながら見つけた、精神の血の一滴を、他の誰かにも見せたかっただけなのだ。その輝きが、どんなときも、あらゆる人々の中にもあるものだということを、声を限りに告げたかったのだ。(本書あとがきより抜粋)
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 「マルドゥック・スクランブル」全3巻を読み終えた。近未来、奇跡的に命をとりとめた少女が、あらゆるものにターン(変身)できるネズミと出会い、数多の敵と遭遇し戦いながら、再生と成長を繰り返していく物語である。わたしのようにSFとかラノベ(ライトノベルの略なのだそうだ・・)にほとんど無縁の読者にはとっつきづらい世界ではあるが、先に読んだ「天地明察」「光圀伝」を松明がわりに、なんとか読み終えることができた。
 この「マルドゥック・スクランブル」と「天地明察」「光圀伝」に直接の接点はない。前者は近未来を舞台にした完全なフィクションであるし、後者は実在の人物に焦点をあてた時代小説(というよりは歴史小説というべきか)である。しいて接点をさぐるとしたら、それは作者が述懐する“精神の血の一滴”ということになるかもしれない。その血の輝きにより生きているのが人間であり、エンターティンメントはその方法に他ならないと、冲方丁はいう・・。

冲方丁「マルドゥック・スクランブル The 2nd Compression 燃焼」

2012-12-09 10:08:33 | Weblog

 「圧縮」の続編である。前編での近未来都市における壮絶苛烈な戦いから一変し、傷ついた主人公は《楽園》に保護され、治療(メンテナンス)をうける。そして、さらに意外な展開へ・・。
 
 「ライトノベルは面白いものを、『ここが面白いんだよ』って矢印をつけながら見せていかなくてはいけない媒体なんです。その面白さの矢印をとにかく詳しく示すことを心がけています」(ユリイカ総特集「冲方丁」インタビューより)

 “面白さの矢印” とは、スゴイ言葉だと思う。ライトノベルに限らず、あらゆる小説に共通することなのではないだろうか。文芸とメディアミックスの融合により、人や社会の本質的な部分を描き出していく手法上、小説のジャンル分けなどということは無意味なのかもしれない。



冲方丁「マルドゥック・スクランブル The 1st Compression 圧縮」

2012-12-04 09:12:57 | Weblog
 冲方丁(うぶかたとう)のSF小説である。私が読んでいるのは、加筆修正したものを全3巻の文庫にした「完全版」で、初出は2003年。ライトノベルとかSFはあまり読まないので少し迷ったが、先に読んだ「天地明察」「光圀伝」と何がどうつながっているのかという興味が優先し、結局読むことにした。
 第1巻目のタイトルは「圧縮」。近未来都市に生きるひとりの少女をめぐって起こる犯罪と、少女を守りそれを阻止せんとする“委任事件担当捜査官”の戦い、といったところか。脇役のウフコックからは、ふと「十二国記」の楽俊を連想したが、作者は映画『レオン』の主人公レオン・モンタナをモデルにしたという。なるほど・・。
 全3巻の1巻目しか読んでいないが、とても面白い。SF小説とは、未来型時代小説なのだ・・。