陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「東京物語」

2010-09-10 | 映画──社会派・青春・恋愛
原節子、笠智衆、杉村春子というおなじみの役者が顔合わせしながらも、まったく違った魅力を放つ人物像を演じ分けて、みごとに日本人の叙情を打ち出した小津安二郎監督の傑作が1953年の「東京物語」です。
前作の「晩春」に比べると意図的なカメラワークよりも筋書きで見せ、「麦秋」にあったどこか噴き出してしまうようなおかしみは潜んでいません。ここに物語とされた老夫婦の直面する人生の悲嘆は、けっして他人事ではない。がゆえに、多くの共感を呼ぶのではないでしょうか。

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尾道に娘の京子と暮らす周吉ととみの平島夫妻は、久しぶりに息子たちを頼りに上京する。町医者をしている長男の幸一夫妻は表面上温かく出迎えてくれ、理容院を営む長女の志げ夫妻の家にも居候。しかし、ふたりとも思ったほど裕福な暮らしぶりではなく、邪見に扱われるように。
志げの発案で熱海の温泉行きをあてがわれるが、そこもまた観光客で騒々しく、落ち着かない。同郷の旧友に再会して酒を酌み交わすも、つい愚痴が先に口をついてしまう。
ふたりの心の拠り所は、戦死した二男の未亡人でありながら面倒見のいい紀子だけだった。
大阪の三男にも立ち寄って帰途についた平島夫妻だったが、妻のとみが倒れてしまう…。

仕事や育児に追われ自分の生活を守るのに精いっぱいで、世話を焼くことができない長男長女の夫婦。その後の葬儀のあとでの態度からして褒められたものではないのですが、けっして責められないのは、私の身内に覚えがあるからでしょうか。
教師をしていて若い次女の京子は、兄たちの不義理をなじるけれども、そこへ都会での生活の苦しさを説く紀子の優しさが身にしみますね。しかし、紀子は紀子で、亡き夫に操だてしながらも生活の不安を抱えずにはいられない。

前作「麦秋」のラストで予感させた、家族の崩壊していく姿をしみじみとした情緒をまじえて描いています。
独り身で都会暮らしだったときに訪れてきた親を、じゅうぶんにもてなしできなかった過去を思い出しました。

(2010年1月14日)

東京物語(1953) - goo 映画


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