陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「深夜の告白」

2013-04-06 | 映画───サスペンス・ホラー
1944年のアメリカ映画「深夜の告白」(原題 : Double Indemnity)は、保険金殺人をもくろむ魅惑的な人妻と不倫の恋に落ちた男を主人公とした悪女ミステリー。似たようなパターンに、「白いドレスの女」や「愛という名の疑惑」がありますね。1940年代のアメリカは、「マルタの鷹」などフォルム・ノワールが大はやり。本作の主人公も強面ではないものの、軟派な感じはせずむしろ女よりも犯罪をリードしてしまうような実行力のあるほう。男も女も犯した罪の報いを受けるラストだからこそ、まま納得できます。

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ロサンゼルスの大手保険会社に、深夜一人の男が入ってきた。男は肩を撃ち抜かれながらも、テープレコーダーをセットし、驚くべき告白をはじめる。
この男、保険会社の外交員ウォルター・ネフは、自動車保険の更新の案内で訪ねたディトリスチン家で若き夫人のフィリスにひと目惚れ。愛情のない夫婦生活に嫌気がさしていたフィリスはウォルターに、おそろしい計画を持ちかける。それは、夫にないしょで高額の傷害保険をかけ、事故死と見せかけて殺し、保険金をせしめようという計画だった。
さいしょは躊躇したウォルターだったが、いつしかフィリスの魅力の虜となって、率先して実行犯となるが…。

冒頭で告白している時点で、ふたりの愛の破綻と結末はなんとなく見えてはいるのですが、犯行前から実行後に至るまでの、終始ゆさぶりかけるような心理描写がおもしろい。
フィリスにそそのかされたのが大きいとはいえ、ウォルターの犯行動機には、保険をセールスしている立場から会社にからくりを見破られないでお金をだまし取ってみたい、というスリルを味わいたいようなフシが感じられもします。
まんまと列車からの転落と見せかけて夫を亡き者にしたものの、ウォルターの上司で頭の切れるキースが不審な点に勘づいて嗅ぎ回ります。
おかげで、連絡を密にしていた二人の関係はぎくしゃくし、悲劇を迎えてしまいます。

検死審問でディトリスチンの死因が二転三転したり、盟友として親しいキースに嫌疑をかけられているのではないかと気を揉んだり、フィリスに別の男の影が浮上したりと、さながらウォルターの心情になってドキドキさせられっぱなし。
それにしても、とりかえしのつかない過ちを犯したということは、こんなにも人を泥沼に陥れてしまうものなのか。
ラストに、告白相手のキースが登場。これまでの信頼感と友情がわかるような粋な台詞を贈るあたりがしゃれていますね。

監督は「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」のビリー・ワイルダー。レイモンド・チャンドラーとの共同脚本。
ワイルダーの映画は、破滅に直面していても情けなさを感じない主人公が多いですね。本作は、ウォルターがみせるフィリスの義理の娘の恋人への気づかいと、キースへの口述でしのばれる絆の深さによって、救われています。

主演はバーバラ・スタンウィックと、「アパートの鍵貸します」で、いけ好かない上司を演じたフレッド・マクマレイ。
エドワード・G・ロビンソン演じる推理役のキースは、なかなか癖のある演技で存在感があります。この役がいないと、かったるい不倫と殺人というつまらないドラマになっていたでしょうね。
原作は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のジェームズ・M・ケインの小説『倍額保険』

(2010年3月12日)


深夜の告白(1944) - goo 映画

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