2004年のアメリカ映画「ミリオンダラー・ベイビー」(原題 : Million Dollar Baby)は、クリント・イーストウッド主演・監督をつとめた話題作。貧困から抜けだすために闘いつづける女性ボクサーと、孤独な老トレーナーとの絆を描いたヒューマンドラマ。巨匠よ、大作よと騒がれている作品については噂を間引いて観るのが自分のスタンスなのだが、本作はすなおに観れてよかったと感じた。
経営難のボクシングジムを構えるフランキー・ダンは、ある日、弟子入り志願の女性マギーに押しかけ入門される。マギーはすでに31歳、基礎もほとんど身についておらず到底プロの道は厳しい。しかし、8年も育てた有望株の選手を他のジムに引き抜かれてしまったフランキーは、マギーの熱心さにほだされてトレーナーを引き受けることにした。
マギーはめきめきと頭角を現し、連戦連勝。たちまち有名ボクサーとして知られるようになる。
やがて、強豪のドイツ女性選手との賞金百万ドルをかけた試合が催される。流血の激闘となったが終盤に優勢に。勝利を確信したマギーだったが、思わぬ不幸が彼女を襲う…。
前半はまさしくど素人が昔の杵柄をとった名コーチの指導のもと勝利を重ねていくという、よくあるスポ根ドラマそのまま。
だが、しかし。後半からはヒロインはリングを降ろされた場所で、拳も振るえないまま、ただ生きるということに闘いつづけなければならない。だが、それこそがボクシングだけが生きがいの彼女にとっては何よりも辛いことだった。
ガッツだけは人一倍強いマギーが闘っていたのは、じつは彼女の命がけの挑戦を快く思わない家族たち。母や妹たちは生活保護に頼って生きている怠け者。賞金を稼いで必死に仕送りするマギーの想いを踏みにじってしまう彼らにはほとほと呆れ、怒りすら感じざるをえないが、はたして現在の日本でもあてはまる状況だけに考えさせられてしまう。
家庭愛に飢えたマギーはフランキーを師匠以上の愛情で慕い、煙たがっていたフランキーもいつしか自分の手放した娘の代わりのように大事に思いはじめる。イーストウッドはラブストーリーだと主張するが、ふたりにあからさまな男女間の愛は存在しない。
このふたりの結末をどう感じるかは評価が分かれるかもしれない。特に安楽死(尊厳死)をよしとしない考えの方々にとっては。
全身麻痺でも希望をみいだせる余生があればよかったが、マギーは誰かに依存して生きるような生き方を好まない女性だっただけに、悲しい人生を終えてしまった。それでも満足していたのだから、よかったのだろうか。自分で自分の人生に責任が持てないのなら、いっそ死んでしまうべきなのだろうか。色んな思いがよぎる。
イーストウッドは、元ボクサーでありながらもの静かで気難しい男フランキーを好演。
マギーを演じたのは、ヒラリー・スワンク。「ボーイズ・ドント・クライ」でもかなり痛々しい役柄を演じた女優だが、本作も拳闘シーンの熱演が光りアカデミー賞主演女優賞に輝いた。
ナレーター兼フランキーの同胞で住み込みの老ボクサーに扮したのは、実力派のモーガン・フリーマン。助演男優賞受賞はうなづける演技。
彼が救ったボクシング狂のデンジャー青年の顔出しが、悲劇的な終幕へむかう暗さを和らげているのがいい。
ボクシングの場面は専門家から見れば疑問符のつく演出もあるが、「レイジング・ブル」のような根性のひねくれた主人公でないところがいい。ヒラリー・スワンクの特訓の成果もあって、スパークリングは堂に入ったもの。
本作はアカデミー賞作品賞・監督賞にも輝き、まぎれもなくイーストウッド監督の代表作であろう。「硫黄島からの手紙」 「父親たちの星条旗」は退屈だったが、巨匠と呼ばれるにふさわしい名作だと感じた。
余談だが、リングのコーナーの椅子に「イーストウッド」と書かれてあったり、レモンパイを食べる店が「アイラのロードサイド食堂」とあるのは、なにかのシャレなんだろうか?
(2010年3月31日)
ミリオンダラー・ベイビー(2004) - goo 映画
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マギーはめきめきと頭角を現し、連戦連勝。たちまち有名ボクサーとして知られるようになる。
やがて、強豪のドイツ女性選手との賞金百万ドルをかけた試合が催される。流血の激闘となったが終盤に優勢に。勝利を確信したマギーだったが、思わぬ不幸が彼女を襲う…。
前半はまさしくど素人が昔の杵柄をとった名コーチの指導のもと勝利を重ねていくという、よくあるスポ根ドラマそのまま。
だが、しかし。後半からはヒロインはリングを降ろされた場所で、拳も振るえないまま、ただ生きるということに闘いつづけなければならない。だが、それこそがボクシングだけが生きがいの彼女にとっては何よりも辛いことだった。
ガッツだけは人一倍強いマギーが闘っていたのは、じつは彼女の命がけの挑戦を快く思わない家族たち。母や妹たちは生活保護に頼って生きている怠け者。賞金を稼いで必死に仕送りするマギーの想いを踏みにじってしまう彼らにはほとほと呆れ、怒りすら感じざるをえないが、はたして現在の日本でもあてはまる状況だけに考えさせられてしまう。
家庭愛に飢えたマギーはフランキーを師匠以上の愛情で慕い、煙たがっていたフランキーもいつしか自分の手放した娘の代わりのように大事に思いはじめる。イーストウッドはラブストーリーだと主張するが、ふたりにあからさまな男女間の愛は存在しない。
このふたりの結末をどう感じるかは評価が分かれるかもしれない。特に安楽死(尊厳死)をよしとしない考えの方々にとっては。
全身麻痺でも希望をみいだせる余生があればよかったが、マギーは誰かに依存して生きるような生き方を好まない女性だっただけに、悲しい人生を終えてしまった。それでも満足していたのだから、よかったのだろうか。自分で自分の人生に責任が持てないのなら、いっそ死んでしまうべきなのだろうか。色んな思いがよぎる。
イーストウッドは、元ボクサーでありながらもの静かで気難しい男フランキーを好演。
マギーを演じたのは、ヒラリー・スワンク。「ボーイズ・ドント・クライ」でもかなり痛々しい役柄を演じた女優だが、本作も拳闘シーンの熱演が光りアカデミー賞主演女優賞に輝いた。
ナレーター兼フランキーの同胞で住み込みの老ボクサーに扮したのは、実力派のモーガン・フリーマン。助演男優賞受賞はうなづける演技。
彼が救ったボクシング狂のデンジャー青年の顔出しが、悲劇的な終幕へむかう暗さを和らげているのがいい。
ボクシングの場面は専門家から見れば疑問符のつく演出もあるが、「レイジング・ブル」のような根性のひねくれた主人公でないところがいい。ヒラリー・スワンクの特訓の成果もあって、スパークリングは堂に入ったもの。
本作はアカデミー賞作品賞・監督賞にも輝き、まぎれもなくイーストウッド監督の代表作であろう。「硫黄島からの手紙」 「父親たちの星条旗」は退屈だったが、巨匠と呼ばれるにふさわしい名作だと感じた。
余談だが、リングのコーナーの椅子に「イーストウッド」と書かれてあったり、レモンパイを食べる店が「アイラのロードサイド食堂」とあるのは、なにかのシャレなんだろうか?
(2010年3月31日)
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