先輩たちのたたかい

東部労組大久保製壜支部出身
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1923年関東大震災朝鮮人虐殺「日本労働総同盟鈴木文治会長の朝鮮総督斉藤実閣下への意見書」 

2022年03月13日 07時00分00秒 | 1923年関東大震災・朝鮮人虐殺・亀戸事件など

1923年関東大震災朝鮮人虐殺「日本労働総同盟鈴木文治会長の朝鮮総督斉藤実閣下への意見書」

読書メモ—山辺健太郎著 「日本統治下の朝鮮」(岩波新書)

(感想)
 僕も東部労組の友人からこの「意見書」の存在を知らされた時は、心底びっくりした。本当に山辺健太郎の言う通りだ。震災発生日と朝鮮人虐殺から一ヶ月も経たない1923年9月29日の日本労働総同盟鈴木文治会長の朝鮮総督斉藤実への意見書は、実に恥ずべきその中身と行動であることか。

 労働組合であれば、なにより同じ労働者階級として圧倒的多数の朝鮮人と中国人労働者を虐殺した権力犯罪、民衆犯罪を真正面から糾弾して糾弾して糾弾しつづけ、さらに人権問題、社会問題として世界中に「日本の恥、世界の恥 !」と発信・暴露して闘う労働運動を目指すべきでなかったのか。この朝鮮人・中国人虐殺糾弾闘争を日本の労働組合、労働者階級こそが、大々的に持続的に拡大的に徹底的に闘うべきでなかったのか。そうしてこそ、亀戸事件の南葛の同志たち10名の虐殺糾弾闘争も、大杉栄家族の虐殺糾弾闘争もはじめて意味を持ってくる。植民地支配強化・侵略戦争拡大、労働組合の右傾化や戦争協力を阻止する、すべての鍵はこの「朝鮮人・中国人虐殺糾弾の労働運動・社会運動」こそだったのではないかとつくづく思う。

 鈴木文治は、日本の全国の労働者に「朝鮮人・中国人虐殺糾弾闘争」への決起とストと国際連帯を呼び掛けるのではなく、逆に、今回の「不祥事(虐殺は断じて不祥事どころの話ではない)」は、朝鮮人労働者の「ひがみと無智」に原因があるから、これからは俺たち日本の労働組合が朝鮮人を「善導」して「朝鮮統治の意義」に役立てるからと、よりによって朝鮮総督府にその巨額な人件費と運営資金をだしてくれと求めたのだ。そして大震災直後から日本労働総同盟自身が、一挙に分裂と右傾化への道へと転がりだすのだ。あーなんということか。

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 山辺健太郎は「日本統治下の朝鮮」の「5 労働者農民の運動」の中で、「1922年から23年の関東大震災までは、日本労働総同盟も日朝労働者の連携にも熱心だった。たとえば、総同盟は1922年4、5月ごろから対露非干渉運動をはじめているし、7月には、争議中の朝鮮平壌におけるゴム女工の餓死同盟に同情の激励電報を関東労働同盟会の大会からおくっている。1923年になるとさらにすすんで、4月17日の総同盟中央委員会では、『朝鮮人労働運動の調査及提携をすすめることの決議』をした。『朝鮮民族の解放運動は、それが無産階級化する限りにおいて、日本無産階級の解放運動と共同の敵を有するものと認む。故に我が労働総同盟は両者が共同戦線に立つことを理想として、先ず朝鮮人労働運動を調査し、これが促進を援助するものとする』と決議した。当時日本の労働運動の中心であった総同盟のなかに、日朝労働者提携の機運がだんだん高まってきた。直接の動機になったのは、1922年に信濃川水力電気株式会社の工事場で朝鮮人労働者が殺され、死体が信濃川に流した事件だ。これを知った東京の朝鮮人学生が、現場に調査団を派遣し、虐殺の事実を日本の労働者にうったえたことからである。また、朝鮮人労働者虐殺事件は、このころおなじような条件ではたらいていた朝鮮人労働者の奮起をうながし、日本における朝鮮人労働組合結成の推進者となって組合を結成させた。」

 「しかし、関東大震災のときの朝鮮人虐殺をやった支配者は、同時に全国労働者の尊敬を一身に集めていた南葛の同志川合義虎たちを虐殺し(亀戸事件)、大杉栄一家を殺害し、こうした文字通りの恐怖により日本の労働運動を後退させ、日朝労働者の提携をつぶし、労働運動を左右に分裂させたのだ。」と指摘している。

 総同盟鈴木文治は震災発生と朝鮮人虐殺事件から一ヶ月もしない9月29日に、朝鮮総督斉藤実に「鮮人労働者保護に関する意見書」を提出した。

「日本統治下の朝鮮」p138~141(資料「日本労働総同盟鈴木文治会長の朝鮮総督斉藤実閣下への意見書」1923年9月29日)

「鮮人労働者保護に関する意見書」
大正12年9月29日 鈴木文治
朝鮮総督 斎藤 実閣下

「・・(略)・・思うに今回の不祥事の根源が、日鮮人相互間に於ける平素の無理解に存するは言うまでもなく、しかしてこの無理解の心理状態が、無稽なる流言蜚語を跋扈せしむるに到りし因由なりとす。抑々日本内地に居住せる鮮人は、・・・その中労働者は、言語の不通と内地の事情に不明なると、加うるに被征服者の僻見(ひがみ)に富むあり、これを日本人側より見るも、同様の事情あると共に、征服者としての優越感をもって彼に対す、これ従来に於いても、屢々(しばしば)内鮮労働者の間に衝突を醸し来れる所以なり。
 斯くの如き状態にして永続し、容易にその理解を見る能わざれば、朝鮮統治の意義殆んど空しと言うも過言にあらず、・・・(略)」

 そこで、鈴木文治は、日本労働総同盟の『震災善後策の一端』として、総同盟内に『鮮人部』を設け、『鮮人労働者の保護救済、戸籍性行の調査、職業の紹介、相互理解の促進、思想の善導、感情の融和等の事業』をするので、『その費用と専従役員5名の棒給費代として月額一人約100円、事務費、運動費、機密費など計、年間1万2千円乃至1万5千円の援助』を朝鮮総督斎藤実に求めたのだ。

 鈴木文治は、この意見書の最後に「これが実行に当たりては、朝鮮総督府、並びに同東京出張所、政府当局、各府県市町村等と十分なる連絡を取るものとす。」とわざわざ書いている。

「総同盟の右翼指導者の朝鮮民族運動にたいする考え方がすっかり変り、日本の植民地統治をそのままみとめ、むしろこれを永続させるための献策をしているのは驚くほかない。震災と朝鮮人の大量虐殺は、日本の労働運動にこんなに大きな影響をあたえたのである」
「関東大震災のときの朝鮮人虐殺や南葛労働会の指導者虐殺などは、総同盟の一部指導者を恐怖させ、その右傾をうながしたことはあらそえない。この意味で関東大震災と朝鮮人虐殺は日本の労働運動にとっても重大な関係のある出来事というべきだろう」と山辺健太郎は言う。



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