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29 空間経験

空間経験の蓄積と時間感覚
 記憶の基本は連想記憶を蓄える記憶ニューロンにあり、それは大脳側頭葉連合野にあって、視覚イメージの連想的な内部表現を与えている*01と宮下保司はいう。色とか形とか動きのようなものの属性ごとにモジュールがあって、いろんな属性ごとに特徴を分解し、その属性ごとの世界の内部表現をつくっている。網膜に映った画像をもとに必要な情報を抽出し、外の世界についての「解釈」を再構成するのだという。
 視るだけではなく、触る、動くといった身体性による空間経験の蓄積は、この記憶ニューロンを活性化し、様々な内部表現をつくりだし、脳内に蓄積し、外の世界の「解釈」=スキーマを再構成していく。
 子供のころは、初めて出会う空間経験ばかりであり、毎回強い刺激を受け、ニューロンは興奮状態になり、ものすごい勢いでそれらを記憶し、内部表現・スキーマを形成していく。
 しかしその蓄積が増していくと、すでに経験したものへの反応はなくなり、新たに出会ったものだけに反応するようになる。歳が経るごとに新たに出会う経験は減少し、興奮状態が沈静化していき、波立った表象面は平準化していく。
 空間経験の刺激が強く、興奮状態が続くとき、ニューロンの活性、内部表現・スキーマの形成といったプロセスの処理に時間が必要となる。我々は、子供のころには“時間”を長く感じ、歳を取るとともに、この“時間”が短くなるという感覚を持っている。この“時間の長さ”を感じる時とは、空間の経験値を蓄積し、処理する状況と重なっている。歳を取るとともに、“時間”を短く感じるのは、あらたな空間経験の減少と、それにともなう脳内処理プロセスの減少に対応している。人々が集中して物事に対処する―すなわちニューロンの活動が活性化しているときに、時間を長く感じるのと同じである。

波立つ表象面

“意味ありげなもの”に変質するFOK
  山野の風景は物理的には同じものはありえないのだが、それはすでに経験されたものとして類型化され、新たに蓄積すべき経験値から除かれてしまう。空間体験が経験値として蓄積され、既知のものとして登録される。すなわち「知っているはずだ」というFOK状態となる。既知の経験値(詳しくはその類型化されたもの)は、刺激が加わっても、それは既知のものとしてスルーされ、蓄積されない。
 一方、蓄積されたものは、めったなことで省みられない。FOKの感覚だけが残り、蓄積した経験値そのものは、次第に忘れられて行く。
 日常とはFOKなるものの集積である。長い間の蓄積の結果、読解のルールが忘れ去られる。FOKが“意味ありげなもの”に変質する。
todaeiji-weblog


《アンブレラ》/クリスト/1991.10/茨城
クリストの“形”と“場所”が相互に対話し合い、引き出したもの。FOKと感じるそれは、しかしすでに“意味ありげなもの”に変質したものではないか。
*01:認知記憶の大脳メカニズム―イメージと想像力の起源/宮下保司
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