陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「秋刀魚の味」

2011-05-26 | 映画──社会派・青春・恋愛
1962年の映画「秋刀魚の味」は、小津安二郎監督おなじみの婚活ドラマ。
適齢期を迎えた娘に岩下志摩、その父親に笠智衆。原節子が娘役に扮した「晩春」に家族構成を多くして、周囲の人間関係を複雑にしてはいます。ただ、遺作のせいか、これまでの類似作に比してややストーリーが甘いような気がします。

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五十を超えた平山周平は長女の路子、次男の和夫と三人暮らし。
中学時代の恩師佐久間を迎えて同窓会を開く酒席で、適齢期の路子への縁談話がもちあがる。細君を亡くして以来家庭を預かっている路子を重宝していた平山だったが…。

路子本人すらも乗り気ではなかった縁談を進めようと焦ったのは、佐久間父娘の現状に接してから。佐久間の娘伴子は行き遅れたまま、細々とラーメン店を営んでいるけれど、昔の愛くるしさが失われてしまっていました。
しかし、路子にもひそかに片想いの相手があって、はたして貰い手が来るのか、はらはらさせられはします。

路子の恋路と平行線で描かれるのが、その兄幸一夫婦のちょっとしたいざこざ。安月給のサラリーマンである幸一は、生活費の工面がたいへんで父親に借金を頼むほど。高度経済成長期を示すかのように、三種の神器と呼ばれた家電の購入をめぐって、ささくれだつ若夫婦。

それにしても、本作だけに限りませんが、老人の疎外を描いた「東京物語」にせよ、奔放な母親を描いた「東京暮色」にせよ、後期の小津作品は驚くほど現代を予見したかのようなテーマが設定されています。
実家の居心地がよくて嫁ぎたがらない娘、老後の世話を頼みたがる高齢者、子どもをつくるよりもレジャーや趣味への出費に励む若い夫婦、そしてバーのママに癒しを求めたがるサラリーマン。
驚くべきは、五十を過ぎた紳士であるはずの平山たちが、子どものようないじわるな嘘をついたり、老先生を小馬鹿に誹っていい気になっているところ。今の若者は敬老精神が足りない、なんぞと説教たらしい御仁に限って実は反骨心のかたまりだったなんて例がありますよね。

「晩春」「麦秋」とおなじで、けっきょく嫁ぎ先が決まり、孤独な父親が寂しさをかいま見せるエンディング。しかし、なぜか腑に落ちないのは物は豊かでも、階級格差のみえる暮らしぶりと、会話の中にうかがえる人間の厭らしさのためでしょうか。
あと、タイトルの意味するところがまったくもって不明でした。「お茶漬の味」のように、秋刀魚がこじれた人間関係の潤滑油になるわけでもなし。おいしい時期の短い秋刀魚とおなじで、娘が嫁ぐのも早い方がいいという例えなんでしょうか。

「晩春」を匂わせるように、原節子が言ったはずの台詞を岩下志摩が口にするんですが、笠智衆が悪友にむかって「不潔」と言い出すのは、なんとも笑えますね。

ちなみに2003年に小津安二郎生誕百周年を記念して、宇津井健、財前直見の主演で、TVドラマリメイクされたそうです。杉村春子の役どころに泉ピン子を充てたのはナイスキャスティングだと思いました。

(2010年3月29日)

秋刀魚の味(1962) - goo 映画

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