陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「仕立て屋の恋」

2011-02-03 | 映画───サスペンス・ホラー
1989年のフランス映画「仕立て屋の恋」(原題 : Monsieur Hire)は、殺人事件に絡んだ女を愛してしまった中年男性が陥ってしまうラブ・サスペンス。

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ある公園で、青年が他殺体で発見された。刑事は独身で孤独な仕立て屋の男イールに嫌疑をかけ、何かにつけ周辺を洗い出そうとする。
イールは隣のアパルトマンに住む娘アリスの生活を、毎夜毎夜盗み見していたが、やがて本人に気づかれてしまう。アリスのほうから積極的にアプローチをかけてくるが…。

この作品の焦点は、はたして真犯人が誰なのか、ということ。
前半でイール氏は過去に猥褻罪で逮捕歴があり、白ネズミを飼っているなど、どこかしら異常者ではないか、と思わせる場面があります。

しかし、途中からアリスの恋人エミールが犯人であるらしきことが、イールとアリスの会話から読みとれる。結婚を約束していたはずなのにエミールは逃亡のためにアリスを棄てようとし、アリスの気持ちはイールへと傾いていく。イールはアリスが罪に問われるのを恐れて、スイスへ旅立とう誘うのですが、アリスは待ち合わせの駅には来なかった。気落ちしたイールが帰宅すると、そこに待ち構えていたのは…。

イール氏が犯人だったのか、無実だったのかは、ラストの手紙で明らかになりますが、初見ではすっかり騙されてしまいました。紳士然とした着こなしをしてはいるけれど、ボクシング観戦の熱気に隠れてアリスに表情ひとつ変えず触れているイールは、どこか性的異常者ではないかしら、と思わせもしますし、アリスはしたたかな女という印象は最後までありませんでしたね。
はたして、善人ふうに自分を仕立てていたのは、どちらだったのか。

全編会話はきわめて少なく、ワンカットごとに色彩美が美しいのは、やはりフランス映画ならではのセンス。筋書きを楽しむというよりも、絵画を眺めるような心地で観る映画です。アメリカ映画なら大胆に男女の絡みを描いてみせるところを、フェティッシュに演出しているところがそそります。

マイケル・ナウマンの鮮烈な余韻が耳に残る音楽も、哀切さを掻き立ててくれますね。主役が無表情で言葉少なだけに、その心情を代弁してくれているかのようです。

監督はパトリス・ルコント。
主演はミシェル・ブラン、サンドリーヌ・ボネール。
原作はジョルジュ・シムノンの『イール氏の犯罪』

本作はカンヌ映画祭のコンペティション部門で上映され、セザール賞では作品賞・監督賞にノミネートされました。

(2010年1月29日)

仕立て屋の恋(1989) - goo 映画


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