陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

イメージをキャッチする時代

2008-12-08 | 芸術・文化・科学・歴史


私がえらぶ名キャッチコピー、それはいまでもCM放映されているアジエンスのあのフレーズ。

──世界が嫉妬する髪へ

このキャッチコピーは最初耳にしたとき、しびれました。あのナレーションのしっとりした声と、長い黒髪をはらりとたなびかせる女性のシルエットも功を奏したのでしょう。

この言葉は数あるシャンプーのCMのなかでも不動の地位を得ているでしょう。
ふつうならば、もつれひとつない髪の毛を女性が手で梳きながら、洗い心地さらさらとか、香りが甘いとか、そんな具体的なことをいうわけです。

しかし、このキャッチはすごい。「世界が嫉妬する」ときたもんです。しかも、CMのモデルは東洋人の女性。白人女性をおしのけてスポットライトを浴び、拍手喝采を贈られます。全米が泣いた、とか日本列島大横断とか、とかく顔のない集団主義にだまされやすい日本人の心理をよくついていませんか。そしてまた、グローバリズムとか、とにかくスケールのでかい話を持ち出されるととかく弱い日本人(笑)

嫉妬する、とはまたよくいったものです。消費者がなんのために消費行動に走るのか、その心理をよくついています。そう、自慢したいため。買って役に立ったという事実よりも、所有したことを誇りたいからです。
あけすけに言いますと、私自身でもそうです。先日、某アニメの商品買いました!と日記に書きつけておりますが、興味のない読者様からみればどうでもいいことです。そして私は買ったけれど、それを生かすわけでもない。

私見ですが、キャッチコピーの種類はおよそ三区分できるでしょう。
ひとつは価格に関するもの。「本日限定販売!」「いまならお買い得!」「納得プライスでご提供!」
これらは比較的日常品を載せた、量販店の折り込みちらしやDM(ダイレクトメール)に多いですね。こうした売り文句は販売店の現場の店員が即興で思いつくものですから、さほどセンスなどはいりません。逆にいえば何時間もかけてひねっているようでは仕事をほされてしまいます。

さらにふたつめ。
それは商品の効能を謳うもの。「この包丁、切れ味バツグン!」「汚れ落ち、すっきり」などなど。
あえて負の側面をおしだして印象に残るのもありますね。「マズい、もう一杯!」の青汁が代表例。
メーカーやサービスの販売元が直接つくる広告、通販カタログがおもな媒体です。TVCMで顕著なのは、ジャパネット高田などの通販番組ですね。
こうしたキャッチコピーでもまず言葉の切れ味よりも、優先されるのは商品の特性です。商品に対する理解がなければはじまりません。

そして、最後。
その商品をつかってのイメージを植えつけるもの。アジエンスのキャッチコピーはまさにこれに該当します。
商品というよりは、物性に依存しないサービス産業が多いですね。映画や小説、漫画、テレビ番組などのメディア広報はとくに。
TVでタレントを起用して流れるCMはすべてこの類。憧れの有名人のイメージを利用しているのです。消費者は美しい女、かっこいい男に自分を重ねる。そして、購買意欲はかきたてられるのです。
たとえばある大物女優がダイエット食品をおススメしていたとする。その彼女のスレンダーな体格に惹かれて購入した者は、たとえ細身になってもうまれつきの体格差があってけっしておなじになれるわけではないのに、それで気分良くなってしまうでしょう。私たちが消費しているものは、物理的な効能よりも精神的な満足であるからです。


電脳化がすすむにあっては、こうしたイメージ先行の売り方がますます加速するでしょう。商品の効能よりは、それを用いてのアフターイメージに意識を奪われてしまっている。それがために商品の誤った使用をしたらどうなるか、という想像力がはたらきにくくなっているのではないでしょうか。
こんにゃくゼリーはおいしい、喉を通るときのあの太い弾力がたまらない(拙稿「こんにゃくゼリーのタナトス」)、というよりも、ゼリーをいくら口にしてもスリムな笑顔の女性ばかり思い浮かべているうちは、凍らして食べたり勢いよく放り込むひとが後を絶たないように思われるのです。




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2 Comments

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納得! (TK)
2008-12-05 18:57:45
万葉樹さん、こんばんは。

記事内容全てに納得です。

特にこの部分、
>とかく顔のない集団主義にだまされやすい日本人の心理をよくついていませんか。そしてまた、グローバリズムとか、とにかくスケールのでかい話を持ち出されるととかく弱い日本人(笑)

全く同感です。

そして、
>商品の効能よりは、それを用いてのアフターイメージに意識を奪われてしまっている。それがために商品の誤った使用をしたらどうなるか、という想像力がはたらきにくくなっているのではないでしょうか。

これがその通りですね。

いやいや、良い記事でした。
安全を売るのが難しい時代 (万葉樹)
2008-12-13 22:57:10
ごきげんよう、TKさま。
コメントありがとうございます。所用で留守にしてましたので、返答が遅れてすみません(汗)

「日本人」と他人ごとのように評しておりますが、じっさいはその一億総勢のなかには自分ひとりも含まれております(苦笑)グローバリズムとか、とかくカタカナ言葉に弱いですね、私。口にすると賢くなった気になっちゃいますから~。

商品の誤用などについては、やはり消費者の欲望に深くうったえるものほど、気をつけねばならないでしょうね。取扱説明書を読まないひと、多すぎます。こんにゃくゼリーの件も、お年寄りが目が不自由であれば、いくら注意書きを大きくしても読めなかったりするのでしょうね。

そういえば、いまアジエンスのCMって浅田真央ちゃんを起用してますよね。あの有名なキャッチコピーはつかわなくなったのかしら?

ネットで動画観れるようになると、TV観なくなるのですっかりいまのブームがつかめなくなった遅れた消費者の管理人でした。

にしても戦争がなくとも安全を売るのが難しい時代です。

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