日本国内で受信・録画したテレビ番組をネット経由によって海外で視聴できる録画ネットというサービスの停止仮処分を東京地裁が決定したのは去年だった。そして今月、ソニーは日本のテレビ放送を海外で視聴できる
ロケーションフリーテレビなるものを発売した。同じように見えるこのふたつではあるが仮停止処分を受けた録画ネットと新商品として発売されるロケーションフリーテレビは何が違うのか。録画ネットには在京民放5社とNHKの放送事業者が停止仮処分を申請していたので、違いは著作隣接権にある放送事業者の権利の中の複製権に対する侵害の有無でとはないかと思われる(「録画の主体」については
こちらで)。
録画ネットは国内テレビ番組をその著作権者である放送事業者に無断でネット経由でサービス受益者のハードディスクに送信していたのだが、その前に番組を受信し録画ネットが管理していたパソコンのハードディスクに録画していた。ということは最初に番組が録画されたハードディスクからネット経由でサービス受益者のハードディスクに無断でテレビ番組という著作物を複製していた。だから複製権の侵害になる。
それではソニーのロケーションフリーテレビはどうなのか。ソニーのウェブサイトを見るとロケーションフリーテレビはテレビ放送をリアルタイムで視聴はできるが録画ができるとは書いていない。ハードディスク等に録画(固定)しないのなら複製もしていない。それなら録画ネットとは異なり複製権の侵害にはならないという事になる。
また、ロケーションフリーテレビの仕様を見て思うことは、ソニーは上述以外にも著作権法の自動公衆送信と送信可能化にも配慮しているということだ。インターネットでの自動公衆送信は簡単にいうと著作物をサーバーから公衆に送信(ダウンロード)すること、送信可能化は著作物をネットワーク送信可能な状態(アップロード可能)にすることだ。
自動公衆送信についての説明の前にまずロケーションフリーテレビの仕様を知る必要がある。ロケーションフリーテレビは液晶モニター部と本体部(ベースステーション)で構成され、自宅のベースステーションで受信したテレビ放送を無線や有線LANでモニターから視聴できる。なのでネット環境があれば屋外や海外でも日本のテレビ放送が楽しめる。その仕様には「ベースステーションとモニターは1対1で機器認証され、伝送されるデータは暗号化されています」とある。とするとベースステーションから送信された放送は「公衆」には送信できないことになるので自動公衆送信の侵害にはならないはずだ。
送信可能化はサーバーに情報が記録されていることが前提となっている。ロケーションフリーテレビは上述の通りハードディスク等にテレビ番組を記録・録画しないのだから送信可能化権の侵害にはならない。
要するにロケーションフリーテレビは仕組みとしては既存のテレビとほぼ同じといえるのだが、録画ネットのサービスを不服と思った放送事業者はこれをどう見ているのか。自国の番組が他国で放送されるのはオリンピックやワールドカップサッカーなどの莫大な放映権料にも関係することなので快くは思っていないだろう。