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ボランタリー画廊   副題「げってん」・「ギャラリーNON] 

「げってん」はある画廊オーナとその画廊を往来した作家達のノンフィクション。「ギャラリーNON]は絵画を通して想いを発信。

ギャラリーNON(46)  分かってくれたと思ってしまう(1)

2010年08月24日 | 随筆
 夏休みの時季になると思い出す。
 次男が小3のころだったと思う。夏休みには日頃できないことをさせてやりたいと、山口県光市に住む私の姉の家へ一人で行かせることにした。ここ新幹線小倉駅から徳山駅までの45分間だけの一人旅である。鉄道には駅というものがあり、こだま号のスピードの話、所要時間の話、長い距離を短くしてあらわす地図の話などをして、おおかた分かってくれたと思った。
 小倉駅ホームにこだまが入ってきた。列車の乗降口には10人くらいが列をつくっていた。息子の直ぐ後ろに20歳くらいの若者が並んでいた。
 「どちらまで?」
と聞いてみた。
 「三原です」
つづけて私は、
 「この子を徳山まで一人で行かせます。本人は分かっているとは思いますが、もし降りないようなら教えてやってくれませんか」
 「はい、いいですよ」
と快い返事をもらった。これで間違いはないと若松の家に帰って、姉からの電話を待った。小倉駅から若松に帰る所要時間と小倉から徳山までの新幹線の所要時間はほとんど同じで、帰り着くと程なく姉から息子を受け取ったことの電話が入るはずである。
電話がかかった。
 「降りてこなかったよ!」
 「えっ、どうゆうこと?」
 「それは、こっちの台詞よ!」

 すぐさま姉は徳山駅に飛び込み、駅員は次の駅、次の次の駅へと連絡をとってくれた。
 およそ一時間半のサスペンス。息子は下り列車で徳山駅に降り立った。

 「降りようと思ったのだけど、お兄ちゃんがもっと先だよというので」
不安になってムズムズしていると、お兄ちゃんが念のため、どこで降りるのかと聞いてきた。「徳山」と答えると、お兄ちゃんは慌てた。「福山」と思っていたのだ。その時、列車は新岩国を通り過ぎ広島に近づいていた。お兄ちゃんは息子を広島駅に降ろし、駅員に事情を話して徳山に戻してくれたのだ。
 小倉駅で一言頼みごとをしたあのお兄ちゃんは、お盆休みを前にして帰省する風情だった。息子の手には兄ちゃんの少ない小遣いからの千円札が握られていた。推測するに乗り越し運賃を支払わせようとしたのだろう。乗り過ごしの運賃は不要だったのに。
 私は大きな迷惑をかけてしまった。謝りたい、礼を言いたいと思うのだが名前も住所も何も聞いていないので兄ちゃんに連絡をとる糸口がない。
 兄ちゃんの聞き違いが原因ではあるが、「三原」の隣の「福山」と聞えたのは当然ではある。息子は「徳山」を確実に分かっていると思ったが、兄ちゃんの方が間違っていると言えるほど自信はなかったのも無理からんところだ。分かってくれていると思ってしまった私の失敗である。
 

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