陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

オタクのあなたがその作家を応援する理由

2024-01-28 | 二次創作論・オタクの位相

読書家でも、映画マニアでも、漫画好きでも、演劇やら音楽やらのファンでも、なんでもいい。
とにかくあるクリエイターを熱烈に応援して、長年、その動向をそれとなくチェックしている。そんなお気に入りを何人か持っておくことは、人生を豊かにしてくれます。いま時分ですと、こういうのを推しとも言いますよね。そして推す方の私たちが〇〇オタク。

私は本が好きなので、ここではあくまで作家(漫画家を含め)をメインとして想定します。
ある作家に嵌まるきっかけは、とても偶然の、その作品との出会いだったりします。図書館で借りたものか、学校の課題図書だったとか、友だちが教えてくれたとか、はたまた書店でたまたま目に入っただけとか。

一冊読んだとき、その作家の他のものを芋づる式に読み漁りたいと思うとき、そうでないとき。この差はなんなのでしょうか。どんな作家の作にも創作に波があるために、駄作凡作もありますし、傑作もあります。それで、幸運にも最初の一作が抜きん出た印象があると、やはり長くお付き合いしたくなるものですよね。

でも、その初回作品を印象付けているものはなにか。
強烈な作家性があること。瞳に残ってしまうような描き方。口にのぼらせたくなるような台詞あるいは歌い声。自分の人生に食い込んできそうな濃密なテーマ設定。

この人の作品なら、問いかけてくれる。答えをくれそうな気がする。考えるヒントを与えてくれそうな気がする。重い足取りで歩いてきた街を逆向きで歩いたときに、気分が上向きになるような。新しい世界を繰り延べてくれるような。

そういう誰かに押し切られたものではない、信頼関係が醸成されることがあります。
もちろん、作家が読者の期待を裏切ることはあるのでしょう。マンネリ化に倦んで望んではいない結末に引き込もうとすることだってあるのでしょう。それでも、この人ならいつか、次作でと思える安心感があったりする、それはなぜなのか。

ひとつには、読者と作者とのあいだに、なにがしかの共通点がある場合です。
人間は自分と似た者には甘いのです。自分の理想と近い人間には。その作家を代理人として思想を世に知らしめたくもなる。そう、共通点とは思考、あるいは嗜好。自分が好きだと思う門を最大限引立てて、最高だと言って褒め上げてくれるような作品をもってきてくれる。

でも、それだけじゃないこともあります。
自分が嫌いで苦手で、唇を噛みしめたくなるようなものを出してくる。それでも甘受できそうになるのは、なぜなのか。

それは、思想ではない、身体性をともなう共通点、ではないでしょうか。
具体的には、郷土がいっしょだったとか、学校の卒業者だったとか、会社員時代に同じ業界にいてその肌合いを知っていたとか、あるいはこれからの志望業界にいるとか。同じ本や映画、アニメ、漫画が好きだったとか。マイノリティーや多様性に理解がある、同性の、同世代の作家──そんな属性だけでも応援してもらえる。自己の存在と同じような遺伝子をどこかに嗅ぎ取れることができるような。

私の場合ですが、自分と誕生月が近いとか、育った環境が近そうだな、恋愛観が納得いくな、男女の描き方に偏りがないな、という作家さんの書くものは馬が合います。
運動部に属していたことがあるとか。受験でも部活でもいい、学生時代になにかやりきったことがあるとか。ゲームとかアニメ漬けではなくて。

私はある小説家の新作にはかならず目を通しているのですが、実は! その人と誕生日がまったく同じなんです。そのせいか、すごく親近感を覚えてしまう。その考え方のバランス感覚というか、どっちつかずなんだけど極論には偏らないものの見方というか。

もちろん学歴とか職歴とか、生まれた世代も加味されはするのですが。私と同世代の就職氷河期世代の方の書き手って、どこか自己劣等感をまぎらわすために、キャラにハードルの低い成功体験をでっちあげる風潮がありますよね。歴史ものを書くと、過剰に主人公ヨイショになったり、いきなり能力が開花したり、多方面にモテたりする。若い世代が失敗を恐れるというけれど、私らのほうがよほどフィクションにおいてさえ挫折を逃れたがっている。だってもう、この先の人生のしくじりが許されないから。

性格が近いけれど、世代は近くなくてもいい。
むしろ、若いけれども鋭いまなざしで価値観のぶつかり合いをうまく処理しているものや、長く世間をみているベテランだからこその重しのついた発言ができるとか、自分とは違う方向性からアプローチできるひとを好みますね、私は。自分の心にその書き手の想いが届く瞬間は、作家にとっても読者にとっても贅沢な瞬間です。

あなたがその作家を応援する理由は、ささいな共通点からはじまる。
すべてが重なっている必要はない。まったくの他者だったはずなのに、心を通い合わせる作家性には読者とのつながりが見えたりするものです。

(2021/09/06)

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