舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

障害と貧困が生み出す悲劇のジェットコースター!衝撃作!『岬の兄妹』観て来ました!

2019-04-23 23:17:42 | Weblog


4/22(月)、イオンシネマ新潟西で『岬の兄妹』を観てきました。
新潟市内ではここだけの上映だったようです。





予告編はこんな感じです。



足に障害があり仕事を失った兄、精神障害のあって働けない妹が二人暮らしをしているのですが、行き場のない貧困から兄が妹に売春をさせるという衝撃作です。
最初に断言しておきますけど、売春は犯罪です。だから、この兄妹がやっていることは、明らかに間違っています。

しかし、じゃあこの兄妹はどうすれば良かったんだろうか?と考えても、まったく答えが出ないという、観ていて超しんどくなる話なんですよね。
障害があっても助け合って、それでも出来る仕事を探して、幸せに生きていければ一番いいじゃん…などという「綺麗事」「理想論」などは、まったく通用せずに、グサグサと心を刺してきます。

犯罪を擁護するわけではありませんが、この映画を観ているとどうしても、この兄妹を責めようという気持ちにはなれないんですよね。
そして、映画の中の二人も、観ている自分も何の答えも出せないまま、どんどん二人は不幸になっていく。それが本当に観ていてつらかったですね。

とは言え、ただただ気持ちが落ち込む映画かと言われたら、こういう言い方をしてしまえるのは不謹慎かも知れませんが、超面白かったんです。
最後までまったく目が離せずにグイグイ引き込まれてしまって、90分くらいの上映時間があっという間に終わってしまう凄い映画でした。

何が凄いって、やっぱり脚本が物凄くよく出来ていたんだと思うんですよね。
「本当にありそう」と思ってしまうようなエピソードの一つ一つがディティールまで丁寧に作り込まれていながら、その一つ一つがテンポよく、というか寧ろどんどん加速しながら進んでいくような勢いのあるストーリーがただただ見事でした。

例えば、最初に兄が妹売春させようとして、歓楽街でいわゆる「立ちんぼ」的なことをさせられると地元を取り仕切っているヤクザに見付かってボコボコにされてしまう。
それで、今度は長距離トラックの運転手を狙って売り込んだり、そういう家庭を探してピンクチラシ的なものを配ったり…っていう家庭が、うわ、本当にこういうことありそう…というリアリティが物凄くありました。

そして、狭い港町での出来事だから、あれよあれよという間にその情報が広まってしまうものの、知り合いにバレてしまう…というのも、すごく嫌なリアリティがありました。
ちなみに、ここで昔の知り合いが良心から「犯罪だぞ!」と言って咎めても「だからどうした!」と開き直る主人公からは、ちょっと何も言い返せなくなってしまう凄みがありました。

ここ最近の邦画に多い傾向かも知れませんが、この映画も「地方都市の地獄」や「格差社会」を描いた映画だと思うんですよね。
彼を咎める知り合いは、明らかに主人公たちより裕福な生活をしているわけで、貧困を前にするとあらゆる善悪や常識は通用しなくなるのか…という悲しい現実を突き付けられました。

また、「こいつが悪い」「これが原因」みたいな分かりやすい答えを用意せず、いい意味で観客を複雑な気持ちにさせ、思考の迷宮に巻き込む凄い力があったと思います。
それはつまり、この映画がこの世界の複雑な現実を描いていて、世の中に対して一種の問題提起をしていることだと思うんですよね。

例えば、妹が売春を嫌がっているのに無理矢理させられていて可哀想、みたいな話だったら、もっと観ていて感情のやり場が分かりやすいと思うんですよ。
しかし、精神障害者である妹は、実はセックスが物凄く大好きという人物であり、だからこそ、どういう気持ちで妹を見たらいいのか分からなくなるんですよね。

これはあくまで一つの個人的な見解ですが、精神に障害があり論理的な会話が成立しない、本能のままに感情をまき散らす、そして誰彼かまわずセックスをしたがる、という妹は、もしかして「野生」を強調したキャラクターなのかなと思いました。
もちろん人間は野生のままでは生きていられず、理性的、文明的な社会を築いたわけですが、そういう社会において野性の居場所のなさが障害となって表れている、という見方ができるのかも知れません。

また、途中で子供達のいじめの場面が登場し、いじめられっこが妹と売春をしているうちに、いじめっこが兄から金を盗み取ろうとする、という展開があります。
ここで兄といじめっこ達のまさに外道バトルの感じとか、いじめられっこと妹のセックスの意外な結末とか、もうどういう感情になってしまえばいいか分からないまま、「マジで凄いなこの映画…」ととにかく圧倒されました。

そして、終盤になってある悲劇が二人を襲い、自業自得と言えばそうだけどそうとも言い切れない複雑な気持ちになったまま観ていると(観た人にしか分からないと思いますが「逃げないで」という台詞が死ぬほど怖かった)、最終的に何とも言えないところでこの映画が終わります。
とにかく、最初から最後まで一瞬も見逃せない悲劇のジェットコースターをひたすら見せられて、衝撃が冷めやらぬタイミングで突然ぷつりと映画が終わって、映画を観ながら感じていたもやもやした気持ちがいつまでも自分の中に残ってしまうという、とにかく凄まじい見応えのある衝撃作でした。
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