【特報 追う】“県境”起点に十和田湖再生へ 税収増で観光テコ入れ
2008.9.14 02:34
明治4(1871)年の廃藩置県以来、未確定のままだった十和田湖の青森、秋田県境。137年を経た先月末、両県の「のどに刺さった小骨」(秋田県小坂町長)だった懸案が急展開した。8月29日、青森市での北海道・北東北知事サミットの後、両県知事と十和田湖を抱く秋田県小坂町と青森県十和田市の首長による協議が開かれ、湖面を青森6、秋田4に分割する覚書が交わされた。測量を経て、早ければ来年元日にも境界が画定する運びだ。(宮原啓彰)
覚書では、61平方キロの湖面を湖北の御鼻部(おはなべ)山と、湖南の中山半島の西側の神田川河口を結ぶ線で分割することが決定した。
これまで県境の画定を妨げていた最大の理由は、北岸の境界線に対する両市町の主張の食い違いだった。
小坂町は「尾根などが県境になるのが通例」として東北森林管理局管轄の林班を境界と主張。十和田市は「旧十和田村のころから県議会に陳情してきた」として秋田側の主張から西へ約2キロの桃ノ沢河口を主張してきた。
明治36~38年に行われた両県の協議は不調。約60年後の昭和38年に両県によって青森6、秋田4の割合とする暫定案が採用されたが「なし崩し的に県境が画定しかねない」との秋田側の懸念で、わずか2年で解消された。平成15年にも旧十和田湖町と小坂町の両町議会が特別委員会を設置、同じ割合の分割案で合意するも、両町長間の交渉で決裂した苦い歴史がある。
今回、5年前の特別委員会案に沿い、双方の主張の中間点と御鼻部を結ぶ線を湖北の県境とすることで決着をみた。
「(中間点での決着は)私の考えとは違うが政治的な苦渋の決断」。小坂町の川口博町長は会見で複雑な心情を吐露した。
■ ■
決着へのきっかけは、今年6月の秋田県議会一般質問で寺田典城知事が「(県境画定に向け)青森県知事と話し合いたい」と答弁したことだった。「知事の発言で事務レベルでの協議が加速した」と十和田市。
十和田湖の“冷え込み”も背景にある。「十和田湖観光はこの20~30年で一番の冷え込み」と川口町長は十和田湖が抱える苦しい台所事情をにじませた。
秋田県側の十和田湖の観光客数は、18年は約110万人だったが、19年は約93万人まで減り、県内主要観光地では最大の落ち込み。同県は「今年はさらに厳しい」と悲観する。
今年は、災厄に見舞われ続けている。十和田八幡平観光物産協会(同県鹿角市)は「鳥インフルエンザから桜の早咲き、そして2回の大地震と最悪の年だ」と肩を落とす。7月の地震では名勝、奥入瀬渓流(十和田市)を走る国道102号が落石で通行止めになるなど直接的な被害も出た。
■ ■
「県境画定による最大のメリットは地方交付税の増額」と両自治体関係者は口をそろえる。「これまでもらえるはずのものがもらえなかったのだから。天災やガソリン高騰による十和田湖観光の危機的状況が合意への機運を高めたことは間違いない」と小坂町幹部。
県境画定により地方交付税は今年度ベースで、秋田県1600万円、小坂町1100万円、青森県2400万円、十和田市1600万円と計6700万円が上積みされる見込みだ。増額分は「10年間は十和田湖の環境保全及び景観対策の推進などのためにあてる」ことが覚書に盛り込まれた。
十和田湖は近年、廃業した湖畔のホテルや水質の悪化による透明度の低下など景観や環境の悪化に悩んでいる。同協会の千葉潤一会長は「有意義に使って落ち込んだ十和田湖観光を再生してほしい」と期待を込める。
青森県の三村申吾知事は「これまでともに観光イベントを行ってきた両市町が協力し、発展していくことを祈る」とした。境界画定が“十和田湖”再生につながるかどうか。まさに両市町、両県の協力しだいといえそうだ。
産経ニュースより
2008.9.14 02:34
明治4(1871)年の廃藩置県以来、未確定のままだった十和田湖の青森、秋田県境。137年を経た先月末、両県の「のどに刺さった小骨」(秋田県小坂町長)だった懸案が急展開した。8月29日、青森市での北海道・北東北知事サミットの後、両県知事と十和田湖を抱く秋田県小坂町と青森県十和田市の首長による協議が開かれ、湖面を青森6、秋田4に分割する覚書が交わされた。測量を経て、早ければ来年元日にも境界が画定する運びだ。(宮原啓彰)
覚書では、61平方キロの湖面を湖北の御鼻部(おはなべ)山と、湖南の中山半島の西側の神田川河口を結ぶ線で分割することが決定した。
これまで県境の画定を妨げていた最大の理由は、北岸の境界線に対する両市町の主張の食い違いだった。
小坂町は「尾根などが県境になるのが通例」として東北森林管理局管轄の林班を境界と主張。十和田市は「旧十和田村のころから県議会に陳情してきた」として秋田側の主張から西へ約2キロの桃ノ沢河口を主張してきた。
明治36~38年に行われた両県の協議は不調。約60年後の昭和38年に両県によって青森6、秋田4の割合とする暫定案が採用されたが「なし崩し的に県境が画定しかねない」との秋田側の懸念で、わずか2年で解消された。平成15年にも旧十和田湖町と小坂町の両町議会が特別委員会を設置、同じ割合の分割案で合意するも、両町長間の交渉で決裂した苦い歴史がある。
今回、5年前の特別委員会案に沿い、双方の主張の中間点と御鼻部を結ぶ線を湖北の県境とすることで決着をみた。
「(中間点での決着は)私の考えとは違うが政治的な苦渋の決断」。小坂町の川口博町長は会見で複雑な心情を吐露した。
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決着へのきっかけは、今年6月の秋田県議会一般質問で寺田典城知事が「(県境画定に向け)青森県知事と話し合いたい」と答弁したことだった。「知事の発言で事務レベルでの協議が加速した」と十和田市。
十和田湖の“冷え込み”も背景にある。「十和田湖観光はこの20~30年で一番の冷え込み」と川口町長は十和田湖が抱える苦しい台所事情をにじませた。
秋田県側の十和田湖の観光客数は、18年は約110万人だったが、19年は約93万人まで減り、県内主要観光地では最大の落ち込み。同県は「今年はさらに厳しい」と悲観する。
今年は、災厄に見舞われ続けている。十和田八幡平観光物産協会(同県鹿角市)は「鳥インフルエンザから桜の早咲き、そして2回の大地震と最悪の年だ」と肩を落とす。7月の地震では名勝、奥入瀬渓流(十和田市)を走る国道102号が落石で通行止めになるなど直接的な被害も出た。
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「県境画定による最大のメリットは地方交付税の増額」と両自治体関係者は口をそろえる。「これまでもらえるはずのものがもらえなかったのだから。天災やガソリン高騰による十和田湖観光の危機的状況が合意への機運を高めたことは間違いない」と小坂町幹部。
県境画定により地方交付税は今年度ベースで、秋田県1600万円、小坂町1100万円、青森県2400万円、十和田市1600万円と計6700万円が上積みされる見込みだ。増額分は「10年間は十和田湖の環境保全及び景観対策の推進などのためにあてる」ことが覚書に盛り込まれた。
十和田湖は近年、廃業した湖畔のホテルや水質の悪化による透明度の低下など景観や環境の悪化に悩んでいる。同協会の千葉潤一会長は「有意義に使って落ち込んだ十和田湖観光を再生してほしい」と期待を込める。
青森県の三村申吾知事は「これまでともに観光イベントを行ってきた両市町が協力し、発展していくことを祈る」とした。境界画定が“十和田湖”再生につながるかどうか。まさに両市町、両県の協力しだいといえそうだ。
産経ニュースより