陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

2009-09-14 | 映画──社会派・青春・恋愛


ハリウッド映画や、イタリア・フランスのロマンス映画以外の洋画はなんとなく、鬱屈した暗さがつきまとうものです。
2000年作のデンマークの映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も、またそんな一品。
VHS観賞だったのですが、パッケージの解説を鵜呑みしてると、観終わったあとかなり裏切られます。

ダンサー・イン・ザ・ダーク [DVD]ダンサー・イン・ザ・ダーク [DVD]ラース・フォン・トリアー 松竹ホームビデオ 2001-06-21売り上げランキング : 24494おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools



1960年代のアメリカの片田舎。
チェコスロバキアからの移民セルマは、工場で働きながら女手ひとつで息子を育てている。
彼女はミュージカルが大好きで、アマチュア劇団で稽古に精を出している。
親切な職場の同僚のキャシー、息子を預かってくれる隣人のビル夫妻、そして好意を寄せてくれるジェフ。周囲家から愛情をかけられて、なんとか暮らすセルマには、秘密があった。遺伝性の病気で彼女はもうすぐ失明する。おなじ病気を抱えた息子に目の手術を受けさせるべく、こつこつとお金を貯めていたのだ。
だが、視力が弱まって仕事でミスをした彼女は、解雇されてしまう。そして、貯金も盗まれてしまって…。

前半だけ見ると、「ライフ・イズ・ビューティフル」のように、辛い境遇であってもミュージカルの空想で明るく耐え忍ぶ趣旨なのかと思ったら、全然違います。ネタバレするとおもしろくないので控えますが、セルマはどんどん窮地に陥ってしまう。息子を守るため、そして隣人のひみつを守るために、セルマはやがてみずから破滅を選んでしまいます。
あまりに酷すぎて、泣くに泣けないといおうか。やたらと、楽しげなミュージカルパートに、生じるはずの嘆きが中和されてしまったというべきか。

ラストまで観ると、とうしょ親切だと思っていた人間たちは、じつは誰ひとりとしてセルマの意思を汲んでいなかったのではないか? そう感じざるをえません。特に隣人夫妻の変貌ぶりはひどく呆れます。いちばん理解のあったのは、皮肉なことに女性看守だけだったのかもしれませんね。

主人公セルマの健気さには、胸を打たれます。ただ、涙は出なかった。ヒロインのミュージカル女優としての特殊性が、物語から異常に浮き上がっています。
遺伝すると分かっていてもあえて息子を生んだ母としてのセルマの責任を追及するようなシーンもあって、いろいろ考えさせられますね。


監督は、ラース・フォン・トリアー。洗練されたカメラワークを嫌い、手ぶれのドキュメンタリー映像のように仕上げています。
2000年の第53回カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルム・ドールを受賞。主演のアイスランド女性歌手ビョークも、最優秀主演女優賞を手にしました。キャシー役は、「シェルブールの雨傘」のフランスの名女優カトリーヌ・ドヌーヴ。
ちなみに、隣人の警察官ビルを演じたデヴィッド・モースは、「コンタクト」で、ジョディ・フォスターの父親役だったんですね。雰囲気がまったく違うので、驚きでした。「グリーンマイル」といい、「インディアン・ランナー」といい、この人は警官役が板についてます。

(〇九年八月一日)

ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000) - goo 映画


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「ワールド・トレード・... | TOP | 「夜の滸(ほとり)」(二十六) »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 映画──社会派・青春・恋愛