陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「僕がいない場所」

2017-09-05 | 映画──社会派・青春・恋愛
2005年の映画「僕がいない場所」(原題 : Jestem)は、親の愛情に恵まれず身の置きどころのない孤児たちを淡々と描いた、ポーランド映画。カラーではありますが、画調が全体的に暗く、沈鬱な気分にさせられてしまう作品です。
タイトルからして、社会から迫害された弱者の叫びが聞こしめてしまうような。

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孤児院に預けられている少年クンデルは、死の暗誦を得意にしているもの静かな性格だが、友だちができず、先生にも反抗的だった。
脱走して遠く離れた町に暮らす母親のもとへ戻る。だが、若い母親は男と同棲中で息子を疎んじていた。
絶望したクンデルは家を飛び出し、行く当てもないまま川縁につながれた廃船に住み着く。

身持ちが悪くふしだらな母親といえば、「アンナ─まなざしの向こうに─」を思い出しますが、あの母親よりもさらにタチの悪い。まったく育児を放棄しています。

クンデルは空き缶や廃材を集めて換金するホームレスのような生活をするが、けっして盗んだりくすねたりしようとはしません。また、詩人を夢見る彼は誇り高く、ときに街の人から同情心を寄せられても甘んじようとはしない。

そんな彼が出会ったのが、廃船の近くに住む中流家庭の少女。
彼女もまた、姉と比べて容姿が劣るという理由で、親から愛されてこなかった。少女と交流することではじめて人としての絆をもつことができたクンデルですが、彼女との別れが待っていました。

お話としては至極単純なものですが、登場した子どもが可哀想という気持ちの前に、親として大人としての心構えを問われているような、辛らつな物語ですね。
おなじく孤児を描いた「モンド ~海をみたことがなかった少年」は、捨て子でも愛情に預かることができた明るい、どこかファンタジー色のある作品でしたが、本作は絶望したクンデルがショッキングにも身投げするシーンもあって、昔の詩的リアリズムと呼ばれた映画の名残りのような重さが漂います。
豊で物に恵まれた現代日本ですら、子どもが抱える孤独感というのは変わらないものなんでしょう。

監督・脚本・製作は、ポーランド映画界の誇る女性監督ドロタ・ケンジェルザヴスカ。
音楽が「ピアノ・レッスン」「仕立て屋の恋」のマイケル・ナイマン。
本作は第49回ベルリン国際映画祭キンダーフィルムフェスト特別賞を受賞。

(2010年3月4日)



僕がいない場所(2005) - goo 映画


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