陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ニュー・シネマ・パラダイス」その2

2011-08-30 | 映画──社会派・青春・恋愛
一度観ただけではよく分からなけれど、再視聴してみるとその深い味わいがじわじわと滲み出してくる映画ってありますよね。1989年のイタリア・フランス合作映画「ニュー・シネマ・パラダイス」がまさにそうでした。

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この映画は、ある知己の人物の訃報を皮切りに、シチリアの小村出身で今となっては有名な監督になった主人公の子供時代を回想したもの。まず理解できたのは、村でゆいいつの上映館である映画館の映画は、あらかじめ教会の神父によって検閲されていたんですね。そのカットシーンがいわばラストにつながっているわけです。

主演の子どものなんと愛らしい表情。口達者で賢すぎる少年サルヴァトーレ(愛称トト)ですが、父のいない孤独を抱え、映画への想いを理解してくれない母に苛立っています。ですから、映画技師アルフレードの親切がなおさら身にしみるのですね。「友だちは顔つきの良さで選ぶ。敵は頭の良さで選ぶ。よい友だちを選べと子どもには言ってある」──人生の滋味あふれる男の台詞といえます。

アルフレードもまた満足な教育が受けられなかったために読み書きに不自由し、どこか幼い部分があります。映画技師として同じ映像を繰り返し観なければならない虚しさを朴訥と語る不器用さ。いつしかトトはアルフレードのなくてはならない片腕として活躍しはじめます。

かなり茶目っ気たっぷりの演出(とくに涙腺の緩さや波打ったように笑いの広がる観客席)が随所に施されていますが、トトの友人一家に対する村人の差別など、当時の共産主義批判に対する皮肉も含まれているのですよね。そして映画は娯楽だけではなく、軍閥の色濃い政治のプロパガンダとしても利用されている。名優クラーク・ゲーブルと見たことのない父親との面影を重ねあわせる息子の無邪気さと、夫の戦死の報を受け取った母の嘆き。いっぽうで富める者は貧しい者に与えるのが当然とする欧米ならではの風潮が村人たちの娯楽を支え、つなげていきます。

アルフレードの粋な計らいで広場に集まった大衆にすてきなプレゼントがありますが、その善意がアルフレードの技師としての人生を狂わせてしまいます。そのことがトトの映画人生としてのスタートとなります。映画史とともに成長したサリヴァトーレはやがて初恋を経験することになりますが、お伽話のような身分違いの恋はいずれ破綻を迎えてしまいます。戦争も経験し、帰ってきた故郷にはかつてのような賑やかさは見られない。アルフレードに背中を押されるようにして、村を旅立つことになります。映画の中からの引用ではない、自分の言葉として前途洋々たる若者を諭すアルフレード。アルフレードが映画に携わりながら夢を外側から撫でるだけで終わったとすれば、トトことサルヴァトーレは映画を憧れやまやかしではなく現実の望みを叶える手段として制することのできた人間です。でもその成功も、アルフレードの理解なくしてはありえないものでした。

ところどころに出てくる気違いじみたホームレスの男がトラブルメーカーになるのかと思いきや、最後に主人公の映画館と共に失われた日々をほのかに忍ばせるいい役割を果たしているんですよね。演出が大げさではないのでわかりにくいのですが。主人公がラストのキスシーンばかりの断片コレクションを見て涙するのは苦しい初恋を思い返してセンチメンタルになったというよりも、もはや巻き返しのできない人生の重みに気づいてしまったからなのですよね。古びたフィルムの中で永遠に輝きつづける銀幕のスターたちと、髪に白いものが混じりはじめた村人たち。母の電話から、主人公は成功しながらもけっして愛情に恵まれた生活をしているわけではないことがうかがえますが、ふつうなら気になってしまうそのだらしなさも、あの郷愁を誘うエンディングの前では気にならない。

ひとつの映像をみんなでわいわい言いながら観る劇場型の楽しみというのは、PC一台でディスク再生で観られる時代となっても、動画サイトの共有コメントに生かされていますよね。若い世代を中心にTVの視聴率が下がり続けていますが、また映画館が復活するといいですね。

監督はジュゼッペ・トルナトーレ。
ちなみにノーカットで再編集したオリジナルヴァージョン(そちらのレヴューはこちらに)とではかなり印象が異なるようですね。私は今回劇場公開に忠実なデジタル・リマスター版を視聴しましたが、視聴後感がよかったのはそのせいかも。

(2011年6月20日)

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