陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「狼の死刑宣告」

2012-06-17 | 映画──SF・アクション・戦争
2007年のアメリカ映画「狼の死刑宣告」は、最愛の息子を殺されたことから復讐の鬼と化したある男性をめぐる過激なバイオレンスアクション。15禁指定となっています。たしかに、ティーンエイジャーにはあまり観て欲しくはないかも。

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投資会社の副社長をつとめるエリートサラリーマン、ニック・ヒュームは妻ヘレンと、ブレンダン、ルーカスの二人の息子とともに暮らす良き家庭人。幸福につつまれた日々は、ある日、突然に終わりを告げる。ガソリンスタンドの強盗に巻き込まれ、目前で長男ブレンダンを殺されてしまう。ニックは、犯人が少年であるために罪に応じた刑罰を与えられないことを知る。控訴を取り下げたニックは、みずから復讐を果たすが…。

金に困ってならまだしも、ただギャングの仲間入りでメンツを果たすというヤクザ紛いの目的のために殺されてしまった息子。父親という立場をこえても、崩れた生き方をした若者が未来ある若者の命を奪ったというだけで、観る者は誰しも義憤に駆られ、父親の行為を正当化したくなることでしょう。ましてや、刑事や弁護団すら及び腰でニックの味方をしない。善良な市民を保護するはずの警察が役に立たず、犯罪者を罰するためにあるはずの法律がなぜ犯罪者を守るために悪用されねばならないのでしょうか。

ニックが殺した少年がギャング団のボス・ビリーの実の弟であったために、敵討ちで命を狙われることになります。復讐の連鎖が続き、やがて愛する家族をも巻き込んだ、ニックたちとギャングたちとの戦争に突入してしまいます。

ただの復讐劇というだけでなく、ニック側、ギャング側それぞれの愛情劇でもあるのですよね。優秀な兄に引け目を感じていた弟ルーカスの嘆き、またいっぽう、弟の無念を晴らすためにひたすら血で血で洗う抗争に埋没していくギャングのボス。さらにまた、二組に父と子の相克のドラマともいえます。

激情に駆られて刹那的な犯罪に走り、家族の命を危険にさらしたニックは愚かかもしれませんが、警察の日和見主義的な態度をみればやはり同情したくもなろうというもの。ヘレンとおなじく立派な父親だと抱きしめたくなるものでしょう。暴力を賛美しているわけではなく、家族を失った無念を晴らそうとする勇気と行動力を称えているのですね。

とはいえ、これはあくまで虚構のこと。
現実には暴力に暴力で立ち向かうしか術がない世の中にはなってほしくはありませんけどね。憎しみに支配された人生はあまりにも悲し過ぎますし、世の不公平を嘆いてみるよりはなお前向きに生きたほうがいい。
けっきょく、犯罪者を撃つことで犯罪者に堕ちてしまった主人公、終盤の銃撃戦の鮮やかな赤の照明をつかった演出もさることながら、憐れみを誘います。もうひとりの息子が生き残ったということが、かすかに希望を持たせるラストです。

原作は、おなじく家族を殺された男の復讐劇を描いた「狼とさらば」を手がけた
監督は「ソウ」のジェームズ・ワン。
出演は「インビジブル」のケヴィン・ベーコン、ギャレット・ヘドランドほか。
ベーコンは「告発」でも、刑務所で虐待を受ける囚人を熱演しました。

この手の映画を見るとかならず思いますね。
身近な家族や愛する人を理不尽な理由で殺されてもなお、死刑廃止論者は犯人への死刑を求める気持ちが微塵も起こらないのだろうかと。

(2011年9月1日)

狼の死刑宣告 - goo 映画

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