陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「麦秋」

2010-07-24 | 映画──社会派・青春・恋愛
女優の原節子が「紀子」役で主演した小津安二郎作品、いわゆる紀子三部作の中編が1951年の「麦秋」
前作の「晩春」からのメインキャストをほぼ踏襲していて、主題も行き遅れの娘の縁談話と似たようなのですが、登場人物が多彩に綾なす物語となっていて飽きることなく楽しめます。「晩春」よりも大家族でやや経済的には劣るであろう一家ですが、舞台もおなじく北鎌倉、よくみれば小道具などもおなじものが用いられているので、共通点を探すのもファンの楽しみのひとつ。

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内科医で兄の康一夫妻とその息子ふたり、老いた父母と暮らす間宮紀子は二十八歳。商社の専務佐竹の秘書を務めている才媛だが、浮き立つ話もない。未婚の親友アヤ子と連れ立って結婚した女友だちをからかっているようなお気楽なご身分だったが、大和にいる本家の伯父からは結婚を急かされる。
上司の佐竹からも、旧家の出で名士の男からの縁談話が寄せられる。紀子は乗り気ではないが、兄の康一をはじめとした一家は押し進める気満々だった。
しかし、不意に紀子が思わぬ相手に嫁ぐと言い出して、家族は大慌て。それは、かねてからの顔なじみで兄の勤める病院の後輩である、矢部謙吉だった。

「晩春」とおなじで笠智衆演じる兄へのプラトニックな愛情のために嫁げないのかと思っていたけれど、そうでもなく。かといって、謙吉に恋心があったようなそぶりがあったわけでもなく。
強いていえば、亡くなった次兄の省二への憧れから、その友人であった謙吉と結ばれようとしたのではないか、と思われます。もちろんこれは私の憶測ですが。
四十過ぎの初婚で財産家よりも、秋田へ転勤せねばならない貧乏医者でしかも連れ子のある男をなぜ選んだのか。その理由を劇中で紀子は義姉に明かしていますが、紀子は紀子なりにしっかりした結婚観を持っていたのがわかります。

「晩春」ほど悲愴感はなく、原節子演じる本作の紀子は、美貌とさっぱりした性格の持ち主。けっして楽して生きようとするお嬢さま然としていない。こういうヒロインは観ていて、気持ちがいいですね。

全体的にユーモラスな雰囲気でまとめられていますが、終盤は紀子が遠くに輿入れしてしまうことで、家族の離散をしみじみと描いています。昔ながらの律儀でどこかちゃっかりしている日本人像がおかしくてたまらない、ゆるやかなコメディでありながらペーソスをも織り交ぜた感動作。そう大してめだつ演出や、派手な演技をしているわけでもないのですが、見入ってしまう良作ですね。

(2010年1月11日)

麦秋(1951) - goo 映画

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