陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ラストサムライ」

2009-12-26 | 映画──SF・アクション・戦争
今年最後の金曜ロードショーは、2003年作の映画「ラストサムライ」
トム・クルーズ主演、渡辺謙をハリウッドスターに押し上げた出世作ですね。この映画、すでにビデオで視聴済みでしたが、本作が渡辺謙の代表作といわれることには抵抗があります。なにせ、かなり捏造されたサムライ像でしかないわけですから。

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明治維新後、1870年代の日本。米国の軍人ネイサン・オールグレンは軍事顧問として来日するが、南北戦争時におこした無体なインディアン討伐のために、精神を疲弊していた。
西洋諸国が不平等な条約締結を日本政府に迫る情勢下、急速な欧米化を嫌う士族たちが叛乱をおこす。日本政府軍のお雇いとして従軍したオールグレンは敗北し、武士たちの捕虜となる。武士道の衰退を嘆き、外国勢力に屈せぬように天皇に上申していた反乱軍の頭領、勝元の誇り高さに感化されたオールグレンは、侍たちの暮らす農村での暮らしに馴染んでいく。
しかし、要求を突っぱねた政府軍に業を煮やした勝元は、命を賭しての戦いに挑む。堅い友情をむすんだオールグレンもその隣にいた。

おそらく明治時代最大の内戦といわれる、あの西郷隆盛率いる西南戦争を模したと思われるエピソードなのですが、勝元一派が叛旗をひるがえす理由が、武士道精神の崩壊、というのではあまりにも綺麗事すぎます。息子を失った仇討ちというのもあるのでしょうけれど、私怨で戦争まがいのことを起こすものでしょうか。これでは、あたかも侍が、自分の思いどおりに行かないと、面目丸つぶれとばかりにすぐ刀を振り回す輩のように思えます。侍の強さ、日本人の美学とは「たそがれ清兵衛」で描かれたように、貧しくとも潔い生活をするこころではなかったでしょうか。
ちなみに歴史の教科書で大きく扱われる西南戦争はじめ、この時代の士族の叛乱といいますのは、親の代から家禄が保証されていた地方公務員だった武士が、政権交代したとたん無職になったのを恨み暴動を起こしたにすぎません。もと幕府に雇用された旗本・御家人も不満を持っていましたが、苦労しながらも農家や商人に転身していったことを思いますと、ただ意に染まぬからと剣術に訴えるというのは浅はかといえないでしょうか。

勝元率いる反乱軍は、政府軍が二重三重に人垣をつくって、最新式の大砲・西洋銃を構えるなかを、真っ正面から騎馬で突進。兵術もなにもあったもんじゃないですね。おかげで、ことごとく撃たれ死に。戦闘シーンが多いにも関わらず、魅力がまったくなし。
勝元はオールグレンにとどめを刺してもらうことで、名誉の死を遂げるという筋書き。無鉄砲な戦をしかけて戦功をあげたわけでもなく、死んでいくのが名誉なんですか?よくわからない。
日本人の時代劇にあるような、情に訴え、気持ちを揺さぶるような悲劇性がまったくありません。ただ、着物や刀を身に着けたかった外国人が切腹ごっこしたかっただけ。

勝元が亡くなった直後に、官兵が大挙してお辞儀するシーンもなんだか場違いでおかしい。そして、武士の集落に咲く桜がいかにも造花っぽく安っぽいピンクいろ(あれでは桃の花なのでは?)をしていたり、イギリスの田園風景みたいに草生がなまなましく青々としていたり(ロケはニュージーランドで行われたらしい)と、色彩感のちぐはぐさが目につきます。黒澤映画の「七人の侍」などに憧れたアメリカ人が模倣した失敗作としかいいようがないですね。

監督・製作・脚本はエドワード・ズウィック。
出演は上記の二人の他に、真田広之や小雪。ハリー・ポッターシリーズのティモシー・スポール。
演出の奇妙な部分は目をつぶるとしても、筋書きが単純なぶん、演技者の力量を楽しむ作品といえるでしょう。ただ、これが国内外で興行的に成功したがために、やたらめったら幕末のサムライドラマや映画がここ数年量産されすぎたきらいがありますけどね(苦笑)
敵方であった原住民と交流して反対派に回るという筋書きでは、ケビン・コスナーの「ダンス・ウィズ・ウルブス」のほうが俄然おもしろかったですね。西部劇によくみられる、侵略者としてレッテルを貼られたインディアン像を正す会心作でした。

ラスト サムライ(2003) - goo 映画

(〇九年十二月二十五日)


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