陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「お茶漬の味」

2013-02-02 | 映画──社会派・青春・恋愛
1952年の映画「お茶漬の味」は、熟年夫婦に訪れた離婚の危機をさらりと描いた小津安二郎監督の秀作である。前半部の主人公の女性の性格がどうにも鼻持ちならないので、繰り返し観たくなるほどではないが、視聴したあとの清涼感が味わえるふしぎなホームドラマであろう。

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佐竹妙子は夫との味気ない家庭に嫌気がさし、女友だちや姪の節子とつるんで鎌倉の温泉旅行に出かけた。夫の茂吉は、ひたすら仕事ひと筋のサラリーマンで、自分の父親の部下にあたり、我がままな妻の放蕩に文句ひとつ洩らしはしない。
ある日、年ごろの節子に縁談話が持ち上がるが、叔母夫婦の冷えきった関係をまざまざと見せられている節子は見合いをすっぽかしてしまう。しかも、節子が茂吉を頼ったのがきっかけで、夫婦の溝がさらに深まってしまう…。

この夫婦のすれ違いは、およそ育ちの違いや価値観からくるもの。それを説明的にではなく、やんわりと二人のおかれた環境でほのめかしていくところがうまい。
視聴者は、まずさほど大きな邸でもなくごくごく中流の和風家屋なのに、女中が二人もいるのを奇異に感じるだろう。木暮実千代演じる妙子は若者が好むような派手な着物すがたで、家事に励むようすが見られない。さらに、異様なのは彼女の自室である二回の個室が、乙女チックな壁紙の洋室仕立てにされていること。ここから、彼女が家柄のいいお嬢さま気分を嫁ぎ先でも保ちつづけ、庶民で田舎ものの亭主に不満を募らせていることがうかがえる。
茂吉を演じるのは、佐分利信。「彼岸花」「秋日和」では女を値踏みするような封建的な中年男を担当した役者が、本作では気のいい実直な夫に徹していたのが意外。たしかに鈍感なところが女心を損なうところはあるが、我がまま放題な奥さん相手によくここまで思いやれるものだと感心してしまう。

とっくみあいの喧嘩や罵りあいをするではないが、この夫婦、口もきかずの家庭内別居に近い状態。ついには妻は家出すらしてしまうのだが、二人を仲直りさせるのが、お茶漬け。気やすくさっぱり食べられる庶民的の味こそが、家庭の象徴だという夫。言葉にするといささか陳腐に聞こえてしまうが、そこに至るまで描かれた夫婦の深刻な瓦解へあと一歩と迫ったところからの転回点がみごとで、また自然らしい。

佐竹夫婦の不和と同時進行するのが、節子の恋愛事情。叔父叔母が壊して修復した関係は、若い世代にも継がれることをほのめかした、希望の持てるラストで締めくくられている。

おなじみ小津ファミリーの笠智衆は、茂吉の戦友でパチンコ屋の経営者として助演。安易な金儲けのビジネスを営みつつも、ギャンブルに嵌まってしまう若者への警笛を鳴らす彼の台詞に、小津の良心を垣間みれるだろう。

脚本は「麦秋」とおなじく、小津と高田高梧の共作。

(2010年3月28日)


お茶漬の味 - goo 映画



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